平成10年度研究評価小委員会報告書について 2.各論 省際基礎研究 3


3.並列計算技術を用いた太陽地球系プラズマ環境シミュレーションの研究

研究リーダー:郵政省通信総合研究所 田 中 高 史
(研究期間:平成7年度~9年度)


(1) 目 標

 並列化された高精度MHDスキーム、非構造格子生成、可視化技術等を開発し、太陽地球系の電磁流体シミュレーションを行うことを目的とした。


(2) 成 果

1) 並列計算方式・非構造格子の生成法・MHDスキームの研究


 非構造格子上で動作する並列化された高精度MHDスキームとして、有限体積TVDスキームを開発した。開発されたスキームは並列化効率、解の精度と安定性において優れていることを確認した。ヤコビ行列の固有ベクトルは解析表現から計算し、高速化を図った。

2) グラフィック技術の研究

 非構造格子上の数値データの可視化のため、スカラー場とベクトル場の表示を行う各種のプログラムを開発し、計算結果の診断・表示を行った。また動画の出力を行う方法を開発した。

3) 各領域(太陽面、太陽風、磁気圏、電離圏)ごとの計算法の研究

 太陽面に関しては、太陽磁場中の電磁流体波の伝搬による不安定の発生と、それによる太陽コロナの加熱メカニズムを明らかにした。対流層の流れと磁場の構造を計算した。
 太陽風に関しては、太陽風と星間空間プラズマの相互作用による太陽圏の形成過程を計算し、終端衝撃波、太陽圏界面、マッハディスクなどの構造を明らかにした。また応用として、3リング星などの超新星残骸の形成メカニズムを解明した。
 磁気圏に関しては、地球周辺磁気圏の細部構造と、遠尾部までの大域構造を同時に計算することに成功した。また低ベータ域での計算精度を高める方法を開発した。
 電離圏に関しては、電場による電離圏の変形と不安定の発生過程を再現した。また電磁流体波の伝搬から、磁気圏対流の内部境界条件としての電離圏の役割を解明した。

4) 領域間相互作用の研究

 太陽風-磁気圏-電離圏の相互作用系としての完全自己無撞着的扱いに成功し、沿磁力線電流の発生原因、サブストームに対する電離圏の役割を解明した。また太陽風-惑星電離圏相互作用を計算し、イオノポーズとイオノテイルの再現に成功した。サブストームは、不完全ながらある程度の再現には成功した。

5) 観測との比較の研究

 太陽風-磁気圏-電離圏相互作用の結果発生する電場によって、赤道電離圏に発生する変動をシミュレーションから予測し、観測データから検出した。


(3) 評 価

 本研究は、所期の目標に適した研究であり、その成果は高く評価できる。
 本研究は、非構造格子高精度MHD計算スキームと可視化技術の開発及び太陽地球系シミュレーションへの適用を行い、領域間結合を含めた複合系物理の研究において進展を得て、太陽地球系物理学の中心課題であるサブストームの解明に確実な前進を与えた。
 なお、研究項目ごとの評価は次のとおりである。

1) 並列計算方式・非構造格子の生成法・MHDスキームの研究

 完成した非構造格子有限体積TVDスキームは、元来流体力学分野で発展した計算法で、電磁流体力学分野への適用は初めてであり最も進歩したスキームである。非構造格子法では格子生成がもう一つの重要問題であるが、これも太陽地球系の計算に適した格子を与えて、境界を精度良く解くことに成功した。更に、ベクトル並列機で高効率のプログラムを完成させた。

2) グラフィック技術の研究

 太陽地球系の3次元のシミュレーション結果を理解するためには可視化は必須である。表示プログラムはグラフィック技術の応用ではあるが、シミュレーション結果の解析と理解には有効である。プラズマ密度や温度と流線、磁力線及び電流線の直接的な比較と動画の作製は磁気圏物理の理解に新しい知見を与えた。

3) 各領域(太陽面、太陽風、磁気圏、電離圏)ごとの計算法の研究

 非構造格子法の最大の利点は境界条件を反映した格子点を空間変化の大きな領域に密にとれることにあり、一方、有限体積TVD法の利点は衝撃波を数値的な振動を起こさずに数個の格子点で表現できることにある。この2者の利点を合わせ持つMHDスキームは太陽圏構造および太陽風と地球・惑星電磁圏相互作用のシミュレーションに大きな威力を発揮した。
 先ず、太陽圏構造の解では、内側衝撃波と接触面及び外側衝撃波の3つの不連続構造を持つが、それらの高空間分解能を保ってグローバルなパターンとその中で生起するダイナミックスを明瞭に解析することができた。その結果、太陽風加速で解くべき大きな課題となっていた電磁流体波の寄与が明らかにされた。
 太陽風と地球磁気圏電離圏相互作用のシミュレーションでは、電離圏ー磁気圏結合の効果と磁気圏尾部の効果を同時に取り入れる方法が開発され、サブストームに対応すると考えられる磁気圏尾部リコネクションと電離層オーロラ電流の発達の関係が示された。このシミュレーションも国際的にみて最も進んだものの一つである。サブストームの定量的研究が期待される。

4) 領域間相互作用の研究

 電離層を一枚のシートとして扱い、電離層電気伝導度のモデルをより現実的に与えて、太陽風ー磁気圏ー電離圏の相互作用を自己無憧着的に扱うことに成功した。特にグローバルMHDモデルでの電離層の扱いは国際的に最も進んでいる。太陽風と非磁化惑星(金星)電磁圏相互作用のMHDシミュレーションでも、世界で最初に精度の良い結果を与えた。今後、日本の人工衛星が探査する火星への適用が期待される。

5) 観測との比較の研究

 シミュレーションと観測の比較を行い、モデルを検証することはシミュレーション研究の最終目標であるが、シミュレーションの信頼性を高めてきた結果、観測と比較して議論できる段階にやっと達したというのが現状である。観測データ解析も1人では出来ないので、今後、観測の専門家との研究協力を行い、シミュレーションと観測の密な連携研究を行う必要がある。


 

-- 登録:平成21年以前 --