平成11年度研究評価小委員会研究評価報告書について 2.各論(1)総合研究(c)


植物の環境応答と形態形成の相互調節ネットワークの解明に関する研究

(研究期間:第1期 平成9~11年度)

 

 

研究代表者:岡 穆宏(京都大学教授)

 

 

(1) 総 評

本研究においては、環境応答の細胞シグナル伝達機構の分子機構の解明について、光応答に関連するいくつかの重要な遺伝子の同定に成功し、その遺伝子の機能の解析が進められている。また、シグナル伝達に関する新たな発見もあり、計画は順調に進捗している。また、課題全体としては着実に進展しており、中には副次的成果として注目されるものがあるものの、小課題ごとの進捗状況には多少のばらつきが見られ、目的・目標の見直しが必要である。従って、第2期については、研究方向の絞り込みと重点化を図る等により、研究内容を再編成して移行すべきである。
 

(2) 評価結果

(a) 環境応答のシグナル伝達機構の研究

シロイヌナズナのMAPキナーゼカスケードを同定し、このカスケードが乾燥、塩、低温、傷害などによって活性化されることを生化学的に明らかにした。また、アントシアニンの蓄積、毛上突起の増加、エチレンの発生、根の形態変化は、これらは全て活性酸素を介して誘導されることを明らかにした。シロイヌナズナには非転写因子型レスポンスレギュレータのみならず、転写因子型レスポンスレギュレータも存在することを初めて示した。細胞周期制御に関わるタバコNPK1を含むMAPキナーゼカスケードを同定し、さらにリン酸応答機構を解析するため、リン酸飢餓状態で発現量が変化する7つの遺伝子などを明らかにした。以上のように、個々のレベルでは、環境応答の細胞シグナル伝達機構の分子機構の解明について、おおむね順調に進行していると評価される。全体的に粒ぞろいの研究者が組織されており、3年間の成果としては、高く評価できる。さらにシグナル伝達の系の解明の糸口が示され、今後の目標が明確になったことも評価できる。
(b) 環境ストレス応答・耐性の分子機構
イネの花粉形成期における低温障害で誘導される遺伝子の多くは小胞体輸送に関連していることを示し、ある種のMAPKキナーゼやMAPキナーゼも葯や幼苗で低温誘導され、イネの低温応答にMAPキナーゼが関与していることを示した。また、オゾンにより発現誘導されるエチレン合成酵素(ACS)遺伝子をトマトより単離し、このアンチセンスRNAを過剰発現する形質転換タバコにおいてオゾンによる可視傷害の軽減を認めるなど全体としてはほぼ順調に成果を挙げているため、3年間の成果としては充分評価できる。しかし、特に塩ストレス応答反応など、進展の不十分な分野は、見直しが必要である。
(c) 環境刺激による形態形成機構
黄色光照射下で胚軸の伸長が抑制される突然変異体を解析し、ジベレリンの合成が光シグナルによって制御されることを示した。また、光受容体フィトクロームPhyBは暗所では細胞質に存在し、赤色光短時間照射により細胞質から核へ移動し、核内で機能することを世界に先駆けて明らかにした。これらの研究で、光応答に関連するいくつかの重要な遺伝子の同定に成功し、その遺伝子の機能の解析が進められており、個々の研究が順調に進んでいることは評価できるが、個々の遺伝子の同定とその機能解析にとどまっており、そのネットワーク全体の理解にはまだ道のりがある。今後は、光刺激と形態形成に関する研究をさらに有機的に集結させて研究する必要がある。
(d) 発生分化プログラムと細胞内シグナル伝達機構のネットワーク
オーキシンに結合したABP1が、さらに細胞膜タンパク質と結合することによって細胞内にシグナルを伝達する機構を見いだし、また、サイトカイニンのシグナル伝達遺伝子、CKI1、CKI2、MSH、を単離するなど、個々の研究レベルで、シグナル伝達に関する新たな発見がそれぞれあり、おおむね順調に進んでいると考えられるが、まとまりに欠けているため、今後は、これらのファイトホルモンと発生分化制御に焦点を絞り、研究を重点化する必要がある。
 

(3) 第2期にあたっての考え方

分担者のよっては研究方向の絞り込みと重点化が必要であり、分担者間の相互協力ができるものは積極的に推進すべきである。また、論文発表を増やすべきであり、本課題は植物バイオサイエンスの中でも、基礎研究であるが、特許出願できるものは積極的に実施すべきである。
(a) 環境応答の細胞内シグナル伝達機構の研究
研究グループを整理し、また新たに3グループを加えて、シグナル伝達と成長制御の研究に進展させるべきである。
(b) 環境ストレス応答・耐性の分子機構の研究
一部研究を終了し、既存の研究グループを整理・統合すべきである。
(c) 環境刺激による形態形成機構
1期の研究グループに加えて、環境ストレス応答・耐性の分子機構の研究グループから、一部研究グループを編入すべきである。
(d) 発生分化プログラムと細胞内シグナル伝達機構のネットワークの研究
一部研究を終了し、既存グループを整理・統合し、さらに新規に一研究グループを加えて、フィトホルモン伝達と発生分化制御のネットワークの研究へと発展させるべきである。
 

 







 

-- 登録:平成21年以前 --