平成10年度研究評価小委員会報告書について 2.各論 総合研究 11


11.全地球ダイナミクス:中心核にいたる地球システムの変動原理の解明に関する国際共同研究
(研究期間:第1期 平成8~10年度)



(1) 目 標

 1960年代より、地殻及び上部マントルの一部から構成される複数のプレート片が地球表層の岩石圏を構成していること、及びそれらプレートの相互運動によって地球表層の種々の地質現象が起こること(プレートテクトニクス)が理解されるようになり、これまでの地球科学の体系が大きく書き換えられた。プレートテクトニクス理論はこのように大きな成果をあげたが、プレート下の運動・構造に関しては、未解明の部分が多く残されている。一方、最近では地震波を用いた地球の内部構造の研究が進み、その結果、マントルの運動を支配しているのは、プレート(板)ではなくて、大規模なプリューム(スーパープリューム)ではないかと考えられ始めている。
 本研究は、全地球的規模で起こる地球内部の変動を支配していると考えられるスーパープリューム(マントル内の大規模な上昇流と下降流)の実態と時間変化の解明を中心に、地球中心核(コア)・流動固体層(マントル)・堅硬岩石層(プレート)から地球表層までの、ダイナミクス構造を総合的に解明することを目指した国際共同研究を推進することを目標としたものである。特に第1期においては、1)南太平洋、西太平洋及びアジア・太平洋地域での広帯域地震観測網の設置、及びデータセンターの運用による「地震学的手法によるスーパープリュームの形態の解明」、2)南太平洋GPS連続観測網の設置、水深・標高データ及び重力とジオイドの解析による「測地学的手法によるスーパープリュームの形態に関する研究」、3)スーパープリューム起源の岩石の収集・調査、超高感度高分解能投影型二次イオン質量分析計の開発、火山岩の年代測定、海底堆積物の化学分析、過去の火山岩と堆積岩の古地磁気強度測定による「スーパープリュームの物質科学的研究」、4)数値実験による「スーパープリュームのダイナミクス」の解明、を目標とした。


(2) 成 果

 本研究における主な研究成果は、以下のとおりである。

1) 地震学的手法によるスーパープリュームの形態の解明

 スーパープリュームの形態の解明のための基盤的データを得るために、米国と共同で太平洋諸島に5点の、南太平洋諸国と共同で6点の広帯域地震観測点を整備した。さらにインドネシアにおいても23点の広帯域地震観測点を新設すると同時に、アジア・太平洋地域の既存の高感度地震観測網の連続波形記録を収集・交換するためのデータ収集・解析システムの開発と、その運用のために研究者のトレーニングを行った。これら各種地震波形データの収集、管理、配布のための機器の整備と効率的利用を目指したソフトウェアの開発を行った。
 一方、地震観測データの解析に関しては、実体波走時データによる全マントル構造解析手法の開発、実体波振幅データによるプリュームの規模を推定する解析手法の開発、表面波波形による全マントル内部地震波速度構造と減衰構造を推定する解析手法の開発等を進めた。また、これら新たに開発された解析手法の既存データへの適用、及び地球自由振動モードを用いた研究等から、全地球のマントル構造およびマントル遷移層に関する新たな知見を得た。

2) 測地学的手法によるスーパープリュームの形態に関する研究

 太平洋プレートの内部変形とプレート内部の歪みを明らかにするために、太平洋地域に5点のGPS連続観測点を整備し、周辺の観測点も含めて暫定的に観測点の位置速度を求めた。また、海底地形やブーゲ異常/水深比等が、プリューム地域の火成活動や、地殻の厚さ、熱、温度構造の指標となることを示した。一方、背弧拡大系における海底地形、重力、地磁気データの取得、反射法・屈折法地震探査、岩石採集等により、海底拡大域や堆積層厚分布などを求めた。

3) スーパープリュームの物質科学的研究

 環太平洋造山帯(ロシア、カザフスタン、オーストラリア、タヒチ島、インドネシア、ハワイ、フレンチポリネシア、クック諸島、カリフォルニア地域)においてスーパープリューム起源と考えられる岩石の系統的野外調査と大量の試料の採集を行った。これら岩石試料の化学組成・同位体組成のキャラクタリゼーション、系統的年代測定、高温高圧実験等の結果を総合し、スーパープリュームの起源と考えられる物質の特徴およびその由来を求め数億年の活動記録を明らかにした。また、これらの結果を総合し、定性的な岩石学的モデルを構築した。
 さらに、これらの大量に採集された岩石試料を効率的に高精度で解析するために、岩石・鉱物ミクロン領域の同位体比測定用の超高感度高分解能投影型二次イオン質量分析装置の基本部分を試作した。
 一方、海底堆積物の化学的分析手法の確立および高分解能古地磁気強度測定手法の確立により、プリューム活動に伴う地球表層環境変動と地磁気変動に関する新たな知見を得た。

4) スーパープリュームのダイナミクス

 3次元マントル対流シミュレショーンにおいて基本的な3次元球殻内のマントル対流コードの開発を行い、粘性率が温度により指数関数的に4桁変化可能なコードを用いて、対流の一般的性質を解明した。また、大陸下と海洋下のプリュームの形成時間および形状の違いについて3次元球殻モデルで数値実験を行い、他分野との相互理解のための視覚化を試みた。


(3) 評 価

 1. 評価概要


 本研究は、所期の目標に鑑み極めて優れた研究であり、その成果は極めて高く評価できる。
 「全地球ダイナミクス」計画においては、「プルームテクトニクス」の仮説を検証するために、観測、調査、試料採集、実験、及び各種分析等多種にわたる研究手段を用いて活発に研究を遂行している。第1期においては特に、複数の地震観測網の建設、多量の貴重な岩石試料の採取、及び超高圧実験の成果が高く評価される。太平洋の要の場所に設置された地震観測網による観測と得られたデータの解析、及び多量の岩石試料の分析により、第2期において多くの成果を生むことが期待される。ただし、分析装置、特に最も高額の予算を費やしている「超高感度高分解能二次イオン質量分析装置」が期間内に効果的に作動し、必要な微量元素、同位体の高精度の分析結果が出て本研究に充分寄与できる様、特段の努力が必要である。また、異なる分野における研究結果やデータを厳密に検討し、総合化を行う必要がある。そのために各グループ間の密接な連絡が必要である。
 本計画は、日本の研究者が出した地震学的データを用いて日本の研究者が提唱したアイディアに基づくもので、地道な観測網建設や岩石試料の採集から壮大な仮説の検証を目指す、スケールの大きい従来にない型のプロジェクトである。本計画を強力に推進することにより、日本のみならず世界の地球科学の発展に大いに寄与することが期待され、研究評価WGとしても基本的にはサポートしたい考えである。
 以上のとおり、異なる分野における研究結果やデータを厳密に検討し、総合化を行う必要があることから、第2期移行に当たっては第1期の研究評価を踏まえ、研究内容の一部を再編成することが必要である。
 なお、各研究項目ごとの評価は以下のとおりである。

1) 地震学的手法によるスーパープリュームの形態の解明

 地震観測網の建設が、国研と大学の枠を超えて非常に多くの研究者の協力によって進められてきている。こうした共同研究により、GARNET、SPANET、JISNETの3つの地震観測網が生まれつつあるが、これらはわずか2年半でよくここまでこぎつけたと感心させられる。これらが完成すれば日本独自の貢献として国際的に高く評価される筈であり、今後一層の推進が是非とも必要とされる。特に今後はデータ解析で成果を得つつ建設を進めることが期待される。ただし、観測網の要であるデータセンターに関する報告がおざなりなのは遺憾であり、全体の評価を落としかねない。もし成果をあげていたのであれば、もっときちんとした報告がなされるべきであった。第2期では今回高く評価された観測網建設が、データ公開に如何につながるかが問われることになるので、その意味でもデータセンターは重要と考えるべきである。

ア.南太平洋広帯域地震観測によるスーパーホットプリュームの解明
 観測網建設については、その成果はたいへん高く評価できる。それ以外の部分については評価できるものの、第2期ではより一層の努力が求められる。
 南太平洋広帯域地震観測網の展開は特に重要な価値であり、今後の発展に大きな期待を寄せる。南太平洋「スーパーホットプルーム」の実態を地震学的にどのように解明するかについては、より一層の手法開発が必要である。減衰構造の水平不均質性は、温度の水平不均質性と直接関わり、テーマとしては重要であるので、今後の発展が望まれる。

イ.西太平洋広帯域地震観測によるスーパーコールドプリュームの解明
 観測網建設については、その成果はたいへん高く評価できる。それ以外の部分については評価できるものの、第2期ではより一層の努力が求められる。
 昨今のインドネシア情勢を考えると、ここまで目標を達成できたことはむしろ驚くべきことと言える。今後とも強力に推進すべきであるが、これからはデータ解析と平行した観測網建設が必要であろう。またインドネシアの地震学者との共同研究をいっそう進め、本計画の成果を彼らが引き継げるような体制を作ることが望まれる。

ウ.国際群列地震観測によるマントル深部地形の解明
 観測網建設については、その成果はたいへん高く評価できる。それ以外の部分については評価できるものの、第2期ではより一層の努力が求められる。
 国際群列地震観測網の展開は、日本の立場を考えるとアイディアも含めて特筆すべき進展があったと判断される。但し、リージョナル規模とも言い難い拡がりの観測網をディジタル化してどのような学術的メリットがあるのか、今後実績で示していく必要がある。
 核マントル境界付近の散乱体構造解析については、手法的に新しいわけではないが、具体的な成果が既に得られ、今後のいっそうの応用が期待できる点を評価する。既設のJ-Arrayばかりでなく、新しくできるJISNETなどにも応用していくことが期待される。

エ.高密度・高感度地震観測による地殻・最上部マントルの微細構造の解明
 観測網建設については、その成果はたいへん高く評価できる。それ以外の部分については評価できるものの、第2期ではより一層の努力が求められる。
 SPANET、JISNETの建設は日本の大きな国際貢献であり、高く評価される。今後は得られたデータの解析と平行した観測網の建設が望まれる。
 Velocity Spectrum Stackingの考えは特に評価できる。この部分を今後得られてくるデータに積極的に適用し、さらに強力に推進すべきである。

オ.国際的地震波形データ流通システムの開発と運用
 3年で1億4千万も使ったにしては、ヒアリングで報告がなく、提出された資料にも単にフローチャートが示してあるだけであり、どのようなデータ公開システムができて、どこまで公開が進んでいるのか判断に苦しむ。もっと具体的な成果報告が最低限必要である。本プロジェクトにおいて、この課題をどれだけきちんとやるかが科学的な成果と並んで重要であり、もっと強力に進める必要がある。

2) 測地学的手法によるスーパープリュームの形態に関する研究

 測地関連の課題設定そのものが、「スーパープルーム」解明という科学目標を達成するためというより関連機関の得意な分野をならべたという印象が強い。海底の微地形はともかく重力とジオイドの問題では、マントル内部の運動によって動的に保持されるジオイドの回転楕円体からのずれ等長波長のものが、プルームテクトニクスの観点からより重要なのではないだろうか。我が国が不得意な分野ではあるが、衛星の軌道データの解析による低次重力場と値とその時間変化、そのマントルダイナミクスとの関連等の解明を課題として明記すべきであった。

ア.GPSによる大規模地殻変動の観測研究
 GPS受信機の設置が地震観測網と比べて遅れ気味である。またGPS点が「スーパーホットプルーム」を取り囲むように設置されていないため、今後の改善が望まれる。  GPS網の主目的は太平洋プレートの変形の測定であるが、「スーパープルーム」との関連でどのような現象が見えそうかの理論的考察が不足している。本計画の別課題であるシミュレーションとの連携等を通じて観測だけでなく理論面の補強に努めるべき。その結果鉛直方向の動きが期待される場合は、鉛直局位置誤差の低減に努めると共に将来にわたってより長期の観測が実現できる様努力が望まれる。
 南太平洋のGPS観測は第1期の観測点配置のままならば「スーパープルーム」と関係付けることは難しい。もし「スーパープルーム」に伴う地殻変動を検出することを狙うならば、super swellを取り巻くように観測点を増加する必要がある。それが不可能ならば、太平洋プレートの運動をより精密に決定し将来の議論のための基礎的データを得る、という様な目標に変更すべきであろう。
 本計画のデータを国際GPSサービス(IGS)に代表される国内外の研究者コミュニティへ提供すれば日本からの国際貢献として大いに歓迎されるであろう。これについては第2期での積極的な動きを期待する。
 太平洋プレートの変形を出すためには太平洋プレートの運動決定が先決であるが、測地学的に測ったハワイや南鳥島等の北太平洋の点の動きは地質学的な時間窓における平均に比べて有意に速いことが従来から指摘されており、アラスカで1960年代に続発した巨大プレート間地震に伴うストレス拡散との関連等が示唆されている。課題担当者はその方面の研究の世界的な動向の把握に常時努めるべきである。

イ.スーパープリューム地形の地形学的解析研究
 精密かつグローバルな重力測定及び地形測定は「スーパープルーム」の検証に重要であるが、本研究における調査海域が必ずしも目的に沿ったものとして最適であったかの疑問が残る。今後は、本研究の評価を踏まえ各研究機関において研究内容を再検討することが必要であり、本プロジェクトでの研究については第1期で終了することが適当である。しかし、船舶データと衛星データの不一致の問題が残されているので、何らかの手段でその点の解決を図ることを希望する。

ウ.重力とジオイドによるスーパープリュームの形態の解明
 重力とジオイドの問題ではマントル内部の運動によって動的に保持されるジオイドの回転楕円体からのずれ等、ある程度長波長のものがプルームテクトニクスの観点から重要だと考えられる。実際にこの計画全体のパンフレットにジオイド高さのコンターマップが描かれていることから、当初はより長波長のものが重視されていたのではないだろうか。従って実際にこのプロジェクトで行うべきことは、衛星軌道の解析による地球重力場の低次項の値と時間変化、またそれらをマントルダイナミクスのシミュレーションと関連づけた解釈であろう。
しかし、本課題で実行されたものは船舶による重力や地磁気データのコンパイルであり、本来「スーパープルーム」に関係深いと思われる問題には触れていない。また予算額が比較的大きいに関わらず報告においても前向きの姿勢に乏しい。本課題は測地関連の課題の中でも「スーパープルーム」の検証に関する重要度が比較的高いものと考えられるので、第2期は視点を変えてより強力な取り組みを希望する。

3) スーパープリュームの物質科学的研究

 岩石学グループに関しては、大量の岩石試料の採集、興味深い実験結果・分析結果、及びそれらの結果に基づくより説得力のあるモデルの構築等、顕著な成果をあげており、全体として高く評価できる。ただし、「ここまでは厳密な分析・実験結果」「これは結果そのものに対する解釈」「ここからは結果に基づくスペキュレーション」というケジメがはっきりついていない感がある。このケジメの不明瞭さが第2期の方針にも投影されている感があり、もう少し研究対象を客観視した姿勢が欲しい。
 また、最も高額の予算を費やしている「超高感度高分解能二次イオン質量分析装置」に関しては、第2期の研究期間内に効果的に作動し、必要な微量元素、同位体の高精度の分析結果が出て、本研究に充分寄与できる様特段の努力が必要である。
 古地磁気グループに関しては、堆積物の持つ残留磁化に関わる基礎的な古地磁気学的、岩石磁気学的研究については、測定手法の開発や磁場変動の基本的な理解に関して成果が得られている。しかし、これらの成果が「スーパープルーム」にどう結びつくのかは不明である。また、火山岩については岩石収集は行われているものの、解析が進んでいない事からその成果を評価できない。今後は、火山岩に関しては解析を進める事と、堆積岩の研究については「スーパープルーム」に関係した課題についての研究が望まれる。

ア.スーパープリューム岩の岩石学的研究
 「プルームテクトニクス」の仮説の検証に一つの鍵となるカザフスタン地域の地質調査と大量の岩石試料の採取を極めて精力的に行ったことは、極めて高く評価される。第2期におけるそれらの岩石試料の年代測定及び各種化学分析、及び詳細な岩石学的研究の結果が期待される。
 地質学は、地球の地層や岩石の、時間を含む4次元的意義の検討にあるので、まず試料の分布、構造、性質などが十分に特定されないといけない。広域的な研究もありうるが、むしろ焦点を絞った研究が望まれる。その点、これまでにあまり調査が行われておらず、かつ重要と考えられる地域に焦点を絞って行った今回の研究は、研究担当者の努力を極めて高く評価したい。ただし、特定地域の研究が全地球の中でどのように位置づけられるかを絶えず注視されたい。それ以外の地域との比較が同程度の精度で行えれば、研究は成功に向かうであろう。本課題においては諸外国の研究者との連携も重要なので、第2期ではその方面での発展を期待する。分子動力学的手法の開発については、現時点ではまだ評価できる段階ではない。
 シリケイト-ペロヴスカイトの生成反応、沈み込む海洋地殻の融解及びそれに含まれる含水鉱物の安定性等に関する超高圧実験の結果は極めて高く評価される。第2期においても引き続き強力に推進すべきである。
 超高感度高分解能二次イオン質量分析装置の開発については、意欲的な研究態度は評価するが、本計画期限内に高精度の信頼できる分析結果が出せるか疑問が残る。本計画に充分寄与するよう努力すべきである。本計画において、このような機器開発の要素が強く研究期間内にデータが出せない可能性がある項目に予算を充当することの是非については、評価WG内でも意見が分かれるところである。このような予算の使い方について、本項目の研究担当者のみならず研究推進委員長、研究代表者等を含めた本グループ全体でどのように位置付け目標設定すべきであるか、再検討する必要がある。
 南太平洋ホットスポット岩石及び西太平洋域の巨大海山群・付加体中の火山岩の研究については、アイディアは非常に面白く、様々な地域からの貴重な試料の収集が行われつつある点は、高く評価したい。特に「スーパープルーム」が上昇して来ていると考えられる地域の火山岩(マグマ)の化学的特性をある程度明らかにしたことは、高く評価される。しかしまだ充分に説得できるデータではない。また、それが核に由来するという根拠も強くない。他の可能性を検討して、それらが不適切であることを示す必要がある。他の地域に広く適用する前にこれらを着実に行うべきである。

イ.放射年代学的手法によるスーパープリューム消長史の解明
 特筆すべき結果はまだ得られていないが、「スーパープルーム」の検証には、火山島の精度の良い形成年代のデータは必要である。地道な作業であるがより広い地域の多くの火山岩についての測定を今後期待する。研究の成否は良い試料を得られるかどうかに依存する側面があるので、海山などのホットスポット、あるいは、海台の試料を今後いかに入手するか考慮する必要がある。KAIKO計画、各種の研究グループのドレッジ、ODP等の試料をできるだけ多量に入手し、処理する事を考慮されたい。

ウ.地球表層環境の変動とプリューム活動に関する地球化学的研究
 ICP-MSによる高精度の微量元素分析は、多量に採集された岩石試料の分析に必要であり、その意味で価値がある。また興味深い研究で、特にプルーム活動の直接的な証拠を狙ったアイディアは高く評価される。研究の成否は良い試料を得られるかどうかに依存する側面があるので、できるだけ広範囲の資料収集とそれらの検討をするべきである。しかし、地球表層環境の変化、特に生物に関するものが「スーパープルーム」の活動についての説得力ある検証になり得るか極めて疑問である。他の要素があまりにも多く関与すると思われる。

エ.古地磁気学的手法による核・マントルのダイナミクスの研究
 堆積物を用いた研究については、堆積物試料から超伝導磁力計測定によって、今までより高分解能で磁場連続変動を求める手法を開発した事は評価できる。また、実際の試料を用いて地磁気逆転過程の詳細を求めたことも有意義である。しかし、これらの成果が「スーパープルーム」の研究とどう結びつくのかは不明である。堆積物を用いた古地磁気研究を「スーパープルーム」と結び付けるのは、一般的にも困難なことではあるが、例えば白亜紀中期の地磁気静穏期の堆積物試料を用いる事によって、当時の磁場変動の様子(逆転は無いが)を調べることが考えられる。また、現在陸上にあってかつ年代がわかっている石灰岩等の堆積岩を用いることも可能であろう。さらにこのための技術開発としては、堆積物から過去の相対磁場強度を求める手法を開発する事も重要な寄与をなすだろうと思われる。
 火山岩を用いた研究については、第1期において各地で多くの岩石試料をサンプリングされた事は評価できる。また、サンプリングは火山岩試料が中心であり、古地球磁場強度の推定ができれば、成果が得られる可能性がある。しかしながら、現在までには解析結果が発表されていないので、研究結果については現時点では評価できない。また、予算額が比較的多いのにもかかわらず報告時においても前向きの姿勢に乏しい。今後は、得られた岩石試料について古地磁気測定を行う事が是非必要である。
 岩石磁気学的研究については、古地磁気研究では通常邪魔物と考えられるマグヘマイトやピロータイトについて岩石磁気的な研究を行った事は評価できるが、例えばマグヘマイトに関しても、マグヘマイト化によってもともとの残留磁化がどう変わるかなどの研究は、堆積物よりも海底地殻の磁化過程に重要であり、このような研究を行えば、地磁気静穏期の磁場強度が大きかったか小さかったかという結果を通して、「スーパープルーム」と結びつく可能性はある。今後研究を続ける場合には、このような研究課題を考えられたい。

4) スーパープリュームのダイナミクス

 第1期ではマントル対流計算のためのコードを開発し,二次元矩形,及び球殻におけるシミュレーションを行っている.球殻におけるマントル対流の熱輸送の定式化,大陸を置いた場合のプルームの発生を示すなど重要な成果が含まれるが,どのような条件の場合にプルームが発生するのかの詳細な検討や,それらのテクトニクスに対して持つ意味の議論は不足している.

ア.スーパープリュームに関する数値実験
 国立研究所担当分については、第1期ではコードを開発し、プルームの発生をシミュレーションで示した。コードの開発自体は重要で不可欠なものであるが、それを用いた具体的な成果は見いだせない。これは研究目標設定が適切に行われなかったせいではないだろうか?「冷たいマントルドーナツ」はおそらく「スーパープルーム」とも関係する概念であろうが、その内容、実在性の説明は乏しく、環太平洋の沈み込み帯の下で、スラブがマントルの底にたまるという一般的な概念をしのぐ有用性は見いだせない。ダイナミクス研究分野は重要であるがゆえに第2期では成果を期待したい。
 大学担当分については、研究成果はそれなりに認められる。球殻のマントル対流の熱輸送、大陸のマントル対流に与える影響は、それらのうち特に重要なものであるが、どのような条件の場合にプルームが発生するのかの詳細な検討や、それらのテクトニクスに対して持つ意味の議論は十分になされているとはいえない。したがってプロジェクト全体に対する関連が薄いという印象を与えているのは遺憾である。


 2. 第2期の研究計画の考え方

 第2期の研究計画については、第1期における研究の進展を反映して、第1期よりも目的と研究対象を絞り込むことが適当である。第1期の成果より得られた定性的な固体地球内部物質大循環モデルを基に、第2期ではマントル内部の3つの境界層に特に注目して、異なる分野における研究成果やデータを厳密に検討し総合化を行うことによって、定量的な地球内部物質大循環モデルを構築することが期待される。
 第2期の研究計画は、第1期の研究成果及び評価を踏まえ以下の点に重点を置くことが適当と考えられる。なお第2期の研究計画では3つの境界層に焦点を絞った大項目編成がされているが、ここでは第1期の大項目毎に記述する。研究の遂行にあたっては、異なる分野間の有機的連携が必要である。開発、整備の部分は、第2期の初年度に完成することが望ましい。また、「スーパープリューム」ではなく「スーパープルーム」という用語を用いるのが望ましい。

1) 地震学的手法によるスーパープリュームの形態の解明

 第2期においては、第1期で展開した地震観測網から得られたデータの解析に重点が置かれることになるが、その際に「スーパープルーム」の実態を地震学的にどのように解明するかについて、より一層の手法開発が必要である。国際共同研究については、相手国の地震学者との共同研究をいっそう進め、本計画の成果を彼らが引き継げるような体制を作ることが望まれる。データセンターについては、観測網の要であるので第(2)期ではきちんとしたデータ公開がなされるように強力に推進する必要がある。

2) 測地学的手法によるスーパープリュームの形態に関する研究

 GPS点の設置や海底の微地形については、第1期における多大な努力によってデータ取得の端緒が得られたことは評価できる。第2期が順調に推移して、太平洋上の貴重なGPS速度データが得られることを期待したい。また、よりホットプルームに近い地域での海底地形データの取得も期待する。GPSデータに関しては、太平洋プレートの変形と「スーパープルーム」の関連を解釈するにあたって、シミュレーションとの連携を図ると伴に積極的なデータ公開を第2期で行って欲しい。重力およびジオイドについては、第1期の研究手法が必ずしも「スーパープルーム」の解明という観点から最適なものでなかったと考えられるため、科学的な議論を通じて第2期の研究手法をかなり抜本的に見直す努力が必要である。

3) スーパープリュームの物質科学的研究

 岩石学グループに関しては、全体として「分析・実験結果」「解釈」「スペキュレーション」の区別をはっきりさせ、研究対象を客観視した姿勢が望まれる。第1期で行われた系統的地質調査及び大量の岩石試料の採取は高く評価されるものであるが、第2期ではこれらの岩石試料の年代測定及び各種化学分析、及び詳細な岩石学的研究の推進が期待される。また特定地域の研究が全地球の中でどのように位置づけられるか絶えず注視する必要がある。諸外国の共同研究者とのいっそうの連携も望まれる。超高圧実験の結果は高く評価されるものであり、第2期でも強力に推進するべきである。分子動力学的手法の開発については、第2期での進展が望まれる。
 最も高額の予算を費やしている「超高感度高分解能二次イオン質量分析装置」に関しては、第2期の研究期間内に効果的に作動し、必要な微量元素、同位体の高精度の分析結果が出て、本研究に充分寄与できる様特段の努力が必要である。
 放射年代学的手法及び地球表層環境の地球化学的研究に関しては、研究の成否は良い試料を得られるかどうかに依存する側面があるので、良質の試料の入手に努力すべきである。
 古地磁気学的手法に関しては、岩石試料の測定と解析結果の公表を急ぐとともに、「スーパープルーム」の研究と結びつくような研究の方向を目指すべきである。

4) スーパープリュームのダイナミクス

 第2期では異なった手段を持ち寄って共通研究テーマを追究することが試みられることになっている.そのなかでシミュレーションの果たすべき役割は相対的に増加しているように思われる.他の分野の研究者と十分な対話を行い,このシミュレーション分野からユニークな研究成果が生まれることを期待したい.


 

-- 登録:平成21年以前 --