平成11年度研究評価小委員会研究評価報告書について 2.各論 (1)総合研究(p)


海嶺におけるエネルギー・物質フラックスの解明に関する国際共同研究

(研究期間:第1期 平成5年~平成7年、第2期 平成8年~平成10年)

 

 

研究代表者:浦辺 徹郎(通商産業商工業技術院地質調査所首席研究官)

 

(1) 総 評

本研究は世界で初めて長期間に渡る観測や実験などを通して、定量的かつ総合的な海嶺研究を成功させた。研究目標は高水準に設定sれ、その達成度、あるいは波及効果を含めて非常にインパクトのある成果を出しており、一部の成果は予想を越えた非常に価値の高い成果であり評価できる。また、これまでの常識では考えられないような、非常に過酷な環境下での海底長期観測を成功させた意義は大きく、今後さらに成果の普及に努めると同時に、今後の研究サポートをいかに行うかも重要な課題であるが、研究成果の波及効果・発展性は、非常に期待できる。

従って、総合的には非常に優れた研究であり、その達成度は高く評価できる。また、課題設定は適切であった。

 

(2) 評価結果

(a) 海嶺における熱フラックスの長期変動に関する研究
分布型温度測定システムによる深海底での長期観測は世界初の試みであり、幾多の困難に遭遇した。温度精度の向上はたゆまず行われたが科学調査用としてはまだ十分とは言えない。深海での実験はその機会が少ないので、浅海や湖沼、河川で実験を行ったが、その中で、分布型温度計の水域での新たな応用分野を見いだした(特許2件取得)。特許の 取得は機器開発の面で大きく評価でき、今後成果公表に努めるべきである。

座布団型によるデータから、地下の熱水の動きに関連すると思われる温度変化が判明したことは大きな成果であり、今後海嶺での熱水活動のcharacterizationを行う上で、潮汐信号を如何に活用するかが重要な役割を果たすことを示すことができたことは、評価できる。一方で、潮汐による温度変動が大きかったために、座布団の上下間での温度差の絶対値を精度良く決めることができず、下からの熱流量を正確に決めることができなかった。設置サイトの選択に関し、課題を残したと考えられる。係留式温度計アレーは、海洋潮汐による底層流により運ばれる熱水プルームの挙動をよく捕らえることができることが判明した。また放熱量の正確な見積もりを行う方法を確立することができたと評価する。海底下、海底面上の熱水、熱水-海水混合流体の流動、熱移動に関するシミュレーションを行う研究が必要であろうと考えられる。研究成果は着実に公表されていると評価する。

(b) 海嶺における物質フラックスの長期変動に関する研究
超高速拡大海嶺である東太平洋海膨(EPR)からの熱・物質フラックスを、軸沿いに520kmにわたって空間的にマッピングし、潜水艦を用いてそれらのもととなった熱水をサンプリングして分析を行い、さらにフラックスの変動を1年間にわたって時間的に詳しく観測したことは、これまで世界に例がなく、高く評価できる。また本課題で開発したセンサー類なども世界的に先導的なもので、今後有効なツールとして利用されるものと期待する。成果の公表も着実に進んでおり、国際共同研究として十分な成果を挙げたと評価する。

今回の研究を通じて、東太平洋海膨南部で長期にわたり観測した熱水の化学組成変化は、熱水活動の化学進化に関する重要な事実を明らかにしたと評価する。また成果の公表も着実に行われており、高く評価できる。

グラム染色特性の光学的分析による現場微生物群集の構造解析法の確立により、環境の栄養段階の上昇に伴なう天然水塊中細菌の群集構成の多様化を示すことができたことは評価できる。現場観測用のレーザ・ラマンスペクトル測定装置が完成し、この装置と潜水艇との組合せ、長期観測ステーションとの組合せにより、現場海域でのレーザ・ラマンスペクトルの移動連続観測及び定点連続観測が可能となったが、必ずしも成功しているとは言えない。また微生物によるフラックスの推定まで至っていないことが指摘される。成果公表は着実に行われていると評価できる。

海嶺のモデルフィールドと考えられる東太平洋海嶺南部海域において、熱水プルーム域の微生物分布異常を詳細に調べ、それが何によってもたらされ、その異常が海洋全体でどの程度の規模で、どういった影響を深海環境に与えうるのか等、これまで不明瞭だった点に踏み込み、長期変動に係わるモデル化を行った点は大変評価される。また、ブラックスモーカープルームの解析を通し、活発な微生物増殖環境の特定化に成功したことは特筆される成果である。この他、通常の培養法での解析が困難な熱水微生物群集に対し、分子や細胞レベルでの新しい微生物群集解析手法の適用を図り、新たに現場微生物濃縮装置や洋上での試料処理、保存、解析法等、一連の分析系を構築した意義は大変大きい。超好熱菌を対象に高温ベント環境で使用可能な現場微生物培養装置をはじめて開発し、実際に適用した点も大いに評価できる。ただ、試料数量の不足、現場実験時間の不足、試料中の標的遺伝子量の不足等から、密度以外のデータは当初の予定より断片的なものとなっており、群集組成の側からの解釈を困難にしている。成果の公表も確実に行われていると評価する。

(c) 海嶺の地殻変動に関する研究
[TAMU]2サイドスキャンソナーで得られる共点画像データが、潜水船等で得られる非常に精密な観測データに比較し得る有効なものであることが示されたのは評価できる。目標であるエネルギー、物質フラックスの推定までは至っていないが、サイトサーベイとしての評価は高い。

深海曳航式三成分磁力計の開発は概ね初期の目的を達したと評価できるので、完成に向けて今後の改良が望まれる。

海嶺における火山活動の観測に関しては、当初目標にした1年間の長期観測が実施できたことにより、低温の熱水域でもイベント的な変動が確認できたことは高く評価できる。

中央海嶺における海洋底拡大に伴う海洋底生成活動の実態はほとんど分かっていなかったが、相対的な圧力と距離の長期観測により、超高速拡大海嶺においてもマグマ活動は間欠的であることが明らかになったことは技術的、科学的に高く評価できる。

東太平洋海膨での長期測地観測によって、測器が当初の開発目標を越える性能を有することが示されたとともに、今までに予想されたことがなかった海嶺中軸部の収縮現象を検出することに成功したことは高く評価できる。本研究で開発した海底音響測距計は、海底で使用することができる数少ない地殻変動計の一つとして有用であることを示すことができ、今後、このような海底での地殻変動観測が地震予知研究等において重要性を増すと考えられ、今後の発展が期待される。

ハイトロフォンによるマグマ活動の観測を通じて、熱水活動やそれに伴う微少な地殻変動の長期データを取得できたことは評価できるが、マグマ活動の時空間変動と熱水活動との関連が明らかにする必要がある。

東太平洋海膨軸において、海底地震計による100 日間を越える連続記録が得られたこたは評価できるので、今後は解析を迅速に進める必要がある。

(d) 海嶺のモデリングとデータベースの構築に関する研究
STARの解析方法の意義が明確ではない。物質フラックスの推定が十分とは言えない。オマーンの熱水循環と現在の海嶺での熱水循環の類似点、相違点などを明確にし、多くのデータからマグマの成因まで言及することを希望する。また、シミュレーション研究の成果が明確ではないため、今後の努力が期待される。

東太平洋海膨南緯 13~19 度の各リッジセグメントはそれぞれ固有の性質を有するマグマの活動と密接な関係があることが判明したことは評価できる。また、南部東太平洋海膨超高速拡大軸の RM23とRM24 地域についてはほぼ陸上に劣らない精度でのマッピングと岩石試料のサンプリングが実施できたことは高く評価される。

 



 

-- 登録:平成21年以前 --