平成11年度研究評価小委員会研究評価報告書について 2.各論(1)総合研究 (n)


地球観測データのデータベース化に関する研究

(研究期間:第1期 平成6年~平成8年、第2期 平成9年~平成10年)

 

 

研究代表者:吉田和雄(宇宙開発事業団地球観測データ解析研究センター主任開発部員)

 

 

(1) 総 評

本研究は、現在急速な進歩を遂げている電子計算機及び通信ネットワーク技術を活用しつつ、また国際的な地球観測データ・情報システムの動向を考慮に入れながら、地球観測データの各分野でパイロット的なデータベースを構築すると共に、それらの相互利用、運用性の評価を通じて、データベースに係る基礎的・基盤的な技術を研究し、地球観測データの電子データベース化とネットワークを介した国内外の研究者への総合的なサービスの実現を目指すものであり、研究目標は概ね初期の目標を達成した。また、研究成果の価値は国際的にも高く評価され、研究成果の波及効果・発展性は期待できる。従って、総合的には良い研究であった。

しかしながら、参加研究機関が各々の都合でプロジェクトを実行していたことや、専門家以外の一般利用者に立った視点が欠けていたことは否めず、課題設定は必ずしも適切ではなかった。

 

(2) 評価結果

(a) 気候資料のデータベース化に関する調査研究 
米国海洋大気庁太平洋環境研究所、ヨーロッパ中期予報センター及び米国大気研究センターの研究者を招へいし、WWWとデータベースとのユーザーインターフェースを当初予定していた以上に改良することができた。また、データの信頼性の調査も行うことができた。

データベースの整備は順調であり、「ひまわり」赤外データを1996年までにすべて整備することができるとともに、気象庁客観解析データについて、緯度、経度、高さ、時間の四次元のうちの任意の断面を表示できるようになった。また、アニメーション化については、出力画像は小さいものの、一応使用に耐えるものを作ることができた。

しかしながら、恒常的なデータ公開という観点からは、未だ途上である。

(b) 広域ネットワークにおける海洋データベースの利用に関する研究
J-DOSSのシステムが開発されるまでは、ユーザはデータを入手するのに郵送を含めて1~2週間を要していたが、本システムは利用者が、自己のマシン上から数秒以内に必要なデータを入手することを可能にするとともに、システムの機能拡充等によりデータ利用者が1回の操作によりデータ検索等が可能となり、短時間に必要なデータを入手することが出来るようになり、操作性が大幅に向上した。

J-DOSSの開発・拡充により利用者が必要なデータを入手するための負担の軽減が図られ、研究者の研究効率化に多いに貢献できるものと考えられる。

(c) 船舶海象情報のデータベース化に関する研究
波浪データベースについてはGEOSATの高度計のデータベースを新規作成・公開し、全世界の海域をカバーすることができた。また、細かなバージョンアップを行い、プログラムの信頼性を高めた。

海氷データベースでは、オホーツク海氷の氷厚データベースを作成・公開した。さらにライダーデータベースを公開する事により、第2期に計画していた研究項目は全て水準を達成、完了した。

以上のように、努力の跡は十分に認められるが、今後はグラフの縦横軸についての説明の欠落等、もう少しの努力を期待したい。

(d) 電離圏・太陽-地球間環境情報の分散データベース化及び利用に関する研究
データベース化したデータを利用者を想定して、分かりやすい表示手法の開発を行なった点は評価できる。また、データ様式が変遷してきた過去のデータのデータベース化について取り組んだ結果、将来的に残すべきデータについて選択的にデータベース化することの重要性が認識できたので、長期間データベース構築手法について成果が得られた。

想定していた関連研究機関データベースとの連携に必要な渉外作業も順調に進み、予定より早めの試験公開が可能となった。また、既存のネットワークリソースと融合した新しいデータベース機能も充実してきており、第2期の計画としては、予定通り進捗した。

既存のネットワークリソースと本計画で新規に構築したデータベース機能の運用面での親和性が非常に良好であることが試験公開で実証できた。

全体として努力の跡がよく見え、内容については、電離圏についてはやや難解な点があるものの、太陽については一般の人にもよく分かる成果が得られた。

(e) 地理情報ディレクトリデータベースの構築に関する研究
本研究成果を基に、国土地理院クリアリングハウスを構築し、事業ベースとしてホームページ上で公開され、利用者は、自分の目的にあった地理情報の所在情報を容易に検索することができるようになった。これにより、地理情報の有効利用が期待できるようになったので大きな成果として評価できる。また、メタデータエディタの改良や・メタデータの自動抽出ソフトを開発するとともに、XMLを用いて所在情報の階層構造・他文書との関係を記述することができるようになった等、想定していた以上の技術成果を得ることができたので、データベースの一般公開という点では一歩譲るものの、全体としては成功したと評価できる。
(f) 建設環境情報のデータベース化に関する研究
流域水環境データベースにおけるGIS技術についてユーザーニーズとの関連でその適合性を明らかにすることができた。また、流域水環境データの存在形態と選択すべきデータベース・ソフトとの関係を明らかにすることができた。

外注を可能な限り減らしたため、システムについて様々な経験をすることができ、これがデータベース構築に有用な知見を与えたことは適切であったと評価できる。

政府レベルでGIS関係省庁連絡会議が設置されるなど、本格的なGISデータベースの構築が緊急の課題となっており、取り扱われているデータベースそのものは、一般の関心も高いため、今後は使われ方について注意が必要であると考えられる。

(g) 地球環境情報の基盤的データベース構築に関する研究
地球観測衛星データは、データ量が膨大、データの種類が多い、定常的でない、国内では前例がないなど、オンラインの公開データベースを構築する上では様々な困難があったが、その基盤となる手法を確立し実際公開して多くの研究者に利用されるまでになった。

2期計画時は、第1期に作成したデータベースのプロトタイプについて、ある程度データの豊富化を果たし、応用機能の強化としての検索機能、準リアルタイム処理、効率化の手法が確認できることを目指したが、実際運用に供し、国際的にも対応できるようになったため、当初想定した成果をあげることが出来たことは評価できる。

宇宙開発事業団(NASDA)が打ち上げた地球観測衛星が機能を停止し、データの供給が止まり、別系統入手の国外衛星データ利用という大変さはあったが、各種の調整や設定を行う事によって、これを乗り切ると共にこの研究の重要性が増した。

従って、研究内容は優れているが、今後、NASDAが公開している他の情報とのつながりをはっきりさせるべきである。また、一般向けについての配慮が望まれる。

(h) 地球環境研究のための統合データベースシステムに関する調査研究
本研究では、データベース整備等の「器」の整備に併せて、制度に係る「しくみ」の整備が重要であるという問題意識から、データベースの管理・運用(提供も含む)ガイドラインの整備について提言(ガイドライン自体を提示)を行うとともに、短期的、中長期的取り組みの提示を行った。

民間の視点からの研究推進や、具体的提案などにおいて、やや期待外れの感があるが、結果として今後有用な短期的、中長期的取り組みを提示したことは評価できる。




 

-- 登録:平成21年以前 --