研究活動上の不正行為(改ざん、盗用)の認定について

【基本情報】

番号

2018-08

不正行為の種別

改ざん、盗用

不正事案名

研究活動上の不正行為(改ざん、盗用)の認定について

不正事案の研究分野

地震地質学

調査委員会を設置した機関

大学

不正行為に関与した者等の所属機関、部局等、職名

教授

不正行為と認定された研究が行われた機関

大学

不正行為と認定された研究が行われた研究期間

告発受理日

平成29年8月21日

本調査の期間

平成29年11月30日~平成30年8月9日

不服申立てに対する再調査の期間

報告受理日

平成31年2月18日

不正行為が行われた経費名称

学術研究助成基金助成金

 

 

【不正事案の概要等】

◆不正事案の概要

1.告発内容及び調査結果の概要
 平成29年8月、大学の通報窓口に教授が責任著者である学術論文について科学的不正の疑いがある旨の通報があった。そこには、「通報対象論文の図表には、見過ごすことのできない多数のミスが散見されるとともに、一部では真正なデータの不正使用などによる改ざんが疑われる」と指摘されていた。
 調査の結果、研究活動上の不正行為である「改ざん」及び「盗用」が行われたものと認定した。
 

2.本調査の体制、調査方法、調査結果について
(1)調査体制
 1)部局調査委員会 
    名称:研究公正調査委員会
   6名(学内委員3名、学外委員3名)(平成29年11月8日設置)   
 2)本部調査委員会
   名称:研究公正調査委員会(常設)
   8名(学内委員4名、学外委員4名)


(2)調査の方法等
 1)調査対象
  ア)対象研究者:教授
  イ)対象論文:不正行為の疑いがあるとの通報があった論文1編

 2)調査方法
  被通報論文について、現地調査の際のフィールドノート・GPS位置データなどの関係資料の提出を受けるとともに、それらの書面調査及び責任著者・共著者からの聞き取り調査を行った。

(3)本事案に対する調査委員会の調査結果を踏まえた結論
 (結論)
  調査の結果、論文の結論を導き出すために重要な役割を果たしているFig.1とFig.2の合計6個の図のうちの4つの図に、研究者としてわきまえるべき基本的な注意義務を著しく反した行為による、改ざん・盗用が認められた。

 (認定理由)
  A:地図上に震源と断層の位置等を示した図、及びB:Aの震源・断層等に対応する地下断面での震源分布と断層の推定値を示す図において、Aの東西方向と南北方向で同じ距離でも長さが一致していない、AとBで同じ位置とされているデータ取扱い範囲が対応しておらず、断層の数の不一致などが認められた。また、C:地図上に断層地上部の観察・測定を行った場所を示した図についても位置関係が不正確なものとなっている。さらに、D:引用データを元にCに対応する位置や変位量等を示した図は、原図から震央位置や変位量目盛り数値が改変され、Cの図と距離スケールとも一致していない。ほかにも多数の誤りと、一部の図の出典が適切に記載されていないことが確認され、いずれも故意であるか否かは明らかでないものの、論文の結論を導く上で重要な役割を果たしている図に係るものである。
  論文作成過程においてオリジナル図、引用元の原図や引用論文の記述に誤りが含まれることは、細心の注意を払っても起こりうることであって、それらの誤りを修正する機会は、本来、論文の投稿・査読・ゲラ校正等の過程で、幾重にも与えられている。本件の図に散見される多数の誤りについては指摘を受けていたにもかかわらず、責任著者はこれら指摘事項を黙殺、あるいは、見過ごして、誤りを修正する最後の機会を逃した。また、聞き取り調査から、責任著者である当該教授は論文の査読コメント等への対応を、共著者たちに意見を求めることなく、独断で行ったことが判明している。さらに、調査対象論文の作図過程では、真正な下図が責任著者の関与で不正な図に変貌したことも判明している。
  これらのことを勘案すると、当該図に認められる多数の誤りは、論文作成段階、査読段階、及び、論文公表後の指摘事項への責任著者である当該教授の対応が、研究者としてわきまえるべき基本的な注意義務を著しく怠ったものによると判断せざるを得ず、よって、調査対象論文には研究不正があったと判断した。

 (当該論文の共著者の関与について)
  調査対象論文の共著者はいずれも当該研究の遂行に寄与しているものの、論文の執筆における共著者の役割は限られたものであるため、研究不正への関与はなかったと判断した。

 

3.認定した不正行為に直接関連する経費の支出について
 不正行為を認定した論文に関しては以下の支出があった。
 ・学術研究助成基金助成金 37,412円(英文校正費)、大学の基盤的経費 515,828円(論文別刷費)

◆研究機関が行った措置

1.競争的資金等の執行停止等の措置
 競争的資金等の執行停止等措置を講じた争的資金等の因果関係が認められる経費の支出がなかったことから、執行停止等の措置は講じていない。
 

2.当該教授に対する大学の対応(処分等)
 今後、学内規則に則して処分を行う予定である。
 

3.研究発表・報告の取下げ
 当該論文については、当該教授に対して論文取下げの勧告を行った。

◆発生要因及び再発防止策

【発生要因】
・当該教授が研究公正に対し高い意識を有していたとは判断できないこと。
・当該教授は論文作成過程において、事実や先行研究の正確な記載等の真正性を軽視し、データに基づかない結論(仮説)を主張したものと判断した。
・論文作成と投稿後の査読コメントへの対応のための改訂作業が責任著者である当該教授の独断で進められたために、共著者間で査読コメントを共有できず、多数の誤りを修正する機会を失ったのみならず、盗用、改ざんを抑止することができなかったものと考えられる。

【再発防止策】
1.再発防止策
 1)全構成員に対して、研究公正に関するe-learningの受講を再度周知・徹底を行った。今後も同様の活動を通じて部局教員の研究公正に対する意識の向上に努める。
 2)若手の研究者が研究生活をスタートするに当たり、基本的な規範を学ぶことが必要であることから、大学院生に指導教員からの教育に加え、新規開講講座である「研究倫理・研究公正」の受講をガイダンス等において勧める。
 3)また、教授会等でのFD・講習会などによる啓発活動を促進し、公正な研究活動の推進に寄与するとともに、研究公正等に関する問題が発生した場合に迅速に対応するために副研究公正部局責任者を置くこととする。
 

2.全学的な再発防止策
 研究公正推進アクションプランに沿って、引き続き研究公正に関する教育や啓発を進めるとともに、教職員の意識向上を図るため以下について新たに取り組みを行う。
 1)教職員に対する啓発を図るため、現在実施している新規採用教職員研修だけでなく、現職の教職員に対しても研究公正に関して広く説明を行う計画を立て実行する。さらに、平成30年10月には研究者(教職員及び大学院学生)を対象として、研究者自らが行動を律することで確立される公正な研究の実施について、研究者の視点にたった講演を実施した。
 2)教職員に対するe-Learningによる研究公正研修について、自分自身で受講状況が確認でき、かつ未受講の場合には使用しているパソコンに受講を促す通知が出るシステムを導入した。
 さらに、大学院学生に対する教育として、平成30年度より開講した大学院共通科目「研究倫理・研究公正」について、全学的に周知し受講を促す取り組みを実施している。

 

◆配分機関が行った措置

 科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)について、改ざん・盗用と直接的に因果関係が認められる経費の支出があったため、返還を求めるものであり、また、科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)の成果として執筆された論文であることから、当該資金への申請及び参加資格の制限の対象となる。このため、資金配分機関である日本学術振興会において、経費の返還を求めるとともに、資格制限の措置(令和2年度~令和6年度(5年間))を講じた。


 

お問合せ先

科学技術・学術政策局研究環境課

研究公正推進室
電話番号:03-6734-3874
メールアドレス:jinken@mext.go.jp

(科学技術・学術政策局研究環境課研究公正推進室)