平成11年度研究評価小委員会研究評価報告書について 2.各論 (1)総合研究 (a)


機能調和酸化物新機能材料創製に関する研究

(研究期間:第1期 平成9~11年度)

 

 

研究代表者:川合 真紀(理化学研究所表面化学研究室主任研究官)

 

 

(1) 総 評

本研究は、異なる機能を有する遷移金属を含む複酸化物を原子レベルで数種類接合させ、それぞれの機能を順に変換して(調和させて)、今までに無い材料を創製することである。そのために、理論、材料創製技術、構造評価技術、周辺技術の4つのサブテーマにおいて研究を推進した。

具体的な研究成果としては、2種類の高温超伝導薄膜を自由に積層し、ビスマス系超伝導体にみられる固有ジョセフソン効果を他の超伝導体の超伝導領域を用いて発現させるデバイスや4層の薄膜が最初の光の情報を光-電荷-磁気構造変化ー電気伝導度変化と変換して取り出せる4層構造複合薄膜ディバイス等、世界に報告例のないデバイスを開発しており、計画は順調に進捗している。また、本研究はペロブスカイト型を中心とする酸化物が絶縁体から-半導体-金属-超伝導-強磁性-反強磁性-強誘電性などの多彩な物性と、さらに、光-磁性-誘電性-伝導性間の複合相乗的物性を示すことの基礎事実に基づいて、それら機能を調和協奏的に発現させることを目標としており、目的・目標は適切である。従って、第2期に移行すべきである。

 

(2) 評価結果

(a) 理論・設計技術に関する研究

銅酸化物高温超伝導体における重要な物質である、梯子型物質Sr14-xCaxCu24O41やCu1234系について、いちはやくバンド計算を行い、基礎的な電子状態を解明して、実験データの解釈に重要な寄与をしたこと、fp-LMTO 法の整備により、効率的に酸化物の表面の構造や電子状態を計算できるようにしたこと、特異な物性発現を予測可能にしたことなどは、本プロジェクトの意図に沿った適切な研究の進め方であると判断する。今後、実験グループとのより強い連携によって、多くの重要な成果につながるものと期待できる。

実験研究の重要な方向として、薄膜作成や人工超格子の作製があり、結晶成長過程のシミュレーションはこのような実験研究との関連において、大いに意味のある研究である。しかし、こうした研究には、原子間あるいは分子間のポテンシャルの選択や計算でカバーできる時間が現実の実験での時間とは比べ物にならないくらい短いなど、多くの困難な問題があり、計算結果の意味するところを慎重に検討することが必要である。そのためには、実験家の協力のもとに、系を絞り、徹底的な研究を行うことも重要であろうと思われる。本研究テーマは、機能調和酸化物の薄膜成長過程と物性に関して第1原理計算からの予測を可能にし、実験グループの結果に解釈や指導指針を与えることを目的としているが、現在、話題となっている梯子型構造物質やCu1234型高温超伝導体の電子状態を適切に予言し、誘電率等を計算できるプログラムを開発して、すでに透明導電体挙動を定量的に説明している。また、従来困難であった薄膜成長過程のシミュレーションを本課題のニーズに牽引されて精力的に試行したことは高く評価できる。

(b) 材料創製技術に関する研究
本サブテーマの酸化物人工格子制御形成技術に関しては、研究が確実に進展している様子が見受けられる。基盤の清浄化方法を確立した点は高く評価できる成果であるが、全体を精密化すると同時にどこかインパクトのある成果をだしてほしい。また、超音速分子線装置を当初の目標通り完成させたことは評価できるので、今後はこの装置によりどのような物性が有効に評価できるのかを明らかにしてほしい。人為的な薄膜積層をin situで高温超伝導体において実現したことは新たな固有ジョセフソン素子の実現等の観点から大きなインパクトを有する。臨界温度が最高の水銀系超伝導体薄膜のプロセスを開発したことから、今後素子の高温作動に向けた努力が期待される。また、多くの新超伝導物質を合成した実績は高く評価できる。

機能酸化物積層構築技術においては、スピン配列の3次元制御に世界で初めて成功したのは大きな成果であり、機能調和デバイスの作製など、今後の研究方針も妥当である。P型透明伝導体を世界で初めて作製したことは高く評価できるが、この中の2つのテーマのうち、P型伝導体の開発に的を絞った方がよい。

(c) 構造等評価技術に関する研究
酸素原子ビームを用いた表面の清浄化・電子構造制御手法は、従来困難であった酸化物表面電子状態の人為的制御を世界に先駆けて実現したもので、汎用性も高く、すばらしい成果である。この手法を適用した界面制御による素子構造の機能性向上、新ドーピング機構による高Tc超伝導体などが得られている。今後は、界面電子構造と巨視的特性の関連に関する系統的研究が期待される。光電子分光による超伝導体等の電子構造の解明、HF近似バンド計算の電荷整列の研究手法としての確立等は、酸化物格子の物性評価に電子構造の面から解明のすじ道を示したもので世界的に注目されている。また、通常の手法では観測困難な中性の励起状態を含めた非占有準位の評価法を開発した点は高く評価でき、機能性物質のフェルミ準位近傍の電子構造・動的過程の解明が期待される。

高品質な光学薄膜の形成法の開発、ZnO/LiNbOヘテロエピタキシーの発見は光学薄膜の複合化の可能性を示したもので高く評価できる成果であり、デバイス化に向けた材料制御への展開が期待される。Mn系酸化物からなる積層構造を制御する手法を開発した点、最高水準の磁気抵抗効果及び抵抗異常の観測に成功した点は高く評価できる。今後は微視的構造との関連の解明が期待される。

(d) 材料適応周辺技術に関する研究
シリコンおよび各種の酸化物基板上で新しいヘテロエピタキシャル成長に関するフィージビリティ・チェックが行われ、新しい概念のエピタキシャル積層技術を世界に先駆けて誕生させ、同時に界面・表面の制御と界面物性に関して大きな進展につながったことも十分に評価できる。今後も引き続き新しい基盤技術の開拓に加え、適用という観点からの研究も望まれる。

次世代素子開発の基板研究としてPZT薄膜がシリコン基板上に成長され、それを使ってナノサイズの強誘電体メモリーの作製を試みた。実際にナノ領域においてメモリーの読み出しが行われたことは世界でも初めての事であり、大いに意義深く、産業界に与えたインパクトは計り知れない。今後は、第1期に発見した電荷注入や局所高電界印加の基礎科学を進めてナノサイズ強誘電体の物性を解明することが望まれる。

原子層エピタキシャル技術を用いて層状酸化物高温超伝導体の超精密薄膜成長を行い、二面対間隔を徐々に変えられるPb系酸化物材料を選択することにより面対間隔と輸送現象の相関を初めて明らかにした。さらに人工超格子の試作技術を整えて対面間隔の調整により超伝導結合を連続的に帰ることに成功した点は高く評価できる成果である。今後は、テラヘルツ帯域の超高周波デバイス創製を念頭に置いて基盤技術研究に取り組まれるよう期待する。

光導波路の性能向上と高集積化をめざし、LN導波路を母体にした光機能ディバイスの製造プロセスに関する基盤研究の中で、異常光閉じ込め/常光漏洩型の導波路型偏光子を世界に先駆けて試作する中で、各種のプロセスチェックが行われ、特に水素イオン注入による屈折率変化に関して成果を米国学会誌に投稿するに至っている。今後は、これまでに抽出した問題点の解決とその成果を使った新しい光素子の開拓にあたられるよう希望する。

 

(3) 第2期にあたっての考え方

1期においては、理論、材料創製、構造評価、デバイス化技術の4つの研究項目において基礎的な研究を行ってきた。この研究の構成研究グループの約半数は、すでに各々の分野で世界をリードし始めた非常に活力の高い若手グループに育っている。
2期においては具体的なデバイス開発を目指し、物質設計や評価技術開発を行う「機能発現基礎」と誘電性、導電性、磁性および光機能を中心にした「機能発現に関わる物質の制御技術」の2つのサブテーマに分け、連携を密にしながら研究を推進すべきである。機能発現基礎においては、研究の進行に伴って更に追補の必要な部分が生じていると感じらけるのでこの点を考慮に入れて推進し、「制御技術」では発現する機能を絞り、複数の研究機関の力を結集し、さらには「機能発現基礎」グループとも協力して、新機能材料の実現を目指して欲しい。





 

-- 登録:平成21年以前 --