平成10年度研究評価小委員会報告書について 2.国際共同研究総合推進制度 1


1.地球科学技術研究のための基礎的データセット作成研究
(研究期間:第1期 平成5~7年度、第2期 平成8~9年度)



(1) 目 標

 本研究は、我が国がイニシアチブを取って、関係諸国との協力の下に、アジア太平洋地域における衛星観測データ、地上観測データ、海洋観測データ等を活用して、地球科学技術研究の共通基盤となるグローバルなデータセットの作成のための研究に取り組み、地球科学技術研究に係る広範な地域で多種多様な観測データを継続的に蓄積するとともに、地球科学技術研究を行う研究者の多様なニーズに対応できるように、広範な地域の地球観測データを時間・空間的に統合、解析、加工し、データセットとして整備し、その流通を促進することを目標としたものである。
 第1期においては、アジア・太平洋地域における衛星観測データ、地上観測データ、海洋観測データ等の地球観測データ等を時間・空間的に統合、加工し、地球温暖化、砂漠化、熱帯林減少等の各種地球環境変動メカニズムの解明研究等に携わる各研究者の多様なニーズに対応できるよう、地球科学技術研究の共通基盤となる水文、植生、砂漠、海洋に関するグローバルなデータセットを作成するための研究を人的ネットワークの構築を含む関係諸国との協力の下に実施した。
 第2期においては、これら第1期での成果を踏まえ、同様の枠組みで研究を継続するとともに、将来的には、南北アメリカ地域、欧州・アフリカ地域における各国研究者との協力の下に、全地球を覆うデータセットを整備、流通させることにより、全地球レベルでの環境変動メカニズムの解明、長期気候予測の実現に資すること目標とした。


(2) 成 果

 本研究における主な研究成果は、以下のとおりである。

1) 水文データセット作成研究

 作成データセットの対象期間を1971~1997年とし、前年に引き続き、1997年末までの各種データの収集を行い、昨年度定義した統一フォーマットへの変換を行った。
 統合データセット作成のためのアルゴリズムを開発し、ワークステーション上でコーデイングを行った。開発したアルゴリズムを用いて、統合データセットを作成した。
 開発されたアルゴリズムは降水量以外の要素に対しても応用が期待される。
 本課題を通じて収集した日降水量資料を用いて、主に東アジア域における降水量変動の長期的傾向、エルニーニョとの関連などについて調査を行った。これらの調査から、長期変動の調査において、より長期間をカバーするデータセットの重要性及び日ベース資料の有用性が示唆された。
 オーストラリア、中国、マレーシアの気象局から研究者を招聘し、共同研究を実施した。
 昨年度整備したデータサーバー上に本課題のホームページを開設し、インターネットを通じての情報及び成果提供を開始した。
 1996年の中国160地点の月平均降水量データ、1995及び1996年の中国180地点の日降水量データ及び1961~1995年の2.5度メッシュ月平均降水量データを水文データセット分科会主査である高橋 清利氏に1998年2月に提供した。
 1997年につくばで開かれたGRNS国際会議で予備報告を行った。
 1997年度のオーストラリアにおけるGRNS関連降水資料の収集は予定通り終了した。この結果、1997年末までの数千地点の日降水量データが収集され、高品質降水量データとともにMRIへ提供された。
 ソロモン諸島及びPNGの気象局への降水資料提供要請の結果、ソロモン諸島から新たな降水資料の提供を受け、MRIへ提供した。しかし、PNGでは降水資料の更新が難しい状況である。
 オーストラリア気象局で解析された1度メッシュの降水資料をMRIへ提供した。
 オーストラリア気象局で業務に使用されているアジア太平洋域モデルの降水量予測値データをMRIへ提供した。このモデルの初期化には、GMS観測に基づくボーガスデータが使用されている。
 BMRCではモデル検証のため、日降水量の解析が行われている。モデルの誤差評価のため、誤差要因を区別して評価する統計手法が開発された。
 BMRCより1名の専門家をMRIへ派遣し、MRIでの降水量データ作成手法開発における研究協力を実施し、4-pass Barnesによる解析技術をMRI及び他のGRNS共同研究者へ提供した。
 タイのチャオ・プラヤ河上流域のヨム河及び ナン河流域,ならびに中国の漢江流域を対象として,水文データ(流出量,降雨量,蒸発量等)の収集、流出解析及びデータセットの作成を行った。
 タイでは,18流出量観測所、44雨量観測所及び11蒸発量観測所において1983年から1994年までに観測された日単位の水文データ,中国では,4流出量観測所、60雨量観測所及び4蒸発量観測所において1982年から1991年までに観測された日単位の水文データをそれぞれ収集した。これらを、フォーマット化し,テキストタイプのデータセットとし整備した。タンクモデルを用いた流出解析,年水収支解析を通してデータの検証を行い,その精度と信頼性を確認した。これらのデータはすべてNASDAへ提供した。
 また、タイのピン河上流域のバン・タ・サラ(流域面積;14,023 km2)を対象として,菅原の4段直列のタンクを4個並列に並べたモデルを用いて流出解析を行った。その結果,年平均雨量は、950mmで流出率は、0.15と我が国に比べて非常に小さい値を示し、熱帯地域において大きい損失雨量があるという特性がよく再現され、流出特性が明らかとなった。
 当初計画した地域のデータセット作成はほぼ予定通り完了した。とくに,タイにおいては,ほぼ全土における流出量データセットを完成させた。
 中国の長江支流の漢江中流域をカバーする冬(12月~2月)のLANDSAT TMデータ2シーンと、1990年の夏から秋のMOS MESSRデータ8シーンを選定して、それぞれタイ国国家研究評議会(NRCT)と宇宙開発事業団地球観測センター(EOC)から入手した。まず、TM データに対し、平成8年度の対象領域に接合するように、その北西側領域で幾何補正を行い、モザイク画像を作成した。さらに、このTMモザイク画像に合わせてMESSRの各シーンを幾何補正してMESSRモザイク画像を作成した。次に、両モザイク画像データを用いて、10月初旬に実施した土地被覆に関する現地調査結果に基づき、最尤法を適用した季節違いの土地被覆の分析を行って、流域特性の基礎データとした。
 この結果、漢江中下流域の土地被覆の季節変化が把握でき、土地被覆の違いは対象地域内の流出量に影響を及ぼすことが考察された。
 タイ東部のムン川の中下流部を中心として、1989年から1990年の乾季(12月~2月)のLANDSAT TMデータを4シーン選定し、タイ国国家研究評議会(NRCT)より入手した。
 TMデータは、平成8年度のモザイク画像データと接合可能なように幾何補正を実施し、約370×360の対象領域について、LANDSAT TMモザイク画像を作成した。さらに地形分布を考慮して求められる流域界を参照しながら土地被覆分析と温度分布パターンの分析を行い、流域特性の基礎データとした。
 この結果、ムン川中下流域の森林、草地、農耕地の作付状況等を示す土地被覆状況が、把握できた。また土地被覆と地形の関係、あるいは土壌水分の相違についての検討が行えた。
 漢江流域を対象として,4流出量観測所、60雨量観測所及び4蒸発量観測所において1982年から1991年までに観測された日単位の水文データ(流出量,降雨量,蒸発量等)の収集、流出解析によるデータの検証及びデータセットの作成を行った。
 データ収集の基本的な考え方は,1)ダム等の人工的な影響を避けるために,丹江口湖の上流にある小流域を選定する,2)昨年度選定した分も含めて,全流域にほぼ均等に分布するように小流域を選定する,3)観測点は1982~1991年の完全なデータを有すること,4)選定した小流域には人工的な影響,特に潅漑とダム放水など,があってはならない,これらを避けることが不可能な場合には,関連のデータを収集する,の四点である。
 三つのコンポーネントを持つ新安江モデルで流出解析を行った。このモデルは湿潤地帯の解析に最適であるので,漢江流域に適用し,日単位のデータでシミュレーションを行った。結果として,収集したデータの信頼性が証明された。
 得られた主な成果物は,1)選定した小流域の分布図,2)収集し,コンパイルの後,FDに収録したデータ,3)新安江モデルで行ったデータ解析結果,4)NIED,RESTECの研究者と共同で行った観測機器やデータ収得手法等の調査結果,等である。
 チャオ・プラヤ河上流域のヨム河およびナン河流域を対象として,18流出量観測所、44雨量観測所及び11蒸発量観測所において1983年から1994年までに観測された日単位の水文データ(流出量,降雨量,蒸発量等)の収集、流出解析によるデータの検証及びデータセットの作成を行った。
 観測所の選定は,国家水文委員会による流域分割を基にして,人工的な水利用,データ収集期間内におけるデータ蓄積度及び代表的な流域がヨム河およびナン河流域に含まれているか等を考慮して決定した。
 降雨量のデータは,多くの関係機関から収集したので,データの質を一定に保持するため,ダブルマスカーブ法を用いた。もし,欠測があれば,算術平均,等雨量線等の手法により補間した。流出量データは水位-流量曲線,即ち,レーテングカーブを用いて作成した。水位データ欠測の場合は相関法を用い,水位-流量曲線の外そうには,図解,対数及びスチーブンスの諸方法,越流の場合は,マニング式を用いてデータを推定した。蒸発量データは,欠測又は観測所が無い場合には,ペンマンの経験式を用いた。
 収集データの検証には,1)ヨム河およびナン河流域の流出係数,2)ヨム河およびナン河流域の降雨-流出特性,3)チー河流域の支川流域のNAM(Nedbor-Afstromnings-Model)モジュールによる流出解析,を用いた。なお,NASDA側(NIED)では,タンクモデルを用いてデータの検証を行った。双方共,このデータセットが他の研究分野に充分利用可能であることを確認した。
 ヨム河およびナン河流域のサンプルデータセットを,国際的な使用を考慮して,標準のフォーマットとしてテキスト型式のRID様式により,作成した。この様式は,いろいろなアプリケーションでファイルを読み・書きする場合に容易で,メモリーも多く必要としない。また,RID以外の機関のデータもRIDフォーマットに統一した。
 得られた主な成果物は,1)ヨム河およびナン河流域の水文観測所位置図(縮尺:1:500,000),2)ヨム河およびナン河流域の日単位の流量データ(1983~1994年,18観測所),3)同流域の日単位降雨量データ(1983~1994年,4観測所),4)同流域の日単位蒸発量データ(1983~1994年,11観測所),5)NAMモジュールによるチー河支流域の流出解析結果,6)ヨム河およびナン河流域の降雨-流出特性の基礎的研究結果,7)RIDフォーマット(テキストファイル)による収集データの整理法とデータセット,等である。
 以上,研究スケジュールの通り,チャオ・プラヤ河流域のヨム河およびナン河流域のデータを検証の後,テキストタイプのRID様式でデータセットとして整備した。また,NAMモジュールの対象河川流域への適用は,良好な結果であり,ソフトウェアーは,使いやすく,簡潔でモデルパラメータの同定もし易いことが判明した。

2) 植生データセット作成研究

 ランドサットTのNDVIによる森林被覆度推定法の精度検証は、地上でデジタルカメラによって樹冠の被覆状況を撮影することで、森林の葉面積指数をもとめ、その値との関係を掴むことで対応した。その結果、植生指数と葉面積指数との間の関係式が求まり、NDVIによる森林被覆度推定精度が葉面積指数によって確認できた。このことは、TMから森林生態系の重要なパラメータである葉面積が求められることを示したものであり、森林研究において極めて有効性の高い手法であることが分かった。
 植生の葉の水分含有量から森林地帯の水分環境図を作成する研究では、TMデータから葉の水分含有指数を推定する方式が理論式から初めて開発された。熱帯季節林地帯は水分環境によって葉を落とすことから、その生育が制限されている。そのため、本手法で作成された水分環境図は造林樹種の決定など実用面での利用が今後期待できる。
 中国における正規化植生指数を用いた植生分類法の高度化では、TMデータで利用した分類法をAVHRRデータに適用することを検討した。このため、TMとAVHRRのNDVIデータの相関関係を分析し、TMのカラー合成画像及びNDVIデータによる分類結果を教師としてAVHRRのNDVIデータから中国東北地方の森林分布図を作成する手法及びその精度について検証した。画像サイズを300mとして、6月のTMのNDVIとAVHRRのNDVIとの相関を調べたところ、0.9であった。そこで、TMのNDVIデータで設定した農耕地、広葉樹、常緑樹の閾値を回帰式を利用してAVHRRのNDVIデータの閾値として利用できることなどが明らかになった。また、新緑後と、落葉期(10月)のデータを組み合わせるだけでも、森林を2ないし、3タイプに分類できることが分かり、少ないデータのセンサのグランドトゥルースに利用することで、効果的な分類が可能になると判断できた。
 さらに、各国においてデータセットに含めるデータが確定し、メタデータを付加するなどしてサンプルデータセットが完成した。
 標高データの作成では、昨年度から追加されたプーキオ動物保護区地域における標高データをSPANS地理情報システムを用いて画素サイズ25mで作成した。用いた地形図はUTM座標系で縮尺5万分の1であり、100mごとの等高線(300mから1300m)をもとにメッシュ標高データを作成した。
 また、衛星データに関しては、縮尺5万分の1の地形図をもとに地上基準点をとり、GCPデータセットを作成した。これを用いてランドサットTMおよびSPOTパンクロデータの地理補正を、TNTmipsシステム上で共2次式を用いて行い、同地域の基準画像データとした。
 また、チェンマイ地域の1994年11月から翌年3月の乾季のTMデータから正規化植生指数(NDVI)画像を作成し、1990年の乾季のデータをもとに以前に分析した季節変動と比較した。それぞれの画像の比較によると、森林型の分類には1月に得られた画像が最適であることなどが分かった。
 これまでの地上および衛星からの観測による多段観測データを植生研究へ応用する分析手法が開発できた。また、これらのデータに対してメタデータを編集するとともに、最終的にチェックを行い、サンプルデータセットを作成した。
 森林分布では、縮尺15000分の1の航空写真と縮尺5万分の1の衛星画像を利用し、プーキオ動物保護区地域の植生を判読した。これらの判読は地上調査によってその判読結果を評価し、最終植生図とした。また、各固定サンプルプロットはシステマティックサンプリングによって設定し、これらの判読結果を用いた多段サンプリングデータセットを作成した。
 これによって、森林の劣化と変動のインパクを広域に分析できるようになった。特に画像強調処理手法の重要性を再確認した。
 造林地関連では、北部タイの林業村における社会経済データを聞き取りなどによって収集するとともに、同地域の流域における造林地の成長データを収集した。これらをもとに森林劣化の多方面への影響を分析可能にした。
 具体的に集積されたデータはタイ全域の森林分布図、テストサイトの森林型図および地上調査のデータセット、主な造林樹種のバイオマスデータ、人為的な森林破壊の影響に関するアンケート調査結果などである。
 この両チームによって集積された情報は、温暖化など地球規模の環境変動の森林へのインパクトを知ることのできるシステムとなった。
 次の3つの森林型分類手法の比較に関する検討を行った:(a)ランドサットTMのみでの分類、(b)TMデータと地上データを参照したNOAAデータの分類、(c)TMの分類結果と地上データを参照した環境情報とNOAAデータによる分類を行った。
 これらに利用したデータは、ほとんど1996年度中に収集されたものであり、本年度の収集データは、中国東北部における衛星データ分析結果の検証のための地上調査データなどである。
 ランドサットTMのみでの分類では、現地調査データその他既存の情報との照合によって精度を確認した。
 NOAAデータの分類では、まず地理補正によって重ね合わせが可能なNOAA画像群を作成し、雲域が無くなるように合成処理を施して、1つの画像データとした。これらのデータを用いて教師付分類と教師無し分類を行い、その結果を比較した。
 環境情報の併用による分類は、リモートセンシングデータと地理情報(GIS)を統合化して行うものである。環境GISデータとしては、気温、降雨、標高など植生の成長に影響を与える主な因子と関連する項目を考察した。これらの環境情報をメッシュ化して、NOAAデータと重ね合わせ、教師付分類を行ったところ、その分類精度は0.67となり、地理情報を使わない通常の分類の精度は0.56であった。両者は有意な差異が認められ、NOAAデータとグローバルな環境情報の併用によって森林型が精度良く広域に把握できることが確認できた。
 これらの成果を元に、中国東北部の3県にまたがる広域衛星画像図を作成するとともに、関連するドキュメントの作成を行い、最終的にサンプルデータを完成させた。
 NOAA-AVHRR、ランドサット、SPOT、MOS、JERSさらに、航空機搭載センサ、従来の航空写真、その他の地理情報を含めた多段観測データを用いて広域の森林被覆度データを作成する研究を行った。
 タスマニアにおいて、まず10シーンのランドサットTMおよびMSSの座標変換を行うとともに、輝度に関する基準画像を設定することで相互の重ね合わせ処理を可能にした。また、気象や地形データなどの地理情報や森林調査プロットデータをGIS上にデータベース化した。この対象地(30Km×50Km)では長期森林生態系調査(LTERM)が行われ、持続的森林管理が試行されてきており、地上データが完備していた。そこで、各プロットの位置をTM上にオーバーレイし、森林の生長に関する情報とスペクトル反射とを比較分析できるようにした。森林調査データを持つタスマニア森林局との間では、森林調査データと衛星データとの相互利用を行うことで了解を得た。
 衛星データの処理では最近隣法による地理補正(2万5千分の1の地形図を用いて、オーストラリア地図座標系AMGへ変換)と大気補正(最小値を引く方法)の後、入射光量を補正する基準化処理を施して指数化を行った。指数としては、TMとMSSで最も一般的に用いられている比演算指数(SR)と正規化植生指数(NDVI)を用いて、森林の生長との関係を分析した。その際、NDVIなどの指数を画素ごとに時期の異なるデータと比較するのは誤差が大きく、不適切であることが明らかとなった。そこで3×3の平均値での比較が適当と判断した。その結果、タスマニアのユーカリ天然林では、NDVIと林分バイオマスおよび樹高/林齢比との間で高い相関が認められた。
 GRNSプロジェクトにおける成果として、オーストラリアにおいて2カ所の試験地(キャンベラ東部のBatemans湾及びタスマニア南部)が設定されたことがあげられる。これらの地域では、極めて多くのリモートセンシングデータとその他の地理情報が集積された。また、データ処理のための様々なアルゴリズムと手法が開発され、本プロジェクトの成果が多数報告されている。また、HTMLファイルによるCD-ROMの作成も行うとともに、WWWサイトでデータを公開するに至った。
 タイの林分調査データを文献や野外調査から収集し、林冠高-バイオマス密度関係を解析した結果、常緑タイプの森林と落葉タイプの森林の林相別に林冠高-バイオマス密度の相対生長関係がおおまかに成り立つことが明らかになった。
 チェンマイのドイ・プイ-ステープ国立公園をテストサイトとし、異なる林相に設定した13カ所のプロットのバイオマスを推定し、さらに道路沿いに林冠高・森林タイプを記録した。一方、テストサイトの空中写真イメージを植生のテクスチャーの類似性をもとに、現地調査の結果(森林タイプと林冠高による植生分類)と照合させるように区分した。これをもとに、各グループの林冠高のレンジをバイオマスのレンジと対応させ、地上部バイオマス分布図を作成した。
 地上部バイオマス分布図より、炭素蓄積量(バイオマスの50%とした)を4段階に区分した地上部炭素蓄積分布図を20mメッシュの数値地図上に作成し、地形補正したTMデータを用い炭素蓄積量の評価手法を比較検討した。用いた手法は、主成分分析、教師なし/つき分類、NDVIおよび Tasseled Cap TransformationによるWetness等の植生指数による区分との照合で、比較の結果、NDVIが炭素蓄積レベルと最も高い一致度を示した。
 炭素蓄積量(バイオマスの推定から導かれる)の現地調査の難しさが、森林地帯の炭素蓄積量推定を困難にしている主たる原因であるが、本課題では森林タイプ別(常緑性と落葉性)に「林冠高-バイオマス」関係を導くことによって、精度は粗いもののバイオマス分布の把握を容易にすることができた。この結果、常緑樹林の卓越するチェンマイの試験地ではNDVIがバイオマス密度あるいは炭素蓄積量レベルと最も良好な対応関係を示すことが明らかになった。しかし、落葉広葉樹林であるカンチャナブリの試験地では、NDVIは良好な結果を示さなかった。この原因の一つには、雲のない衛星データが落葉期である乾期にしか得られないため、常緑広葉樹林地帯と落葉広葉樹林地帯における植生指数の対応の違いとなっていることが考えられた。しかし、林冠高によるバイオマス分布推定の精度も十分ではないことから、今後さらに事例を増やしたり精度の向上を目指した新たな手法の開発が必要である。
 一方、地下部(根、土壌中)の炭素蓄積量分布の推定は、データ不足と野外調査や遠隔探査の制限から非常に困難であり、評価手法の開発には至らなかった。
 ドイ・ステップイ国立公園での13カ所の調査プロットを再測して、胸高直径、樹高及び生長量を計測し、地上部バイオマス(AGB)を推定した。その結果、AGBは32.2-888.9Mg/haであり、NPPは1.8-25.0Mg/ha/yearであった。
 LAIは25カ所のチーク造林地で計測した。各調査地点では、1年に2回(雨季の中頃と雨季の終わり)、それぞれ12枚の全天空写真で樹冠の被覆の様子を撮影し、チーク造林地における葉面積指数と光の状況を明らかにした。
 地上部バイオマスの計測は林齢7年の造林地で様々の大きさの10本の樹木を切り倒して樹幹、枝、葉の量を計測し、アロメトリー式を導いた。また、各サンプル木から16枚から30枚の葉を採り、LAI計測に用いた。
 土壌中の炭素蓄積量では、ドイ・ステップイ国立公園の各種の森林型の土壌を対象にした。調査時には各層から60のサンプルを採取し、13のプロファイルを描いた。各サンプルはBlack(1965)の方法に基づいて化学性の分析を行い、炭素含有量の分析はNCアナライザで行った。分析の結果、松林、常緑林及び常落混交林での土壌の栄養分は比較的高く(中庸~高)、乾燥フタバガキ林の土壌の栄養分は低いことなどが明らかとなった。
 チェンマイのドイ・ステップイ国立公園内の常緑林に新たな調査地を設定し、地形図、航空写真、衛星画像などの情報を収集した。地上調査は炭素蓄積量の分類を目的として実行した。また、地上調査及び航空写真のコントラスト情報などから分類した森林型ごとの判読をもとに、炭素蓄積分布図を作成した。その地図をデジタル化し、UTM座標系を与えて炭素蓄積ベクターデータを生成した。縮尺5万分の1の地形図の100m等高線も同様にデジタル化し、ベクターデータを生成した。
 炭素蓄積ベクターデータを最終的にラスターデータに変換し,A4およびA0版で、等高線をオーバーレイした炭素蓄積図を作成した。土壌の炭素含有量区分は、1ヘクタール当たりのMgで、20以下、20-70、75-125、125-175の4区分とした。
 さらに、ランドサットTMから得られる様々の指数と実際のバイオマス密度分布との関係に基づいて、衛星リモートセンシングによって森林の炭素蓄積量を推定する手法を開発した。
 1997年の7月と12月に,常緑林(チェンマイ),落葉林(カンチャナブリ),マングローブ林(パンガ)および泥炭湿地林(ナラチワ)において現地調査を実施した。大気試料は,CO2とCH4についてはガラス容器に吸引または加圧採取し,N2Oについては活性化したモレキュラーシーブに吸着捕集した。CO2とN2Oは直接,CH4はCO2に変換した後に炭素,安定同位体比の測定に供した。有機物の安定同位体比は封管燃焼法に従ってCO2とN2として抽出し,炭素と窒素の同位体比を測定した。安定同位体比は,標準物質からの千分偏差を示すデルタ(デルタ)値として,以下の定義に従って表わした。デルタ (‰) = (Rsample/Rreference - 1) 1000,ただしR = 13C/12C, 15N/14、 18O/16O。炭素についてはv-PDV,窒素については大気中のN2,酸素についてはv-SMOWを標準試料に用いた。
 昨年度に採取した試料を用いて検討したところ,土壌面から放出されるCO2とCH4の安定同位体比測定の精度は±1‰以内と良好であることを確認した(Table1)。林冠の発達した泥炭湿地林では,CO2,CH4ともに落葉林よりも低く, 土壌面から放出される気体の安定同位体比を反映して変動した(Table2)。 泥炭湿地林とマングローブ林ではN2Oの放出量が小さかったため,安定同位体比は高地林でのみ測定することができた。土壌から放出されたN2Oの同位体比は,対流圏N2Oや海洋深層に蓄積しているN2Oと比べて,窒素・酸素安定同位体比が著しくする低く,地下水中に蓄積しているN2Oと同様であった(Fig.1)。
 植物の炭素同位体比は温帯域の平均値よりも低かった(Table 3)。高地森林(常緑林,落葉林)の土壌有機物の窒素同位体比は,低地森林(マングローブ林,泥炭湿地林)よりも高く,高地森林の方が窒素の循環が活発であることを示唆していた。土壌の深さとともに,CN比が低くなり,窒素同位体比が高くなった事実はこれに矛盾しない。また,植物の窒素同位体比が低かったことは,窒素同位体比の低い大気降下物由来の窒素がこれらの森林植生の生産に寄与していることを示唆している。
 温室効果気体と有機物の安定同位体比により,森林生態系の炭素と窒素の循環の特徴を捉えることができた。
 常緑林(チェンマイ),落葉林(カンチャナブリ),マングローブ林(パンガ)および泥炭湿地林(ナラチワ)において,ほぼ一月に一度の頻度で現地調査を実施し,二酸化炭素(CO2),メタン(CH4),亜酸化窒素(N2O)の各気体について土壌面と大気間でのフラックスを観測した。高地森林では併せて土壌空気中の温室効果気体濃度も測定した。
 研究実施期間中に得られたこれらの情報に基づきデータセットを作成し,以下の知見を得ることができた。
 嫌気条件が発達する低地林土壌からはCH4の放出が著しかった。土壌中のメタン生成に影響する主要な環境要因としては,植生の種類とそれに対応した物質循環の特徴の違い(例えば,泥炭湿地林とマングローブ林の違い)や,水循環の違い(例えば,泥炭湿地における自然林と二次林における水位変化の違い)が挙げられた。
 本研究で対象とした異なる森林生態系の間では土壌面からのCO2放出量の差は比較的小さかった。CO2の放出量の季節変動は,土壌温度の変化に従った土壌空気中のCO2濃度の変動に良く対応した。
 N2Oの放出量は,場所による差が大きいことが特徴的であった。季節的に見た場合には,CO2の放出量の増大に遅れて大きくなる傾向が認められた。
 上記の温室効果気体の放出量の季節変動と,安定同位体比の測定結果を総合化することにより,森林生態系におけるガス代謝の動態を把握するための手法を確立することができた。
 林相の異なる森林生態系における土壌からの温室効果気体の放出量に関するデータを取得し,タイにおける森林土壌からの温室効果気体の放出に関する貴重な情報を提供することができた。

3) 砂漠変動データセット作成研究

 PD54に基づき、Kunoth Paddock地域における植生の多寡および変動程度を表す階級図を作成した。これら2種類の階級図を出力層、土壌・水系・植生・地貌・傾斜・水飲み場からの距離・稜線からの距離の7要因を入力層とする2種類のニューラルネットワークモデルを構築した。両モデルの判別精度はいずれも74.5%であった。入力層に用いた各要因について、判別精度への寄与率の違いを検証した結果、両モデルとも、「水飲み場からの距離」および「土壌」要因の寄与が高かった。さらに、構築したニューラルネットワークモデルによる評価結果を統合し、対象地域の変動評価図を作成した。
 1)第2テストサイトに対して降雨後の航空機ビデオデ-タの取得と処理、2)衛星デ-タ処理、3)研究対象域に対する適当な砂漠化指数の導出、4)航空機ビデオデ-タによる衛星デ-タの検証、5)サンプルデ-タセット作成を行った。 航空機ビデオデ-タは、1997年4月、第2期テストサイトであるKnob Padock地域について降雨後の1997年4月に取得、種々の歪み補正後、UTM投影地図に合わせてLandsat TM画像との比較が容易に出来るようにした。さらに植生被覆の分類を行い、これを使って衛星解析の時のtruth dataとして利用した。
 衛星デ-タについては、航空機ビデオ観測日に近い3月のLandsatTMデ-タのPath 102、Row 77と78(65,000km2をカバ-)を購入、可視域の緑と赤バンドを利用するPD54植生指数を計算した。この指数と植生被覆率の関係づけには航空機ビデオデ-タを利用した。また衛星デ-タから家畜用水飲み場からの距離と植生被覆の関係の調査を行った。これは放牧牛の人工水飲み場への往復で土地が踏み固められて土壌劣化が起こり、かつ植生が無くなり、砂漠化すると言われているので、その評価検証にも利用した。乾燥時の衛星デ-タとしては1996年11月のTMデ-タを対象地域の北部の解析に利用した。南部では1997年初期には植生の回復に十分な降雨がなかったので1989年3月と7月のデ-タを利用した。
 砂漠化指数としては、%Cover Production Loss(%CPL)が使えることが分かった。この指数の定義は次のように定義される。{(湿潤期間における完全な植生回復状況-実際の状況)/(乾燥状態時の植生被覆状況から湿潤期の最大植生被覆状況への増加量)}x 100(%)。 この値が小さい程降雨の後の植生の回復度が高い。家畜の好む植生の多い土地は湿潤期のgrazing gradientが最も持続し、%CPLの値が最高になり、放牧の影響を最も強く受ける。植生が家畜に好まれるためと生産性が高いので家畜の数が最も多くなることが多い。動物の好まない植生のある土地は、湿潤期間のgrazing gradientがそれほど顕著ではない。
 航空機の飛行経路に沿って160個のTMサイズの画素からなる8個の横断面積を選んで、衛星デ-タと航空機ビデオデ-タとの一致度を調べた。次に回帰式を使いPD54デ-タから植生被覆率を求め、トル-スデ-タと比較した(本文図1参照)。この結果次のことが言える。分類したビデオデ-タは、衛星デ-タから得られる指数を植生被覆率に換算する際のキャリブレ-ションに利用可能である。
 デ-タセットとしてはTMデ-タから求めたPD-54植生指数を取り入れたサンプルデ-タセットを作成した。
 11月中旬と12月下旬にEridunda地域の第2テストサイト(面積3,300km2以上)中の地点(25:29S、133.09E、海抜高度425m)付近を中心に地表面・被覆・植生・温度・分光反射、地中温度、地表面付近の気温・湿度・風速等を観測し、現地及び周辺の雨量データ等を収集した。分光放射観測は同一の対象物を異なる方向から観測した。この地方の平均年降水量は156mm、標準偏差は72mmで、約200km北のAlice Springsの69%及び150km西にあるCurtain Springsの65%である。この地方の年蒸発量は3000mm以上と推定され、蒸発量は降水量の19倍以上になり極端な砂漠気候である。一方1989年には330mm以上の年降水量がありこれに伴う洪水で砂漠化した所があった。一方ではこれが水源となって植生の回復もあった。太陽反射の分光反射量の角度依存性はかなりあったがこれは近距離での測定のために放射計の視野に入る葉の面積の変動が大きかったことも影響していたようである。地表面・地中温度は昨年同時期の測定とほぼ似た値が得られた。植生被覆は昨年よりも減少気味であった。
 LANDSAT TM, SPOTのデータから非常に乾燥していて赤土であるテストサイトの植生被覆の程度を示す次のVI(植生指数)を計算して比較した。NDVI(規格化植生指数)、SAVI(土壌補正 VI)、MSAVI(改良型SAVI)、PD54(土壌線からの距離によるVI)等の植生指数と我々が考えたNATVSP(Normalized Area of Triangle of Vegetation Pattern)等である。非常に乾燥した疎らな植生の在る場所と裸地の識別に関しては、NATVSPとPD54が有効であった。RADARSATデータの解析では、洪水等で地形変化の生じた所、樹木域等は検出可能であるが、土壌水分等についてははっきりした値は得られなかった。
 現地調査、衛星データを含む現地収集データ解析等から第2テストサイト付近における砂漠化/砂漠変動評価に有効なパラメータとして、自然現象を表すものとして年降水量、人間活動の影響をあらわすものとしては放牧牛の数が最適であるが、それは不明なので、人間活動の影響としては、方牧牛用の人工の水飲み場からの距離が適当であることが分かった。砂漠化の度合いを示す客観データとしては衛星データから計算した植生指数PD54及びNATVSPを採用することにし、これらの情報をデータベースかしセットに取り入れることにした。これらのデータの他に収集した降水量、観測した地表面、地中温度、植生、土壌等の分光反射率等のデータもデータベース化した。これらを取り入れたサンプルデータセットを作成した。

4) 海洋データセット作成研究

 赤道直下の海域において植物プランクトン観測を実施し、植物プランクトンの分布マップを作成した。
 OCTS及びSeaWiFSのデータから植物プランクトン量を推定するための解析アルゴリズムとして生物光学アルゴリズムを開発し、外洋の低濃度の海域における海色のデータセットを作成した。
 AVHRRのデータから海表面温度を推定するための解析アルゴリズムとして、MCSSTによる週間合成画像の作成手法を開発し、海表面温度のデータセットを作成した。
 これらのデータセットをもとに、赤道直下における暖水プールの栄養塩濃度の低い海域と、赤道湧昇系の栄養塩濃度の高い海域において、異なる基礎生産機構を説明することができた。5年間を通し、エル・ニーニョとラ・ニーニャの変動を検出し、これに伴う、物理構造の変化を観測した。暖水プールにおいては、クロロフィルの深層極大の変化をとらえた。また、エル・ニーニョへの変化時において、赤道湧昇水系の栄養塩利用の過程を捉えることができた。
 98年3月に、ロンボック海峡沖のインド洋において、植物プランクトン観測を実施し、植物プランクトン含有色素濃度、水温、塩分濃度、栄養塩のデータセットを作成した。
 98年3月の植物プランクトン観測では、南緯9度から10度までの東経113度及び116度の測線、東経113度から116度までの南緯9度及び12度の測線に沿って観測を実施した。
 観測では、蛍光光度計及び透過度計付きのCTDによる、水温、塩分濃度、クロロフィル蛍光値、及び透過率の深度プロファイルの観測、また、CTD付きのロゼッタ採水器による、水深200mまでの海水採水を行った。船上では、直ちに、クロロフィル色素分析のための濾過作業、及び栄養塩分析を行った。クロロフィル色素は、24時間のDMFによる色素抽出後、蛍光光度計による蛍光法、及び、分光吸光光度計による吸光法により、船上において分析した。また、一部のサンプルは、JAMSTECにおいてインドネシア側研究者とともにHPLCにより分析した。
 この結果、ロンボック海峡沖のインド洋の海水構造は、20mから40mの表層混合層を形成し、表面では、30度から32度の高温を示した。栄養塩は、ロンボック海峡よりの3測点を除き、表層50mまで硝酸塩が枯渇状態にあった。このため、硝酸塩が枯渇した海域では、クロロフィル極大(クロロフィル-a濃度0.6から0.8mg/m3)が硝酸塩躍層に形成された。これらの海域の表層におけるクロロフィル-a濃度は0.02mg/m3であった。また、ロンボック海峡よりの3測点の表層のクロロフィル-a濃度は0.03から0.1mg/m3の濃度を示した。
 これらのことから、ロンボック海峡を通過したインドネシア通過流及びスンダ列島沿いに西進する沿岸流により、植物プランクトンの増殖が進められることが分かった。
 NOAA搭載のAVHRRのデータからオーストラリア近海の海表面温度分布のデータセット、及びSeaSTAR搭載のSeaWiFSのデータからオーストラリア近海の海色(クロロフィル-a)分布のデータセットを作成した。
 97年11月及び12月にオーストラリア東岸において衛星と同期した植物プランクトン観測を実施した。この時期の海色分布を見ると、CZCS時の観測と同様に、クロロフィル濃度の中規模変動が観察された。また、タスマニア東方海域における春季ブルームが確認された。
 パプア・ニューギニア北方海域のクロロフィル-a濃度に注目すると、外洋では海色センサーのデータを適用することが困難であるが、沿岸域の表層極大を示す海域では有効であると考えられる。また、クロロフィル-a濃度データと分光吸光特性から海色センサーによるクロロフィル-a濃度推定手法を検証する。
 97年8月に、パプア・ニューギニア北方海域において、植物プランクトン観測を実施した。クロロフィル-a濃度は、沖合の表層で0.2mg/m3以下、40から80mの亜表層極大において0.3から0.4mg/m3のクロロフィル極大を観測した。沿岸域では、表層極大を形成し、亜表層極大は認められなかった。
 海域におけるサンゴ礁のグランドツルースデータの取得は、沖縄県八重山諸島の石西礁湖、インドネシアのマルク諸島のアンボン島及びサパルア島、オーストラリアのグレートバリアリーフのジョンブルーワリーフの3カ所で行った。
 石西礁湖において、1996年度に潜水調査68点、航走調査15測線、1997年度に潜水調査55店、航走調査16測線という膨大なデータを取得した結果、東西約25km、南北約20kmという広大な海域についてサンゴ分布の全容が把握され、サンゴ分布マップを作成することができた。この海域面積は、LANDSAT等の衛星からも十分に認識できる大きさである。衛星データ上でのサンゴ礁は、大気の影響のみならず海象状況(濁りやわずかの潮位変化)によって全く異なったデータとして取得される。この衛星データの解析を、石西礁湖の実際のサンゴ礁の被覆度と同じになるように補正することにより、同一アルゴリズムで他の海域のサンゴ礁の分布を正確に求めることが可能となる。
 LIPIと共同で行ったアンボン島及びサパルア島調査では、LIPIは従来からインドネシアで行ってきた潜水調査手法を用い、海洋科学技術センターは50m潜水調査手法を調査を行った。同一測点のデータを異なった手法を解析し、相互の結果を比較することでデータ取得方法とデータ処理アルゴリズムの統一化を行った。
 AIMSと共同で行ったジョンブルーワーリーフ及びリブリーフでは、同一潜水調査測点について。AIMSはビデオトランセクト法で調査し、海洋科学技術センター側は35ミリスチール写真による潜水調査手法と精密マンタトウ調査用計測システムによる航走調査でデータを得た。この結果の比較により、データ取得方法とデータ処理アルゴリズムの統一化を行った。
 1986年1月,1986年3月,1990年5月,1992年7月,1994年5月の沖縄県石垣島白保サンゴ礁のデータを用いた。これらのデータの処理より得られた相対底生生物群集密度図は互いに相関が高く,アルゴリズムの安定性が裏付けられた。またデータ間の差が見られる部分の底質は,海藻/海草である場合が多いとが現地調査より示された。
 一方底生生物群集分類図は全体として現地調査結果と整合していたが,サンゴ/海草/海藻間の誤分類が多いことが分かった。
 開発されたアルゴリズムに様々なサンゴ礁の衛星画像に適用した経験を反映させた。最終的なアルゴリズムのフローチャートはFigure 4に示されている。
 オーストラリア海洋科学研究所,海洋科学技術センターとの共同研究水域に,平成9年度より新規にリブリーフが追加されたため,実施した。同島は平成8年度に調査を実施したグールド/ブルック島と同じ Landsat TM画像に含まれている。Landsat TM画像の処理より得られた相対底生生物群集密度図は,航空写真と良く対応しており比較的浅い部分において,妥当な生物群集分布が得られたと考えられる。
 現在の地球観測衛星搭載センサによりサンゴ礁を観測する場合の困難さの一部は,センサ自身の空間/波長/放射分解能が不十分であることによる。しかし,これらの欠点のうち,空間分解能については今後打ち上げが計画されている商用超高空間分解能衛星により,大きな進展が期待される。また現在計画されている航空機/衛星用ハイパースペクトルセンサは,分光特徴による底生生物群集識別の可能性を検証できると考えられる。本プロジェクトで開発されたアルゴリズム及び様々な経験は,このような将来型センサによるサンゴ礁観測に大きく貢献するだろう。
 サンゴ及び底生生物各データはAIMSと海洋科学技術センターでそれぞれ解析され、データセット化された。この調査の約2ヶ月後、二つのリーフでは全域のサンゴが著しい白化現象を示した。これは水温上昇や紫外線の増加によってサンゴの体内から共生藻が逃げ出す現象であり、サンゴの死滅の前兆である。GRNSの調査によって、白化直前の正常なサンゴについて正確な分布が得られたことは、今後のサンゴ礁生態系の変化を追跡するうえで極めて貴重なデータとなった。
 グールド島とブルック島の水温・水質環境は概ね同様であるが、グールド島は陸からの淡水流入の影響を受けることがあり、塩分の変化はより大きいことがわかった。  各調査地点のデータは、生きたサンゴ、死んだサンゴ、海藻、他の生物などに区分けされ、データセット化され、前年度のデータと比較された。1年間の生きたサンゴの変化は10%以下であったが、いずれの場所とも、サンゴの状態は良くなかった。この原因は、アンボンでは堆積物の影響、サパルアでは過去の不適切な漁業そしてオニヒトデの影響と判断された。
 LIPIの調査では1ヶ所に1~2時間を要したが、海洋科学技術センターのスチール写真法ではわずか10~20分で終わり、しかも、事後にいつでもデータ解析を行うことができる。彼らの参加により、そうした質の高い データが得られたのは意義深い。
 各測線のサンゴの被覆度のデータから、その状況が、良好、良、まずまず、悪い、の4段階に評価された。生きたサンゴの被覆度は25.1%から79.7%の間であり、ケムヤン島において最も良好であった。死んだサンゴの割合は0-61%であり、ベンコアン島で最も悪い状態であった。この原因は、主として爆薬漁業と毒薬漁業などの人的なものであり、また堆積物の影響も大きい。
 両海域のランドサットデータ解析により、サンゴ、マングローブ、森林などの分布を把握することができた。カリマンジャワ島のサンゴ礁海域の面積は、砂地なども含んで約84・であった。そのうち水深3m以深での生きたサンゴの被覆度は該当面積の29%、また3m以浅では16%であった。2.5データセットの標準化・規格化及び共通基本地図の作成等。

5) データセットの標準化・規格化等

 データセットのフォーマットの見直しに従い、HTML形式にしたCD-ROMを1995年度までに提供されたデータセットに対して再度作成し、その評価を行った。その結果を受けて、1996-1997年度に提供されたデータセットをCD-ROMに収納し、各研究者への配布を行い、各分野のデータセットが利用できるようにした。
 第1期に合意したWGS84(World Geodetic System 1984)を用いた座標系への変換ソフトウェアを前年度に国土地理院と共同で開発し、グランドトルースデータの収集等における測地座標系を用いたデータの座標の変換を可能としたが、本年度にこのソフトウェア及び必要なパラメータをCD-ROMに収納し、研究者がパソコン(OS:Windows 96)にインストールし、使用できるようにした。
 第1期に設定した標準に従ったメタデータが本年度は、水文、植生、砂漠、海洋の各研究機関から提出されたデータセットに添付される様になり、各研究者の標準に対する共通認識が定着してきた。
 フォーマットの見直し結果を受けて、1995年度に提供されたデータセットについて1996年度に作成したデータセットをHTML形式に変換し、CD-ROMに記録し、1997年9月に開催された各分科会においてそのCD-ROMを配布し評価を受けた。その結果分かり易く、また使い易くなったとの評価を受けた。また1998年12月に開催された国際会議において、新たに1996年までに得られたデータセットを同形式に変換しデモンストレーションを行った。最終的に1996-1997年度に提供されたデータセットをCD-ROMに収納し、各研究者への配布を行い、各分野のデータセットが利用できるようにした。
 サンプルデータセットと基本地図を重ね合わせる際の品質評価基準等の標準化を行うため、JERS-1に搭載されたOPSにより取得されたステレオデータを用いて凡用的な利用が可能な標高データ(DEM)の試作を行い、品質評価基準として認定した項目の評価を行った。テストサイトは入手可能な衛星データが豊富なタイのチェンマイ地域とし、雲無し画像120シーンのうちチェンマイ、ランパンを含む地域をカバーするシーンを用いた。
 標準化サンプルデータセットの作成は各研究者の標準化にタイする共通的認識が得られ各分野から提供されたデータセットにメタデータが添付されるようになりGRNSの研究者間で容易に流通可能なデータセットとして整備された。
 GCPに対して精度約70mのDEMが得られ、タイにおけるDEMモザイク画像及びオルソ画像が利用可能になった。
 最終年度に当たって、これまでの研究成果をとりまとめ本報告書とデータセットのCD-ROMを作成した。
 高解像度・高精度データの品質は、植生、構造物のない地域及び平野地域では、実際の品質は理論的に求められたものより良好であるとの結論を得た。品質評価の結果、250m標高データを用いたDCW標高データの品質は±89m、50m標高データを用いたDCW標高データの品質は±114m、50m標高データを用いた250m標高データの品質は±24mであった。
 本研究で開発した手法にそって、実験(実測)データを用いて50m標高データの品質を評価したところ、標準偏差は3.77m程度になり、5m以内(1/2.5万地形図の精度管理の目安である等高線間隔1/2)に収まっており、50m標高データの理論上導出された品質(平均自乗誤差で7.2m)との整合性はきわめて良好であった。
 品質評価手法の開発により、定量的な品質の表示及び、異なる標高データの品質の比較を行うことが可能になった。品質の理論的想定に当たっては、想定しうる最大の誤差に基づいた値を用いたため、実際の品質は今回の結果よりよいものとなっていると思われる。


(3) 評 価

 本研究は、所期の目標に適した研究であり、その成果は評価できる。
 なお、各研究項目ごとの評価は以下のとおりである。

1) 水文データセット作成研究

 本研究は、所期の目標に適した研究であり、その成果は高く評価できる。当初想定していた成果が得られるとともに、当初想定していなかった若干の成果が得られた。また、計画どおり進捗し、進め方も適切であった。目標は概ね適切であった。研究開発当時に比べ研究開発の対象を巡る外的条件に特段の変化はない。

2) 植生データセット作成研究

 本研究は、所期の目標に適した研究であり、その成果は高く評価できる。当初想定していた成果が得られるとともに、当初想定していなかった若干の成果が得られた。また、計画どおり進捗し、進め方も概ね適切であった。目標は概ね適切であった。研究開発当時に比べ研究開発の対象を巡る外的条件に特段の変化はない。

3) 砂漠変動データセット作成研究

 本研究は、所期の目標に適した研究であり、その成果は高く評価できる。当初想定していた成果が得られるとともに、当初想定していなかった若干の成果が得られた。また、計画どおり進捗し、進め方も適切であった。目標は概ね適切であった。研究開発当時に比べ研究開発の対象を巡る外的条件に特段の変化はない。

4) 海洋データセット作成研究

 本研究は、所期の目標に適した研究であり、その成果は高く評価できる。当初想定していた成果が得られるとともに、当初想定していなかった若干の成果が得られた。また、計画以上に進捗し、進め方も概ね適切であった。目標は適切であった。研究開発当時に比べ研究開発の対象を巡る外的条件に特段の変化はない。

5) データセットの標準化・規格化等

 本研究は、所期の目標に適した研究であり、その成果は極めて高く評価できる。当初想定していた成果が得られるとともに、当初想定していなかった若干の成果が得られた。また、計画以上に進捗し、進め方も適切であった。目標は概ね適切であった。研究開発当時に比べ研究開発の対象を巡る外的条件の変化に伴い研究開発の重要性が増加した。


 

-- 登録:平成21年以前 --