平成10年度研究評価小委員会報告書について 2各論 総合研究6


6.世界海洋観測システム構築に資する革新的ブイシステムの基盤技術開発研究
(研究期間: 第1期 平成5~7年度、 第2期 平成8~9年度)



(1) 目 標

 本研究では、時間的・空間的スケールが大きく観測自体に困難が伴う海洋の諸現象の観測を定常的に観測する体制を早急に整備するために、各種観測機器の自動化を進めて効率的な観測システムを構築するとともに、取得されたデータの高度処理手法を開発することを目標にしたものである。第1期においては、新しい通信手段を用いた漂流ブイ・自己位置を制御するブイ・定期的にデータを送信する係留ブイの開発、ブイ搭載用の二酸化炭素・懸濁粒子・化学成分観測センサの試作、及び、海洋観測データ管理・提供サービスシステムの開発研究が行われたが、第1期で開発されたブイとセンサを組み合わせてブイシステムとして実海域で実験を行いその実用性を検証することと第1期で開発されたデータ管理・提供サービスシステムをさらに高度化することを目標に、第2期においては、1)革新的ブイシステムの海域総合実験、2)ブイシステムで得られた複合データの高度処理手法の研究を行った。


(2) 成 果

 本研究における主な研究成果は、以下のとおりである。

 1) 革新的ブイシステムの海域総合観測実験

ア.ヨット型自己移動ブイの動力源・位置精度向上、地上局との双方向通信を可能にし、センサの高機能化・安定化を図った。清水港三保沖にて移動観測実験をし、ブイの性能検証・モニタリングの有用性を確認した。

イ.海中懸濁粒子センサの小型化・省電力化を図り軽量小型の海中レーザープロトタイプ製作に成功した。

ウ.定点保持型ブイを完成させ、三陸沿岸から沖合海域において基礎生産センサ・栄養塩センサを搭載した総合海域実験を行い、ブイ・センサの機能の検証の結果、良好なデータが取得されたことを確認した。

エ.第1期で開発した二酸化炭素センサを気象ブイロボットに搭載して実海域実験を行った結果、半年以上のメンテナンスフリーで正常に作動することを確認した。さらに、台風通過というアクシデントがあったにもかかわらず、正常に作動するなど耐候性の高さが示された。取得記録は海上における二酸化炭素データの連続取得記録という点では世界初であり、新しい知見が提供された。

オ.流星バースト通信を用いた表層観測用漂流ブイについて、改良型アンテナを設計・製作しブイの大幅な小型・軽量化に成功した。海上での動作・漂流試験を行い、陸上基地から600km離れた地点で夏季の流星が多数発生する時期には10分ごとのデータがほぼもれなく受信できることを確認し、陸上基地から最大1500km離れた地点からのデータを収集できた。

カ.メッセンジャーフロートを用いた深層観測用係留ブイについて、データ送信の容度を増す等の改良を行ったブイを実海域に設置し、データの受信状況及びその値の検討を行った。その結果、観測データが準リアルタイム取得できることを確認し、黒潮等の海洋変動予測の精度向上に極めて有益なデータ取得技術となる目途が立った。

 2) ブイシステムで得られた複合データの高度処理手法研究

ア.自動受領・変換システムの開発し、システムをJ-DOSS上に移行し、インターネット上で実験を行い、稼動が可能である見通しがついた。

イ.海洋物理・化学データの高度管理システムについては、Webインターフェースを開発し、Webブラウザからのアクセスが可能になったとともに、海底地形データへの対応により、観測データと海底地形を組み合わせて比較検討することができるようになった。

ウ.漂流ブイデータの流速データと衛星から統計的に推測される水温・塩分構造を同化する手法を開発した。また、漂流ブイなどのデータを基に中規模渦を推定し、モデルに埋め込む手法を検討した。その結果、海表面だけでなく3次元的に実用モデルにおいて多種類データ同時同化を実現した。


(3) 評 価

 本研究は、初期の目標に適した研究であり、その成果は高く評価できる。
 第1期で開発したブイ・センサを用いて、第2期では実海域で実験を行い実用化を進めることに目標を設定したことは適切であった。研究の進め方は概ね適切であり、海域実験の回数はやや少ないが、所期の目標はほぼ達成されている。研究全体としても国際的に水準の成果が挙げられている。課題によっては、国際的に見ても大変水準の高い課題や独創的な課題があった。また、実用化に向けてはあと一歩の課題も見られたが、既存の観測では取得不可能な観測を実現させるために困難な問題に挑戦してきたことは評価できる。本開発研究の結果は地球環境の保全、気候変動の予測に必須の大気海洋システムの解明を進めていかなればならないという研究の一貫した流れの中にあり、高い評価を与えることができる。このプロジェクトで開発されたデータ取得技術・データ同化技術を初めとした成果を埋もれさすことなく、研究を継続・発展させていくことが望まれる。今後は研究成果をよく整理して内外に発表する努力をしてほしい。
 なお、各研究項目ごとの評価は以下のとおりである。

 1) 革新的ブイシステムの海域総合観測実験

ア.ヨット型自己移動型ブイは海水表層を乱すことなく観測できることで、沿岸域の有光層内での生物・物理量の鉛直分布の測定が可能になった点で意義があったが、船舶の往来の頻繁な海域では使用上危険を伴う等種々の問題に対する対策を講じる点での工夫が必要である。

イ.クロロフィルの広域時系列データの取得の必要性は年々増してきており、海中懸濁センサ開発の価値は大きいが、海域での実験は少なく測定精度の向上が今後の課題である。

ウ.定点保持型ブイのプロトタイプ開発としてはほぼ目標は達成されたものの、実用化のための問題は多々残された。また、ブイに搭載した基礎生産センサ・栄養塩センサについて、設定された目標については達成されているものの、革新的な計測機器の開発という面では貢献はあまり大きくない。

エ.耐候性の高い二酸化炭素センサを開発し、気象ブイロボットに搭載して海上観測を実施し、二酸化炭素データを半年以上という世界最長連続取得できたことは大気・二酸化炭素収支の精密評価への道を開いた点で極めて高く評価できる。

オ.衛星通信を使用せずにデータ取得が可能な流星バースト通信を用いた漂流ブイを開発し陸上基地から最大1500km離れた地点のデータを取得できたことは黒潮変動の効果的なモニタリングの実施にとって画期的な成果である。今後は、このブイを用いた科学的知見を黒潮域等で示してほしい。

カ.リアルタイムでデータ取得が可能なメッセンジャーフロートを開発し、約2週間でほぼすべてのデータを取得できたことは、今後データ同化モデルによる海況予測の精度向上への道を開いた点で意義があり高く評価できる。

 2) ブイシステムで得られた複合データの高度処理手法研究

ア.海洋データの受領・提供の柔軟性の面で米国等に比べ見劣りがする点を改善するものであり、貴重な観測資源の有効利用に貢献するものと評価できる。

イ.対話形式によるWebブラウザからのアクセスは今後、この分野における国際的対応として重要であり評価できる。海洋物理・化学データの一元管理を目標の一つとしているが、海洋データを扱う海上保安庁海洋データ情報センターとの関係等、このシステムの運用を実用化するための問題が今後の課題として残る。

ウ.現場水温観測に漂流ブイや人工衛星の観測データを同化するシステムを開発し、多種類のデータ同時同化を海表面だけでなく3次元的に実用モデルにおいて実現したことは高く評価できる。今後は、期間を限定して同化モデルのパフォーマンスの定量的議論を行ってほしい。

-- 登録:平成21年以前 --