科学技術振興調整費における成果報告書「科学技術基本計画と科学技術振興調査費」 序文

 科学技術振興調整費は、昭和35年度に創設された特別研究促進調整費を発展的に解消して、日本の科学技術政策の中核である科学技術会議(総合科学技術会議の前身)の方針に沿って運用するため、昭和56年度に創設された。

 特別研究促進調整費は、予算編成後の新事態に対応して行う緊急研究のための予算制度として1億円でスタートし、その後、二つ以上の省庁が協力して進める総合研究、各種研究に共通する基礎的試験研究であって国が助成する必要があるものなどに交付する助成研究等を運用に加え、昭和50年度には16億円にまで急増した。しかし、昭和52年度の18.3億円をピークに財政事情の悪化により急減傾向に転じた。

 科学技術会議の方針に従って運用するものとして生まれ変わった科学技術振興調整費は、平成元年には100億円の大台を超え、その後も順調に予算増加し、平成12年度には324億円に達した。

 科学技術振興調整費の運用については、昭和56年3月9日の科学技術会議本会議で「科学技術振興調整費活用の基本方針」が決定され、1.先端的、基礎的な研究の推進、2.複数機関の協力を要する研究開発の推進、3.産学官の有機的連携の強化、4.国際共同研究の推進、5.緊急に研究を行う必要が生じた場合の柔軟な対応、6.研究評価の実施と研究開発の調査、分析‐の6項目を基本として運用されることになった。

 この方針のもと、昭和56年度には、基礎的・先導的科学技術分野あるいは国家的・社会的ニーズの強い研究開発を産学官の有機的連携のもとで役割を分担しつつ総合的に推進する「総合研究」、科学技術政策立案のための基礎調査(ソフト調査)及び総合研究の課題設定のための調査(FS)を実施する「調査・分析」、年度途中に発生した自然災害、社会問題、国際対応等の突発自体に対応して機動的に研究・調査を実施する緊急研究が創設された。また、昭和60年度からは、各国立研究所において、将来の技術展開の柱となることが期待される革新的技術シーズの創出を図るための基礎的研究を推進する重点基礎研究が創設され、各国研で外国員研究者の招聘や所属研究者の国際研究集会への派遣などが実施されるようになった。

 昭和62年度からは個別重要国際共同研究が創設された。このプログラムは、科学技術協力協定等において協力の推進が約束されている等、国際交流を進める上で重要性の高い国際共同研究を科学技術会議が選定するというもので、各国研の国際化に大きく貢献した。さらに同年度には、緊急受託研究が創設され、緊急研究の一環として各省国研における民間や地方公共団体からの受託研究ニーズに対し、緊急研究の予算の範囲内で機動的に研究を実施した。

 また昭和63年度、国研の優秀なリーダーのもとに、省庁の枠を超え、国際的にも研究者を結集し、人中心の研究運営による基礎的・先導的研究を推進するため、省際基礎研究が発足した。

 緊急受託研究の実施する中で、地方公共団体における研究ニーズが高かったことから、平成2年度には地域流動研究が創設される。地域の産学官の研究機関に、地域内外の優れた研究者を結集し、地域中核オーガナイザーの指導のもとで基礎的・先導的研究を推進するため、科学技術会議が地域中核オーガナイザー及び研究課題を選定し、地域における重要課題を推進した。

 平成3年度には、重点国際交流が発足し、効率的・効果的な国際交流の推進のため研究者等が直接意見交換を行うワークショップを実施。科学技術会議の方針に基づき、科学技術庁が調整したワークショップ開催の具体的分野から実施分野を科学技術会議が選定した。

 また平成5年度には、中核的研究拠点(COE)育成プログラムが発足した。COE化を目指す国立試験研究機関等が自己努力により競争的な研究環境を整備しつつ、特定の研究領域の水準を世界最高レベルまで引き上げることを目指す場合に支援するというもの。10年間のCOE化計画のうち、最初の5年間は年4億円という予算を集中的に投入し、6年目以降は年数千万円を補完的に措置する。初年度には、科学技術庁無機材質研究所、厚生省国立循環器病センター研究所、通商産業省工業技術院生命工業技術研究所が採択された。

 平成7年度には、それまでの地域流動研究を発展的に解消し、生活・社会基盤研究が創設された。生活者重視の新たな社会を構築するため、国研、大学、地方自治体、民間のそれぞれの研究ポテンシャルを活かし、生活者の視点からの意見等を反映させつつ、生活の質の向上及び発展に資する目的指向的な研究開発を総合的に推進。各省庁、地方自治体、民間等からの提案が生活者ニーズ対応研究、地方自治体からの提案を地域先導研究と位置づけ、地域流動研究が地域研究同研究に移行した。

 また、研究情報・省際ネットワーク推進も創設された。基礎研究を始めとする研究活動の推進に大きく寄与するために、全省庁、大学等の研究機関を結ぶ省際研究情報ネットワークの整備・運用及び利用に資するための調査研究を推進するとともに、研究情報のデータベース化に関する調査研究を推進。平成9年度からは総合研究の課題として組み込まれる。さらに平成7年度には、重点研究領域に研究内容や研究者のニーズに合わせて研究協力員のチームを手当して支援を行う重点研究支援協力員制度が発足する。しかし、科学技術振興調整費全体の枠組みとして、各プログラムで研究協力員を手当できるようになったことから、平成8年度まででこの制度は終了する。

 平成7年11月には科学技術基本法が制定され、翌平成8年7月2日には科学技術基本計画が閣議決定された。科学技術振興調整費はこれ以降、「社会的・経済的ニーズに対応した研究開発の強力な推進」、「新たな研究開発システムの構築」という基本計画に位置づけられた基本的方向に基づいて運用されていく。

 平成8年度には、個別重点国際共同研究と重点国際交流を統合し発展させた、国際共同研究総合推進制度が発足した。重点協力分野において、将来における国際共同研究の芽の育成から、様々なニーズに対応した国際共同研究の実施に至るまで一体的かつ総合的に推進することで、海外との科学技術協力を強化する。基本計画の「国際交流の促進」に位置づけられている。

 科学技術基本計画制定を受けて、平成9年度には3つのプログラムが創設された。

 目標達成型脳科学研究推進制度は、「脳を知る」「脳を守る」「脳を創る」という3つの領域において、国研、大学、民間研究機関等の連携の下に、一定の達成目標を設定し、その実現を目指して研究を推進することにより、日本の脳科学研究の向上に資するというもので、それまでの振興調整費を始めとする各種研究開発における成果をベースに、その成果を国民の利益につなげていくという視点で研究が進められ、日本の脳科学を世界トップレベルまでに引き上げることに貢献した。

 知的基盤整備推進制度では、産学官が連携して研究開発を進めることが効果的であり、かつその研究開発の成果により、多くの研究機関、研究者が最先端の研究開発活動を安定的、効果的に進めることが期待される知的基盤の整備に資する研究開発を行う。研究開発活動等を安定的、効率的に推進するために不可欠な標準、生物遺伝資源等の研究用資材、先端基盤ツールの整備等を進め、日本の研究活動の基盤整備に大きな貢献をした。

 流動促進研究制度は、任期付研究員が限られた任期中に特に密度の高い研究活動を効果的に行い成果をあげることが可能になるよう、必要な経費(年1500万円)を措置し、国研における研究者の流動的かつ独創的な研究活動の推進を支援する制度。これによって、任期付研究者制度が国研に拡がり、研究者の流動性が高まった

 さらに平成10年度には、ゲノムフロンティア開拓研究推進制度、開放的融合研究推進制度が発足した。

 ゲノムフロンティア開拓研究推進制度では、科学技術会議の方針に従って、関係省庁の試験研究機関、大学、民間研究機関等の研究ポテンシャルを結集することで、ゲノム構造解析の側面とゲノム機能解析の側面、さらには、それらの解析情報からゲノムに存在する原理を発見し、演繹的に機能を予測するゲノム情報科学の側面を併せ持つ、新しい多面的な科学を推進し、日本の経済、社会の繁栄と国民生活の質の向上につなげていく。また同年、理化学研究所にゲノム科学総合研究センターが発足した。

 開放的融合研究推進制度は、省際基礎研究を発展させた制度で、複数の研究機関が分野、組織の壁を取り払い、研究総括責任者の統一的なマネジメントによる一体的な体制を構築し、そこに国内外の優秀な研究者が結集することで、単独の研究機関では遂行が困難な学際的研究を推進する。

 様々なプログラムが運用され、平成12年度には、推進的な研究として、総合研究、開放的融合研究、生活・社会基盤研究、目標達成型脳科学研究、ゲノムフロンティア開拓研究、知的基盤整備、また国立試験研究機関活性化プログラムとして、流動促進研究、中核的研究拠点(COE)育成、重点基礎研究、そのほか、国際共同研究総合推進、調査・分析、緊急研究等が実施された。

 そして、創設から20年が経過した平成13年度、新たに発足する日本全体の科学技術を俯瞰する総合科学技術会議の政策誘導手段の一つとして効果を十分に発揮させるべく、第2期科学技術基本計画の議論を反映させ、科学技術振興調整費の独自性・柔軟性・機動性を確保するよう抜本的に見直すこととし、平成12年8月10日の科学技術会議政策委員会により、「平成13年度の科学技術振興調整費のあり方について」が決定された。その中で基本方針として「政策誘導効果を十分に発揮させるべく、各府省の施策や他の競争的資金には馴染まない、横断的な科学技術システム改革及び先導的・試行的な研究を推進すること。特に、科学技術システム改革により、研究開発を活性化させるための研究環境の構築に重点的に取り組むこと」があげられており、また、設定するプログラムについてはサンセット方式(システム改革が徹底され一般化するなどした場合にプログラムを終了する)の徹底により機動的な運用を確保すべきとしている。

 これにより、科学技術システム改革をその中核とする、現在の科学技術振興調整費のプログラムが始まった。

 今回の調査では、第2期科学技術基本計画によって新たに生まれ変わる前の科学技術振興調整費のプログラムを中心に、科学技術振興調整費によってもたらされた種々の社会的・科学的インパクトについて網羅的に調査し、その中から特に優れたプロジェクトを取り上げた。また、科学技術基本計画と科学技術振興調整費との関係についても、その対応関係などについて調査・分析を行った。

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科学技術・学術政策局 科学技術・学術戦略官付(推進調整担当)

(科学技術・学術政策局 科学技術・学術戦略官付(推進調整担当))

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