研究活動上における不正行為(盗用)について(2016-07)

【基本情報】

番号

2016-07

特定不正行為の種別

盗用 

不正事案名

研究活動上における不正行為(盗用)について

不正事案の研究分野

経営学

調査委員会を設置した機関

学校法人

特定不正行為に関与した者等の所属機関、部局等、職名

准教授(当時)

特定不正行為と認定された研究が行われた機関

大学

特定不正行為と認定された研究が行われた研究期間

-

告発受理日

平成27年11月19日

本調査の期間

平成28年1月12日~4月26日

不服申立てに対する再調査の期間

なし

報告受理日

平成29年3月23日

特定不正行為が行われた経費名称

科学研究費補助金
※盗用と直接的に因果関係が認められる経費の支出はなかった

 

【不正事案の概要等】

 

◆不正事案の概要

  1. 告発内容及び調査結果の概要
     本件は、大学の教員昇格審査の過程において、候補者の一人、准教授(当時)(以下「元准教授」という。)から提出された書籍・論文の中で、元准教授が分担執筆した書籍の日本文が元准教授の日常会話に比べ、こなれ過ぎていないかという指摘が昇格審査に当たった審査委員からあったことを受け、同大学で精査したところ、盗用と疑われる箇所が複数発見されたため、研究倫理委員会による予備調査と不正防止委員会による本調査において、盗用の疑いがある書籍・論文と引用されたとするウェブサイト、論文を照合し事実関係を確認するとともに、元准教授及び関係者への聞き取り調査を行ったものである。更に本調査の過程において、当初の事案以外にも、元准教授による盗用を疑う論文が確認されたため、これについて追加調査を行った。
     調査の結果、元准教授が同大学在任中に執筆した書籍1編と論文3報において、研究活動における不正行為である「盗用」が行われたものと認定した。
     
  2. 本調査の体制、調査方法、調査結果等について
     (1)調査委員会における調査体制
        8名(内部委員6名、外部委員2名)
     (2)調査の方法等
       1)調査対象
        ア)対象研究者:元准教授
        イ)対象論文等:書籍1編(平成22年4月発行)、論文3報(平成24年、平成25年及び平成26年に発表)
       2)調査方法
       盗用の疑いがある書籍・論文と、引用元とされたウェブサイト、論文を比較検証するとともに、元准教授及び学内外の関係者に聞き取り調査又は書面による照会を行った。
     (3)本事案に対する調査委員会の調査結果を踏まえた結論

     (結論)
     文献照合・精査及び元准教授の弁明並びに元准教授及び学内外の関係者への聞き取り調査を総合的に検証し、書籍1編と論文3報において、研究活動における不正行為である「盗用」(他人のアイデア、分析・解析方法、データ、研究結果、論文又は用語を了解若しくは適切な表示なく流用すること)が行われたものと認定した。

    (認定理由)
    (1)分担執筆した書籍1編については、5つのウェブサイトから計6箇所、一部語句が変えられたものを含め計83行にわたり、引用元が一切明記されず引用元の文章とほぼ同一のものとなっていること。
    (2)3編の論文のうち、1編の論文(平成24年発表)では、ほぼ全文が他者の論文の文章と同一のものとなっていること、もう1編の論文(平成26年発表)では、2箇所65行にわたり他者の論文を盗用し、無断で共著者としていること、他の1編の論文(平成25年発表)では、複数箇所にわたり、他者の論文とほぼ同一であるにもかかわらず、引用されたとする論文が参考文献として記載がなく、また文中で引用された複数の著者の論文についても同様に挙げられていないこと。
     
  3. 認定した不正行為に直接関連する経費の支出について
     盗用の認定があった書籍・論文に係る研究活動は、科学研究費補助金、基盤的経費により実施されたものであるが、書籍、論文の執筆、作成過程において、当該科学研究費補助金や基盤的経費と直接因果関係が認められる経費の支出はなかった。

     

◆研究機関が行った措置

  1. 競争的資金等の執行停止等の措置
      調査期間中、科学研究費助成事業(平成27年度から平成29年度)及び学内個人研究費の執行を停止した。
     
  2. 元准教授に対する大学の対応(処分等)
     元准教授は、平成28年2月10日付けで退職したが、懲戒処分の該当性について懲戒委員会において審議し、平成28年5月23日付けで出勤停止90日の懲戒処分相当とした。
     
  3. 論文の取下げ等
    (1)盗用と認定された書籍の分担執筆部分については、その書籍の編集責任者に盗用と認定したことを伝え、事後の対応を依頼した。
    (2)盗用と認定された論文については、投稿・発表された当該学会の理事に盗用と認定したことを伝えるとともに、元准教授からも自発的に取り下げる旨の連絡があった。

◆発生要因及び再発防止策

  1. 発生要因
     大学における不正防止体制は、平成22年7月に制定・施行した公的研究費取扱規程(平成27年4月廃止)、平成24年12月に制定・施行した研究倫理委員会規程に基づき、研究者の倫理観に信を置いて運営を行ってきたが、元准教授が不正行為を行った論文等を発表した時点では、啓発活動を義務付けてはいなかった。
     このため、今回の不正行為は、研究倫理にかかる管理運営が不十分であったこと、また、論文等の執筆に際して当然守られるべき倫理手続(他の研究者の成果に対する適切な引用等)に対する元准教授の重大な認識不足から生じたものであり、研究者としての基本的な心構えの不徹底が不正行為を招いたものと言える。
     
  2. 再発防止策
    (1)研究不正防止体制の強化
     今後このような不正行為が発生することのないよう、不正防止にかかる各委員会の役割を明確にするとともに、最高管理責任者である学長を筆頭に、研究支援担当副学長、総合研究所長、研究科長及び各学部長が研究倫理教育に責任を持ち、すべての構成員が研究倫理にのっとった研究活動に取り組む姿勢を身につけるよう徹底することとした。また、「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」(平成26年8月文部科学大臣決定)を踏まえ、研究データ等の保存及び管理に関する規程を整備した。
    (2)研究不正防止管理体制・研究不正防止計画
    不正行為防止のための管理体制組織図、各責任者が担う役割及び不正防止計画を構成員に周知し、不正行為の防止に努める。
    (3)所属研究者への啓蒙(けいもう)と支援
       ・ 平成27年度から全研究員参加の研究倫理教育・研修会を開催するとともに、学外の競争的資金及び学内の個人研究費・共同研究費等の申請・交付に当たっては、CITI JAPAN のe-learningの教材の受講を条件とした。これらを継続して実施し、研究者としての倫理意識の徹底を図る。
    ・ 論文を投稿する際のチェック制度や、資格審査にかかる研究業績審査体制の強化に取り組む。
    ・ 研究の実施、研究費の使用に当たっては、学内関係規程や法令等の遵守について、継続的に注意喚起を行う。
       ・ 二重投稿、論文著作者の不適切な公表などが、不正行為として認識されつつあることから、これらについても不正行為に当たるとして啓蒙(けいもう)していく。

 

 

◆配分機関が行った措置

  科学研究費補助金について、盗用と直接的に因果関係が認められる経費の支出はなかったため、返還を求めるものではないが、科学研究費補助金の成果として執筆された論文であることから、当該資金への申請及び参加資格の制限の対象となる。このため、資金配分機関である日本学術振興会において、資格制限の措置(平成29年度~平成33年度(5年間))を講じた。

 

お問合せ先

科学技術・学術政策局研究環境課

研究公正推進室
電話番号:03-6734-3874
メールアドレス:jinken@mext.go.jp

(科学技術・学術政策局研究環境課研究公正推進室)