平成11年度研究評価小委員会研究評価報告書について 2.各論 (1)総合研究 (g)


高密度パルス光の発生と先端的物質制御に関する研究

(研究期間:第1期 平成9~11年度)

 

 

研究代表者:英 貢(豊橋技術科学大学教授)

 

 

(1) 総 評

本研究プロジェクトは、レーザーによるフェムト秒オーダーの超短パルス光の発生とその増幅技術の進歩により、極限的高密度の光パルス電磁界が、近年比較的コンパクトな実験装置で発生できるようになったことが、背景となっている。従来この種の研究は、極めて基礎的な新物理現象の解明に興味の中心があったが、工業レベルでも使える速い繰り返し動作可能な光源の出現により、物質プロセシングによる新機能材料・新デバイスの創生という大きな工業的背景を持った分野にもその応用可能性がひろまったことをいち早く見通して、未知の分野を開拓するプロジェクトが組まれたことは高く評価される。実際このプロジェクトの開始後、国内学会、国際学会のいずれにおいても、高密度パルス光を用いた物質プロセシングに関する研究発表が著しい増加を示しているということは、プロジェクト推進者の先見性を物語るものであろう。

現在、このような極限的超高密度パルス光の発生技術の研究はチタン・サファイア・レーザーを中心に進展しているが、その波長領域及び時間領域における制御性を更に高め、光源の多様化を図ることは、応用面から見て極めて重要である。

1期においては、各研究グループともほぼ初期の計画を達成しており、研究は順調に進捗している。そして、幾つかの重要な成果も得られており、目標、目的は適切である。

2期は、プロセス基盤技術では、工業的な応用を念頭に置いて高密度パルス光発生・制御装置の高機能化、高性能化、高信頼性化の研究が重要であるため、プロセス解析技術で開発した解析装置を用いて、実際のプロセスのダイナミックスの解明に役立てる必要があり、研究内容を再編成した上で、高密度パルス光を物質プロセシングに利用することの有効性を何らかの形で明確に示すべきである。

 

(2) 評価結果

(a) 高密度パルス光の発生・制御技術に関する研究(第1分科会)

第1分科会は、1)極限短パルス光の発生、2)非線形効果による波長域の拡大、3)新レーザー材料の開発、4)パルス幅可変技術の開発、5)超短パルスと原子・分子の各種非線形相互作用の研究といった多角的な視野を持った研究を展開している。その結果これまでに、高出力超短パルス光発生の基礎となるチャープパルス増幅器・パルス伸張器・圧縮器等のコンポーネントへの新技術を導入、高密度パルス光の短波長への高効率変換、コンピューターを用いた迅速な波長幅制御技術など、いくつかの注目すべき成果を上げている。
(b) 高密度パルス光と物質との相互作用解析に関する研究(第2分科会)
第2分科会における高密度パルス光と物質の相互作用の研究及びその評価技術の研究は、物質プロセシングの基礎となるもので、現象の物理・化学的メカニズムを理解し、プロセシング制御技術を確立するために重要である。本分科会は、1)光カー効果を利用したフェムト秒時間分解偏光画像化計測法(FTOP)の開発、2)高密度パルス光によって発生したX線によるシャドウグラフ、3)多価イオンの質量分析法による解析と位相シフトを与えたパルス光による特異デブリの堆積、4)高密度パルス光で生成した微小フライヤー加速による表面での超高圧力発生、5)CIP法による高密度パルス光の表面でのコンピューターシミュレーション技術の開発等で、顕著な成果を上げている。
(c) 高密度パルス光による先端的物質プロセシングに関する研究(第3分科会)
第3分科会での高密度パルスによる物質プロセシングに関する研究は、このプロジェクトの根幹となる重要な部分であるが、いずれも未踏の領域であり、各グループとも実験装置の整備が進み、その基礎が固まりつつある。高密度パルス光のアブレーションによる高エネルギー化学種ビームの発生に関する研究では、生成した高速窒素原子ビームによる窒化炭素の生成を確認し、炭素系凝固ターゲットのアブレーションでは室温でダイアモンド状炭素薄膜の堆積に成功している。さらに、励起分子転写の実験ではその転写機構を解明し、有機ナノ微粒子生成の可能性を見いだした点が評価される。
 

(3) 2期に当たっての考え方

1期においては、各研究グループともほぼ初期の計画を達成し、幾つかの重要な成果が得られている。第2期への移行にあたっては、先端的物質制御技術の実用化の基礎を確立するため、若干の組織組み替えを行い、1)プロセス基盤技術、2)プロセス解析技術、3)プロセス制御技術の3分科会で研究を進めることが提案されているが、これは今後のプロジェクト推進にあたり、妥当な研究計画である。

その際、プロセス基盤技術分科会では、工業的な応用を念頭に置いて、高密度パルス光発生・制御装置の高機能化、高性能化、高信頼性化の研究が重要である。プロセス解析技術分科会では開発した解析装置を用いて、実際のプロセスのダイナミックスの解明に役立てることが必要であろう。プロセス制御技術分科会は、第2期では強化されており、高密度パルス光を物質プロセシングに利用することの有効性を何らかの形で明確に示すべきである。

この種の実験に使われるレーザー装置は複雑で高価なものであり、そのオペレーションには高度の熟練が要求される。またそのメカニズムの解明や評価に関しても極限的な性能が求められること多い。したがって、最終的には第3分科会の成果が上がるよう、第1分科会・第2分科会との密接な連携と支援が重要である。

 

 





 

-- 登録:平成21年以前 --