平成11年度研究評価小委員会研究評価報告書について 2.各論(1)総合研究(m)


物質関連データ(生体影響、食品成分、表面分析)のデータベース化

に関する調査研究

(調査研究期間:第1期 平成6年~平成8年 第2期 平成9年~平成10年)

 

 

研究代表者:神沼二眞(厚生省国立医薬品食品衛生研究所化学物質情報部長)

      安本教傳(椙山女学園大学生活科学部教授)

      吉原一紘(科学技術庁金属材料技術研究所極限場研究センター長)

 

 

(1) 総 評

本調査研究は、様々な形態のデータ情報を関連づけて統合的に利用する化学物質の生体影響データベース、分析結果の数値データの集積が中心となる食品成分データベース、固体表面の電子スペクトルデータなどの解析利用に資する表面分析データベースを対象として、それぞれのデータベース化に必要な調査研究を行い、目的に応じたデータベース整備の促進を図るとともに、物質関連の様々な形態のデータベース整備についての知見の蓄積を目的とするものであり、研究目標は概ね達成した。また、本調査研究は、各分野の多種多様なデータの地道な収集蓄積がデータベース構築の前提となることから、調査研究の性格としては長期的な取り組みを必要とする地味な課題ではあるが、今後の先端的な研究推進における研究基盤の一翼を担うものであり、その価値は高く、さらに今後の高度情報社会の進展に対応して、他の関連するデータベースとの統合リンクを図るとともに、利用者に応じたヒューマンインターフェースの向上や解析機能の高度化を目指すなど、利便性・実用性の高いデータベースの構築に向けて、研究成果の一層の波及効果・発展性があると期待されるが、この際データの追加更新についても十分な配慮が望まれる。本研究プロジェクトの運営上の観点からは、サブテーマ間の連携が弱く総合的なとりまとめの視点が若干欠けていたと思われるが、総合的には良い研究であった。

また、課題設定は適切であった。

 

(2)評価結果

(a) 生体影響物質データのデータベース化に関する研究
 ア) 化学物質の生体影響データベース
    従来、各所に散在している生体に影響する化学物質を総合的、体系的に活用することは困難であったが、本研究によって各研究機関が個別に開発したデータベースをリンクさせて統合的に利用するデータベースシステムが構築され、インターネットを介したデータ利用が可能となった。また、本研究を通じて、医薬品、発ガン物質、内分泌攪乱化学物質などの生体に影響を与える化学物質、農薬などの環境汚染につながる化学物質、生命現象の本質的物質であるタンパク質・核酸、化学物質と相互作用する生体分子などの諸データが収集整備され、本研究の所期の目標はほぼ達成された。今後は、構築されたデータベースのさらなる改良発展に向けて、ユーザーインターフェースの向上、データの修正・更新などを確実に行うとともに、データベースを適切に維持管理することが期待される。
 イ) 食品成分データベース
    食品は人の健康や栄養に関係する基本的に重要な物質であるが、その研究情報は文献中に散見されるのみであり、研究に共通的に利用できるデータベースの構築は焦眉の急であった。このため、糖質の定量法、ヨウ素とマグネシウムの分析法、微量ビタミンの分析法など食品成分のデータ評価に関する研究、穀類・柑橘類・魚類・野菜類・牛乳・牛肉の飼育・栽培・温度条件などの違いによる食品成分の変動に関する研究、摂取した食品中の食品成分の生体機能に及ぼす影響に関する研究などを行い、これらの研究により得られたデータと日本食品標準成分表などの食品成分データとを併せ搭載した食品成分データベースシステムを構築した。これにより、研究者のみならず、一般利用者をも対象とした食品成分データベースが実現し、所期の研究目標を概ね達成した。今後は、ユーザーにとって、より使いやすい実用的なデータベースの完成を目指して、一層の整備充実が必要であろう。
(b) 物質組成・状態・構造解明のための表面分析データベースに関する研究
スペクトルデータのデータベース化に関する調査研究では、既に70元素、2,000本の電子分光用スペクトルデータベースを完成し、ユーザーフレンドリーなインタフェース付きで提供を開始している。公表する十分な値打ちがあるデータを集積することができたこと、またこれは今後広く活用されることが期待されることから、初期の研究目標を概ね達成した。今後は、未だにテスト段階である未知のスペクトルから試料を同定するシステムをインターネットなどで提供することが期待される。

また、スペクトル解析のための物理パラメータのデータベース化に関する研究では、弾性・非弾性散乱パラメータのデータベースを構築し、さらに、標準スペクトルとして十分な品質のデータが得られる程度までその影響を抑制する手法についての知見を得ることができた。本研究において集積した物理パラメータの数値には十分な価値があり、初期の研究目標を概ね達成した。今後はデータベースとしての検索機能の改善、及びインターネットでの積極的な提供が期待される。また本研究で確立した測定手法を用いてより多くの物質のデータを取得・公開していく必要がある。

 



 

-- 登録:平成21年以前 --