平成11年度研究評価小委員会研究評価報告書について 2各論 (1)総合研究(d)


X線位相情報による画像形成とその医療応用に関する研究

(研究期間:第1期 平成9~11年度)

 

 

研究代表者:百生 敦(日立製作所 基礎研究所)

 

 

(1) 総 評

本研究は、従来困難とされてきた分離型の大型干渉計の開発に目途をつけたこと、それとは別に一体型X線干渉計を試作して、X線位相情報による高コントラスト画像撮影の可能性を証明しており、計画は順調に進捗している。また、血液自身や生理食塩水で微細な血管の撮影に成功し、さらに位相型CTの可能性を証明して医療応用への可能性も示しており、目的・目標は適切である。従って、第2期に移行すべきである。
 

(2) 評価結果

(a) 大視野位相X線撮影システムの研究

X線干渉光学系と調整機構の開発2cm角以上の干渉図形を生成できる分離型X線干渉計を開発した。要素技術として、粗調整を容易にする結晶ブロックの作製法の考案、結晶ブロックの角度微調整のためのピエゾ素子駆動の滑り機構を採用したステージの開発、振動に強いステージ全体構成の考案、さらにステージドリフトによる干渉縞の揺らぎを抑えるため、干渉縞位置検出方式をフィードバック安定化する技術開発などがあった。放射光を用いた実験では2.5 cm (横) x 1.5 cm (縦)の干渉縞の生成(X線エネルギー17.7 keV、縞鮮明度38%)に成功した。縦のサイズは放射光ビームの大きさで決まっており、太いビームが使える実験ステーションでは2cm以上が達成できる見込みである。また、この分離型X線干渉計を用いてウサギ腎臓切片の位相コントラスト画像(位相マップ)の取得に成功し、腎臓内の管構造が描出できることを確かめた。なお、この装置は分離型であって、さらに大型の干渉計作製のための基礎研究としての意味合いをもつといえる。また、高分解能X線干渉計の作製法と評価に関する研究に関しては、干渉計の結晶板を薄くするためのエッチング装置を開発した。240ミクロンまで薄くしたものを試作し、放射光を用いてテストした。X線干渉信号の安定化技術に関する研究に関しては、当初の目標値を上回る0.001秒の角度変化を測定できる偏光利用のマイケルソン型干渉計を開発した。

これらの一連の成果は、約束の干渉領域2cmx2cm以上を達成しているので達成率は100%以上である。文句なし。将来性のある分離型を試みていることは大いに評価される。

(b) X線位相画像を医療応用するための基礎的研究
大型干渉計装置の作製をめざして、2cm程度の大型の資料を撮影できる一体型の干渉計システム(定盤、資料保持、フード、検出器保持台よりなる)を作製した。視野25mm×15mm、干渉縞の鮮明度が0.6から0.8で、位相画像形成できる性能を有する大型干渉計を作製した。なお、この装置は一体型であって、生体組織試料観察用に作製したものである。また、画像処理研究では、25mm×15mmで人肝細胞癌の大視野投影像が得られた。病理組織像上の種々の構造(癌組織、壊死部、出血壊死、繊維組織、正常肝臓内の血管構造)を観察可能であった。さらに、 位相コントラスト造影法に関する研究では、ラット肝臓内血管を、ヨウ素等の造影剤を用いず、肝臓内に含まれる血液自身、生理食塩水で描出しうることを確認した。50ミクロンメートル程度の血管まで投影像として撮影可能であった。また、位相型CTを用い血管の3次元的な構築が可能となった。

これらの研究は、25mm x 15 mm の視野の一体型X線干渉計を作製し、通常のX線写真より格段に優れたコントラスト描出能のある画像を撮影して、X線位相情報による画像形成の潜在能力を顕らかにして証明したことは高く評価できる。加えて、血液自身や生理食塩水で微細な血管の撮影に成功し、また位相型CTの可能性を証明した功績も大きい。従って、医療応用の基礎研究としての成果は充分である。

 

(3) 第2期にあたっての考え方

課題全体としては、斬新な研究であるが故に、挑戦度が高いので、実用化に向けて一層の奮起を期待したい。今後は、生体スキャンにねらいを絞って研究の重点化を進めるべきである。
(a) 大視野位相X線撮影システムの研究
日立で独自に開発したX線干渉信号の検出法に重点化して、発展させ、高エネルギー研、工業技術院での信号の安定化に関する研究は中止すべきである。また、設定された目標値である3cmx3cmを大幅にあげないと臨床に直接応用することが困難ではないかと考えられるため、工夫すべきである。
(b) X線位相画像を医療応用するための基礎的研究
これまでは固定標本を使っての実験であったが、次からは将来の臨床応用の可能性を決める前提条件となる動物移植腫瘍を用いての実験が必要となるため、in vivoで如何なる画像が得られるかを示していくべきである。
 






 

-- 登録:平成21年以前 --