第2章 安全・安心な社会の概念

 安全・安心な社会を構築するためには、目指すべき安全・安心な社会のイメージを明確にすることが必要である。そこで、そもそも安全とは何か、安心とは何かについて検討し、それらの検討結果と前章で述べた社会を巡る諸情勢の変化を踏まえ、目指すべき安全・安心な社会の概念を提示する。

2‐1.安全とは何か

 安全・安心な社会の概念を提示するにあたり、まず、安全とは何かについて、社会との関わりを中心として検討を行った。検討の結果は、以下の通りである。

1 安全とは

 安全とは、人とその共同体への損傷、ならびに人、組織、公共の所有物に損害がないと客観的に判断されることである。ここでいう所有物には無形のものも含む。

2 設計および運用段階の安全

 社会において、様々なシステムや制度が人間の手で設計され、運用されている。これらの安全について考えた場合、安全とは、設計段階において安全性が十分に考慮されているとともに、人間が運用する際における安全が確保できている状態である。また、安全を侵害する意図が存在する場合は、上記の状態に加えて、その意図の抑止・喪失が実現できている状態である。

3 事前および事後対策の実現による安全

 安全を脅かす要因(以下、リスクと記す)による被害を最小限に抑えるためには、発生抑止や被害防止等の事前対策に加え、発生後の応急対応や被害軽減、復旧復興等の事後対策も含めた総合的な対策が必要である。したがって、リスクに対して、事前および事後対策の両方がなされている状態が安全であるといえる。

4 個人の意識が支える安全

 社会システムが、利用者である個人の行動と密接に関連しているということは、社会システムの安全が何らかの方法で確保できても、安全を考慮せずに個人が行動すれば、安全な社会は容易に崩れることを意味している。したがって、社会システム固有の安全性に加えて、利用する個人が安全に対する知識・意識を持ち、それに沿った行動をとることで初めて、安全が確保されるといえる。

5 リスクの極小化による安全

 世の中で起こりうる全ての出来事を人間が想定することは不可能であり、安全が想定外の出来事により脅かされる可能性は常に残されている。そこで、リスクを社会が受容可能なレベルまで極小化している状態を安全であるとする。同時に、社会とのコミュニケーションを継続的に行う努力をすることにより、情勢に応じて変動しうる社会のリスク受容レベルに対応する必要がある。

6 安全と自由のトレードオフ

 安全を高めようとすればするほど、利便性や経済的利益、個人の行動の自由等が制約され、プライバシーが損なわれる可能性がある。よって、安全性を向上させる際には、このようなトレードオフの関係を考慮する必要がある。しかしながら、より高いレベルの安全を実現するためには、安全と自由のトレードオフの次元にとどまらず、安全性と行動の自由やプライバシーを並立させる努力を続けることが重要となってくる。

2‐2.安心とは何か

 安心とは何かについても、安全と同様に、社会との関わりを中心として検討を行った。検討の結果は、次の通りである。

1 安心について

 安心については、個人の主観的な判断に大きく依存するものである。当懇談会では安心について、人が知識・経験を通じて予測している状況と大きく異なる状況にならないと信じていること、自分が予想していないことは起きないと信じ何かあったとしても受容できると信じていること、といった見方が挙げられた。

2 安全と信頼が導く安心

 人々の安心を得るための前提として、安全の確保に関わる組織と人々の間に信頼を醸成することが必要である。互いの信頼がなければ、安全を確保し、さらにそのことをいくら伝えたとしても相手が安心することは困難だからである。よって、安心とは、安全・安心に関係する者の間で、社会的に合意されるレベルの安全を確保しつつ、信頼が築かれる状態である。

3 心構えを持ち合わせた安心

 完全に安心した状態は逆に油断を招き、いざというときの危険性が高いと考えられる。よって、人々が完全に安心する状態ではなく、安全についてよく理解し、いざというときの心構えを忘れず、それが保たれている状態こそ、安心が実現しているといえる。

2‐3.安全・安心な社会の概念

 以上の安全および安心についての検討と社会を巡る諸情勢の変化を踏まえると、目指すべき安全・安心な社会とは、以下の5つの条件を満たす社会であると考える。なお、これまでも、安全確保に向けた不断の努力が社会の安全に大きく貢献してきたことを鑑み、社会においてそうした努力が継続して行われていることを前提とする。

1 リスクを極小化し、顕在化したリスクに対して持ちこたえられる社会

 安全な状態を目指した不断の努力によって、リスクを社会の受容レベルまで極小化することで安全を確保しつつ、危機管理システムの整備によって、リスクを極小化した状態を維持できる社会であること。同時に、リスクが顕在化しても、その影響を部分的に止め、機能し続けられる社会であること。

2 動的かつ国際的な対応ができる社会

安全はいつでもどこからでも予見の範囲を超えて脅かされることを前提として、新たな脅威が生じても常に柔軟な対応が可能な、動的な対応の仕組みが用意されている社会であること。さらに、安全を実現するための国際的協調ができる社会であること。

3 安全に対する個人の意識が醸成されている社会

 安全な社会の構築に関する組織とともに、個人も安全に対する知識と意識を持ち、安全な社会の構築に必要な役割を個人が果たしうる社会であること。

4 信頼により安全を人々の安心へとつなげられる社会

 社会的に合意されるレベルの安全が継続的に確保されると同時に、安全確保に関わる組織と人々の間で信頼が醸成され、安全を人々の安心へとつなげられる社会であること。

5 安全・安心な社会に向けた施策の正負両面を考慮し合理的に判断できる社会

 安全・安心な社会を実現する施策が持つ正と負の両面を十分に考慮した上で、どこまで安全・安心な社会を実現するべきか合理的に決めていける社会であること

 以上、5つの条件を満たす安全・安心な社会の構築を目指した上で、さらに心豊かで質の高い生活を営むことのできる社会の実現を目指すべきである。

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