平成10年度研究評価小委員会報告書について 2.各論 総合研究 2


2.傾斜構造形成によるエネルギー変換材料の開発に関する研究
(研究期間:第1期 平成5~7年度、第2期 平成8~9年度)



(1) 目 標

 傾斜機能材料(Functionally Graded Material 以下FGM)は、従来の均一材料に対し、人為的に材料内の組成や組織を連続的に不均一にして機能を追求する複合材料で、日本で初めて積極的に概念として提唱したものである。本研究は、構造材料としての熱応力緩和FGMで培われた基盤技術を、さらにFGMの適用による機能材料としての新しい可能性へと拡張することを目的とし、特に、地球環境エネルギー問題にも貢献するエネルギー変換型の機能材料である熱電変換材料、熱電子変換材料等を対象として、FGM化による各種エネルギー変換材料の変換効率を飛躍的に向上させる基盤技術を開発することを目標とした。
 第1期においては、このような観点の下、熱電変換材料、熱電子変換材料開発とともに、材料及びそれを適用したシステムの両面にわたる設計、 素子形成技術、特性評価に関する研究を行い、性能向上のための傾斜構造材料及びシステム設計と多段型傾斜熱電材料の試作、熱伝導や放射を対象とした新しい概念の傾斜化技術の構築等で多くの成果をあげた。
  第2期においては、第1期の課題と成果を踏まえ、特に、FGMの機能材料としての有効性を実証し、傾斜材料の特性を明確化することを最重要課題として、FGMの効果を確認しやすい熱電変換と、高温材料への適応に関連する熱電子変換に関連した材料研究に重点をおき、材料系及び手法も絞り研究を行う。具体的には、以下の研究を行った。
 1)材料設計・評価に関しては、均一材料に対する傾斜材料の評価基準の確立を目指し、理論、プロセス、検証まで一貫したFGM設計理論の完成を熱電材料を題材に研究する。2)熱電変換材料に関しては、材料をBiTe, PbTe, SiGe系に絞り、各温度領域でのp型、n型両方の高性能傾斜熱電材料の作製技術を焼結法で確立し、広い温度領域での傾斜化概念を明確化する。3)熱電子変換に関しては、第1期で開発した材料により熱電子発電器の試作を行い、材料の有効性を検証するとともに、高温環境を対象とした熱応力緩和、接合、拡散防止等の幅広い要素技術を蓄積する。


(2) 成 果

 本研究における主な研究成果は、以下の通りである。

 1)傾斜熱電材料の設計評価に関する研究

 熱電変換素子の電気特性および機械的特性を同時に最適化する傾斜設計手法の開発に成功した。本設計手法は、任意の熱電材料、任意の温度範囲に対して適用可能であり、今後の熱電変換システムの設計に有力な手段を提供するものであると考えられる。また、多結晶材料の粒界制御の重要性を理論的に指摘した。実験的にも粉体表面のプラズマイオン処理による様々な効果が確認され、今後の材料プロセス分野に重要な知見を与えた。

 2)傾斜熱電材料創製に関する研究

 中温および高温領域熱電材料の最大出力が既存材料の傾斜構造化によってそれぞれ20%および40%以上向上することを実証した。さらには早期の実利用の観点から実施された均質材を用いた多段カスケード化の研究では低、中、高温のBiTe、PbTe、SiGe3段カスケード化により17%という世界最高水準の変換効率を達成した。

 3)熱電子変換材料および高温環境材料技術に関する研究

 熱応力緩和FGMの手法を活用しRe/W/Ta傾斜化エミッタ、NbOx/Nb傾斜化コレクタの高性能電極材料を開発、並びに超高温の下で安定に動作する熱電子発電素子形成技術を確立した。
 また、高温環境材料としてのカーボン繊維傾斜配列C/Cコンポジット材料及び高温放熱材料のAL/N/Wは全く新しい概念の熱移動材料の可能性を示した。

 4)傾斜材料の普及と支援

 当面成果の実利用が期待できる熱電発電について適用調査を実施し、エネルギー変換におけるFGM化は理想的な高効率のみを追求するのではなく、製造・加工技術の現状を踏まえた階段的FGM化によるコストも考慮した性能向上が必要であることを提言した。データベース整備部門は3分科会間のおける情報の伝達と成果の速やかな横断的利用を可能にした。また3分科会のほぼすべてのデータをファイルとして整理しプロジェクト成果の管理を行った。


(3) 評 価

 本研究は、初期の目標に鑑み研究した意義は認められるが、その成果はあまり評価できない。
 熱電発電材料においてエネルギー変換効率17%を達成したことや、高温熱電子素子形成技術や高温環境材料の開発などの高い成果が認められるが、やや実用化研究に傾向した面もあり、新機能や材料・物質面から見た傾斜機能の検討が不十分な面がある。
 第1期終了時の評価において、熱電材料および熱電子材料に特化することと、傾斜材料の特性評価を第2期の目標としたため、第2期の目標はほぼ達成したといえるが、新しい傾斜機能材料としてのインパクトにやや欠ける面もあり、今後、新たな機能材料としての材料研究が必要と考えられる。なお、各研究項目ごとの評価は以下の通りである。

 1)傾斜熱電材料の設計評価に関する研究

 本研究は,傾斜熱電素子に関して理論からプロセス,評価,検証までの一貫したFGM設計・評価技術の確立を図り,熱電変換における傾斜構造の有用性を検証することを目標として研究を進め、新たな熱電材料の物性推定法、微視的評価法を開発し、当初の目標を達成したものと言える。また、3段カスケード型熱電素子の設計および発電試験を実施して17%の画期的な変換効率を得ており、熱電発電における総合的評価技術を確立した点は評価できる。傾斜熱電材料における理論的探索も行われているが、最適電子構造や新たな材料を示すまでには至らず、今後新たな傾斜機能材料探索に関する研究も必要と考えられる。

 2)傾斜熱電材料創製に関する研究

 第1期の研究成果を踏まえて研究対象をBi2Te3(500K以下の低温)、PbTe系(500~800Kの中温)及びSi-Ge合金(800K以上の高温領域)に絞り、さらなる高性能FGM製造技術、高温電極接合技術、発電性能の評価及びFGMの熱的安定性の評価法の開発を行った。熱電材料に関する研究では、PbTe系及びGaP添加Si0.8Ge0.2でそれぞれ26%及び40%以上の性能向上を実証し、確実な性能向上技術として高く評価される。しかし低温領域材料に関しては、高い熱電能の温度領域の拡大に留まり、出力特性評価までには至っていない。素子成形と熱的安定性に関しては、熱歪み緩和はもとより、熱的電気的に良好な接合技術の開発は、世界的に見てもまだ研究が着手されておらず、高く評価される。
 FGMは均質材料でないので、性能指数に対応する評価法が大きな問題として残されている。さらに中温と高温領域材料では、接合界面の拡散バリアの手法までは解決されておらず、今後の課題である。

 3)熱電子変換材料および高温環境材料技術に関する研究

 熱電子発電器の大幅な性能向上をもたらす傾斜構造複合エミッタ電極材料、酸素添加金属コレクタ電極材料の開発や1800Kの高温領域で熱流の方向性を制御する技術として炭素繊維傾斜配列C/Cコンポジット材料、TiC/Mo系集熱層の開発したことは評価できる。また、高熱伝導率と高熱放射率を兼ね備えた熱放射材料であるAlN/W系粒子分散傾斜材料を開発したことは、宇宙開発用ラジエータ材料、半導体産業分野における均一放射熱源等の実用面での展開が期待できる。

 4)傾斜材料の普及と支援

 実利用が期待できる分野として熱電発電について適用調査を実施した。FGM化された熱電発電が必ずしも実用の段階にはない現状を考慮すると、2、3層の段階的FGMあるいは2~3段カスケード素子により実現する提言はエネルギー変換の早期実用化という観点からは適切と言える。また、エネルギー変換材料の今後の適用分野として、太陽熱、自動車廃熱利用等を想定した調査も継続する必要がある。
 データベースの整備について横断的連携を促進するのに効果があり、目標を達成したものと認められる。本研究で得られたデータベースについて、熱応力緩和FGMのデータも含め、広く内外の研究者、研究機関に公開することも必要である。



 

-- 登録:平成21年以前 --