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3.追跡調査

平成20年度科学技術振興調整費による実施課題の追跡評価について                   

平成20年12月11日
文部科学省
科学技術・学術戦略官付
(推進調整担当)

1.平成20年度における追跡評価の位置付け

 科学技術振興調整費においては、従来より中間評価及び事後評価を実施してきたが、「国の研究開発評価に関する大綱的指針」(平成17年3月29日 内閣総理大臣決定)、「文部科学省における研究及び開発に関する評価指針」(平成17年9月26日 文部科学大臣決定)の中で、研究開発施策、研究開発課題等においては、終了後、一定の時間を経過してから、副次的効果を含め、研究開発の直接の成果(アウトプット)から生み出された効果・効用(アウトカム)や波及効果(インパクト)を確認することも、評価の在り方や制度運用の見直しに当たって有用であるとの観点から、追跡評価の一層の定着・充実を図ることが求められている。
 アウトカムやインパクトといった観点については、これまでも中間評価や事後評価において評価項目の一つとして評価を行ってきているが、これらの観点は、中長期的な視点から遡及的に評価を行うことにより、より精緻な、質の高い評価が行えると考えられるため、中間・事後評価では必ずしも十分でなかった点を補うものとして、新たに追跡評価の仕組みを導入することとし、平成17年度より実施している。
 本年度においては、これまでに実施した「総合研究」プログラム、「知的基盤整備」プログラム及び「流動促進研究」プログラムにおける追跡評価の経験を踏まえ、生活・社会基盤研究制度実施に向けた「生活者ニーズ対応研究」と「地域先導研究」の二つのプログラムについて、追跡評価を実施することとする。
 その際、実施課題のアウトカムやインパクトの把握に際して、プログラム設計に即した調査設計となるよう留意し、追跡評価の結果として、評価対象プログラムが果たした役割や成果を明らかにするとともに、今後のプログラム設計や評価手法に関する改善事項を分析・提案するよう努めることとする。
 得られた追跡評価の結果については、科学技術振興調整費の制度運用に活かしていくとともに、将来の政策・施策の形成や、研究開発マネジメントの更なる高度化のために活用することとする。

2.平成20年度における追跡評価の対象プログラム

 平成20年度においては、これまでに実施した「総合研究」、「知的基盤整備」、及び「流動促進研究」プログラム以外のプログラムについて実施することとして、生活者の立場を重視した科学技術や生活の場としての地域の活性化に資する科学技術の振興を目指し設定された生活・社会基盤研究制度実施に向けた「生活者ニーズ対応研究」と「地域先導研究」の二つのプログラムを対象とする。


「生活・社会基盤研究」制度の概要
 安心して暮らせる豊かで潤いのある社会を構築するためには、生活者の立場を重視した科学技術や、生活の場としての地域の活性化に資する科学技術を振興するとともに、その成果を速やかに生活・社会に適応することが重要。
 本「生活・社会基盤研究」制度は、科学技術振興調整費を活用して、国立試験研究機関、大学、公設試験研究機関、民間研究機関等の研究能力を結集した研究を総合的に推進するものであり、生活者や社会の要望に密着した目的指向的な研究として「生活者ニーズ対応研究」、地域の活性化に資する研究として「地域先導研究」を実施。

〔生活者ニーズ対応研究プログラムの概要〕
対象課題:
社会全体あるいは生活者の要望に応えるべく、生活の質の向上に資することを目的とし、具体的な応用を目指した基盤的研究であり、民間、大学、国立試験研究機関、公設試験研究機関等の研究ポテンシャルを結集し、産学官が連携して研究開発を推進することが必要な課題。
実施期間:H7‐H16(公募最終年度:H12)
実施期間:
第1期:3年、中間評価結果により3年間を限度として第2期研究が認められることがある
費用:3億円以内/年

〔地域先導研究プログラムの対象課題〕
対象課題:
地域の特性を生かし、または地域の活性化に資することを目的として、民間、大学、国立試験研究機関、公設試験研究機関の優れた研究者を結集し、地域中核オーガナイザーの指導の下で進める基礎的・先導的研究。  
実施期間:H2‐H14(公募最終年度:H12)
実施期間:3年
費用:1億円程度/年

3.各プログラムにおける追跡評価の方法

 追跡評価の実施に際しては、各プログラムの設計に即した調査となるよう、プログラム毎に調査方法を定めることとし、具体的には以下のとおり実施する。

(1)生活者ニーズ対応研究プログラム
 本プログラムの追跡評価の実施に際しては、長期間の取組がなされた結果として課題終了時に得られた各研究機関の実施内容・成果が、その後、どのようなアウトカムやインパクトを生み出しているかについて分析する必要がある。
 また、本プログラムの実施課題の研究分野は多岐にわたることから、実施課題毎に、分析・評価を行う必要がある。その時、当該課題が対象とした研究分野ないしは研究内容について、

  1. 生活者ニーズに対応した新たな研究分野の創生につながったか
  2. 新たな課題の創出につながったか
  3. これらの研究活動が、社会生活や日常生活の質の向上に向けてどのような活動につながり、どのような変化を与えたか

 などを指標として分析し、アウトカムならびにインパクトを具体的に検証することとする。このため、本プログラムに関する追跡評価については、以下の手順・内容にて実施する。

  1. 第2期研究まで実施された課題を対象とし
  2. 事前調査により、当該課題の実施内容と現在における状況の把握に努めた上で、
  3. 事前調査によって得た情報を基に、研究代表者、研究参画者、外部有識者等を対象とした自由記述形式のアンケート調査を実施することにより、a)実施期間終了後の当該課題の発展状況 b)当該課題によって生み出された成果(製品、実用化状況、等)c)当該研究に対する国内外の評価、を把握する。
  4. 3.のアンケート調査の結果を踏まえ、インタビュー形式での調査に努め、さらに調査内容を深化させる。
  5. 実施された生活者ニーズ対応研究がどのようなアウトカムやインパクトを生み出しているのかを中心に、課題毎に評価結果を取りまとめるとともに、本プログラムの果たした役割等についても考察する。

(2)地域先導研究プログラム
 本プログラムでは基礎的、先導的研究が実施対象であった。従いプログラム趣旨との関係より、本プログラムの追跡評価実施に際しては、課題終了時に得られた成果について、

  1. 新たな研究分野の創生や、地域に根ざした研究分野の創生(地域の科学技術振興施策他への展開等を含め)につながったか
  2. 応用研究への展開や実用化につながったか
  3. その他、地域特性の助長・創出や地域の活性に影響を及ぼす様な何らかの成果につながったか

 などを指標として分析し、アウトカムならびにインパクトを具体的に検証することとする。このため、本プログラムに関する追跡評価については、以下の手順・内容にて実施する。

  1. 本プログラムは平成2年度より課題が実施されているが、資料及び情報収集などの点より、平成11年度以後に終了した課題14課題を対象に追跡評価を実施する。
  2. 事前調査により、各課題において得られた成果とその後の展開の状況の把握に努めた上で、
  3. 各課題成果のその後の効果・効用(アウトカム)や波及効果(インパクト)の調査にあたっては、課題の代表者(地域中核オーガナイザー)、課題実施者また地域の関係者等を対象にアンケート調査を実施し、必要に応じて関係者等のインタビューなどによる補足的な調査を加え、その後の展開またアウトカムやインパクトについて把握する。
  4. 特に補足的調査に際しては、地域の特性や地域への貢献との関係等について、あるいは、その後の展開が難しかった場合については、その要因などについても把握に努める。
  5. 本プログラムの実施が地域の特性助長・創出や活性化に向けて、どのような意味が認められたかを中心に評価結果を取りまとめ、本プログラムの果たした役割等についても考察を加える。

4.追跡評価の実施者

 追跡評価は、科学技術振興調整費のプログラム・オフィサー(PO)が実施する。
 調査の実施に際しては、2プログラムそれぞれに「総括担当PO」を配置することにより、各POが有する知見を最大限に活かしつつ、各POの知見等をとりまとめて総合的に調査・分析を実施する。

5.評価結果

5‐1「生活者ニーズ対応」プログラム

5‐1‐1 日程及び方法

8月下旬 調査アンケート準備
9月上旬 調査アンケート送付(研究代表者、主な研究担当者等)
9月下旬 調査アンケートの回収
10月下旬 課題別調査結果のまとめ
11月中旬 インタビュー調査の実施(研究代表者、外部有識者等)・追跡評価報告書のとりまとめ
12月 1日 PD・PO会議で報告
12月11日 研究評価部会で報告予定

5‐1‐2評価結果

(1)本プログラムの実施によって得られた主な成果(課題終了時)

  1. 「環境と資源の持続的利用に資する資源循環型エコシステムの構築に関する研究」
    【東北工業大学 (H7‐12)、第二期終了後事後評価 a 】
     資源の持続的利用に資する資源循環型地域エコシステムの構築を目指し,廃棄物の処理・リサイクル技術の開発とリサイクルシステムの構築,更には生活排水の高度簡易処理技術の開発による資源循環型エコシステムの構築と現地実証実験などを実施し,資源循環型社会構築への基本概念といくつかの具体的技術が提示された。
  2. 「日常生活における快適な睡眠の確保に関する総合研究」
    【大阪バイオサイエンス研究所 (H8‐13)、第二期終了後事後評価 a 】
     現代人の社会生活の中の睡眠に関わる諸問題を解決し、国民生活をより快適で質の高いものとするために、人間の睡眠習慣と睡眠の役割の解明,睡眠と睡眠覚醒リズムの調節機構の活用、睡眠・覚醒障害の治療法及び予防システムの開発,質の高い日常生活をおくるための休息・睡眠法の開発と普及について先駆的な研究が行われた。
  3. 「スギ花粉症克服に向けた総合研究」
    【大妻女子大学 (H9‐14)、第二期終了後事後評価 b 】
     国民健康上の重要な問題の1つとなっているスギ花粉症に関して総合的な対策の確立を目標とした研究が実施され、スギ花粉症予防ワクチンの実用化の目途を立て、花粉飛散観測・予測システムは実用化を達成し、スギ花粉飛散情報をテレビなどを通じて発信することによりスギ花粉アレルギー患者のQOLの向上に貢献した。
  4. 「都市ゴミの生分解性プラスチック化による生活排水・廃棄物処理システムの構築」
    【九州工業大学(H10‐15)、第二期終了後事後評価 b 】
     循環型社会形成政策に組み込める生ゴミの減量化・資源化方策、都市排水処理システムの有効活用方策、都市環境評価システムなどに関する要素技術を開発した。
  5. 「疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究」
    【大阪市立大学大学院 (H11‐16)、第二期終了後事後評価 c 】
     疾患のアラームの一つと考えられる疲労はこれまで総合的な研究が行われていなかったが、本課題は疲労を一般的な疲労とCFS(慢性疲労症候群)の2つに分け、「疲労の機序解明と制御技術の開発」に取組み、種々の疲労測定方法の開発、疲労のメカニズムの仮説を導き出した。また一般向けの成果普及活動や日本疲労学会の設立など疲労研究の活性化に貢献した。
  6. 「高齢者の生活機能の維持・増進と社会参加を促進する地域システムに関する研究」
    【国際科学振興財団(H12~H16)、第二期終了後事後評価 a 】
     平成の市町村合併直前の3300余市町村の健康づくり及び体力づくり事業の現況調査とその分析から、高齢者の社会貢献を可能にする心身および環境の要因を明確化した。
  7. 「食品中の非栄養性機能物質の解析と体系化に関する研究」
    【東京農業大学 (H12‐16)、第二期終了後事後評価 a 】
     ポリフェノール、カロテノイド、ペプチド等の食品中の各非栄養性機能物質に関して、科学的評価法の確立、食品中含量の網羅的測定を行い、データベース化したことの意義は大きく、食品研究の基盤としてこの分野の研究者の幅広い活用が期待される。

(2)実施期間終了後の当該課題の発展状況
 調査を行ったほぼすべての対象課題が、生活者ニーズに対応した新たな研究分野・課題の創生・創出に繋がっている。

具体例:

  1. 「環境と資源の持続的利用に資する資源循環型エコシステムの構築に関する研究」
    【東北工業大学 (H7‐12)】
     環境低負荷資源循環型社会の構築に必要な技術開発、国・自治体の制度つくり、民間の環境市場拡大化に貢献し、廃棄物処理の開発技術は実用化につながった。資源循環型エコシステムについての研究成果はLCAや社会科学的な評価法は今日様々なところで使われている。
  2. 「日常生活における快適な睡眠の確保に関する総合研究」
    【大阪バイオサイエンス研究所 (H8‐13)】
     我が国で初めての全国規模の睡眠に関する総合研究で、我が国の睡眠に関する研究基盤が発展し、睡眠学、睡眠医療の進歩に貢献した。その研究によって、滋賀医科大学に日本で最初の睡眠学講座が設けられ、その後全国で7大学に睡眠学講座や睡眠センターが新設されるに至った。
  3. 「スギ花粉症克服に向けた総合研究」
    【大妻女子大学 (H9‐14)】
     平成15年度から5年計画で環境省が花粉飛散観測・予測システムの全国展開に向けて、スギ花粉自動測定装置の設置やデータ収集に予算を付け普及を図った。その結果、スギ花粉飛散情報は九州から東北地方までカバーするようになった。
  4. 「都市ゴミの生分解性プラスチック化による生活排水・廃棄物処理システムの構築」
    【九州工業大学(H10~H15)】
     バイオマスプラスチックのリサイクル、バイオマスの微生物変換反応、燃料電池への展開を目指したバイオ由来の燃料、廃棄物処理・資源化に関わる環境会計等、新たな研究分野が創生され、関連プロジェクトが農水省、経産省、地方自治体の支援の下で推進されている。
  5. 「疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究」
    【大阪市立大学大学院 (H11‐16)】
     本課題の成果を基盤に大阪市立大学の21世紀COE「疲労克服研究教育拠点の形成」(H16‐20)が採択され、1)国際疲労研究センター、2)疲労クリニカルセンター、3)抗疲労食薬開発センターを開設し、疲労の研究ならびに疲労に効果のある食品や薬の開発から疲労を訴える患者の治療にも応じる体制を構築している。国際疲労学会を設立し、疲労の科学の研究者のネットワーク作りに貢献し、また特定保健用食品の開発を目指す「癒し・抗疲労ビジネス開発研究会」を立ち上げるなど幅広い活動に展開している。
  6. 「高齢者の生活機能の維持・増進と社会参加を促進する地域システムに関する研究」
    【国際科学振興財団(H12~H16)】
     本課題の研究者が開発した体力づくりモデルシステムは、地域における健康・体力づくりのヘルスプロモーションツールとして普及する等、着実に社会への成果の還元が図られている。また、IT化への展開・応用による地域保健支援システム・同社会技術開発(プロトタイプ/モデル的実証実験)等の新しい試みにも挑戦中である。
  7. 「食品中の非栄養性機能物質の解析と体系化に関する研究」
    【東京農業大学 (H12‐16)】
     本課題終了後、食品成分中から実際に人に有効な疾患予防成分を見つけ出す新規の「食品機能性および安全性の評価」という研究分野が創成された。また既存の学会に加えて、機能性食品医用学会が設立され、研究の推進ならびに研究者の交流促進に貢献している。

(3)当該課題によって生み出された成果(製品、実用化状況等)
 本プログラムの実施内容や得られた成果がその後も発展し、製品化あるいは実用段階に至ったもの、新たな活動に繋がったもの等が見られ、社会生活・日常生活の質の向上への貢献が期待されている。

具体例:

  1. 「環境と資源の持続的利用に資する資源循環型エコシステムの構築に関する研究」
    【東北工業大学 (H7‐12)】
     窒素・リン除去型浄化槽として,製造企業が財団法人日本建築センター,財団法人茨城県薬剤師会公衆衛生検査センターの性能評価を得て,既に1,000基規模での普及が進んでいる。また,食品廃棄物や家畜ふんの堆肥化についても実用化につながっており,今後の普及が待たれる。
  2. 「日常生活における快適な睡眠の確保に関する総合研究」
    【大阪バイオサイエンス研究所 (H8‐13)】
     自宅や旅先で容易に自分の睡眠を測定できる簡易型睡眠計、自然な睡眠覚醒調節作用を持つ天然素材を用いた快眠食などが開発され,また,パルスオキシメータに脈波測定機能加速度センサーを付加し、睡眠呼吸障害のイベントのみならず、睡眠の不安定さを測定する試作器の開発など,健康管理や治癒に活用されている.
  3. 「スギ花粉症克服に向けた総合研究」
    【大妻女子大学 (H9‐14)】
     平成15年度から環境省が花粉飛散観測・予測システムの全国展開を図った結果、スギ花粉飛散情報は九州から東北地方までをカバーし、花粉シーズンにはテレビ等を通じた花粉飛散予報が実現し、花粉アレルギー患者の被曝回避によるアレルギーの発現を抑制し国民のQOLの向上に大いに貢献している。
  4. 「都市ゴミの生分解性プラスチック化による生活排水・廃棄物処理システムの構築」
    【九州工業大学(H10~15)】
     生活排水・廃棄物処理システムの成果を基に、NPO法人北九州エコ・サポーターズがポリ乳酸製カップのリサイクル事業を平成17年度から開始している。
  5. 「疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究」
    【大阪市立大学大学院 (H11‐16)】
     疲労の度合いを測定する問診法、自律神経の活動の測定や唾液中の成分変化の測定などの定量的な測定法が実用化されている。大阪大市立大病院では疲労専門の科目が開設されている。特定保健用食品の評価方法を確立して数種類の開発に貢献しメーカーから販売されている。
  6. 「高齢者の生活機能の維持・増進と社会参加を促進する地域システムに関する研究」
    【国際科学振興財団(H12~H16)】
     高齢者の社会貢献を可能にする心身および環境の要因等に関する成果は、地域の保健・健康づくり体力づくり、特に、その網羅性かつ悉皆性から市町村合併の前後の基本情報としての価値が高く評価されている。
  7. 「食品中の非栄養性機能物質の解析と体系化に関する研究」
    【東京農業大学 (H12‐16)】
     がんや炎症予防に有効なブラジル産プロポリスのアルテピリンCは機能性食品として販売されている。食品中のポリフェノール、カロテノイド、含硫化合物等についてデータベース化し「機能性食品因子データベース」としてネット上で公開した。また研究成果を「機能性食品の事典」として発刊し、食品産業や報道関係者にとって機能物質の辞典的役割も果たしており高く評価されている。

(4)当該研究に対する国内外の評価
 本プログラムを契機として生まれた研究課題・研究分野・研究成果は、以下に示すように国内外から高い評価を受けている。

具体例:

  1. 「環境と資源の持続的利用に資する資源循環型エコシステムの構築に関する研究」
    【東北工業大学 (H7‐12)】
     環境調和型循環社会の構築の先駆け的な研究課題であり、また、生活者ニーズの高い課題であったこともあって、研究の先進性や大学と自治体を結びつけたネットワークの構築などは高い評価を受け,その後の多くの研究資金の獲得や国際的な貢献にもつながっている。ただ,資源循環は家庭や地方自治体の協力が不可欠であり,今後の意識改革や適切な政策が求められる.
  2. 「日常生活における快適な睡眠の確保に関する総合研究」
    【大阪バイオサイエンス研究所 (H8‐13)】
     睡眠に関する研究成果は国内外で高い評価を受けており、我が国で睡眠に関するいくつかの国際会議の開催に結びつき,指導的役割を果たすに至っている.課題終了後も多くの外部資金の獲得や実際の睡眠障害治療に活用され、さまざまな精神疾患患者への応用にも拡がりを見せている。
  3. 「スギ花粉症克服に向けた総合研究」
    【大妻女子大学 (H9‐14)】
     花粉によるアレルギーならびに飛散情報の研究は日本が最も進んでおり、欧州・米国から問い合わせが多数あり、欧米からの招待講演も多い。欧州では飛散距離が短い牧草の花粉が、米国では飛散量の少ないブタ草がアレルギー源となっており研究が進んでいない。花粉の飛散予報情報の発信を本格的に実用化しているのは日本だけである。
  4. 「都市ゴミの生分解性プラスチック化による生活排水・廃棄物処理システムの構築」
    【九州工業大学(H10~H15)】
     海外での招待講演を含む多数の依頼講演や関係府省での新たな研究課題の創出にも繋がっている。また、循環型社会における環境ビジネス、ディスポーザ導入による低炭素型ライフスタイルの提示、生活者環境フォーラムの開催等を通じて、広く関心を集めている。
  5. 「疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究」
    【大阪市立大学大学院 (H11‐16)】
     これまで総合的な取り組みがなされてこなかった疲労の科学に焦点を当て研究を進め、日本疲労学会ならびに国際疲労学会を設立し国内外に疲労に関連する研究者のネットワークを作るなど、大いに注目されている。また特定保健用食品の開発にも研究情報を提供するなど産業界からも注目されている。NHK番組「サイエンスゼロ」や科学雑誌で紹介されるなど一般の注目度も高い。
  6. 「高齢者の生活機能の維持・増進と社会参加を促進する地域システムに関する研究」
    【国際科学振興財団(H12~H16)】
     高齢者の生活機能の維持・増進の成果は、地域保健領域及び公衆衛生学領域で、地域保健・健康づくり体力づくりの制度設計に欠くことの出来ない貴重な情報・資料として評価・活用され、政策的反映がなされている。
  7. 「食品中の非栄養性機能物質の解析と体系化に関する研究」
    【東京農業大学 (H12‐16)】
     本課題の成果が引き金になり第3回国際ポリフェノール学会(平成19年京都)が日本で開催された。多くの企業から共同研究の要請があるようになった。アメリカ化学会やEUの関連学協会で、日本発の機能性食品の実用性に関して注目が集まり、多くのシンポジウムが開催されている。また、データベースの英語版の公開要求もあるなど、外国での評価も高い。

(5)まとめ
【成果、実用化】
 以上のように、本プログラムに関わる実施内容・成果は、社会システムとしては資源循環型エコシステムの構築ならびに新しいバイオマスのリサイクル技術、廃棄物処理・資源化に関わる環境会計の構築という,現在の流れを先取りする形で多くの成果を出した。国民の健康増進のためにこれまで病気ではないとされていた、もしくは生命に関わる症状ではないために注力されてこなかった、睡眠に関わる諸問題の解決、スギ花粉アレルギー対策、疲労のメカニズムと疲労回復の研究、さらには機能性物質・食品の開発など、国民生活をより快適で質の高いものとするための総合的研究が実施された。
 具体的な成果としては、
 1) 窒素・リン除去型浄化槽の開発と普及,食品廃棄物や家畜ふんを対象にした堆肥化の実用化,
 2) 自分の睡眠を容易に測定できる簡易型睡眠計、自然な睡眠覚醒調節作用を持つ天然素材を用いた快眠食などの開発や,自動車運転時の眠気予測の心理物理学的・神経生理学的アプローチ,睡眠‐覚醒リズムの個人専用モデル開発,
 3) がんや炎症予防に効果のある甘草のプレニル化合物の特定保健食品としての認可、
 4) ポリ乳酸製カップのリサイクル事業、
 5) 健常者の疲労検査のための唾液の簡易測定キット、
 6) 高齢者の社会貢献を可能にする心身および環境の要因等に関する成果は、地域の保健・健康づくり体力づくり、
 7) 生理活性ペプチドの疾病予防へと展開、
等が挙げられ、その中には既に実用段階のものもある。
【波及効果、国内外からの評価】
 1) 資源循環型エコシステムやバイオエコシステムの提言などは,一般社会や自治体の積極的な姿勢によって,生活環境の快適化に具体的に発展する変化を生み出している。
 2) 米国に遅れてではあるが睡眠について基盤的な研究の成果は,国民の睡眠習慣の見直しなどを通じて,睡眠障害による社会問題の解決への指針を与えており,国民生活への波及効果が大きい。
 3) 花粉によるアレルギーならびに飛散情報の研究は日本が最も進んでおり、欧州・米国から問い合わせが多いなど評価が高い。
 4) 循環型社会における環境ビジネス、ディスポーザ導入による低炭素型ライフスタイルの提示、生活者環境フォーラムの開催等を通じて、広く関心を集めている。
 5) 国際疲労学会を設立し国内外に疲労に関連する研究者のネットワークを作るなど、世界から注目されている。NHK番組「サイエンスゼロ」や科学雑誌で紹介されるなど一般の注目度も高い。
 6) 体力づくりモデルシステムがヘルスプロモーションツールとして普及、高齢者の社会貢献を可能にする心身および環境の要因等に関する成果が市町村合併の前後の基本情報として活用されている。
 7) 特定保健用食品が商品として日常生活に普及している。このように、本プログラムは多数のアウトカムやインパクトを生み出し、社会生活・日常生活の質の向上に関し大きな貢献を果たしたと考えられる。
【展開状況の総括】
 今回の調査対象課題は、いずれも課題終了時に比較的高く評価され、今後の発展が期待された課題である。上述の通り各課題はその後も順調に発展しており、事後評価の結果は妥当であると考えられ、今回調査した7課題のうち総合評価がaが4課題、bが2課題であったが、唯一、「疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究」は総合評価がcであった。疲労の分子神経メカニズムの本質の解明ができなかった点が低く評価された理由であるが、「疲労」のメスニズムは多様で複雑であり、世界的に現時点でも本質の解明はなされていない。対して疲労の科学に多くの専門家や社会の注目を集めこの研究に携わる研究者ネットワークを形成し、疲労を訴える患者の窓口を開設するなど、研究活動の進展と患者救済の両面で展開しており、本課題の実施は大いに社会への波及効果・還元効果があったと判断できる。
【課題実施者から寄せられた今後の展望に関する意見】
 今後の課題の展望に関して研究者から以下のような意見が寄せられた。
 1) 資源循環型エコシステムの重要性の高まりにもかかわらず,主たる政策担当である自治体などでの資金不足や経済状況の変化の影響が大きい一般社会の意識改革などを踏まえて,たゆまざる政策的な努力が求められる。また、
 2) 快適な国民生活を送るために「睡眠」を取り上げて生活習慣の重要性を指摘されたにもかかわらず,睡眠不足や夜型生活が蔓延している我が国において,経済と地球環境と生活と取り扱った「地球環境問題としてのヒトの睡眠・健康の総合研究」などの研究プロジェクトが必要となってきている。
 3) 近年は持続可能な循環社会の達成が重要かつ喫緊の課題となっている。社会ニーズも含めた幸せ度の向上という観点を踏まえ、事業家も加えた形で実用化シナリオを明確にし、5年、10年単位で社会的な実証も含めた取組みを進めることが重要と考えられる。4) 高齢者の生活機能の維持・増進の課題では、個別研究をベースとした取り組みになっており、健康都市・健康長寿を基本とした街づくり・地域づくり・人づくりを発展させるためには、包括的なプログラムの実施が望まれる。
 4) 一般に大学における食品関係の研究室は小規模なものが多い。公開しているデータベースも新規データの追加が停滞しており、新たな研究プロジェクトの開始が望まれる。
【プログラムの継続の要望、今後、実施して欲しい研究課題】
 生活者ニーズという切り口でのプログラムは大変意義があるので、全7課題の研究者から今後も実施して欲しいとの要望は強い。具体的には、以下のようなテーマの提案があった。

  1. 震災時における健康と生活の復興を促す総合的研究
  2. 子供の心の健全化のための総合的研究
  3. 色の安全に関する総合的研究
  4. 高齢者の生活と健康に関する研究
  5. 気象、環境の変化による健康への影響とそこから導かれる予防対策に関する研究
  6. 国民の脳年齢を10歳若く保つための細胞レベルのエビデンスに基づいた研究プロジェクト
  7. 癌の発生母地と老化組織に関する研究プロジェクト
  8. 国民の幸福を考える脳科学と哲学の新領域
  9. 疾病予防食品開発プログラム
  10. 自然の原理に逆らわない利便すぎない生活の重要性を認識させる教育と実践プログラム。

 本プログラムは、「生活者ニーズ対応」という切り口で公募を行ったことにより、それまで研究対象もしくは治療対象としては正面から取り組まれてこなかった、睡眠、疲労、スギ花粉症、高齢者の健康維持、非栄養性機能物質の活用などの健康増進分野、さらには廃棄物・排水などの環境問題の解決に、分野横断的に研究者のネットワークを構成し、総合的に取り組む切っ掛けを与え、新分野・新領域の創成に繋がっている。この意味で、本プログラムは先駆的・先導的・府省横断的なプログラムであったと判断できる。また第一期と第二期に分けることにより、一期から二期の移行期に、大幅に研究テーマや研究グループを改変したり、研究者の入れ替えなどの組み替えが可能となり、効果的・効率的な研究体制を組むことができたこと、研究実施者にとっても緊張感を持って研究に取り組めたこと、第二期では実用化を見据えた研究を推進できたことが、実施者自身にも好評なプログラムであった。プログラム設計・施行を担う者の責務として、ここで得られた新たな研究の種を絶やさず、他の競争的資金の活用も含めて横断的・発展的に展開することが必要であろう。

5‐2「地域先導研究」プログラム

5‐2‐1 日程

7月 予備調査実施
8月上旬 アンケート案作成
8月中旬~9月上旬 アンケート送付と回収
9月中旬~10月 分析、及びインタビュー調査等の実施
11月 追跡評価報告書のとりまとめ

5‐2‐2評価結果概要

 平成11年度以降に終了した14課題を対象に、課題終了後の展開や課題実施の意味、その成果などについて、課題実施者に対してアンケート調査を行い、追加インタビューによる調査を実施した。加えて県等地域の現在の支援施策担当者や研究支援団体関係者など、課題実施には直接携わらなかったが課題についてご存じの方々にもインタビュー調査を行い、得られた結果より地域先導研究プログラム実施の意味また貢献した点など、もたらされた効果・波及効果について、次のように考察された。

(1)   課題終了後の研究継続・展開
 今回調査した14課題において、課題終了に伴い研究が中断した課題は見られず、全課題において研究は継続、展開された。
 なお、平成10年以前に本プログラムにおいて実施された26課題においても、そのうち17課題について課題終了後もファンド獲得などが報告されており、少なくともこれら課題において、研究が継続されたものと考えられる(平成16年に行われた、課題実施県に対する調査より)。

(2)地域への貢献
 対象とした14課題すべてにおいて地域に対する貢献が次の様に認められた。本プログラムの趣旨は「地域の特性を生かす、あるいは地域の活性化に資すること」、すなわち地域への貢献に有り、この意味において本プログラム実施はその目的を達成したと考えられる。

地域に対する貢献内容の内訳 (重複選択有り):

  1. 地域に根ざした研究の発展に貢献した課題:13課題
  2. 応用研究に展開し、実用化に向けて開発継続中の課題:14課題
  3. 3実用化につながった課題:10課題
    その中で、特に地域産業振興に貢献した課題:2課題
  4. その他、地域活動振興など、地域に貢献した課題:14課題

 なおこれら項目に挙げられた内容、その具体的な代表例は次の通りである。

  1. 地域に根ざした研究の発展に繋がった課題例
     希少糖研究センターが香川大学内に立ち上がり、国際希少糖学会事務局が置かれ、希少糖研究の世界におけるセンターとしての機能を発揮(香川県)、伝統医学の効果解明に向けた本研究が地域の同分野研究の基盤として、研究展開に貢献(富山県)、等。
  2. 応用研究に展開した課題
     例知的クラスター創成事業、都市エリア産官学連携推進事業など競争的資金による地域プログラムに展開されて、多くのプロジェクトが本プログラムで得られた基礎的成果の実用化を目指し、応用研究を実施した(鹿児島県、和歌山県、広島県、北海道、熊本県、香川県、愛知県、富山県‐伝統医学、等)。また、地域の支援にて研究を継続し応用研究を実施したプロジェクトも多々認められる(神奈川県、富山県‐雪、高知県、石川県、青森県、福岡県、等)。
  3. 実用化に繋がった課題例
     本プログラムにて見出されたフェルラ酸の抗酸化効果、抗紫外線効果他に基づき、同剤が紫外線吸収用化粧品材料としても認可され実用化、その利用が拡大して産業振興に貢献(和歌山県)、深層海洋水の商品規模拡大に貢献し関連産業を振興(高知県)、ウッドセラミックヒーターを用いた融雪システムの実用化(青森県)、レーダーによる観測システムが実用化され、積雪観測データと共に空港の安全運航・積雪時の運航率向上に貢献(富山県)、細胞壁分解酵素高発現株が醤油粕低減可能な麹菌株として実用化(愛知県)、DNAを利用した有害物質除去フィルターの実用化(北海道)、等。
  4. その他地域活動の展開に貢献した課題例
     環境保全に向け、地域との連携にてプロジェクトを展開し発展(熊本県)、地域との連携にて鮭他のDNA利用について研究(北海道)、等。

(3)地域に限らず、優れた研究の振興・展開に及ぼした効果・波及効果について
 14課題中5課題において、新たな研究分野の創生につながるなど、本プログラム実施が研究分野の展開面で貢献が認められた。具体例としては、希少糖研究の国際的研究センターにつながった例(香川県)、組換え体を用いた研究成果を基に、有用微生物を自然の保存株あるいは変異株などより探索し利用に繋げた例(愛知県)、等が挙げられる。

(4)その他本プログラム実施が地域にもたらしたもの、地域における意味また意義について
 今回の調査において対象とした14課題の殆どの課題が、地域振興を目指したプロジェクト実施の先駆けとなり、周辺のシステム整備にも役立ち、地域振興に貢献したことが示された。その内容は次のように分類される。 

  1. 地域における研究開発推進のきっかけとなった:13課題
  2. 地域における研究開発推進のための仕組みの整備につながった
    (科学技術推進支援団体の整備、外部資金導入制度整備など):13課題
  3. 地域科学技術振興施策が誘導された
    (ファンドの設置、寄付講座設置等、支援団体の活動拡充など):   12課題
  4. 産学官連携の推進・誘導につながった
    (参画企業支援、産学官交流会設置及び推進、公設試再編統合など):13課題
  5. 地域振興プログラムの先鞭をつける結果となった:12課題
  6. 研究開発に向けた地域ネットワーク構築につながった:13課題
    構築されたネットワークは13課題全てについて、終了後も相互の共同研究や勉強会などが行われて、現在も継続している状況にある。

 なお、今回の調査対象課題実施地域において、当該課題を実施する以前に地域先導研究プログラムで別の課題を実施していた県が一カ所あり、同県についてはすでにきっかけが作られていたものと判断されて、これら項目にカウントされていない。
 その他に、大学等アカデミアが、地域貢献や地域に結びついた実学に目を向けるきっかけにもなった、との声も寄せられた。実際に、平成14年には第一回国立大学地域交流シンポジウムが開催され、国立大学地域交流ネットワークが設立されて、大学と地域との交流に向けて様々な活動が行われたことが報告されている。

 こうした地域振興に向けて本プログラムが貢献した要因として、複数の課題について挙げられ、そして妥当と考えられた点は次の3点である。

  1. 基礎的・基盤的研究を対象に比較的長期的な研究展開を誘導した。
  2. プロジェクトの規模(予算額)が大きかった:注目を浴びて優れた候補課題が用意された。地域内を主とした多くの機関・研究者により共同研究が実施され、成果を挙げることが出来た、等。
  3. 企業にも研究費を配分し、一般的に財務基盤が弱いと捉えられる地場の企業の参加リスクを低減して、大学、公設試、国研、企業間の実質的な産学官連携を推進した。

 なお、この第3に挙げた「実質的な産学官連携の推進」に関してその詳細は次の通りである。地域の企業は中小企業が主体であるため、一般的にその財務体質が弱いケースが多く、長期にわたる研究、リスクのある研究などに参加することは難しい状況である。本プログラムでは企業にも研究費が配分され、この点企業の参加を募る上で県の関係者やコーディネーター等に好評であった。また企業の幹部に参加を進言する上で、ハードルを下げる結果となったとの企業研究者の声もある。結果として、企業の参加を推進すると共に、企業及び企業研究者も研究開発に大学等の研究者と対等な立場で参加する形となって、実質的な産学官連携の推進に有効であったと考えられる。また、大学と公設試との連携もそれまで例が少なく、本プログラムによる課題実施がその先鞭をつける形となった。こうした連携により製品につながった例も多々認められる。また、形成されたネットワークが種々の面で有効であることが示されて、課題終了後もネットワークが継続される例が殆どであった。

 なお、平成2年から平成14年までの長期に渡って本プログラムが継続的に実施されており、過半の道府県(29道府県)において本プログラムによる課題が実施されて、地域に根ざした大型の産学官連携推進事業実施経験を広めると共に、各道府県での制度整備、主体的な事業推進また支援施策等を誘導する結果となったと考えられる。またその間、課題実施に伴うワークショップや終了時の公開報告会なども実施されて、研究者や地域担当者間の情報交換なども図られた。

 一方、本プログラムが地域にもたらした弊害など、困った点として挙げられた点は認められなかった。ただ、地場の企業の参画を中心に考えた場合には参画企業が限られる、との声が複数の課題において挙げられており、この点は地域プログラムにおいて参考にすべき点と考えられる。プロジェクトの内容により、地域外の企業の参画についても考慮する必要があろう。

(5)地域によるサポートの状況
 各地域は、課題の提案、実施等において、いずれも支援を行っているが、その状況や内容は地域によって異なり、次の3つのケースに分類して整理した。半数の県では課題立ち上げの段階から推進や支援等を行っており、地域の積極的な支援状況が示された(単一選択)。

  1. 課題立ち上げの企画の段階から地域が関与し課題実施をサポート:7課題
  2. 研究者主導にて企画を立ち上げ、課題採択後、その展開において支援策を実施するなど地域が積極的に支援:5課題
  3. 研究者主導にて企画、課題を実施。その実施に際して事務手続きなど地域が担当、また仕組み整備などにて支援:2課題

 上記の地域による支援の状況は研究期間終了後のプロジェクトの展開に影響を与えており、次のような傾向が認められた。

  1. 地域の象徴的なプロジェクトとして、地域の企画に基づいて立ち上げられた課題では、本プログラムによる実施課題が、その殆どの例についてさらに展開、あるいは少し形を変える形で、継続展開された。
  2. 研究者主導のプロジェクトでは、リーダーの主導性が継続する限りにおいて、殆どの課題において展開が図られた。しかし、リーダーの退任などに伴い、グループの求心力が低下する等、プロジェクト展開に大きな変化が見られた課題が複数認められる。リーダーシップの重要性を示す例と考えられる。
  3. 地域の支援は、課題の展開、また終了後のプロジェクト展開においても力になっている。特に課題が順調に展開したケースにおいて、さらなる展開に向けて、参画企業支援や継続に向けた予算面の支援や次のファンド獲得に向けた支援など、地域の支援も強まる傾向が認められた。

 研究の展開において、リーダーによるリーダーシップの重要性は常に指摘されるところであるが、地域による支援も地域振興プロジェクトの展開にとって大きなファクターと考えられる。

(6)地域プログラムについて
 地域の振興に向けたプログラムとして、知的クラスター創成事業、都市エリア産官学連携促進事業(以上文科省)、地域イノベーション創出総合支援事業に属する種々プログラム、地域結集型共同研究事業に属する種々プログラム(以上JST)など多くのプログラムが創設され、実施されている。その多くは、産業応用を目指して、3‐5年の比較的短期間において具体的な実用化展開を目指す、いわば発展型のプログラムである。地域先導研究プログラムにて基礎研究・基盤研究として実施された今回調査対象とした課題の多くは、終了後その成果をもとにこれら発展型の地域プログラムに提案・採択され、実用化などを目指して研究が継続・発展しており、スムーズな流れと捉えられる。また、このことは発展型プログラムへ展開するシーズを生み出す点においても、本プログラムが有効であったことを示している。
 しかしながら、地域振興に向けたプログラムが数多く実施されている中においても、地域先導研究プログラムの優れた特長であった、基礎的・基盤的研究を対象にして地域に根ざした比較的長期的な研究展開の誘導を図ろうとする趣旨を引き継ぐプログラムは、今殆ど認められない。こうした現状に関して、大きな成果を目指すために、発展型のプログラムに展開するシーズがまだ十分でないこと、そしてそれにもかかわらず地域においてシーズが得られにくくなっていることが挙げられた。加えて、実学をベースにおきつつも地域に特徴的な研究分野や研究基盤の創出、地域産業振興の中核となり得る基礎的・基盤的研究の推進、また、新たな実用化シーズ開拓など、多様な方向性を可能とする、このような地域に根ざした産学官連携プログラム実施を望む声が多く認められた。
 発展型のプログラムに展開して、さらに大きな成果を多くのプロジェクトで得るためには、シーズ創出に向けて研究の裾野を広げる必要があると考えられる。そのためにもシーズ創出に有効であることが示された地域先導研究プログラムの特長を引き継ぐ、多様な方向性を可能とする地域プログラムを継続的に実施することが有効と考えられる。また、こうした多様な方向性を可能とする地域プログラム実施が、地域ごとの多様性の誘導に繋がれば、新たな面で地域の特徴付け・地域の活性化に貢献することが期待されよう。

(7)まとめ
 本プログラム課題の実施は今回調査したいずれの地域においても、地域に根ざす初めての大規模な産学官連携プロジェクト実施例と考えられた。そしてその実施は、地域振興プログラムのさきがけとして、各地域において産官学連携事業推進をはじめとする地域事業推進のきっかけとなった。調査した14課題すべてが地域のサポートを得つつ実用化を目指して応用研究に展開し、そのうち10課題において何らかの実用化に結びつき、具体的に地域産業振興に貢献した例も2課題に認められた。また、14課題全てにおいて地域活動振興への貢献が認められ、地域に根ざす研究分野を創成あるいは展開した例も多く認められて、本プログラムはその目的を達成したものと判断できる。
 この要因として、1.予算規模が大きく多くの機関また研究者による共同研究が可能となったこと、2.企業にも経費を配分して財務基盤の弱い地域企業の参加リスクを低減し、大学、公設試、国研、企業間の対等な関係での産学官連携を志向・推進したこと、そして3.基礎的・基盤的研究を対象に長期的な研究展開を誘導したこと、が挙げられる。また平成2年から平成14年の長期に渡り、本プログラムが継続的に実施され、過半の道府県(29道府県)において課題が実施されたことにより、地域での産学官連携推進事業実施経験を広め、多くの地域において科学技術振興に向けて種々システム・制度整備を誘導すると共に、事業推進また支援施策も誘導する結果となった。
 このように本地域先導研究プログラムは、地域振興プログラムに先鞭をつけその展開のきっかけとなったプログラムとして評価される。また、多くの課題の成果がその後発展型の地域振興プログラムのプロジェクトに展開されたことから、本プログラムがシーズ創出に有効であったと判断される。
 またいくつかの地域においては、本プログラムを利用して地域に特徴的・象徴的な課題を立ち上げた。こうした地域に特徴的・象徴的な課題の実施は、地域に密着した活動に結びついた例が多く、地域支援プログラムの対象として興味深い。
 ところで、近年多くの地域プログラムが実施されており、地域にとってまた日本の科学技術振興にとって好ましいことであるが、本プログラムにおいて認められた優れた特長を備えるプログラムは少ない。シーズ創出がまだ十分とは捉えられない現状において、実学をベースにおきつつも地域に特徴的な研究分野や研究基盤の創立、地域産業振興の中核となり得る基礎的・基盤的研究の推進、また、新たな実用化シーズ開拓など、多様な方向を可能とするような長期的研究展開の誘導を目指す、地域に根ざした産学官連携推進プログラムの新たな創出についても検討の余地があると考えられる。地域ごとの多様性誘導を念頭において、それぞれの地域に特徴的な内容あるいはその芽を含みシーズ創出にも有効な、多様な方向性を可能とするこうしたプログラムの継続的な実施は、地域活性化に向けて有力なツールになるものと期待する。

(別添1)評価対象課題一覧

1.「生活者ニーズ対応」プログラム(7課題)

1) 平成13年度に事後評価を受けた課題
 1. 「環境と資源の持続的利用に資する資源循環型エコシステムの構築に関する研究」:須藤 隆一(東北工業大学)
2) 平成14年度に事後評価を受けた課題
 2. 「日常生活における快適な睡眠の確保に関する総合研究」:早石 修(大阪バイオサイエンス研究所)
3) 平成15年度に事後評価を受けた課題
 3. 「スギ花粉症克服に向けた総合研究」:井上 崇(大妻女子大学)
4) 平成16年度に事後評価を受けた課題
 4. 「都市ゴミの生分解性プラスチック化による生活排水・廃棄物処理システムの構築」:白井 義人(九州工業大学)
5) 平成17年度に事後評価を受けた課題
 5. 「疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究」:渡辺 恭良(大阪市立大学)
 6. 「高齢者の生活機能の維持・増進と社会参加を促進する地域システムに関する研究」:村上 和雄(財団法人国際科学振興財団)
 7. 「食品中の非栄養性機能物質の解析と体系化に関する研究」:荒井 綜一(東京農業大学)

2.「地域先導研究」プログラム(14課題)

1)平成12年度に事後評価を受けた課題
 1.相模湖・津久井湖の藻類による汚濁機構解明とその浄化・資源化技術に関する研究(神奈川県)
 2.富山県域の雪の特性解明と利雪に関する高度利用研究(富山県)
 3.地域糖質資源の高機能化と環境調和型利用システムの基盤研究(鹿児島県)

2)平成13年度に事後評価を受けた課題
 1.こめぬかを原料とする環境に適合した有機工業化学に関する基礎研究 (和歌山県)
 2.醸造微生物機能の高度利用に関する研究 (広島県)
 3.室戸海洋深層水の特性把握および機能解明 (高知県)

3) 平成14年度に事後評価を受けた課題
 1.海洋生物由来DNAの新機能材料化に関する研究(北海道)
 2.バイオマス有効利用のための高度な微生物制御技術に関する基礎研究(熊本県)    
 3.新規微生物酵素による希少糖類生産システムの開発とこれを用いたもみがら等の地域未利用資源の有効利用に関する基盤研究(香川県)
 4.地域産業の発展に寄与する電磁波技術に関する研究(石川県)

4) 平成15年度に事後評価を受けた課題
 1.カビの酵素高生産能を利用した環境調和型工業プロセス技術の基盤研究(愛知県)
 2.積雪寒冷地における自然エネルギー利用技術の開発研究(青森県)
 3.伝統医学活用による生活習慣病克服と健康増進(富山県)
 4.微生物由来細胞認識・破壊タンパク質の作用機構解明と応用に関する研究(福岡県)

 (添付資料1)「生活者ニーズ対応」プログラム追跡評価

~追跡調査対象7課題:各課題調査結果~

1) 平成13年度に事後評価を受けた課題
 1.「環境と資源の持続的利用に資する資源循環型エコシステムの構築に関する研究」:須藤 隆一(東北工業大学)
2) 平成14年度に事後評価を受けた課題
 2.「日常生活における快適な睡眠の確保に関する総合研究」:早石 修(大阪バイオサイエンス研究所)
3) 平成15年度に事後評価を受けた課題
 3.「スギ花粉症克服に向けた総合研究」:井上 崇(大妻女子大学)
4) 平成16年度に事後評価を受けた課題
 4.「都市ゴミの生分解性プラスチック化による生活排水・廃棄物処理システムの構築」:白井 義人(九州工業大学)
5) 平成17年度に事後評価を受けた課題
 5.「疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究」:渡辺 恭良(大阪市立大学)
 6.「高齢者の生活機能の維持・増進と社会参加を促進する地域システムに関する研究」:村上 和雄(財団法人国際科学振興財団)
 7.「食品中の非栄養性機能物質の解析と体系化に関する研究」:荒井 綜一(東京農業大学)

「環境と資源の持続的利用に資する資源循環型エコシステムの構築に関する研究」

須藤 隆一(H7~H12):取り纏め機関;東北工業大学

1)課題概要

 21世紀の社会に対応し環境への負荷が少ない、資源の持続的利用に資する資源循環型地域エコシステムを構築することを目的として、地域の分別収集体制に即した廃棄物の処理・リサイクル技術の開発・高度化によるリサイクルシステムの構築と生活排水の高度簡易処理技術の開発による資源循環型エコシステムの構築に関する総合的な研究開発を行っている。研究は4つのサブグループ、すなわち1.廃プラスチックのリサイクル技術の開発に関する研究、2.生ゴミリサイクルシステムの開発に関する研究、3.家庭排水由来の有機物資源の有効利用などによる流域負荷低減技術に関する研究、4.資源循環型エコシステムの適用・評価に関する研究、を組織し、地方自治体の実態に合わせた各種技術の統合化を目指した現地実証研究を実施している。

2)事後評価の概要

 環境への負荷の少ない循環を基調とする経済社会システムを実現するためには、地域内で廃棄物、生活排水から発生する有用物質等に多様な技術を活用し、回収可能なものは回収・資源化し、積極的に有効利用することが必要である。本プログラムは時宜を得たものであった。第II期においては、住民への分別方法の周知を行い、開発した選別装置で廃プラ回収率96%の実現、簡易油化装置による廃プラの1/17の減容化、住民モニターへの公開結果に対応した臭気対策の実施、悪臭漏洩抑止機能を持つ家庭用生ごみ処理装置の開発、窒素、リンを効率的に除去する高濃度簡易型浄化槽の開発、流域単位での負荷削減施策の費用ー便益等社会科学的な評価法の開発、また、開発した埋没型ライシメーターは、国公立の農業試験場や大学など21機関で利用されるなど多くの成果が得られていることから、研究は順調に実施され、研究成果は高いと評価される。また、目標設定・研究体制も適切であると判断され、非常に優れた研究であると言える。また、I期の課題であった「一般の市民が協力可能な範囲、持続的に行うための方策、経済的な効率等について考慮するべきである。」などについても適切に対応していると判断される。4つの課題についても応用研究が進み、総合的な成果を上げていると判断され、大きな社会的課題である家庭・地域における廃棄物や負荷削減のための研究として、リサイクル・処理装置の開発を理論的な裏付け等の研究と合わせて遂行し、多くの成果が得られている。
 なお、今後の本研究分野の課題として、より実用化に向けて、技術の高度化、代替技術との比較における優位性の検証や技術の普及に有効な支援策の導入などが残されている。

3)追跡評価の結果概要

 本プログラムは、生活環境の再生保全を図り、現在強調されている環境低負荷資源循環型社会の構築に向けた基盤となる研究で、技術開発、国・自治体の制度創り、民間の市場拡大化に貢献した大きな意義・効果があったといえる。ただ、本課題は、生活者のニーズは高いものの、国・地方自治体など制度設計と密接に関係するものであり、環境施策の面からの実用化に向けた努力が鍵となる。
 1.実施期間終了後の当該課題の発展状況
 本課題で実施されたサブ課題別でみると、1)廃プラスチックのリサイクル技術開発については、輸送効率を高めるための簡易油化装置の開発など本来的に重要な視点を持つ研究成果が得られているが、自治体などに前処理を求める難しさなどから、実態として実用化に困難さが残っているなど今後の課題を残している。2)生ゴミリサイクルについては、生ゴミ処理装置は、消滅型(生物分解)と乾燥型(単に乾燥減溶化)に分かれ、現状では乾燥型が主流となっており、本課題で研究開発された前者の分解型は、生ゴミの分別の難しさなどから実用化には至ってないが、食品廃棄物や家畜ふんに対する実証実験につながり実用化のメドが立ってきている。3)流域負荷低減技術については、本課題研究者の、窒素・リン除去性能の高い浄化槽の技術開発に関しては、現在でもトップを走っていて、終了後も地域結集型共同研究事業、JST産学官連携補助金、JICAプロジェクトなどで大型研究資金を得て大きな広がりをもたらしている。浄化槽の普及促進への補助金の構築や法改正・条例化につながり、大きな評価を得ている。下水道整備による生活排水対策もそろそろ限界に来ており、下水道を整備するための費用対効果が見込めない山間地では浄化槽を整備する方向に動いている。また、有機物(BOD、COD)の削減だけでは、窒素・リン負荷の低減の重要性もよりいっそう求められるようになっており、研究の重要性は当時よりむしろ高まったといえる。豚舎等家畜由来の有機性廃棄物の処理について開発された技術は、その後の社会的な不況の関係もあって十分に実用化が進んでいないようである。4)資源循環型エコシステムについては、研究成果はLCAや社会科学的な評価法は今日様々なところで使われるようになっている。このような手法を用いて「下水道の整備」と「合併処理浄化槽の設置」を評価した成果などは非常に先進的なもの出会ったといえる。かつては下水道整備のみであったが、国土交通省も現在では浄化槽との併用を図っていて、どちらで整備していくかを決める一つの指標を提示したものとして高く評価されている。
 2. 当該課題によって生み出された成果・波及効果
 本課題で得られた成果は、例えば、開発された家庭用の浄化槽やその能力の評価法は広く活用され、普及が進んでいるし、生ゴミリサイクルシステムについても、民間との共同研究によって食品廃棄物や家畜ふんなどについては近く実用化される予定となっている。ただ、この分野の実用化には、自治体や一般社会の協力が不可欠な分野であり、発展性に社会経済状況の影響が大きいことから評価と実用とが結びついていない点も見られるが、現在の地球環境への認識の高まりは、知的基盤の活用がますます図られるものと推測される。
 3. 当該研究に対する国内外の評価
 本プログラムは現在特に重視されている環境調和型循環社会の構築の先駆け的な研究課題であり、また、生活者ニーズの高い課題であったこともあり、研究の先進性や大学と自治体を結びつけたネットワークの構築などは高い評価を受けている。本プログラムで構築された生ゴミリサイクルシステムの実証現場は、国内外から多くの視察もあり、論文発表や海外からの招待講演などで研究の室の高さが評価されている。終了後も各研究は、地域結集型共同研究事業(20億円規模)、産学官連携イノベーション創出事業、科学研究費補助金、更には文部科学省の21世紀COEプログラムに採択されるなど、研究基盤は高く評価されている。また、JICAプロジェクト技術協力にも採択され、中国の太湖処理場か修復モデルプロジェクトなどで国際的な貢献にもつながっている。

4)過去の評価の妥当性

 本プログラムの事後評価では、その成果が高く評価されており、研究成果の活用が期待された。その後の活動を見ても生活者に直結した研究と実用化につながっており、事後評価は妥当であったと評価される。

「日常生活における快適な睡眠の確保に関する総合研究」

早石 修(H8~H13):取り纏め機関;大阪バイオサイエンス研究所

1.課題概要

 第1期の研究により、我が国では、一般勤労者の睡眠障害有症率が予想以上に高く、国民の5人に1人が睡眠障害に悩まされている可能性が示された。さらに、高齢者や女性に特徴的な睡眠問題の存在も明らかになり、それらの実態調査の緊急性が指摘された。そこで、一般の生活者や勤労者のみならず小児、青少年、高齢者、女性に調査対象を拡大して睡眠実態調査を行い睡眠障害の実態把握が行われた。第2期では睡眠科学の基礎研究を強力に進め、睡眠や生体リズムの調節機構の分子レベルでの理解を目指された。また第1期の成果をもとに眠気の予測システムの精度を向上させ、快眠技術の開発や居眠り運転検知法への応用を図られた。
 本研究では、現代人の社会生活の中の睡眠に関わる諸問題を解決し、国民生活をより快適で質の高いものとするために、我が国の睡眠に関するトップレベルの学際的研究チームを組織して、「人間の睡眠習慣と睡眠の役割の解明に関する研究」、「睡眠と睡眠覚醒リズムの調節機構を活用するための研究」、「睡眠・覚醒障害の治療法及び予防システムの開発」、「質の高い日常生活をおくるための休息・睡眠法の開発と普及」の4 課題について研究開発が行われた。
 (1)「人間の睡眠習慣と睡眠の役割の解明に関する研究」では、睡眠負債や睡眠障害が一般勤労者の健康やQOL及び安全にとって看過できない健康課題であると確認された。加齢に伴う睡眠維持障害の発現メカニズムとその調整法についても新たな知見を得、高齢者の睡眠障害に対する至適投与法に関する情報が得られた。(2)「睡眠と睡眠覚醒リズムの調節機構を活用するための研究」では、主としてモデル動物を用いて正常睡眠の分子生物学的メカニズムを明らかにすることによって快眠技術の開発を目指し、内因性睡眠物質あるいは覚醒物質の作用部位と作用メカニズムが明らかとなり、新しい睡眠薬の開発に道を開いた。また、研究の過程で、新しい脳波の解析法、テレメトリー技術の開発、薬物デリバリーシステムの開発など、汎用性の高い技術が開発された。(3)「質の良い日常生活をおくるための休息・睡眠法の開発と普及」では、快適睡眠を得る技術開発や、日常生活で実践可能な熟睡を誘う方法などを開発した。また、居眠り防止技術では、会話型確認システムにより、居眠りが発生する危険度を判定し、警告するシステムを完成させた。更に、眠気予測のシミュレーターの開発で、さまざまな就労環境での居眠り事故の発生予測や、その防止のための睡眠管理計画を立てることが可能になった。(4)「睡眠・覚醒障害の治療法および予防システムの開発」では、睡眠・覚醒障害を早期に発見し、それを治療するシステム及びこのような睡眠障害が発症しないよう予防するシステムを開発した。 その結果、生体リズムの異常や心・脳血管障害や睡眠時呼吸障害による睡眠障害を早期し、治療に結びつけることが可能となった。

2.事後評価の概要

 本研究は「1.人間の睡眠習慣と睡眠の役割の解明に関する研究」、「2.睡眠と睡眠覚醒リズムの調節機構を活用するための研究」、「3.睡眠・覚醒障害の治療法及び予防システムの開発」「4.質の高い日常生活をおくるための休息・睡眠法の開発と、普及」の4 課題について研究を実施しており、これらの目標設定については適切であったと考えられる。サブテーマ1.及び3.のように、生活者の直接的な対策に関わる研究の成果が見えにくいが、それぞれについても一定の成果を得ており、全体的に見て目標は達成されたものと考えられる。個別の項目について目を向けると、まず情報発信については、国際的にも高い評価を得た論文を多く発表しており、また、研究成果について啓蒙書及び専門書の2冊の書籍を出版する等、十分行われていると考えられる。
 本研究の成果については、睡眠の調節機構に関するもの、快眠技術の普及等、睡眠に関わる幅広い分野の内容が得られており、科学的価値は十分高く、社会的な観点による成果、国民生活への波及効果及び科学的波及効果については世界的に見ても第一線級のレベルである。
 本研究の各サブテーマについてはそれぞれの独立性が高く、連携性は必ずしも明確ではない部分もあるが、日常生活における快適な睡眠の確保に資するという点についての整合性は十分であり、代表者の指導性については十分に発揮されている。なお、本研究は第1期、第2期の合計6年間実施された研究であるが、第2期移行の際には、生活者及び社会的な観点からの研究強化や生活者への成果の還元、睡眠障害の社会的影響や睡眠覚醒リズムのコントロールに関する研究の推進が要望されていたが、それらについても第2期の研究テーマに十分反映されている。それゆえ本研究は総合的に見て非常に優れた研究であった。もし付け加えるとするならば、この研究成果を生活者に還元するための仕組み、例えば睡眠研究所の設立を視野に入れる時期になっているように思われる。

3.追跡評価の結果概要

 平成8年度から平成13年度(2期6年)に亘って実施された「日常生活における快適な睡眠の確保に関する総合研究」は、睡眠問題が、国民の健康維持のみならず、睡眠異常の患者が最近急激に増加し、我が国はもとより諸外国でも5人に1人が睡眠障害(睡眠病)に悩んでいるのが現状から、睡眠障害による作業事故、交通事故、医療事故等による莫大な経済的な損失、また睡眠病自体の医療費等を考えると大きな経済的・社会的問題であり、また政治問題でもあることから、本プロジェクトの成果は、医学、医療の立場のみならず、国家、社会に対しても大きな貢献を果たしたものであり、高い評価を受けている。
 1.実施期間終了後の当該課題の発展状況
 睡眠の研究は遅々として進まず、88種類に上る睡眠病の正しい診断、治療、予防等の基礎となる研究は他の医学の分野に比べて遥かに遅れていた状況下にあって、本プロジェクトが実施された意義は大きかった。睡眠の研究については、米国では1988年、国会の要請により、睡眠の特別委員会が設置され、6年の期間と多数の睡眠の専門家と莫大な予算のもとに全国的な調査が行われ、「Wake up America ―目覚めよアメリカ」という題で膨大な有名な報告書が国会に提出されているのに比較して、我が国の研究活動の遅れが認められたとき、米国に遅れること数年ではあったが、我が国の第一線の多数の優秀な睡眠医学、医療の権威者のもと、平成8年から我が国で初めての全国規模の睡眠に関する総合研究が実施された意義は大きく、本研究課題の成果は直接、間接に我が国の睡眠学、睡眠医療の進歩に大きく貢献している。このプロジェクトの成果として、我が国の睡眠に関する研究基盤が発展し、例えば、滋賀医科大学に日本で最初の睡眠学講座が設けられ、以来、今日まで数年間の間に東大、京大、阪大を含む7校で睡眠学講座、あるいは睡眠センターが新設され、睡眠学の基礎的、臨床的研究の進歩に知的基盤の強化がもたらされている。
 2.当該課題によって生み出された成果・波及効果
 このプロジェクトを契機に、睡眠科学、睡眠医学、睡眠社会学の3分野が飛躍的に発展し、特に睡眠社会学の発展につながったことは大きな成果であり、現在も、日本衛生学会で睡眠医学連携研究会などの具体的な活動につながってきている。睡眠という脳の機能の中で最も重要でありながら、最も理解されていない分野であり、21世紀に残された大きな医学の未解決の問題の一つに、いち早く取り組んだことは、我が国のみならず、世界の睡眠学、睡眠医療の進歩に貢献をなしたことは、ある意味大きな成果である。
 具体的な例としては、睡眠学に関する日本発の英文雑誌「Sleep and Biological Rhythms」が発刊されたり、快眠と関わる事業展開を希望する産業界との共同研究が増加したりしており、睡眠障害に対する治療法に活かされている。
 ただ、実用化に向けた前臨床研究としては期間が短かったなどで、開発薬品が我が国では未発表などで、十分に生かし切れてない点も指摘されている。本研究の、最近の睡眠学、睡眠医療の急激な進歩の基盤としての意義は大きく、基盤となる成果の活用につながる研究が進められることが期待される。
 3.当該研究に対する国内外の評価
 本課題で得られた研究成果は国内外で高い評価を受けており、例えば、国際的評価も高く、2009年10月、大阪で開催されますアジア睡眠学会、日本睡眠学会、日本時間生物学会の合同学会や、2011年 京都で10月15日~10月20日まで開催を予定されている第6回世界睡眠学会連合総会 “Worldsleep2011"等が、日本での開催につながっている。
 具体的な例としては、課題終了後も多くの科学研究費補助金の獲得や実際の睡眠障害治療に活用されており、例えば、概日リズム睡眠障害に対するメラトニン、光治療は米国、カナダの諸外国でも試みられており、更にさまざまな精神疾患患者への応用にも拡がりを見せている。
 このように、日本の睡眠学が基礎、臨床の両面で世界的にも評価されていて、本課題の総合的な研究活動の評価は確実に大きなものであることが伺える。

4.過去の評価の妥当性

 本プログラムの事後評価では、その成果が高く評価されており、研究成果の活用が期待された。その後の活動を見ても生活者の生活環境改善につながる大きな動きへとつながっており、事後評価は妥当であったと評価される。

「スギ花粉症克服に向けた総合研究」

井上 栄(H8~H13):取り纏め機関;大妻女子大学

1.課題概要

 我が国ではアレルギー疾患の有病率が急増しており、国民の約3割が何らかのアレルギー疾患に苦しんでいるという報告もある。特にスギ花粉症は、国民の10人に1人が罹患していると考えられ、国民健康上の重要な問題の1つとなっている。しかしながら本疾患の根本的治療法は今のところ存在せず、その有効な対策の確立は急務となっている。一方スギ花粉症の発症には様々な要因が関与しているため、その対策は多面的に実施される必要があり、研究においても各分野の研究者が連携した総合的研究が実施される必要がある。そこで本研究課題では、1.スギ花粉症の治療に関する研究、2.スギ花粉症の予防に関する研究、3.スギ花粉暴露回避に関する研究、という3つの研究領域を設定して、各領域において連携した研究開発を実施した。

2.事後評価の概要

 本研究チームは基礎・臨床医学、公衆衛生、環境、森林、気象といった多方面の研究者による学際色の強い構成でありながらも、各領域の連携による総合的なスギ花粉症対策の確立を目標とした研究が実施されており、研究代表者の指導性は概ね発揮されたものと考えられる。目標達成度、国民生活への波及効果についても、概ね一定の水準を達成しており、中間評価の反映度についても評価できるものである。しかしながら研究成果の水準、研究計画の適切さについては、サブテーマごとにやや格差が認められた。以上を総合して、本研究課題は全体としては優れた成果が得られていると評価することができるが、スギ花粉症は多数の国民が関心を有する問題であることから、今後成果が広く国民へ還元されるか否かで、本研究課題の真の価値が問われることになると考えられる。
 <総合評価:b.優れた成果が得られた研究であった>

3.追跡評価の結果概要

 本課題の実施により、花粉自動測定装置が開発され、東京都を中心とする関東圏で花粉飛散予報システムが開始された。課題実施後、この成果は環境庁のプロジェクトとなり、全国展開され、九州から東北地方で花粉飛散予報がテレビ等で情報発信されるようになり、花粉アレルギー患者の花粉曝露回避に役立ち、患者のQOLの向上に大いに貢献している。アレルギー疾患予防のための薬剤や花粉予防グッズの開発、森林管理手法の開発が継続されており、日本特有のスギ花粉アレルギー対策が着実に進展していると評価される。

1.実施期間終了後の当該課題の発展状況
 アンケートに回答いただいた8名全員が、その後もスギ花粉によるアレルギーの研究を推進している。その発展の一つとして、環境中の化学物質に対するアレルギー環境予防医学(広島大)や、アレルギー分子予防医学(高知大)を創生している。また研究の継続として以下の研究資金を獲得している。文科省科研費(基盤研究B(2))「環境中物質と好酸球関連蛋白遺伝子の相互作用解明によるアレルギー疾患の予防(1350万円、H17‐H19)」、JSTサテライト高知平成18年度研究成果実用化検討(FS)研究事業「アレルギー免疫予防用環境中化学物質除去特殊フィルターの開発(190万円、H18)」、JST産学共同シーズイノベーション化事業顕在化ステージ「アレルギー発症予防用特殊フィルターの開発(494万円、H18)」、厚生労働科研費補助金「スギ花粉症およびダニアレルギーに対する新しい免疫療法の開発(1.5億円、H18‐H20)、厚生労働科研費補助金・免疫アレルギー疾患予防・治療研究事業において「気管支喘息の有病率・罹患率およびQOLに関する全年齢階級別全国調査(670万円、H16‐H20)」ならびに「気管支喘息難治・重症化の病因・病態の解明に関する研究(550万円、H16‐H20)」などの疾患治療、先端技術を活用した農林水産研究高度化事業「スギ雄性不捻の品種改良と大量生産技術の確立(H16‐H18、5000万円)」、新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業「スギ雄花形成の機構解明と抑制技術の高度化に関する研究(H18‐H20,13800万円)」など多くの競争的資金が採択されている。本課題で開発した花粉暴露装置は、企業による花粉症グッズの効果判定の有力な手段であることが実証され、本課題終了後、企業による新規マスクの工夫と開発を促進している。

2.当該課題によって生み出された成果・波及効果
 本課題の最も大きな成果は、スギ花粉飛散観測システムと花粉飛散予報である。東京都がスギ花粉のデータを集積していたが、本課題により花粉観測システム(花粉自動観測装置を開発)を本格的に導入し、気象庁からの参画者から提供される気象予報データと組み合わせ、狭い地域(5kmメッシュ)での時間単位の花粉飛散予報を関東圏の一部で実用化した。この成果はその後、環境省のプロジェクト(H15‐H20)に引き継がれ、九州から東北地方の花粉アレルギーが発症する日本全域において花粉飛散予報システムが実用化され、日々の天気予報で報道されている。この予報は花粉曝露回避によりアレルギー発症を抑え、アレルギー患者のQOLの向上に大いに寄与している。
 また、高知産業振興基金(地域研究成果事業化支援事業)「アレルギー発症予防フィルター剤の事業化(H20年度)」により、高性能のアレルギー発症予防フィルターの開発が促進され、平成22年度の実用化を控え最終段階にある。さらに花粉アレルギーに効果のある人T細胞エビトープを連結したペプチド製剤の臨床試験が実施されるなど、本課題実施中には十分達成できなかった花粉アレルギー製剤の実用化に向けて研究が進展している。
 一方、アレルギー発症予防のための化学物質除去フィルターの開発は、多糖類の分子量の大きさに着目して開発した液体フィルターに辿り着き、平成20年度JST顕在化ステージ「超高分子量硫酸化多糖類を用いた高性能皮膚コーティング剤の開発」に採択されるなどの波及効果が見られる。

3.当該研究に対する国内外の評価
 欧州は牧草からの花粉アレルギーがあるが飛散距離が短い。アメリカではブタ草アレルギーがあるが、雑草であり飛散量が少ないという事情がある。そのため、スギ花粉のように広域に飛散する花粉アレルギーの飛散予測、予防マスク、アレルギー製剤などの研究は日本が進んでおり、欧米からの問い合わせや招待講演が多く世界から注目されている。

4.過去の評価の妥当性

 事後評価において、総合評価はb、9つある個別評価はbが5個、cが4個であった。課題終了後の発展、成果、波及効果を調査した結果、事後評価の結果は概ね妥当であったと判断できる。
 なお本生活者ニーズプログラムに関しては、このような視点で研究テーマを募集した前例はなく意義があったと、回答していただいた全員から好意的な意見が寄せられた。今後もこのようなプログラムを継続して欲しいとの要望が多かった。その時のテーマとして、

  1. 震災時における健康と生活の復興を促す総合的研究、
  2. 子供の心の健全化のための総合的研究、
  3. 色の安全に関する総合的研究、
  4. 高齢者の生活と健康に関する研究、
  5. 気象、環境の変化による健康への影響とそこから導かれる予防対策に関する研究、

 などの提案があった。一方、審査・評価の委員が特定の領域・分野に偏っているのではないか、との意見があった。

「都市ゴミの生分解性プラスチック化による生活排水・廃棄物処理システムの構築」

白井 義人(H10~H15):取り纏め機関;九州工業大学

1.課題概要

 生ゴミは分別が難しく、都市での需要も少ない肥・飼料への資源化が主であり、新規で革新的な資源化(高付加価値化)システムの実現が望まれている。また、都市生活においては、容易にかつ確実に生ゴミの分別を達成できるシステムと、それにより回収された生ゴミを都市でも十分な需要があり、かつ付加価値の高い製品としてリサイクルする方法を有機的に組み合せることが理想である。
 本研究は、このような状況に鑑み、生ゴミをはじめとする有機廃棄物の家庭からの分別・輸送と、それらを資源とし高付加価値で需要の大きな製品へと変換することを中心とした新たな都市システムの実現を目指し、(1)生ゴミ中の有効成分を保持できるディスポーザ・輸送システムの確立、(2)有用成分が保持された生ゴミの高機能製品への変換と利用、(3)既存ディスポ‐ザによって回収される低品位有機成分の高付加価値製品への変換、(4)生ゴミ起源の有機廃棄物の高付加価値製品を組み込んだ新都市システムの設計・導入に関する課題と実現へのシナリオの提案及び(5)新都市システム実現のためのエネルギー評価とその確保を目標に調査研究を行うものである。

2.事後評価の概要

 本研究では、都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築という目標の下、循環型社会形成政策に組み込める生ゴミの減量化・資源化方策、都市排水処理システムの有効活用方策、都市環境評価システムなどに関する技術開発及び提案など、多角的な研究に取り組んでおり、これらの内容は概ね第1期の成果及びその中間結果を反映していると判断されることから、所期の目標はほぼ達成されていると評価できる。生ゴミ・下水汚泥の資源化技術として、従来のメタン発酵に代わるプラスチック・ガソリンの製造技術を確立し、ケーススタディにより実用の可能性を示した点、生活者フォーラムとの交流など研究の進め方に工夫も認められる。
 ただし、本研究で開発された技術やシステムの実用化のためには、システム全体としての環境性・経済性に関するさらなる評価が必要と思われ、生ゴミの処理システム全体として実用化するためには、経済性などについても検討が必要である。

3.追跡評価の結果概要

 本課題を契機として、排水・廃棄物等の高付加価値資源化に係る新たな研究分野が創出されており、農水省、経産省、地方自治体等の支援を受けたプロジェクトも開始されている。特に、平成17年度からはNPO法人によるリサイクル事業も開始され、生活者ニーズを反映させるという本プログラムのコンセプトは有効に機能したと考えられる。また、事後評価時にコメントのあった経済性に関わる研究開発も進められており、持続可能な循環型社会の実現に向け、本課題は発展していると言える。
 1.実施期間終了後の当該課題の発展状況
 バイオマスプラスチックのリサイクル、バイオマスの微生物変換反応、燃料電池への展開を目指したバイオ由来の燃料、廃棄物処理・資源化に関わる環境会計等、新たな研究分野が創生されている。また、バイオマス、ポリ乳酸素材のリサイクル、畜産糞尿のプラスチック原料化、有機廃棄物等に関する新たなプロジェクトが、農水省、経産省、地方自治体の支援の下で推進されている。
 2.当該課題によって生み出された成果・波及効果
 本課題の成果を基に、NPO法人北九州エコ・サポーターズがポリ乳酸製カップのリサイクル事業を平成17年度から開始している。また、本課題が関係する研究開発を通じて、循環型社会構築のための産官学の連携強化、生分解性プラスチックの普及促進、低炭素社会実現に向けた循環型社会の実現に向けた取組みの活性化に貢献している
 3.当該研究に対する国内外の評価
 海外での招待講演を含む多数の依頼講演や関係府省での新たな研究課題の創出にも繋がっており、国内外の評価は高い。また、循環型社会における環境ビジネス、ディスポーザ導入による低炭素型ライフスタイルの提示、生活者環境フォーラムの開催等を通じて、広く関心を集めている。

4.過去の評価の妥当性

 ポリ乳酸製カップのリサイクル事業をはじめとし、バイオマス、畜産糞尿等の高付加価値資源化に関する新たな研究分野・研究課題が創出されており、過去の評価は妥当であったと言える。特に、リサイクル事業が開始されたことから、生活者と意見交換をする中で研究を発展させる本プログラムのコンセプトは有効に機能したと考えられる。また、追跡調査の中で本プログラムの終了を惜しむ声も聞かれた。
 近年は持続可能な循環社会の達成が重要かつ喫緊の課題となっている。近年は持続可能な循環社会の達成が重要かつ喫緊の課題となっており、これまでのマテリアルフローを抜本的に見直し、生態系でのマテリアルフローを社会に引き込む等、新しいシステム構築が求められている。社会ニーズも含めた幸せ度の向上という観点を踏まえ、事業家も加えた形で実用化シナリオを明確にし、5年、10年単位で社会的な実証も含めた取組みを進めることが重要と考えられる。

「疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究」

渡辺 恭良(H11~H16):取り纏め機関;大阪市立大学

1.課題概要

 疲労は、既にその対処法が考案されている疼痛及び発熱と同様、重要な生体アラームの一つと考えられているが、これまで疲労メカニズムについての解明はほとんど進んでおらず、それに対処するための科学技術の検討・確立が求められている。本研究は、「国民の疲労制御技術の開発研究」を中心課題として行い、その中で本質的に「疲労の定量評価」と「治療・予防」という側面から研究を行い、「疲労の分子神経メカニズム」に関する研究を統合的に整理し、より疲労の本質に迫る研究を行うことにより、疲労制御技術の開発に活かすことを目指すものである。

2.事後評価の概要

 疲労は社会的要請性、国民の関心が非常に高く重要なテーマであると考えられるが、これまで基盤研究・臨床研究のいずれの方面においても十分取り上げられておらず、プロジェクト開始時には研究方法論も確立されていなかった。それを考慮すると疲労を研究テーマとしたことは、生活・社会基盤研究として適切なテーマであったと思われる。
 なお、疲労を一般的な疲労とCFS(慢性疲労症候群)の2つに分けて「疲労の機序解明と制御技術の開発」という面から取り組み、研究手法・体制の両面にわたって枠組みを構築した点、数種類の疲労モデル動物を作成してその解析を通じて疲労物質の候補を発見し、末梢・中枢での疲労のメカニズムの仮説を導き出した点などは一定の評価ができる。また、一般向けの成果普及活動や啓蒙努力により疲労研究を世間に知らしめたことや、日本疲労学会、国際疲労研究センター、疲労クリニカルセンター、抗疲労食薬開発センターなど、疲労に関して基礎から臨床に至る研究を実施するための組織的基盤を整備したことも評価できる。
 しかし、疲労感の分子・神経メカニズムとその防御を研究課題として、CFSの病態の多様性は示されたが、疾患の本態は依然として不明であると考えられる。
 研究対象が広範である「疲労」をテーマとするには、まず「疲労」の定義づけや状態の分類をしっかりと行い、研究全体として力を注ぐべき方向を絞り、そこから研究の領域を広げた後、各々の研究を進め、その意義を出していく必要性があると思われる。
 以上のことから、本研究は期待したほどではなかったが一定の業績が挙げられていると評価される。

<総合評価:C.一定の業績が挙げられている。>

3.追跡評価の結果概要

 本課題は、これまで総合的な取り組みがなされてこなかった疲労に対して取り組み、病院内に新たに疲労専門の診療科を開設し、日本疲労学会や国際疲労学会を創設している。また特定保健用食品の疲労に対する評価・測定方法を提案し、組織化するなど、研究者人口を増やし、専門家から民間企業・一般人まで広く感心を高める成果ならびに活動を展開している。課題実施中には解明できなかった疲労のメカニズムや疲労を軽減する物質の同定も進み、着実に疲労の実体に迫っており、大いに進展していると判断できる。

1.実施期間終了後の当該課題の発展状況
 本課題の成果を基盤に大阪市立大学の21世紀COE「疲労克服研究教育拠点の形成」(H16‐20)が採択され、1)国際疲労研究センター、2)疲労クリニカルセンター、3)抗疲労食薬開発センターを開設し、疲労の研究ならびに疲労に効果のある食品や薬の開発から疲労を訴える患者の治療にも応じる体制を構築している。さらに科研費補助金(基盤研究C)「脳血管障害による発熱の分子細胞メカニズムの解明(H19‐H20、350万円)」、科研費(基盤研究C)「免疫学的ストレスによる情報行動の脳内機序とその条件づけ(H17‐H18,380万円)」、林野庁「遺伝子組み換えによる花粉発生制御技術等の開発事業(H20‐H24、7500万円)」などの研究費を獲得し研究が継続している。国際疲労学会は、課題実施中の2002年と2005年に開催し、課題終了後の2008年。第三回国際疲労学会を開催している。いずれも日本人研究者が中心となっている。また日本では疲労の研究会レベルの活動であったものを研究会を統合する形で日本疲労学会(平成17年4月設立)を設立し、疲労の科学の研究者のネットワーク作りに貢献している。産業応用としては、特定保険用食品の開発を目指す「癒し・抗疲労ビジネス開発研究会」を立ち上げている。また「抗疲労食品・薬品」の開発を目的とし、大阪市、大阪市大等の大学、製薬・食品メーカー、株式会社総合医科学研究所が参加する産官学連携疲労プロジェクトを立ち上げ(2003‐2007年)、食品メーカー3社から厚生労働省に「抗疲労」をヘルスクレームとした特定保健用食品の申請がなされている、など幅広い活動を展開している。

2.当該課題によって生み出された成果・波及効果
 疲労の度合いを測定する問診法、自律神経の活動の測定や唾液中の成分変化の測定などの定量的客観的な測定法が病院では実用化されている。具体的には、健常者の疲労マーカーとして唾液HHV‐6 DNAを用いた簡易測定キットが開発段階である。日本疲労学会において、「抗疲労臨床評価ガイドライン」を取りまとめ、研究の標準化、一般化に取り組んでいる。大阪市立大病院では疲労専門の診療科目が開設されている。疲労の定量的評価方法を開発して、メーカーの抗疲労食品の開発に貢献した。

3.当該研究に対する国内外の評価
 これまで総合的な取り組みがなされてこなかった疲労の科学に焦点を当て研究を進め、日本疲労学会ならびに国際疲労学会を設立し国内外に疲労に関連する研究者のネットワークを作るなど大いに注目されている。国際疲労学会は日本人研究者が中心となって開催しており、日本の研究が世界を主導している。また特定保健用食品の開発にも研究情報を提供するなど産業界からも注目されている。NHK番組「サイエンスゼロ」や科学雑誌・新聞で頻繁に紹介されるなど一般の注目度も大変高い。

4.過去の評価の妥当性

 事後評価はCであった。この理由は、研究代表者の弁によると、評価委員長は電気生理の専門家であり微視的な生理的挙動に関心が高いため、疲労のような総合的で幅の広い研究を進めた我々の研究内容に精密さ・厳密さが欠けると判断されたようだとのことである。追跡評価の結果、参画した研究者らは疲労のメカニズム解明、専門家ネットワークの設立(学会)、疲労の測定方法、疲労診療科目の開設、抗疲労食品の開発など、実用的な側面も重視した研究活動を推進しており、その後の進展ならびに社会の注目度は大変高い。事後評価は学術的な側面を重視した評価であったと思われる。参画した研究者の意見として、第2期は実用化フェーズと位置づけられていることから意識的に実用化研究を進めて達成することができた、という高い評価がある一方、早急に結果を求めるプログラムは基礎研究を疎かにする、との意見もあった。研究代表者である渡辺先生は、疲労のような疾患は、現に患者も存在しており、メカニズムの解明と、現時点で可能な治療を施すことは両輪として進め、公的資金を国民に還元すべきである、との意見であった。本生活者ニーズプログラムに関しては、このような視点で研究テーマを募集した前例はなく、全員好意的な意見であった。調整費は、これまでの研究の枠組みにとらわれない研究分野に光を当てて頂ける、大変良い研究費との意見があった。今後もこのようなプログラムを実施して欲しいとの要望が多い。評価の基準に関して、このような生活者ニーズを捉えた研究の評価は難しいが、少なくとも評価の方法と評価基準を明確にする必要がある、との意見があった。テーマとしては、「国民の脳年齢を10歳若く保つための細胞レベルのエビデンスに基づいた研究プロジェクト」、「癌の発生母地と老化組織に関する研究プロジェクト」、「国民の幸福を考える脳科学と哲学の新領域」、「環境問題」、「食の安全」などの提案があった。

「高齢者の生活機能の維持・増進と社会参加を促進する地域システムに関する研究」

村上 和雄(H12~H16):取り纏め機関;財団法人 国際科学振興財団

1.課題概要

 これまでの高齢者の健康に関する研究は、高齢者の自立(WHO)として健康長寿及びQOLの検討・確保ならびに社会貢献の在り方等に重点を置いてきた。しかしながら、今後は、自立した高齢者が社会に貢献するとの考え方を更に進め「productivity(就労、無償労働、ボランティア活動等)の概念を構築」し、此らを基に、「ヘルスプロモーション(世界保健機関(WHO)提唱)」として個人(市民・住民)と地域(社会・行政)の双方の努力で実現させる方策が求められている。 本研究では、茨城県大洋村をフィールドに、本研究で開発した運動プログラムを中心とした健康増進策による生活機能及び精神的健康度の向上と医療経済的な効果の検証を目指す。また、21世紀の高齢社会における地域の「ヘルスプロモーション」として、健康増進策の在り方及びその具体的な方法論の開発を目指しつつ、「生きていて良かった・住んで良かった街づくり」の視点を併せた、安全・安心の日本型健康長寿社会の構築に対する基礎的な寄与を果たす課題として取り組むこととした。

2.事後評価の概要

 高齢化社会がますます進む中で、健康寿命を延長し、QOLを高め、社会参加を維持しつつ「productivity」を実現することは先進国が抱える重要課題である。本研究によって得られた運動と医療費の関連、遺伝子との関連、運動の危険性(血圧上昇等)、自治体の取組調査などの統合的な研究で得られた膨大な成果は、介護保険の改正法案やe‐health、また全国23市町村の健康施策にも活かされており、其の実証性からも研究レベルの高さを反映していると思われる。また、高齢者の健康度・体力を評価する基準を科学的に設定し、高齢者であってもオーダーメイドプログラムを策定し実行すれば、健康度・体力が改善されることを医療経済学的に実証したことは高く評価される。

3.追跡評価の結果概要

 本課題では平成の市町村合併直前の3300余市町村の健康づくり及び体力づくり事業の現況を網羅的かつ悉皆的に調査し(約100ページのアンケート/回収率100%~65。2%)、これを基に高齢者の社会貢献を可能にする心身および環境の要因を明らかにしている。これらの研究成果がヘルスプロモーションの思想を基にした健康・体力づくり事業の政策的展開に資するものとなっており、この意味において本課題は着実に成果を社会に還元したと考えられる。ただし、現在は個別研究をベースとした取り組みになっており、健康都市・健康長寿を基本とした街づくり・地域づくり・人づくりを一層発展させるためには、今後、包括的なプログラムの実施が望まれる。

1.実施期間終了後の当該課題の発展状況
 本課題は市町村/都道府県における健康・体力づくり計画の策定への貢献や地域保健での市(区)町村における具体的な進展とその方策に関する研究に発展している。特に、本課題の研究者が開発した体力づくりモデルシステムは、地域における健康・体力づくりのヘルスプロモーションツールとして普及する等、着実に社会への成果の還元が図られている。また、IT化への展開・応用による地域保健支援システム・同社会技術開発(プロトタイプ/モデル的実証実験)等の新しい試みにも挑戦中である。これらも含めて、課題終了後は研究担当者を中心に介護保険、地域保健、中高年関係等の分野における研究は進められているが、個別研究が主体となっている。

2.当該課題によって生み出された成果・波及効果
 本課題によって生み出された、高齢者の社会貢献を可能にする心身および環境の要因等に関する成果は、地域の保健・健康づくり体力づくり、特に、その網羅性かつ悉皆性から市町村合併の前後の基本情報としての価値が高く評価されている。また、双方向通信システム及びIP化を含むIT化による地域保健業務支援システムの開発におけるプロトタイプも完成している。さらに、自治体の高齢者の活性化のプログラムの中に社会貢献がとり込まれ、社会が高齢者を支えるのみでなく、高齢者が社会を支えるコンセプトが広がっている。

3.当該研究に対する国内外の評価
 本課題では社会老年学、国際体力科学会をはじめとする関連分野において、多数の成果を国内外に情報発信しており、高い評価を受けている。また、本課題によって生み出されたさまざまな成果は、地域保健領域及び公衆衛生学領域で、地域保健・健康づくり体力づくりの制度設計に欠くことの出来ない貴重な情報・資料として評価・活用され、政策的反映がなされている。

4.過去の評価の妥当性

 本課題は地域保健における地区・地域・圏域健康度ならびに業務・事業評価の指標として貢献しており、過去の評価は妥当であったと考えられる。ただし、現在は個別研究を主体とした取り組みであり、喫緊の重要課題である健康領域(安全・安心の日本型健康長寿社会の構築)など健康都市・健康長寿を基本とした街づくり・地域づくり・人づくり等を発展させるためには、今後において、ヘルスプロモーションの新基軸・時代性に沿った包括的なプログラムの実施が望まれる。

「食品中の非栄養性機能物質の解析と体系化に関する研究」

荒井 綜一(H12~H16):取り纏め機関;東京農業大学

1.課題概要

 21世紀を迎えた今日、先進諸国では、がん、アレルギー、感染症、肥満症、糖尿病、高脂血症といった生活習慣病の激増が大きな社会問題になっており、日常の食生活の中でこれらの疾病を未然に防ぐ可能性を求めて機能性食品科学が国際的に発展してきた。食品中には、既知の栄養素のほかに生理・薬理機能をもつ物質が多数存在し、特にポリフェノール、テルペノイド、揮発性物質、ペプチドなどが疾病予防の機能を有することが明らかになってきている。しかし、国際的に見て、この分野の研究は未だ体系的に行われておらず、学術的体系化も不備である。
 本研究は、我が国が世界に先駆けて「食による疾病予防」の科学的、技術的根拠の提示、産業への波及効果を通して具体的な社会貢献を行うことを目的に、非栄養性の機能物質の含量測定や機能評価のみならず安全評価も行い、さらに、当該分野の既知の知見を再評価することにより、それらの知見の標準化・集積を行い、各分野で利用されやすいデータベースの構築を目指すものである。

2.事後評価の概要

 本研究により、ポリフェノール、カロテノイド、ペプチド等の食品中の各非栄養性機能物質に関して、科学的評価法の確立、食品中含量の網羅的測定を行い、データベース化したことは、地道な研究であるもののその意義は大きく、食品研究の基盤としてこの分野の研究者の幅広い活用が予想される。機能性食品全体の領域が体系化されつつあることは、今後、機能性食品やサプリメントの新規開発において、その生理・薬理機能を科学的に検証する強力なツールとなり得ることから、その早期実現が強く望まれる。
 一方、トランスクリプトームを用いた非栄養性物質の機能解析の試みは、今後、血清プロテオーム・メタボロームの手法を取り入れてニュートリゲノミクス(栄養ゲノム科学)に発展させていく必要があると考える。このようにして取得したデータについては、専門家による審査・評価(ピアレビュー)を受けることにより、高い信頼性の付与が必要であると考えられる。また、これら機能性食品の生理・薬理機能や安全性等を市民にどのように伝えるのか、今後の検討課題としてもらいたい。
 以上より、優れた業績が挙げられていると評価できる。

<総合評価:A>

3.追跡評価の結果概要

 本課題で開発した、食品中の各非栄養性機能物質に関する科学的評価法の確立、食品中含量の網羅的測定、その結果をまとめたデータベースの公開は、食品研究の基盤としてこの分野の研究者の幅広い活用に展開した。地道な研究であるものの国外からの評価も高くその意義は大変大きかった。また「食品機能性および安全性の評価」という研究分野が創成された点もこの分野の研究の発展がうかがえる。本課題終了後も、多くの研究資金を獲得できており、また機能性食品の開発に貢献しており、本課題はその後も順調に進捗し成果を上げている。

1.実施期間終了後の当該課題の発展状況
 本課題終了後、食品成分中から実際に人に有効な疾患予防成分を見つけ出す新規の「食品機能性および安全性の評価」という研究分野が創成された。それにより皮膚の光老化抑制における食品機能成分の作用機構の研究が進められている。国立健康栄養研究所では食品保健プログラムにおいて食品機能プロジェクトとして研究を継続している。
 研究に関しては、以下に示すような競争的資金を獲得しており、研究が継続していることがわかる。農水省:生物系産業創出のための異分野融合研究支援事業「味覚修飾蛋白質ネオクリンとそのバリアントの機能解析・用途開発」H19‐23 (3億円)、神奈川県神奈川科学技術アカデミー:「食の安全・安心プロジェクト」H20‐22(1.5億円)、生物系産業創出のための異分野融合研究支援事業の「昆布フコキサンチンを利用した食べ易い微粉末食品の開発」、H18年‐H22、総予算約3億円、科学研究費基盤研究(C):「生体膜における植物ポリフェノールの動態解析」H17‐H18, 350万円、「植物ポリフェノールと生体成分との分子間相互作用」H19‐H20, 420万円、科学研究費補助金・基盤研究(B)「大豆イソフラボン代謝産物に着目した骨粗鬆症の予防に関する研究」、H19年~H21、総予算(予定):1,500万円、グローバルCOEプログラム(静岡県立大学:健康長寿科学教育研究の戦略的新展開)。これらのプロジェクトと並行して多くの企業からの共同研究の要請が来るようになった。

2.当該課題によって生み出された成果・波及効果
 非栄養性機能物質を「機能性食品因子データベース(http://www.nihn.go.jp/)」として公開したことにより、様々な食品を摂取した時の総ポリフェノール摂取量を簡単に見積もることが可能となった。これにより、栄養士や学校教員が非栄養性物質の摂取量を勘案した献立を考えることが可能となった。学術的には、非栄養性機能物質を含む食品の摂取に関する包括的健康影響の疫学調査を進める原動力となっている。現在数多くの生理活性ペプチドが食品タンパク質から単離され、それらの応用による疾病予防へと展開している。
 ブラジル産プロポリスのプレニル化合物、アルテピリンCはがんや炎症予防に有効であることを見出し、これを商品として企業が販売にこぎ着けている。また、甘草のグラブリジンもプレニル化合物であるが、これも企業が特定保健用食品の認可を得ている。またいくつかのペプチド性機能性食品が上市されるようになってきている。
 また、本課題の研究成果を朝倉書店より「機能性食品の事典」として発刊し、食品産業関係者や報道関係者にとって機能物質の辞典的役割も果たしており大変好評である。

3.当該研究に対する国内外の評価
 本課題の成果により、第3回国際ポリフェノール学会(3rd International Conference on Polyphenols and Health)(平成19年京都)の日本開催につながった。このプロジェクトに引き続いて、多くの企業からの共同研究の要請があるようになった。
 アメリカ化学会やEUの関連学協会で、日本発の機能性食品の実用性に関して注目が集まり、多くのシンポジウムが開催されている。また、外国の調査団が日本の研究機関へ視察に来る機会が増加している。
 食品中のポリフェノール類、カロテノイド、含硫化合物等についてのデータベースは非常に高い評価をうけ英語飯の公開を希望する声がある。一般栄養素のデータベースもすべて併記してあるのは国内でも本データベースのみであるので栄養学の面でも利用されている。「機能性食品の事典」は学術的にも社会的にも大変好評で、再版の予定である。

4.過去の評価の妥当性

 本課題の事後評価はAであった。追跡評価の結果、本課題はその後「食品機能性および安全性の評価」という研究分野を創成し、参画した研究者らは非栄養性機能物質の探索と実用化を推進し、彼らは世界的にも注目される存在となっており、評価結果は妥当であったと判断する。
 以下、回答いただいた研究者からの意見を記す。本生活者ニーズプログラムに関し、第1期と2期でプログラムの修正を行うことで成果が得やすかったとしており、2期制の評価は高い。実用化(製品開発)を視野に入れ、1期はそのための基礎研究を行った。したがって第1期→2期は、目標に向かって加速するように研究が進展し、とてもよかったとしている。本プログラムの長所としては、構成メンバーに研究目的を常に意識させる点と、2期目に構成メンバーの入れ替えがスムーズに行えた点である。短所は、真の意味での実用化に結びつく研究は第2期の研究期間が(たまたまか?)2年と短いことから、なかなか出てこないと指摘している。一方、「実用化」という言葉に馴染みにくかったという研究者もいた。食品は人類共通の必需品なので、実用化は独占と差別につながりやすいので注意が必要との意見があった。総じて、現代の日本における「生活者ニーズ」に視点を置く研究が実施されることは非常に意義が高いと評価している。
 今後も、食品の機能性が真に疾病予防に貢献できるかの具体的な手法を確立する必要がある。具体的にはヒトにおける大規模な介入試験を行うと共に、食品の機能単独の研究ではなく、疾病との関連や、運動などの個人のライフスタイルとの関連で食品の機能を評価していく研究プロジェクトを希望している。健康で長寿に向けた「機能性食品の創出のためのサイエンス」は、産・官・学で取り組む緊急性を要する重要なプログラムであるとしている。一般に大学における食品関係の研究室は小規模なものが多いので、これらを組織化して束ねるプログラムにより、より大きな成果もしくは難題の解決ができるとの意見があった。公開しているデータベースも新規データの追加が停滞しており、新たな研究プロジェクトの開始が望まれる。
 今後、公募するテーマとして以下の提案があった。1.疾病予防食品開発プログラム、2.自然の原理に逆らわない利便すぎない生活の重要性を認識させる教育と実践プログラム:例、食品、エネルギー分野など。食と健康の問題は永遠の課題で派生部分も多い。機能食品に関連する部分は国際的にもcompetitiveな領域であり、継続した研究支援を望むとの声があった。

(添付資料2)地域先導研究プログラム追跡評価

~追跡調査対象14課題:各課題調査結果~ 

「地域先導研究」プログラム 調査対象課題:14課題

1)平成12年度に事後評価を受けた課題
 1.相模湖・津久井湖の藻類による汚濁機構解明とその浄化・資源化技術に関する研究(神奈川県)
 2.富山県域の雪の特性解明と利雪に関する高度利用研究(富山県)
 3.地域糖質資源の高機能化と環境調和型利用システムの基盤研究(鹿児島県)

2)平成13年度に事後評価を受けた課題
 1.こめぬかを原料とする環境に適合した有機工業化学に関する基礎研究 (和歌山県)
 2.醸造微生物機能の高度利用に関する研究 (広島県)
 3.室戸海洋深層水の特性把握および機能解明 (高知県)

3) 平成14年度に事後評価を受けた課題
 1.海洋生物由来DNAの新機能材料化に関する研究(北海道)
 2.バイオマス有効利用のための高度な微生物制御技術に関する基礎研究(熊本県)    
 3.新規微生物酵素による希少糖類生産システムの開発とこれを用いたもみがら等の地域未利用資源の有効利用に関する基盤研究(香川県)
 4.地域産業の発展に寄与する電磁波技術に関する研究(石川県)

4) 平成15年度に事後評価を受けた課題
 1.カビの酵素高生産能を利用した環境調和型工業プロセス技術の基盤研究(愛知県)
 2.積雪寒冷地における自然エネルギー利用技術の開発研究(青森県)
 3.伝統医学活用による生活習慣病克服と健康増進(富山県)
 4.微生物由来細胞認識・破壊タンパク質の作用機構解明と応用に関する研究(福岡県)

神奈川県課題:「津久井湖の藻類による汚濁機構解明とその浄化・資源化技術に関する研究」大垣眞一郎

(H9~H11):取り纏め機関; 神奈川県企画部科学技術振興課

1.課題概要

 本研究の内容は、
(1)湖水の富栄養化の機構解明に関する研究
(2)藻類の産生するカビ臭と有毒化合物の制御に関する研究
(3)水質浄化方法とその浄化装置の研究開発
(4)富栄養化により生産される有機物の資源化に関する研究
(5)水道水源としての水質の評価に関する研究

であり、相模湖・津久井湖における水道水源としての安全性確保や湖の環境保全を目的に、富栄養化による水質悪化機構を明らかにするとともに、微生物の生物機能を活用したクリーンで省エネルギー型のエコテクノロジーによる環境修復の方法について研究を行う。
 これらの成果から、新しく生じている課題に対応した水環境保全技術体系を構築することによって、相模湖・津久井湖のみならず、ひいては、国内外の他の人造湖の環境修復にも広く貢献しようとするものである。

2.課題終了時の主な成果

(1)湖水の富栄養化の機構解明に際して、湖沼生態系における栄養塩、有機物等の物質循環と食物連鎖を記述する湖沼生態系数理モデルを構築した。また、津久井湖における湖水の三次元流動状況のシミュレーションを行った。
(2)ラン藻以外のカビ臭産生放線菌の単離に成功し、さらにカビ臭を増加させない殺藻剤の使用方法を明らかにした。
 湖水に発生するカビ臭や有毒化合物が相模湖・津久井湖のどのような種類の藻類から発生しているか解明するために、両方の湖のアオコである藍藻13種を明らかにし、基礎資料を提供した。
 藍藻類やミクロシスチンを分解する微生物の探索を行うために、微生物の溶藻性や分解性を評価するための方法を確立した。また、津久井湖及び相模湖を対象として、溶藻性および分解性を示す微生物の単離を行った。
 藻類を培養することなく構成種を検出できる遺伝子プローブを設計し、迅速モニタリング法を確立した。
(3)焼成木炭を微生物付着担体とした浄化装置を開発した。
 白金・チタン電極に微弱電流を流す電気化学的ミクロキスティス増殖制御技術を開発し、その実用化のため の装置を考案した。
 二酸化チタンと紫外線を用いた触媒反応による連続水処理装置を考案し、その効果を明らかにした。
(4)光合成細菌により、アオコ藻体を光水素生産の基質となる有機酸(乳酸)へ改質し、水素に効率良く転換する要素技術を開発した。
 最適な酵素を選定し、それを利用したアオコの糖化とエタノール生産システムを開発した。
 底泥を改質し、良好な園芸培土を作成する方法を開発した。
(5)トリハロメタン生成の前物質である湖水中有機物質について、その分子量分画特性等に着目した溶存有機物解析手法を確立した。このことにより、消毒技術、浄水処理技術、ダム湖管理手法の評価方法の見直しにつながることとなった。  

3.その後の展開

 水道原水に関連した研究課題の整理が進み、有機物の起源や変換過程を考慮した水質評価研究が進展した。
 県の研究費を得て、単離した分解菌を利用した湖沼浄化法の実用化研究が行われた。

(1)研究面の展開(新たな分野創成など)
   特になし。

(2)応用研究、実用化への展開
 応用研究:
 藻類の産生するカビ臭と有毒化合物の制御に関する研究では、単離した分解菌を利用した湖沼浄化法の実用化研究を行った。
 カビ臭の発生を含めた藻類のより詳細な分類が可能になったため、様々な影響を考慮したモニタリングが可能になった。
 単離した分解菌を利用した湖沼浄化法の実用化研究を行った。
 県の環境科学センタ‐,農業総合研究所、衛生研究所及び産業技術総合研究所を中心にアオコ発生機構解明のための測定法と湖中生態系等のモデル化などの物質循環を明らかにした。
 本課題で開発されたエタノール生産技術・装置は富栄養化により生産されるアオコだけに限らず、一般的な有機性廃棄物である生ゴミ・活性汚泥等へも適応でき、環境調和型のバイオコンバージョン技術を利用する有機性廃棄物資源化装置の開発につながっている。

実用化:
 本研究の成果であるミクロキスティスの大量増殖を抑制する技術は、研究後今日まで使用されている。
 紫外線を用いる水処理については、九州地区の貯水池及び中国の太湖で実用化につながった。

(3)その他、地域への貢献
 水道技術研究センターの研究プロジェクト(e‐WaterⅡ)のなかで、水質評価委員会が設置されて、全国水道水源の水質評価を行うことにつながった
 本研究で得られた基礎資料が日本アオコ図鑑(2007年)の出版につながった。
 遺伝子情報を用いた有毒を産生する微生物の検出法は各地方自治体機関へ普及した。
 行政課題に対応する研究課題として、引き続き県試験研究機関等を中心に研究成果の社会活用を行っている。

4.考察

(1)本課題実施がもたらしたもの
地域(神奈川県)における意義
 本研究における汚濁解明等により、県民の水源保全への理解と意識が深まり、2005年から水源の森林保全・再生、河川の保全・再生の特別対策事業を推進するための財源として、県税としての水源環境税の導入が認められた。

 一般
 藻類の種同定が出来る機関は少なく、本共同研究において数少ない国内の専門家と県内研究機関が共同研究を行ったことは貴重な経験となっている。
 霞ヶ浦など同様な問題を抱える他の湖に対して先駆的な研究事例となり、他の地域に波及している。

(2)地域によるサポートの状況
 本研究終了後、担当者が移動したり、あるいは神奈川県の担当部署が再編によりなくなったようで、プロジェクト成果の継承や継続性を保持しにくい状況にあった。一部の研究テーマでは、地方自治体の現場技術者への財政的かつ職務上の支援が得られなかったため継続できなかったものがある。

(3)地域プログラムのあり方
 異なるバックボーンの研究機関が強調して進めるには、リーダーシップを取りながらコーディネートする人材及び体制が県に継続的に必要である。
 旧国研や公設試において、組織・研究グループの再編成実施に伴い、研究プロジェクトで得られた経験、成果等がうまく引き継がれないケースがある。特に、担当者の異動が短期間に頻繁に行われる体制ではこの点が顕著であり、何らかの配慮、改善が望まれる。
 なお、公益に資する、こうした自然環境保全等を目的とする分野の研究では、基礎データの蓄積など基盤的な活動を長期的に支援することが必要である。

富山県課題:「富山県域の雪の特性解明と利雪に関する高度利用計画」森谷誠生

(H9~H11):取り纏め機関;財団法人日本気象協会北陸センター

1.  課題概要

 地域に密着した高度雪情報を発信するため、研究を通じて実施するドップラーレーダなどの最新リモートセンシングや、平野部から山岳域にわたる地上観測で得られる雪氷データを相互に利用し、広域的・立体的な降積雪などの地域特性を解明する。また並行して、応用研究に結びつく冷熱エネルギー等の基礎技術を確立するものである。

2.課題終了時の主な成果
  • 富山県域において、冬季にドップラーレーダ、高層気象観測、および、地上気象観測の立体的気象観測を実施し、大雪時の雪雲の挙動や構造など発達・減衰特性を把握、ドップラーレーダによる観測が、富山県域及び北陸地方における雪雲の現況把握に有効であることを示し、降雪予測手法実用化に向けて基礎的データを得た。
  • 本調査にて得られた観測成果にて、モデルの精度を検証・確認し、富山県域を対象とする局地気象モデル(富山県域;1kmメッシュ)を構築、また富山県域における降積雪の分布特性を把握した。
  • 多くの機関、研究者の協力により、北陸の豪雪地域また山岳地域における降積雪の状況や特性の調査検討が行われ、雪による被害軽減に向けて基盤研究が勢力的に実施され、基礎的データが集積された。
  • 雪の解凍エネルギーの利用など、雪の利用に向けた基盤的データも獲得。
3.その後の展開

(1)研究面の展開(新たな分野創成など)
 県単独事業(平成12年)「富山県域の雪の特性解明と利雪に関する高度利用研究」(富山県):にて研究継続が図られたが、本研究成果をシステム化した場合の運用費がネックとなり、研究継続は断念された。なお、個々のテーマの中には、空港周辺における観測強化など形を変えて応用また実用化に向けて検討が継続されたテーマが認められる。

(2)応用研究、実用化への展開
 応用研究:
 富山空港開設に際して、航空機の計器着陸ができないことから、気象庁レーダより詳細なレーダデータの取得要望が寄せられ、平成18年度、超小型ドップラーレーダを富山空港内に仮設置(実験局)し、本課題で得られた冬季雪雲データの有効性を再検討・確認し、結果を提供した。
 本研究にて得られた成果は、雪対策に向けた基盤データとして、その後の研究に個々に生かされた。

 実用化:
 富山空港において小型ドップラーレーダの運用を目指したが、経費面で折り合いがつかず、気象協会の資産(超小型レーダ)を富山空港で運用、Webによるホスティングサービスの独自コンテンツとして提供し、平成19年12月より、富山空港における超小型レーダによる空港周辺の雪雲の実況監視が開始された。 レーダサイトの周辺20kmにおいて、定量的にも充分な精度を有することが示されているこのシステムにより、気象庁レーダでは把握できない大雪やあられに伴う強いエコーの監視が可能となった。

(3)その他、地域への貢献
 富山空港の運用において、雪、氷などに対する対策上本課題成果が活用され、地域に貢献した。
 本研究で得られた種々基礎データ、また成果により、山岳部や豪雪地帯において、積雪予想が精密化され、積雪対策促進につながった。

4.考察

(1)本課題実施がもたらしたもの
地域における意義
 地域の雪対策に向けて、基盤的なデータを提供。対策に利用されて、地域に貢献したものと考えられる。課題終了後、本課題で目指された長期的な継続を必要とする研究の多くが、資金などの面より断念されたため、成果の貢献度を具体的に示すことは難しい状況にある。

一般
 積雪対策に向けて、基礎的情報を提供したものと捉えられる。なお、本地域外も含めて、山岳部などにおいて、本課題成果をもとに、積雪・融雪環境について過去のデータを洗い直す作業が行われ、データの改訂に繋がった。

(2)地域によるサポートの状況
 課題の企画、推進にあたり、種々支援が行われた。例として、富山県土木部港湾空港課による小型レーダ設置時の支援、有効性検討時の資料作成等の支援、等。また、県の支援による一年間の事業継続など、プロジェクト継続に向けた努力も行われた。

(3)地域プログラムのあり方
 本課題実施の効果を拡大していくためには、様々な解析や設備投資が新たに必要となり、県単独での展開は経費的にも難しい状況にあり、また、公益法人である気象協会が独自に行うこともできない状況にあった。こうした公益に資する基盤的先導的研究において、より広域に有用性が考えられる、あるいは実用化を目指して展開が図られた内容について、そうした研究を支援するプログラムが少なく思われる。地域をベースとした公益に資する研究展開の受け皿について、配慮が必要に思われる。

鹿児島県課題:「地域糖質資源の高機能化と環境調和型利用システムの基盤研究」檜作 進

(H9~H11):取り纏め機関;鹿児島県新産業育成財団

1.課題概要

 本研究は,澱粉を中心として,地域の資源である糖質資源に焦点を当て,地域産業の澱粉工業と焼酎製造業,クエン酸工業の振興に役立つ基盤研究を行おうとするものである。糖質資源の特色が生かせるように,育種の基礎技術の研究,新しい機能をもつ澱粉の設計・生産ができるような研究や澱粉から種々の医薬品を包接し,臓器特異性を持つような特殊なシクロデキストリンの合成などを目指す。また,糖質と合成高分子とのハイブリッドにより新しい物質の生産や用途など,萌芽的な研究も行う。
 南九州の高温・多湿の環境は,微生物の生育に適しており,その宝庫と言われている。この環境を生かして,澱粉をはじめとする植物多糖から有用物質の生産に必要な高機能の酵素を生産する微生物を探索し,その機能の解明及び工業的生産法,焼酎やクエン酸製造業等地域微生物工業への酵素の利用法の研究,また,地域農産副産物(澱粉粕や焼酎粕)から高機能性の単糖,オリゴ糖や生分解性プラスチックの生産及び水素発酵の研究も行う。

2.課題終了時の主な成果
  • 1,5‐アンヒドロフルクトース生産のための基礎研究
  • 澱粉粕から、機能性物質である食物繊維とペクチンの回収
  • 低温糊化でんぷん品種の育成「クイックスイート」
  • 地域産業への貢献として、焼酎製造において全く麹を用いない酵素剤仕込みによる香気を有する新しい製造技術が全国に先駆けて開発された。
3.その後の展開

(1)研究面の展開(新たな分野創成など)
 本課題実施が契機となって、H18年度、鹿児島大学では、焼酎について専門的な教育研究を行う我が国初の講座である焼酎学講座が開講された。

(2)応用研究、実用化への展開

応用研究:

  • 1,5‐アンヒドロフルクトース生産のための基本技術開発と食品への応用。これは後に都市エリア産学官連携促進事業(平成14年~16年)「食の安全と健康‐機能性食品等の研究開発」、地域新生コンソーシアム事業(平成17、18年)につながった。
  • 澱粉粕以外の未利用資源、例えば竹や焼酎粕などからの有用物質の生産に関する研究(実用化は初期投資の点で困難だった)
  • 低糊化でんぷん品種を用いた新食品の開発
  • サツマイモを原料とする焼酎製造法の改良を行い、焼酎粕を出さない、ゼロエミッション焼酎製造法の開発を行った。

実用化:

  • 1,5‐アンヒドロフルクトースの事業化に成功。平成20年度から販売を開始した。
  • 麹を用いない焼酎製造技術については、麹を用いることが「本格焼酎」表示の条件と変更されたために商品化が困難になった。
  • 「クイックスイート」をはじめ低温糊化でんぷん品種や系統が育成された。

(3)その他、地域への貢献
 焼酎作りに新しい技術を導入する機運が高まった。
 本研究を通して、導入された基盤設備や基本技術が、課題終了後の研究の進展に大きく貢献した。
 本課題終了後、今度は鹿児島大学理学部、農学部との連携のもとに鹿児島県バイオテクノロジー研究所を代表として、サツマイモの高アミロース化を中心とした研究を立ち上げ、現在も共同研究を進めている。

4.考察

(1)本課題実施がもたらしたもの
 地域(鹿児島県)における意義
 産学の連携がより活発になった。他の分野の研究者にも地方大学による大型予算獲得が刺激になった。鹿児島県も中央省庁に積極的に人を派遣して情報を集めるようになり、その結果いくつかの大型研究費の獲得に結びついた。

一般
 2001年、本課題の研究成果を基盤にして鹿児島大学初の大学発ベンチャーが設立された。

(2)地域によるサポートの状況
 県から、本課題終了後の研究継続に向けた大型プロジェクト獲得のための情報提供、文書作成などの支援がされた。また、コーディネーター・オフィス等のスペース及び各種ファシリティの提供がされた。

(3)地域プログラムのあり方
 研究者自体は、狭い地域内においても近隣の分野の研究者とテーマを知らないことが多く、また企業とのコンタクトもあまりない場合がある。多くの異質の人材をまとめて、プロジェクトを推進するためには、やはりよくトレーニングされたコーディネーターが必要である。地域の活性化に向けたプロジェクトの立案・実施のためには、農産物の生産や地元企業など地域の状況、大学の技術等に精通し、研究プロジェクトをマネージメントできるコーディネーターが必要である。
 最近の研究支援プログラムは、ライフサイエンスなど特定の分野に偏る傾向が見受けられるが、地方の大学等では、食料、エネルギー、環境といった地域固有の研究も数多くあり、地域のニーズに応え、地域の活性化を図るには、そのような分野の研究も手厚く支援されることが期待される。

和歌山県課題:「こめぬかを原料とする環境に適合した有機工業化学に関する基礎研究」谷口久次

(H11~H13):取り纏め機関;財団法人和歌山テクノ振興財団(現在財団法人わかやま産業振興財団)

1.課題概要

 原料を石油などの化石資源に頼ることなく、「米ぬか」から得られる再生可能資源を原料にした、新しい有機工業化学を構築する。具体的には、米ぬかから抽出されるガンマオリザノールよりフェルラ酸への大量生成法が課題実施者らにより確立されて、得られるフェルラ酸を原料に有機合成手法や酵素を用いた生化学的手法により誘導体を合成し、新規健康維持物質、化粧品材料、農業用薬品の創成などを目指してその活性を検討しようとするもの。

2.課題終了時の主な成果

 フェルラ酸を原料として約200種の誘導体を合成し、その中に、1)(動物レベルで)大腸がん発がんの抑制活性を示す物質(EGMP)、(2)抗酸化活性(フェルラ酸)、(3)紫外線吸収剤、(4)発芽調整作用(フェルラ酸)、(5)血糖降下作用(フェルラ酸)、(6)ソルビトール(市販品)と同程度の抗菌作用(フェルラ酸)を見出した。
 タンニン酸誘導体また分解物として31種類のポリフェノールを合成(生成)し、その生理活性を検討。ラジカル捕捉活性、抗酸化活性等を見出した。

3.その後の展開

(1)研究面の展開(新たな分野創成など)

  • 植物由来二次代謝産物の利用に向けて、その生理活性の検討や化学工業原料として検討する道を開いた(バイオマス利用研究に向け、バイオマスから有効な原料を得ることができることを示した)。
     国際学会開催(和歌山にて):
     International Symposium on Rice and Disease Prevention(2008年10月26‐27日:和歌山市)
     フェルラ酸関連課題:33課題あまり認められる(シエナ大学 ピサ大学(伊)、翰林大学(韓)、からの発表も含む)。
  • 本課題で実用に供された新たなフリーラジカル検出法が、天然物のラジカル捕捉作用の検出に利用さ れるようになった(共同研究が増加。新たな方法としてMethods in Mol. Biol.477巻2007年に掲載された)。

(2)応用研究、実用化への展開
 応用研究: (特許出願 多数)

  • フェルラ酸誘導体について、生理活性に関する検討が継続され、誘導体の一つEGMPについて発癌抑制活性及び安全性に関する検討が進められている。
  • フェルラ酸がアミロイドによる神経毒性を軽減することが見出され、その抗アルツハイマー活性について、臨床検討が行われている。
  • フェルラ酸に、糖尿病発症ラットを用いた検討にて、糖尿病性腎症抑制効果が認められ、医薬としての開発に向けて、製薬企業と共同研究を実施中である。
  • プラスチック合成原料として、フェルラ酸誘導体の開発研究を実施しつつある。石油代替原材料としての可能性を開く可能性有り(コスト低減が一つのポイントである)。
    (平成18年~19年度:戦略的研究開発プラン:和歌山県、
    平成19年~21年度:都市エリア産官学連携推進事業:文科省) 等 

  実用化:
 フェルラ酸が化粧品原料、食品添加物またその原料(バニリン原料等)、抗酸化剤として利用され、そのバルク売り上げは年々上昇の一途をたどっている。現在のバルク売り上げ:ほぼ4億円/年(工場出荷)。
 なお、フェルラ酸は食品添加物として平成7年に認可され(厚生省告示第160号)、その後バニリン原料としての利用等が始まったものの、その規模は小さなものであった。本実施課題の成果を基に、平成13年3月フェルラ酸が紫外線吸収用化粧品材料としても認可され(厚労省告示第158号)、化粧品への配合など、その利用が大きく拡大。年々規模増大の一途。
 さらに、新たな用途にも利用を拡大しつつある:
 (例)抗菌物質としての利用(繊維に捲き込む等)―試験使用中。
 抗認知症活性を期待したチューインガムへの配合など、現在臨床検討を実施中(医薬としての開発では無い)。
 天然物であるタンニン酸、さらに没食子酸の誘導体合成とその生理活性検討を継続し、新たに抗菌活性なども見出した。これら成果を応用して、コーヒー抽出ポリフェノール(クロロゲン酸)をコーヒーエキス(カフェノールR)として製品化(健康食品として添加して使用する)。バルク売り上げ:約1500万円/年。
 また、タンニン酸誘導体(ポリフェノール)を、その吸着活性に基づき、染色剤としても開発しつつあり、地場の工場にて試験使用中である。

(3)その他、地域への貢献
 地域での研究活動活性化に向けた地域コンソーシアムを基盤として本課題が実施され、和歌山県において、具体的な産学官連携のきっかけとなった。本課題実施により形成されたネットワークはその後も維持、拡大している。

4.考察

(1)本課題実施がもたらしたもの
地域(和歌山県)における意義
 和歌山県における、産官学連携のさきがけとなり、公設試験研究機関、大学、企業連携による初めての共同研究となり、その後の同地域における産学官連携事業を誘導する結果となった。すなわち、和歌山県における地域活性化を念頭においた地域研究推進事業の良いモデル、良い成功例となり、和歌山県など地域としてもこうした連携事業をさらに推進するべく、支援施策検討につながったと考えられる。
 また、本事業成果及びその後の展開に基づいて和歌山県により提案された、「環境調和資源・技術による機能性有機材料の開発」課題が、都市エリア産官学連携推進事業(H19‐H22)に採択され、この地域研究推進事業はその応用・実用化にむけてさらに発展しつつある。

一般
 バイオマスから有効物質また有用な化学原料が得られ、それが実際に実用に供され得ることが本課題実施にて示され、この分野の研究のさきがけとなり、良いモデルを提供したものと考えられる。
 本課題実施にて得られた化合物また成果にて、医薬品としての展開の可能性も模索されている。またその生産コスト低減が可能となれば、化成品材料としてもさらに大きな展開に結びつく可能性が考えられる。これらの開発に成功すれば、地域のみならず全国レベルでの大きな事業に展開し得るものと考えられれる。

(2)地域によるサポートの状況
 課題実施において中心となった研究者と県の担当者が一体となって、そのファンド獲得、研究体制確立に尽力。本課題を、和歌山県における実質的に始めての大規模な産官学連携事業として立ち上げた経緯があり、主に県が中心となって、その事業支援が行われた。産官学連携推進における和歌山県の良いモデルとして、その支援体制は現在も継続されている。

(3)地域プログラムのあり方
 本地域先導研究プログラムでは、産官学連携を目的として、企業における研究にも研究費を支給した。そのため、経済的基盤に弱みがある地場の企業(中小企業が殆ど)においても、良い機会と、参加することが可能となり、実質的な産学官連携を推進し得た、とのプロジェクト推進メンバーの意見。また企業サイドからも、大学や公設試験研究機関とのネットワークを構築し得て、基礎的な研究を行い、かつ実用化にもつなぐことができた。 可能性を広げることができた、とこの点での評判が高い。
 成功要因として、課題実施者、また県など地域の支援組織のメンバーものいずれもが、テーマに恵まれた点もあるが、本テーマを選択し、研究を推進またコオーディネートしたリーダーの力が大きいことを挙げた。 特に地域事業に関しては、事業を長期的に見据えて推進する優れたリーダーが必要と考えられる。また、支援組織、支援メンバーの役割も重要に思われる。
 また、最近の地域プログラムでは、得られたシーズの実用化を目指す内容が多いが、本プロジェクトの展開を例に挙げて、地域のネットワーク形成や、長期的な地域活動の基礎となり得るような、基礎的・先導的研究を対象とするプログラムの実施を希望する声も多々聞かれ、検討に値すると思われる。

広島県課題:「醸造微生物機能の高度利用に関する研究」宮川都吉

(H10~H12):取り纏め機関;財団法人広島県産業技術振興機構

1.課題概要

 H8より開始されていた広島県の「遺伝子工学を用いた糖脂質生産」共同研究での大学、企業、国研、公設試の連携を核に、さらに広島県内の醸造微生物研究資源を結集し、糖脂質だけでなく、機能性分子の生産、探索系の開発を行い、バイオ企業の創出、既存産業の高度化・高付加価値化を目指そうとした課題であった。

2.課題終了時の主な成果

 酵母を用いた有用物質探索系の構築では、酵母の持つ高等生物と共通システムを用いた検出系を構築し、既知ではあったが制がん作用を有することが知られる5物質を検出し、検出系の有効性を示した。また、糖脂質生産においては、新生産酵母取得、プロセス改良を行い高生産性化に結びつけた。不飽和脂肪酸の研究では、DHAの高生産菌株を見出し、アレルギー性鼻炎患者への有効性を確認した。また、ダニアレルギーワクチンの生産研究では、酵母による安定生産系を確立し、薬効面からの生成物の確認を行った。

3.その後の展開

(1)研究面の展開(新たな分野創成など)
 酵母を用いた探索系の研究に関連して、実施者がH17年日本農芸化学賞「酵母Ca2+シグナルの機能に関する分子生物学的研究」を受賞している。

(2)応用研究、実用化への展開
応用研究:
 本課題で構築した酵母を用いた探索系を用いて、企業や県外の大学との探索研究が行われた。企業との共同研究は完了したが、県外の大学とは、山菜起源の有用物質を見出し、現在も共同研究を継続している。また、本探索系の検討で偶然見つかってきたS‐アデノシルメチオニン産生を高める因子を用い、S‐アデノシルメチオニン高生産酵母の開発に成功し、実用化研究が進展している。

 糖脂質関連では、糖脂質の生産性改良研究が継続され、課題終了時の約3倍の生産性を達成し、今なお改良研究を継続している。最近になりこの糖脂質に抗炎症・抗アレルギー機能が見つかり、現在、企業への技術移転を検討している。
 また、課題実施期間中に糖脂質生産酵母が耐熱性リパーゼを副生していることを見出し、酵素メーカーにおいてこの耐熱性リパーゼの事業化評価が2年間行われたが事業化には至らなかった。一方、この耐熱性リパーゼを含む糖脂質培養液を用いた油系食品廃棄物の処理剤開発が、別の企業により行われたが、同企業が生ごみ処理機生産事業から撤退することになり、事業化は断念された。
 この糖脂質の生産がエマルジョンになることから開発された発酵制御用の計測システムについては、油を原料としたプロセスから排出される含油排水処理システムに応用する研究が進み、北広島、沖縄のバイオディーゼルプラントの排水施設にて実証実験中である。
 アレルゲンの生産研究は、患者のアレルギー原因感作抗原を特定する診断薬やテーラーメイド型ワクチンを創製するための基盤研究に発展している。また、プロバイオティックス効果も期待できる、表層アレルゲン提示乳酸菌の創製研究も行われている。

H15~17年   重点地域研究開発促進事業(JST研究成果活用プラザ)「次世代のスギ花粉症診断および治療技術の開発」等

実用化:
現在までに、実用化されているものはない。 

(3)その他、地域への貢献
 本課題の実施において構築された広島県の研究開発システムはその後も引き継がれ、研究開発予算の獲得や、県の研究開発関連人材の育成に貢献した。

4.考察

(1)本課題実施がもたらしたもの
地域における意義
 本課題は、広島県産業科学技術研究所に、先端研究を実施する大学や、県公設試の研究員を集約し、県の研究開発を推進するというシステム確立のきっかけとなった。このシステムは県公設試の研究員の育成システムにもなり、県の研究者のレベルアップにも貢献することになった。以後、H14からの文科省知的クラスター創成事業採択など、大型研究の実施に本課題での経験が活かされている。

一般
 人類の使用経験が長く、安全性が高いと思われる醸造用微生物に関する知見が増大した。大学の基礎研究者が清酒やビール発酵で用いられる実用酵母を扱うことにより、実験室酵母との違いを気づくきっかけともなった。

(2)地域によるサポートの状況
 本課題は、県が本課題実施以前より行っていた糖脂質に関わる研究開発テーマを中心に、醸造微生物に関わる研究者を集め、醸造微生物の基礎技術を高度化する目的で実施された。財団法人広島産業振興機構(広島県産業科学技術研究所)を中心によい研究体制が構築されていたものと考えられた。
 しかし、課題実施後は、県の方針変更や、担当部署の変更、担当者の異動等により、継続支援が縮小した。本課題のメインであった糖脂質生産研究は、広島県立食品工業センターの研究テーマとして、広島県の予算および一部農林水産省の補助金を得て研究を継続することになったが、十分な予算配分がなされたという状況ではなかった。

(3)地域プログラムのあり方
 本課題では醸造微生物に関する技術向上を目的に、4つのサブテーマの緩やかな連携で開始された。途中、実用化の要請が強くなったことも影響したと捉えられるが、次第に基礎研究者の実用化への意識が高まる傾向となった。結果として産官学連携強化のよいきっかけとなったようである。また、本課題の実施をモデルとした県の研究開発のシステムの構築にも役立っており、プログラムの意図が実現されたものと考えられた。
 なお、地域プログラム実施一般に関して、地元に関連の有力企業が少ないこと、そして研究開発当初から企業参画やコミットメントを求めることがなかなか難しいとの指摘があった。本プログラムが対象とした、地域に根ざす長期間の基盤的先導的研究実施の希望(ニーズ)はあることから、地域での基礎的・基盤的な研究にも企業参加を図るための仕組みが必要であろう。参画企業にも研究費を配分するなどの方策も有効と考えられる。

高知県課題:「室戸海洋深層水の特性把握および機能解明」福冨 兀

(H10~H12):取り纏め機関;財団法人高知県産業振興センター

1.課題概要

 本課題は、科学技術庁アクアマリン計画(S60年)に基づき利用可能となった高知県室戸海洋深層水を高知県固有の資源と捉え産業振興のために利活用するという県の方針のもと、当時様々な定性的効果が謳われ始めていた深層水の基本機能を科学的に解析するとともに、深層水の安全性の確認のために

2.課題終了時の主な成果

 本課題は、特性把握、食品利用、生活利用、健康・安全の4つのサブテーマに分かれ実施された。特性把握では、微量有機金属・金属・ビタミンB12量、水和形態、それらの季節変動等が明らかにされた。食品利用では、ゲル形成改善効果、含有塩類に発酵促進効果があることなどが明らかにされた。また、急性、亜急性毒性試験により安全性の確認がなされた。生活利用では、海洋深層水のもつ冨栄養・清浄性、低温性という機能が確認され、紅藻やヒラメ養殖に有効であること、深層水で培養した不稔性アオサ抽出物に発芽抑制物質が含まれることなどを見出した。健康・安全では深層水には環境汚染物質が少なく、含まれる塩分や、深層水中の物質に免疫賦活作用効果があることなどを見出した。

3.その後の展開

(1)研究面の展開(新たな分野創成など)
 深層水の持つ機能についてはおおよそ整理でき、本課題で得られた基礎的な知見がその後の深層水利用研究に活用されることとなった。また、国内他の地域15ヵ所余りの深層水採取設備新設のきっかけともなり、その周辺で行われた深層水利用研究の広がりにも貢献した。
 また、本課題は高知大学に深層水講座が設立される契機ともなり、地域での研究開発を担う人材養成に一役かっている。

(2)応用研究、実用化への展開
応用研究:
 深層水を利用した食品や化粧品などの開発研究が、高知県下の企業や県に誘致された企業において数多くなされた。また、水産関連ではトラフグの超早期採卵法の研究、アマダイ親魚養成の研究などが行われた。課題実施中に深層水より分離された海洋性微生物が産生する青紫色素研究も継続され、化粧品への応用研究がなされている。他に、海藻から分離した血糖値低下物質・抗皮膚炎物質の研究、深層水を利用した清酒における香気増加効果研究、深層水のミネラルバランスに関する商品化研究など、非常に多くの研究テーマを生み出した。

H13~14年 RSP(Regional Science Promotion) 事業「膜分離により成分調整された海洋深層水の食品利用技術の開発(工業技術センター)
H15~16年  重点化枠事業「海洋深層水機能性食品等の商品化研究費」(海洋深層水研究所他)
H13~17年 RSP事業(研究成果育成型)育成試験「海洋深層水による藻類の培養及び利用技術に関する研究」
H15年   水産庁沿岸漁業構造改善事業「海洋深層水利用のアオノリの周年栽培」 

実用化:
 本課題の成果は、間接的ではあるが、高知県の深層水利用製品の急激な売上成長(H10年26億円、H11年39億円、H12年105億円)に貢献したものと考えられる。現在、高知県の深層水利用製品の売上は150億円(清涼飲料水約42%、化粧品・ウェットティッシュなど非食品22%、菓子類9%)、製品600アイテム、関連企業約120社)に成長しており、県の経済へインパクトを与えている。
 本課題で検討された深層水の発酵促進機能は、大手ビール会社との深層水利用発泡酒共同開発に進展した。最終的には富山県の深層水を使用することになったが、深層水利用発砲酒は一時期、2000億円を上回る売上げがあったとされ、経済的意義は大きい。また、高知県ではこの大手ビール会社との共同研究で導入したアレイ技術を活用し、大気圏外での宇宙線にさらした酵母より有用な酵母を選定し、「宇宙酒」の製造販売にも及んでいる。
 本課題で明らかにされた深層水の低温性、清浄性を活用し、県の支援により新設された施設において、ヒラメ受精卵供給事業がH13年より開始された。高級スジアオノリの事業化も推進中である。

(3)その他、地域への貢献
 本課題の成果や実施者は、高知県や室戸市による、室戸市内の第二の取水設備建設や、深層水利用企業の誘致(誘致企業9社、直接雇用約190人(参考:室戸市の就労人口約10000人))にも影響を及ぼした。深層水利用企業の情報交換や研究成果の共有の場として県主導で設立された深層水企業クラブでの情報提供にも努めた。

4.考察

(1)本課題実施がもたらしたもの
地域における意義
 本課題の成果は、深層水利用商品開発に科学的な根拠を与え、深層水利用の促進に貢献したと言える。また、本課題は高知県の産業振興政策に則り、県、地元大学、公設試、企業が連携推進した初のプロジェクト研究であり。それまで学界での業績を主として求めてきた地方大学が、地域貢献を強く意識する契機ともなった。この時の経験がその後の県の研究開発力アップにも役立っている。

一般
 県の様々な産業振興策や、本課題により科学的な根拠を得て拡大した高知県の深層水利用研究は、日本各地での深層水利用研究を刺激することになった。本課題は、国内の深層水利用施設(15ヵ所程度)を中心とした深層水利用研究の先導的役目を果たしたと言える。深層水ブームは一段落したと言われるが、今なお、国内600~700億円の深層水利用製品が存在すると言われており、先導研究としての意義は大きいものであったと言える。

(2)地域によるサポートの状況
 県に深層水利用推進の専任者を複数名置き、本課題実施者や利用研究を推進する企業を巻き込み、地域の産官学が結集した推進体制が構築されていた。
 しかしながら、H15年以降、深層水利用製品の成長は鈍化し、さらなる成長のためには深層水の新たな機能発見が求められる段階に入っている。県はこうした研究成果に期待しつつも、県の主導による深層水利用振興の役割を終えたと判断しており、企業での自主的な利用開発段階へと移行しつつある。

(3)地域プログラムのあり方
 高知県での深層水利用産業振興は、研究開発と、県の積極的な産業振興策の相乗効果により、大きな成果に結びついた好例と考えられる。本プログラムは、応募代表者が県であったこと、県内の数多くの関連研究資源を特定課題に集中させうる規模であったことなど、プログラム設計意図が十分機能したものと考えられる。また、地域内の大学研究者が、学会での業績だけでなく、地域貢献の重要性に気づくきっかけともなっており、現在もこの時の経験が活かされている。本プログラムはこうした意識改革にとっても重要な役割を果たしたものと考えられる。
 なお、地域での課題として、深層水に続く、地域に密着した大型シーズがなかなか見いだせないこと、地域内に研究開発成果の受け皿となる関連地元産業が少ないこと等、問題点も指摘された。地域シーズ発掘には小回りの利く研究支援が適切と思われるが、本プログラムのように、産官学一体となってシーズの可能性を一度に広げるような研究の支援策も場合により必要と考える。また、その際は、企業参加が容易となるような工夫も考慮に値すると考える。

北海道課題:「海洋生物由来DNAの新機能材料化に関する研究」緒方直哉

(H11~H13):取り纏め機関;財団法人北海道科学技術振興センター

1.課題概要

 本課題は、電子産業が次第にホトニクス産業へ拡大・変貌しつつある状況を踏まえ、北海道の資源として大量に存在する鮭・ホタテ等のDNAを利用したDNA光素材の基礎研究を行ったものであった。当時、鮭・ホタテ等のDNAは食用、健康食品、化粧品、飼料用に用いられていたが、大半は廃棄されていた。また、東工大との共同研究において、DNAを基礎材料とする薄膜化技術が検討されており、DNAを光素材として研究する下地ができていた。こうした中、H11より、ホトニクス研究のために千歳市により設立された千歳科学技術大学を中心に、鮭、ホタテ等のDNAを非線形工学素子、光電変換素子、発光素子等の光学素材としての可能性検討する基礎研究が開始された。

2.課題終了時の主な成果

 本課題は、DNA大量生産・薄膜形成、光学特性評価、物性評価・用途展開の3つのサブテーマに分かれ運営され、光学材料に要求される純度のDNAの大量調製法の確立、およびその大量試作、加熱形成法による膜調製法の確立、DNAに様々な色素を添加することにより、様々な光特性を持つ光素材の開発、こうした光素材が使用後廃棄されるときに添加された有害な色素を膜から回収する方法などの成果を生み、3年の実施期間を終了した。

3.その後の展開

(1)研究面の展開(新たな分野創成など)
 DNAを用いる光素材の研究は、国内だけでなく、米国、仏、中国へと拡大し始めている。1st International Workshop on DNA Photonics March 27‐31, 2005, 2nd International workshop on DNA Biotronics,April 29 May 3, 2007, SPIE San Diego Conference,Nanobiosystems, Aug. 12‐14, 2008などの国際学会も開催された。今年開催されたSPIE2008学会では、米国9、日本7、仏3、他6ヵ国8題の発表があり、本課題はDNA光素材の研究の先駆けとなった。

(2)応用研究、実用化への展開
応用研究:
 北海道経済産業局、財団法人北海道科学技術総合振興センター,財団法人北海道中小企業総合支援センターの支援などを得て、DNA光素材としての実用化の検討が継続された。結果、既存の導電性高分子材料より優れた光増幅能が確認されたが、DNAの吸湿性に起因する安定性の低さが大きな課題であることがわかり、現在もその改良が続けられている。いまだ実用化には至っていないが、ガラスにDNA素材を封入する方法や、他の光素子素材として用いられる樹脂と共用する方法などが有望視されている。
 光素材以外にも、DNA膜の生体適合性、酸素や二酸化炭素の透過性に着目し、皮膚損傷保護膜、細胞培養・組織再生基板への応用研究もなされている。また、イオン電導性膜、分離膜、エレクトロニクス素子としての研究も行われた。

H13年 即効型地域新生コンソーシアム事業「海洋生物由来DNAからの光デバイスの開発」
H15~17年 科学技術振興調整費「高機能DNAによる情報通信技術の開発」等
H15~17年 独創的革新技術開発研究「DNAハイブリッド材料による高性能分離膜の応用開発に関する研究」
H18~19年 地域新生コンソーシアム研究開発事業「高純度DNAの皮膚損傷保護・治療膜及びウイルス吸着材料に開発」
H18~19年 北海道中小企業総合支援センター「高純度DNA材料を基板とする細胞培養と組織再生への応用」等

実用化:
 DNAが色素や有害物質を取り込む性質を応用した実用化検討が行われた。大手企業によるDNA利用排水処理検討は中断となってしまったが、中小企業総合事業団や北海道などの支援を得て、在北海道のベンチャー企業(資本金98百万円、従業員~30名)において、ダイオキシン類やピレン類の有害物質を効率的に除去するフィルター開発が行われ、近年タバコ用フィルターやエアコン用フィルターとして実用化された。現在、中国、韓国等で事業拡大中であり、同ベンチャー企業の成長を支えている。同ベンチャー企業では、環境用途開発として浄水器やマスクへの応用も検討中であり、近く上市予定である。

(3)その他、地域への貢献
 本課題を契機にした、DNAを用いた有害物質除去機能を有する製品が実用化されたが、製品でのDNA使用量は微々たるもので、地域のDNA供給能を顕著に増大させるレベルには至っていない。 

4.考察

(1)本課題実施がもたらしたもの
地域における意義
 千歳市は、千歳市が設立した公設民営の千歳科学技術大学を中核機関としてホトニクス研究や人材の供給を行い、地域に関連企業を誘致しホトニクス関連産業を振興して行こうとするホトニクスバレー構想を有している。本課題はこのような背景の中、千歳科学技術大学を中心にコーディネートされた初のホトニクス関連の大型プロジェクトであり、その経験がその後のホトニクス関連の研究提案に活かされた。同時に、本課題の実施は同地域でのホトニクス研究レベルの高さを印象づけることになり、千歳市のホトクニス関連企業誘致にも貢献したものと考えられる。
 また、本課題の取り纏め機関である財団法人北海道科学技術振興センターは、本課題の終了年であるH13に複数の北海道の研究開発関連組織を統合することにより設立されており、北海道の研究開発関連の事業運営にも何らかの影響を及ぼしたものと思われた。
 本課題で形成された人材ネットワークは、その後のDNA利用拡大研究にも貢献している。各用途での要求水準を満足するDNA調製法、DNA膜の調製法、調製した膜の基本性能評価などがこうした研究ネットワークを活用し行われた。課題に関連して建設されたDNA調製プラントもこうした研究に活用されてきた。

一般
 本課題は、北海道で大量に廃棄されるDNAを、単なる素材ではなく、光素材や膜などを製造するための化学素材として有効利用するというコンセプトを初めて示した研究であった。

(2)地域によるサポートの状況
 北海道経済産業局や、財団法人北海道科学技術総合振興センターおよび財団法人北海道中小企業総合支援センターの支援があった。

(3)地域プログラムのあり方
 本課題は、北海道のDNA資源に着目し、ホトニクス素材研究としての可能性検討を行ったものであった。ホトニクス材料としてはいまだ開発段階ではあるが、DNAという地域資源をもとに様々な有効利用研究が現在も継続されている。本プログラムはこうした地域資源の利用研究促進の先導的役割を果たしたといえる。また、千歳市ではホトニクスを地域産業のコア技術として育成することを考えており、こうしたコア技術強化のための基礎的研究を推進支援するという点においても、価値あるプログラムであったと考えられる。今後もこうした地域性を反映した先導的な研究開発支援事業継続が望まれる。 

熊本県課題:「バイオマス有効利用のための高度な微生物制御技術に関する基盤研究」岩原正且   

(H11~H13):取り纏め機関;財団法人 くまもとテクノポリス財団 (現在:財団法人熊本テクノ産業財団)

1.課題概要

 畜産や農業、発酵業関連廃棄物等(糞尿、柑橘系廃棄物、焼酎蒸留粕、大豆煮汁等)、熊本県にて産出される多様かつ大量の有機性廃棄物(バイオマス)を有用バイオマス資源として、利活用する新たな処理技術の開発を目指すもの。具体的には、バイオマスの陸上での画期的な処理法を目指し、バイオマスを有用物質に変換、濃縮回収すること、含まれる重金属など有害物質を除去し、残渣を再利用することなどを、微生物の活性を利用して成し遂げようとするもの。

2.課題終了時の主な成果

 微生物の代謝機能を活性化させ、バイオマスを処理し、有用物質生産・回収することを目指す技術開発においてコアとなる、イオン交換膜を利用する通電透析発酵法について、基盤研究が行われ、バイオマスが処理されそしてアミノ酸やGABAなどの有用物質がより効率良く生産、回収されて、その効果について実証が得られた。
 有害物質除去、微生物の活性化、有効物質の回収などの個々の技術についても開発研究が行われ、循環型処理に向けての基盤技術が確立された。

3.その後の展開

(1)研究面の展開(新たな分野創成など)
 都市エリア産学官連携促進事業熊本県南エリア「環境保全に資する陸上と海域のバイオマス循環システムの開発(H15年‐17年:文科省):本課題の成果に海域の環境保全に向けた研究を加えて、両面よりプロジェクトが推進された。

(2)応用研究、実用化への展開
応用研究:
 本課題にて開発されたイオン交換膜を利用する通電透析発酵法について、実験機を作成し、その実用化に向けて、開発が進められたが(前述都市エリア事業)、農業三法施行により、バイオマスを管理処理し、堆肥として土壌に戻すことが認められ、その陸上処理法開発の必要度、魅力が減じ、この面でも研究の推進力が弱まる形となった。

実用化:
 本課題実施にて実証されたイオン交換膜を用い、通電透析を行うことで濃厚に有機物質を含む溶液からもイオン性物質を除去できるとの知見は、食品や醸造メーカーなどにて(例えば濃縮ジュース生産過程などにおいて)、応用されている模様である。しかし、企業ノウハウとして公表されておらず、確認不可である。

(3)その他、地域への貢献
 環境保全の観点より、廃棄物処理に向け、住民運動の協力なども得つつ関係住民を捲き込む形で   課題が実施され、地域活動に対する貢献が認められた。環境立県を目指す熊本県の象徴的なプロジェクトとして、地域への貢献度は高いものであった。この体制は、都市エリア事業に継続され、海域の環境保全に向けた取り組みにおいて、より大きく展開された。

4.考察

(1)本課題実施がもたらしたもの
地域における意義
 環境立県を目指す熊本県の象徴的なプロジェクトとして、種々の地域活動とも連携して課題が実施され、地域への貢献度は高いものであった。農業三法施行により、廃棄物の陸上処理技術開発の必要度が減じた後も、その体制は海域の環境保全に向けたプロジェクトに継続された。

一般
 本課題にて開発された、イオン交換膜を利用する通電透析発酵法について、その汎用的な設備の開発も実施されている。まだ汎用実用機設置には至っていないものの、有機物を濃厚に含む溶液中における成分改変などを伴う工業プロセスにおいて、その成分抽出コンセプトは汎用化されている模様。

(2)地域によるサポートの状況
 中核コーディネーターに加えてコーディネーション担当者が置かれて、本プロジェクトの企画、立ち上げより、県が積極的に支援し、プロジェクトの推進を後押し。課題終了後もその成果の展開やプロジェクトの継続に向けて、企画面などにおいて支援。平成17年には、バイオフォレスト構想が立ち上げられ、環境保全と産業育成、県民の健康増進にむけ、本分野に対して支援施策が実施されている。

(3)地域プログラムのあり方
 本課題は、環境保全を目指す、地域の象徴的プロジェクトとして企画、そして実施された。この観点は、継続されており、法制面など社会環境の変化に伴って、必要な廃棄物の取り扱いや処理方法に変化が現れて、検討の方向、また目指す内容を少しづつ変える形にはなっているものの、研究・開発は継続、地域施策と関連付けられ、地域への貢献も図られている。
 こうした地域による地域施策の一環として、地域の象徴的プロジェクトとして企画、そして実施されるプロジェクトが、本地域先導研究プログラムにはいくつか認められ、そうしたプロジェクトでは、地域支援も厚く、プログラム課題終了後もプロジェクトとして継続される傾向にあり、本プロジェクト同様地域貢献も図られる傾向にある。こうした地域主導による、地域に根ざした基礎的・先導的研究プロジェクトの実施は、地域振興プログラムの対象の一つとして興味深く、検討されても良いものと考えられる。

香川県課題:「新規微生物酵素による希少糖生産システムの開発とこれを用いたもみがら等の地域未利用資源の有効活用に関する研究」 奥谷康一

(H11~H13):取り纏め機関;財団法人香川県科学技術振興財団 (現在:財団法人かがわ産業支援財団)

1.課題概要

 非常に高価な「希少糖類」を安価な未利用資源から、新規微生物酵素を用いて大量に生産するシステムを確立し、その利用法の開発を行う。具体的には、希少糖類の基本となるD‐プシコースの大量生産法を確立し(目標:100kg/年)、多分野の研究者、技術者の手により、希少糖類D‐プシコースなどの新規用途について検討しようとするもの。

2.課題終了時の主な成果
  • 希少糖生産の基本となるD‐プシコースの、酵素を用いた大量生産法を確立(100kg/年)
  • 植物(340種以上)の解析により、単糖の分布、希少糖の存在、希少糖を生産する植物に関する知見を蓄積
  • D‐プシコースがラット肝臓の脂肪合成酵素を抑制し、体脂肪蓄積を軽減すること、D‐プシコースのエネルギー価がほぼゼロであること、等希少糖の示す生理活性、またその栄養学的特長が明らかとなった
  • 希少糖の合成経路Izumoringを完成、希少糖生産に関する設計図を構築
  • 国際希少糖学会を設立し(平成13年4月)、同年第一回国際シンポジウムを香川県にて開催
3.その後の展開

(1)研究面の展開(新たな分野創成など)
 希少糖研究を香川県の地域に特徴的な研究テーマとして定着。
 本課題成果を主な基盤として平成13年10月旧香川大学に設置された希少糖研究センター、並びに平成14年5月旧香川医科大学に設置された希少糖応用研究センターを母体として、平成15年10月香川大学希少糖研究センターが省令施設として設置され、以後生産・特性研究、用途開発、社会連携の3部門にて希少糖に関する研究を展開。国際希少糖学会事務局も置かれて、世界の希少糖センターとしての機能も果たし、海外研究者との連携拡大。
 平成18年度より、香川大学に希少糖科学分野の修士課程が設置され、人材養成も開始。

国際学会:
平成16年5月第二回国際希少糖国際シンポジウムを高松にて開催
平成18年11月第三回 同シンポジウムを三木町及び高松にて開催
フィンランド、ドイツ、ベルギー、ハンガリー、米国、韓国、タイ他世界各国より多くの研究者が参加 

 (2)応用研究、実用化への展開
応用研究:

  • 地域新生コンソーシアム研究開発事業「希少糖D‐プシコースの製品開発・安全性・製造に関する研究」(H14年‐H15年:経済産業省)にて、D‐プシコースの安全性、製造法等検討。
  • 知的クラスター事業(H14‐H18:文科省)、にて、希少糖の大量生産法及び、その生理活性について、継続して検討。D‐プシコースに、血糖値上昇抑制効果、動脈硬化・肥満の防止効果、抗疼痛効果(以上ラットにて)、神経細胞保護効果、植物病害抵抗性増幅効果、植物成長調節効果、抗酸化活性、食品・医薬品への芳香改善効果、タンパク・澱粉等の変性防止効果、などが見出された。
  • 生研機構プロジェクト(H17‐H21:農水省)にて、D‐プシコースの植物に対する効果など検討。
  • 都市エリア事業(発展型:H20‐H22:文科省)に、糖質研究と糖鎖研究を合体させる形で採択され、糖鎖研究プロジェクトとしてD‐プシコースの生理活性探索を継続するとともに、そのいくつかの活性について、機能性食品、エコ農薬、医薬、化粧品などへの応用に向け、応用研究が継続されている。

実用化:
 平成15年、伏見製薬所(丸亀)より希少糖3種が試薬として市販。その後種類が増え、現在14種を市販(国内、海外企業より、工業用原料、合成原料などとして引き合いが寄せられている)。

 2社のベンチャー、合同会社希少糖生産技術研究所(生産を担当)、合同会社希少糖食品(希少糖を活用した食品の開発、製造販売を目指す)、を設立。厚生労働省が許可する特定保健用食品(トクホ)を目指し、実用品の第1弾として機能性甘味料の製造販売に向けてD‐プシコースを開発中。なお、「希少糖食品」は伏見製薬所をはじめ、帝国製薬(東かがわ市)、隆祥産業(大阪市)、松谷化学工業(兵庫県伊丹市)の4社にて2007年設立。早ければ、来年にも特保申請を予定。

(3)その他、地域への貢献
 参温糖で知られる香川県において、希少糖研究がシンボル的な存在となり、科学技術振興の一翼を担っている状況。
 三木町「希少糖の里地域再生計画」(H19年‐H24年:内閣府):公立学校の廃校校舎(三木町)等を利用、ベンチャーを誘致し希少糖生産センターと研修センターを設立。「希少糖」研究の世界への発信基地とするとともに、学術研究を核とする21世紀の夢に挑戦する町作りを目指す。国際学会、国際ミーティングなどの開催、中高生対象の理科プログラムなどの開催を通じ、地域と一体になり町おこしに貢献している。       

4.考察

(1)本課題実施がもたらしたもの
地域における意義
 香川県における地域科学技術振興の機運に合う形で本課題が実施され、公設試験研究機関、大学、企業間の連携による初めての大きな規模の共同研究となり、連携状況も良く、産官学連携のさきがけとなって、その後も同地域にて科学技術振興を推進する旗頭となった。すなわち、香川県において、科学技術振興による地域活性化推進事業の良いモデルとなって、希少糖の実用化による産業振興に向け事業は継続している。
 また産業振興志向以外の面においても、いくつかの地域事業を誘導し、また組み込まれる形で、本課題によって培われた科学技術が、地域活動の振興に貢献しており、この点優れた波及効果と捉えられる。

一般
 本課題実施またその成果と深い関係を持つ形で設立された希少糖研究センターが、希少糖研究における世界のセンターとしての役割を担い、その機能を果たしており、本分野の展開また研究者の交流において、その貢献度は高く、優れた波及効果と考えられる。

(2)地域によるサポートの状況
 高松市内の空港跡地利用の一環として、香川インテリジェントパークが設立され、建設されたインキュベーション施設運用を目的として、県と香川大学との良い連携、サポートにてテーマ設定・提案されて、本課題が実施された。その活動の成功例として、事業発展に向けて、種々の企画の面、資金面における県のサポートが継続されている。また支援体制において、県と大学との連携が認められる。

(3)地域プログラムのあり方
 地域の科学技術振興は産業振興志向に傾き勝ちであるが、本課題の成果は、その実用化に向けて研究が継続されると共に、科学技術振興そのものが地域や大学とも連携する形で、地域活動、地域の活性化に広範な波及効果を及ぼしており、産業振興志向とは異なる面において地域貢献が認められる良い例と考えられる。関連して、本プログラムが趣旨・対象とした、応用・開発を念頭におきつつも長期的な展望のもとに計画される、基礎的・先導的研究の推進は、地域振興に有効であり、全く新たな実用化へのシーズを生むためにも重要との声が、課題実施者また県や地域プログラム支援団体の関係者より多々聞かれた次第である。  

石川県課題:「地域産業の発展に寄与する電磁波技術に関する研究」長野 勇

(H11~H13):取り纏め機関; 財団法人石川県産業創出支援機構(ISICO)

1.課題概要

 石川県においては、伝統的な繊維産業に加え、最近では電子工業等が基幹産業になっている。金沢大学や金沢工業大学では電磁波の研究が行われ、高い技術に達しており、最近では金沢大学工学部と医学部の共同研究成果として強磁場による電磁波環境に関する研究が行われており、国際レベルの研究成果を出すポテンシャルを持っている。
 本課題は、こうした背景を踏まえ、地域の繊維・電子機器・機械産業の発展に寄与することを目的として、電磁波シールド技術に関する研究、電磁波計測評価技術に関する研究及び携帯電話用アンテナ技術や癌の治療技術など電磁波利用に関する研究を実施するとともに、広域に渡る電磁波レベルの測定調査を実施したものである。

2.課題終了時の主な成果

 石川県の織物技術を活かして、電磁波シールド材として炭素繊維織物やラミネートクロス材を、また吸収材として炭素繊維織物とフェライト粉末樹脂シートとを複層化した電波多層吸収材を県内企業3社が共同開発した。また、大学では、薄板シールド材の電気定数の推定手法及びシールド計算法を開発した。
 電磁波計測評価技術に関しては、産業機器から低周波電磁波ノイズ源を同定し可視化するシステムが構築された。この可視化技術は、不要電磁波の場所及び放射電力の測定等の産業応用が可能である。
 電磁波利用に関する研究では、がん治療の画期的な方法として、中波帯(200~400kHz)の誘導電磁波をデキストラン・マグネタイト(DM)に照射して、選択的に癌細胞だけを加温することにより、癌治療が可能となる小型の簡易型電磁誘導加温装置を開発した。この装置を使ってDMの発熱特性を明らかにし、ウサギの表皮癌の縮小効果を確認した。

3.その後の展開

(1)研究面の展開(新たな分野創成など)
 特になし

(2)応用研究、実用化への展開
応用研究:
 本課題研究を発展させた「低周波電磁波ノイズ源可視化システム」の技術をさらに応用し、電磁界の空間分布をリアルタイムで手軽に計測・可視化できる「電磁界空間分布可視化装置」の開発につなげている。平成18年及び20年に、シーズ発掘試験(JST)に採択された。
 金沢大学、富山医科薬科大学が企業と共同で、簡易型電磁誘導加温装置の研究をさらに発展させ、癌患部に安全に投与できるDMを用い、低侵襲かつ超選択的に加温死滅させ、生体内部や広範囲な癌の治療に適用可能な癌治療器システムの試作機の開発を行った。本研究は、研究成果活用プラザ石川における育成研究(平成14年~平成17年、JST)「誘導加温による癌治療器システムの開発」として行われ、引き続き文部科学省科学研究費補助金基盤研究(A)(平成17年~19年)によって動物実験が行われた。
 本課題で研究されたマグネトロン電磁粒子シミュレーション手法は、マグネトロンの高性能化、低ノイズ化の研究に用いられており、今後、バイオエタノール生成加熱用マグネトロンシステム、新材料創生加熱用マグネトロンシステム、宇宙太陽光発電の送電システム等の開発研究に応用される。

実用化:
 本課題を契機に開発された電磁波シールドは商品化され、電磁波シールドオフィスのモデルルームの壁及び天井材として提供されている。
 本課題を契機に開発された誘導加温装置用高周波電源は、磁性流体を用いたハイパーサーミア(温熱療法)やドラッグデリバリーシステムを研究する全国の研究機関からの引合いが多い。

(3)その他、地域への貢献
 本課題実施を契機に、大学・石川県工業試験場と電磁波関連のメーカとの協力体制が築かれ、その後連携の厚みが増した。

4.考察

(1)本課題実施がもたらしたもの
地域(石川県)における意義
 石川県の繊維業界が、繊維を電磁波シールド材に応用する研究は、本課題を契機に始まり、現在も新たなシールド材の開発が継続されている。石川県としてもこの産業振興に力を注いでいる。

一般
 本課題の実施により、地域の産学官連携強化、人的物質的情報的交流、電磁波技術に関する若手人材の育成、中小企業の研究開発環境の形成等に実在的な意義があった。

(2)地域によるサポートの状況
 上記の電磁波シールドオフィスのモデルルームは、石川県工業試験場及び石川県産業創出機構の協力のもと、工業試験場内に展示されて、業界団体や企業への普及に貢献している。また、癌治療器システムの商品化においても県の補助金にて支援が行われた。

(3)地域プログラムのあり方
 大学、公設試、企業が一体となって行う基礎から実用化までの研究を長期的に支援する仕組みが必要である。

愛知県課題:「カビの酵素高生産能を活用した環境調和型工業プロセス技術の基盤研究」塚越規弘

(H12~H14):取り纏め機関;財団法人 科学技術交流財団 

1.課題概要

 カビの生産する環境浄化関連酵素を利用した環境調和型工業プロセス技術について研究開発し、地域産業へ導入することを目指す。具体的には、(1)カビの遺伝子発現制御機構を解析し、カビ(麹菌)における酵素の効率的生産技術を確立し、(2)その生産酵素を利用し環境調和型工業プロセス技術を確立。醸造業、化学工業、繊維工業、家具製造業、プラスチック製造業に導入する。

2.課題終了時の主な成果

 麹菌のアミラーゼ、セルラーゼ、キシラナーゼなど(細胞壁などの)分解酵素遺伝子の発現誘導法、また発現制御蛋白を明らかにし、統合的な制御の存在を示唆。さらに宿主ベクター系を開発し、発現制御因子を対象に、遺伝子導入などによって酵素高産生株を得た。また、産生された酵素の利用を模索。

3.その後の展開

(1)研究面の展開(新たな分野創成など)
 麹菌(カビ)にて、一連の分解酵素の発現が統合的に制御されていることが明らかとなり、複数の酵素について、基質分解に適した配合の高生産系を作成し、バイオマス分解などに利用する道が検討されつつある。海外では、酵素を大量生産し、単一あるいは混合して分解に用いる手法が一般的であるが、基質に合った酵素配合そのものをバイオマス分解に用いる新たな研究を生みつつある。
 組換えを用いて(カビなど微生物の)分子育種を行い、見いだされた優良な性質を示す株を実用化するために、同様な形質を有する株を自然の保存株や分離株(変異体)より探索し使用する、新たな手法展開につながった(本手法の先鞭をつける研究となった)。

受賞:
平成18年度中部科学技術センター会長賞(研究功績者)受賞 (「醤油麹菌および糸状菌の遺伝子解析とその利用」):北本則行博士
平成19年度日本醤油技術賞(研究・開発の部)受賞(「醤油醸造における麹菌多糖類分解酵素の機能解析」)  :北本則行博士 

(2)応用研究、実用化への展開

応用研究:
 麹菌の生産酵素について、その利用法を開発するべく、企業とともに次のような開発研究を実施中。

  • ポリエチレン繊維、また羊毛等との混紡による特異的な加工品について、表面改質効果を有する麹菌生産ラッカーゼ、リパーゼを用いた、繊維表面改質処理法(機能性加工)実用化に向け、繊維メーカーとともに、開発研究実施中。
  • 課題実施にて発見したホルムアルデヒド分解微生物(特許出願)より、同分解酵素を採取、酵素学的検討を行うと共に、その利用に向けて、膜状繊維に同酵素を吸着固定化し、シックハウス症候群の原因物質であるホルムアルデヒドを分解除去するフィルタを開発。また、ホルムアルデヒド検出用バイオセンサーを開発した。家具業界、建築業界などにて、実用化に供するべく、酵素メーカー、フィルターメーカーと共に、開発研究実施中。

実用化:
 バイオリサイクル事業「醤油絞り粕の低減化」(H13年‐18年:農林水産省):本地域先導研究課題にて作出された、麹菌の酵素高生産株において、細胞壁分解亢進によって、醤油などの発酵プロセスに粕が低減化されることが見出され、組換え体での実用化は困難であることから、同様な一連の酵素高産生株を、保存株より検索し発見。醤油生産用麹として実用化。平成18年より市販(株式会社ビオック)。今、メーカーにて試験使用の段階にある。なお、粕の低減は生産量(醤油回収量)向上につながることも示された。

(3)その他、地域への貢献
 愛知県において、公設試験研究機関を含めた初めての大規模な産学官連携事業となり、大学、公設試、企業とのネットワークが構築された。このネットワークは、その後も維持されて、現在もこのネットワークを生かして共同研究を実施中である。
 地域の科学技術振興に向けた産学官連携課題実施のさきがけとなり、課題実施に向けて、県のシステム整備が進み、地域として外部資金獲得が増加するとともに、産学官連携プロジェクト実施を推進する結果となった。       

4.考察

(1)本課題実施がもたらしたもの
地域における意義
 本課題実施が契機となり、その後地域における、産学官連携ネットワーク形成を推進する動きとなった。
 本課題実施により得られた有用麹菌株の実用化が始まっており、醸造業界に対する貢献が期待される。
 本課題実施にて生産性が高められた、あるいは発見された、酵素の利用法について、地場産業への導入が試みられており、将来的に地場産業への貢献が期待される。

一般
 本課題実施にて生産性向上などが図られた、麹菌の多種類分解酵素高生産株による検討が、酵素による分解を介する、バイオマスの利用に向けた基盤研究として、同分野において将来的に貢献する可能性が考えられる。

(2)地域によるサポートの状況
 本課題実施を円滑にするべく、経理上のシステムなど、県におけるシステムの整備が行われると共に、課題実施に伴う事務処理などにおいて、必要なサポートが行われた。一方、企画面、研究の推進面、また課題終了後の展開などに関しては、課題実施者らにゆだねられており、特に推進に向けた地域による支援は実施されていない。

(3)地域プログラムのあり方
 応用を念頭においた研究であっても、ロングランを要する内容やリスクの高い基礎的あるいは基盤的研究に、地場の企業の参画を求めることは一般的に困難である。本プログラムでは、企業に対しても研究費が支給され、地場の中小規模の企業参画が推進された。大学、公設試の研究者もこの点をネットワーク形成を可能にした本プログラムの大きな利点として挙げ、企業サイドもこの点を挙げて、自身の研究また技術レベルを高めるのに有効であり、対外的な共同研究に対応することが可能となったことを説明。このようにして形成されたネットワークが長期的に有効であることを指摘した。実際に、課題実施にて形成された連携は継続しており、新たな共同研究の実施に今も生きている状況にある。
 なお、地域コーディネーターを務められた塚越名大教授について、研究チームを構築し、長期的展望の下にリーダーシップを強力に発揮してチームまたテーマをリードされたことが課題実施者ら、また同教授を知る県の関係者らの説明より伺えた。同教授は、本課題終了とほぼ同時に定年退官されて研究から退かれ、チームの課題終了後の研究展開において、新規ファンド取得へのトライなど、ペースダウンが見られた様子である。研究チームリーダーによるリーダーシップの重要性が示唆される。

青森県課題:「積雪寒冷地における自然エネルギー利用技術の開発研究」力石國男

(H12~H14):取り纏め機関;財団法人21あおもり産業総合支援センター

1.課題概要

 青森県は人口が集中する平野部において多量の降雪があり、雪問題など冬季の厳しい自然環境への対策が重要課題となっている。本研究課題は、積雪寒冷環境のマイナス要因をプラスに変えるという視点に立って、青森県の豊富な自然エネルギーの利用技術や積雪寒冷環境による生物機能活性効果の利用技術の研究開発を行うことにより、地域産業の振興を目指したものである。
 豊富な風力・地熱などの自然エネルギーの利用技術として、風力発電による融雪システムの研究や雪発電、ウッドセラミックス(木質新素材)などの雪対策利用技術の開発、並びに、微生物の発酵熱・地熱を利用した冬季ハウス栽培や端境期等の農業の高度化に関する技術開発及び積雪寒冷環境による生物機能活性効果の利用技術として、農産物・食材等の雪冷房による品質保持の研究や氷温貯蔵技術の高度化に関する研究などを実施した。

2.課題終了時の主な成果

 「自然エネルギーの利用技術の開発研究」では、ウッドセラミックス粉体を融雪面にコーティングしたり、融雪面に凹凸面を設けることで融雪効率を向上させる「高性能融雪面」技術を開発し、風力発電を併用した融雪システムを提案した。また、稲わら等の有機質廃棄物の堆肥化過程で発生する発酵熱を冬季のハウス野菜栽培に補助熱源として利用した結果、ボイラーの燃料を約30%削減できることを実証した。
 「積雪寒冷環境による生物機能活性効果の利用技術の開発研究」では、氷温貯蔵とCA貯蔵を併用することにより、新米やリンゴを翌年の6月以降に出荷することが可能であることを実証した。また。積雪寒冷環境が植物細胞に与える低温耐性や種子の休眠打破等についての調査研究を行った。これら研究を支えるものとして、古い既設倉庫の雪利用低温貯蔵室(雪室)への改造技術の開発に取り組むとともに、籾殻燻炭(籾炭)を大量に使用して倉庫内のエチレンガスを90%吸着させることに成功した。

3.その後の展開

(1)研究面の展開(新たな分野創成など)
 特になし

(2)応用研究、実用化への展開
応用研究:
 本テーマの研究期間中に得られた高性能な融雪伝熱面形状を用いて、太陽光発電や地下水を利用した融雪システムの研究開発に発展させた。
 平成18年度研究協力事業(平成18~19年度、NEDO)「氷温技術の中国産品への応用研究と同国向け実用氷温設備の構築とテストプラントによる検証」に採択され、氷温技術を中国産品への応用研究へと波及しつつある。
 また、本課題は下記の4件の県単独事業へ引き継いだ。
 「多孔質炭素素材料ウッドセラミックスを用いた住宅用融雪システムの研究」
 「微生物の発酵エネルギーを活用したハウス栽培の高度化」
 「冬期積雪条件が青森県の特産物に及ぼす細胞レベル・遺伝子レベルの影響調査」
 「食品の氷温貯蔵技術の高度化に関する研究」

実用化:
 融雪用ヒーターとしてシリコンラバーヒーターにウッドセラミックス粉体をコーティングして使用することで50%の省エネ効果を提供するものである。ウッドセラミックスヒーターは、りんごの果肉やホタテ貝柱などの食品乾燥や農業分野等へ利用されている。
 ニンニクの芽止剤販売停止(全メーカー)に対する対応として、ある企業の氷温技術を応用することにより、周年販売を可能にすることができた。
 平成15年以降、全国に納入した氷温設備は約10件以上にのぼる。

(3)その他、地域への貢献
青森大学にて新たな雪室研究が展開された。

4.考察

(1)本課題実施がもたらしたもの
地域(青森県)における意義
 本研究で得られた知見は青森県の行政に大きな影響を与え、本研究を発展させた事業が展開されている。例えば、平成13年に策定された「青森県雪対策基本計画」に雪を積極的に利活用する施策が盛り込まれ、「雪の冷熱エネルギーの活用の促進・普及啓発」「自然エネルギーを活用した消融雪技術の開発」「雪の冷熱エネルギーを活用した産業の振興」「積雪寒冷条件を活用した農業の振興」「利雪・克雪に係る調査研究体制の整備」などが重点施策として取り上げられている。また平成15年3月に立ち上げた「冬の農業推進プラン」では、「青森の冬の寒さや雪を活かした冬の農業の展開」、「地域新エネルギー(太陽光、風力、地熱、バイオマスエネルギー、雪氷の冷熱エネルギーなど)の農業利用に向けた技術開発の促進」、「地域新エネルギーの利用による野菜・花卉・果樹の施設栽培の推進」などが重点施策として掲げられている。
 また、「青森県小型風力発電システム導入促進検討会」が組織され、そこでの検討結果を受けて、青森県農業試験場の砂丘部(当時)や県内の高校に小型風力発電機が設置された。

一般
 特になし

(2)地域によるサポートの状況
 青森県企画部は平成15年度に3か年計画の「雪産業創造支援事業」を立ち上げ、雪氷の冷熱エネルギーを利用した新産業の創出に関わる研究課題(3件)を助成している。また青森県農業試験場では、平成15~17年度に「雪の冷熱エネルギーを利用した野菜・花卉生産技術の確立」という研究課題に取り組み、そのなかで「簡易貯雪技術の確立」、「冷熱エネルギーを利用した夏秋野菜の栽培」、「冷熱エネルギーを活用した花卉の新作型の確立」、「融雪調整による野菜遅出し技術の確立」、「風力エネルギー・地中熱応用のハウス支援システムの開発」(環境庁補助事業)を展開している。

(3)地域プログラムのあり方
 地域先導研究のプログラムから、実用化に向けた他のプログラムへの連動できるような仕組みが必要である。また、プログラムの趣旨として、地方自治体のリーダーシップを求めるようにすべきと考える。

富山県課題:「伝統医学活用による生活習慣病克服と健康増進」三川 潮

(H12~H14):取り纏め機関;財団法人 富山県新世紀産業機構

1.課題概要

 伝統医学を活用することによる、高血圧や心筋梗塞、糖尿病、痴呆などの生活習慣病の予防・治療効果を解明し、伝統薬等からの錠剤化技術を開発する。同時に伝統薬効果の有用性を客観的に評価するために、統計学手法に基づく評価方法を確立し、この評価方法による臨床的評価を行い、運動・休息との相乗的効果についても評価することを目指す。

2.  課題終了時の主な成果

 臨床研究において、漢方薬、伝統医学の評価を行う方法論から始めて、漢方薬の効果の科学的評価に適した方法を開発した。また、天然素材からの抗酸化性化合物の生活習慣病に対する予防・治療効果について検討し、そのいくつかについて臨床効果を確認した。伝統医学の臨床研究にとって、基盤となるデータが得られ、システム検討もなされたものと考えられる。
 基礎研究において、漢方薬の作用、生薬類の薬理、生化学作用の解析を行い、アルカロイド類の中枢に対する作用、各種抗酸化性化合物の作用などについて確認すると共に、強い抗酸化性作用を有するアスタキサンチンについて、その製造法を検討し、健康食品としての開発に向けて基礎的な成果を得た。

3.その後の展開

(1)   研究面の展開(新たな分野創成など)
 21世紀COEプログラム「東洋の知に立脚した個の医療の創生」(H15年‐ 19年:文科省):本研究で得られた成果をもとに、伝統医学の科学的検証を目指して、基礎的・先導的研究は継続されている。
 漢方など伝統医学について、国内においてもその効果証明の試みが広がり、個々に方法論が検討されて、治療効果が確認されつつある状況にあるが、科学的検証法について、統一して論じられる状況にまだ無く、その後の本分野の研究に本プロジェクトがもたらした意義を評価し得る状況には無い。
 地域に即した研究として、富山県における本分野研究の基盤形成に役立ったと考えられる点については、評価されよう。

(2)応用研究、実用化への展開
応用研究:
 地域新生コンソーシアム研究開発事業(H13年‐H15年:経産省)「植物遺伝子導入を利用した代謝工学(生合成工学)による有用物質生産技術」
 地域新生コンソーシアム研究開発事業(H15年・H16年度:経産省)「藻類培養によるアスタキサンチンの製造及び健康補助食品の開発」、に継続。
 本地域先導研究課題でアスタキサンチンの血圧降下作用を見出した事を端緒に、同剤の生産法に関する検討、また同剤の生理活性に関する検討が継続して実施され、生活習慣病に関与する各種効能が見出された(成果論文等販促資料として利用された:富士化学工業)。
 知的クラスター創成事業「富山医薬バイオクラスター」(H14年試行・H15年‐H19年実施:文科省)、21世紀COEプログラム「東洋の知に立脚した個の医療の創生」(H15年‐19年:文科省)、にて、伝統医学について、その効果検討や開発が継続して実施されている。

実用化:
 アスタキサンチンの上記効果について、効能取得(実用化)を目指し、動物、ヒト試験へと展開。得られた成果は、その健康食品としての開発、展開に貢献した。

(3)その他、地域への貢献
 富山県の科学技術振興施策の一環として、その基本構想の一つ富山県バイオバレー構想(H12年立ち上げ)の一環として実施され、同構想の展開、発展に貢献。富山医薬バイオクラスター事業(H15年‐H19年度)に、新富山県科学技術プラン及び元気とやま創造計画に、その核あるいは重要要素として貢献。そしてさらに、石川健康フロンティア戦略、また石川ハイテク・センシングクラスターと結びつく形で北陸健康創造クラスター形成構想へと、展開が図られており、本分野の研究・開発が、地域の振興施策戦略の一つの核として息づいており、本地域先導プロジェクト実施は、その先駆け、きっかけとして、地域への貢献が認められる。

4.考察

(1)本課題実施がもたらしたもの
地域における意義
 基礎的・先導的研究プロジェクトとして実施された本地域先導研究プロジェクト実施は、地域における本分野のその後の基礎的研究、応用・開発研究の基盤として働いたと考えられ、その後もすこしづつ形を変えつつ展開が図られ、現在も本分野の研究・開発が、地域の振興施策戦略の一つの核として息づいており、本地域先導研究プログラムプロジェクトの実施は、その先駆け、きっかけになったものと捉えられ、地域への貢献が認められる。

一般
 特になし 

(2)地域によるサポートの状況
 漢方薬の歴史を有する地域の特徴的背景に基づき、地場産業振興の観点も含めて、本分野を地域振興の一つの柱として展開してゆこうとの、象徴的な観点を加味して企画された課題。 県も総合的にその推進をバックアップ。重要施策として、本分野の展開が継続して図られている。

(3)地域プログラムのあり方
 難しい内容を含む研究課題であり、長期的な研究展開が必要な内容と考えられた。本研究にて得られた基盤的知見は、地域のフォローも得て、継続的に展開が図られ、本地域に特徴的な研究の展開に繋がっている。地域における研究振興計画が課題実施成果を生かしている一つの例と考えられる。

福岡県課題:「微生物由来細胞認識・破壊タンパク質の作用機構解明と応用に関する研究」水城英一

(H12~H14):取り纏め機関;財団法人福岡県産業・科学技術振興財団

1.課題概要

 福岡県工業技術センターおよび九州大学が世界に先駆けて発見した微生物由来哺乳類細胞認識・破壊タンパク質(MCRC)について、新規タンパク質の探索、性状解明、遺伝子のクローニング、作用機構の解明等を早期に行い、その応用技術として子宮ガン細胞等の体外診断薬の開発を目指す課題であった。H8から開始された地域結集型事業において、地域連携の研究体制骨格が構築されており、その発展型として開始された。

2.課題終了時の主な成果

 総計 1093株の新規 Bacillus thuringiensis (BT)を分離し、世界有数の菌株ライブラリーを強化・充実するともに、世界で2~10例目となる9つのMCRC遺伝子のクローニングに成功した(国際出願を含む4出願)。MCRC生産菌の大量培養法を確立し、MCRCの結晶化、X線解析に成功し、高次構造を明らかにした。また、がん細胞破壊機構を解明し、摘出がん組織を用いがん組織破壊の選択性の高さを明らかにした。

3.その後の展開

(1)研究面の展開(新たな分野創成など)
 MCRCをパラスポリンと命名し、その後、H18年には本課題の実施者のイニシアチブにより、日本、カナダ、イギリスの委員9名によるパラスポリン国際分類命名委員会が発足された。現在はパラスポリン研究の最新情報が我が国に集まってくるようになっている。海外大学との共同研究の実施、海外からの招待講演招聘への対応もなされている。国内においては、H16年にパラスポリン研究会が立上がり、現在も2年に1回開催されている。

(2)応用研究、実用化への展開
応用研究:
 パラスポリンのがん細胞認識機構、ユニークな毒素機能に着目した応用研究が行われた。パラスポリンのがん細胞特異的受容体を決定し、受容体に関する特許を出願している。現在、パラスポリン受容体を利用したガン診断薬、医薬の開発に向け、共同研究パートナーとなる製薬会社を検討中である。

H14~15年   バイオベンチャー等育成支援事業(久留米リサーチパーク)「バチルス・チューリンジェンシスを用いた商品化の検討」
H15年   プラザ育成研究(JST)
H16年   新技術創造基盤研究事業 (福岡県)
H17~18年   新技術研究開発特別事業 (福岡県)
H18~21年   科学研究費基盤研究(C)(文部科学省)
H20~22年   産業技術研究助成事業(NEDO)若手研究グラント (NEDO)等

実用化:
 パラスポリンやそのレセプターの実用化はまだなされていない。
 波及的ではあるが課題実施により強化・充実された福岡県工業技術センターの有するBacillus属細菌ライブラリーより抗菌・抗カビ機能を有するBacillus thuringiensis微生物が選抜され、県内企業により土壌改良剤2種が最近上市されている。また、同様にエビの真菌症に効果のある微生物も見出され、エビ用飼料原料が上市された。微生物を利用した抗カビ剤も実証実験中であり、上市も近い(H21年春発売)。また、大手研究用試薬会社により、ユニークな細胞認識能力に着目した細胞の機能解析用試薬としてパラスポリン‐1及び‐4を試薬として発売する予定もある。

(3)その他、地域への貢献
 ライブラリーからの探索研究が見直され、様々な食材から機能性食品等の開発につながる有用物質を探索するための食材ライブラリー(主に福岡県産の1000種の食材の抽出物から成る)が整備されることになった。

4)討議
(1)本課題実施がもたらしたもの
地域における意義
 本課題は福岡県工業技術センターと九州大学によって見出されたシーズを、本課題実施以前からあった県のコーディネートシステムに乗せることにより推進された。世界で初めて見出された微生物由来の細胞を認識・破壊するタンパク質の持つ有用性の素早い評価や権利化のために、福岡県内にある産官学の関係研究資源を組織化する一例となった。

一般
 パラスポリン研究の人材ネットワークの形成がなされた。パラスポリン研究によって、細胞認識についての知見が増えるとともに、がんの特異的認識の可能性が広がった。また、パラスポリンの発見により、殺虫微生物との固定観念が強かったBacillus thuringiensisが、多様な可能性を持つ微生物と認識されるようになった。結果、現在、同菌株の抗菌、水質浄化等の新規の活性が注目されるようになった。

(2)地域によるサポートの状況
 課題実施後、県の方針によりパラスポリン研究も製品化を強く求められるようになった。パラスポリンの実用化に向け、県はパラスポリンのin vivo単がんマウス試験の実施を行うことにしたが、予算が十分でなく試験マウスが構築できないまま、支援終了となってしまった。現在、県のサポートは福岡県工業技術センターの予算枠に止まっている。

(3)地域プログラムのあり方
 本課題のような医薬品シーズ研究には長期の支援サポートが必要であると思われる。本課題の実施者からも3年の研究期間では短すぎたという声もあったが、現在のように短期間に製品化を求める支援プログラムが主流である状況に比較すると、本プログラムは微生物由来細胞認識・破壊タンパク質(MCRC)という新規物質の拡大・利用研究初期段階をサポートする役目を、十分とはいえないものの果たし得たと考えられた。
 シーズが如何なるところから生まれるかわからない現状を踏まえると、今後も地域で生まれたシーズ研究を、比較的長期間にわたり支援し、応用の可能性を様々な角度から総合的に評価することを可能にするようなプログラムを必要に応じ用意する必要があるのではないかと思われた。

お問合せ先

科学技術・学術政策局科学技術・学術戦略官付(推進調整担当)

(科学技術・学術政策局科学技術・学術戦略官付(推進調整担当))

-- 登録:平成21年以前 --