研究活動上の不正行為(改ざん)の認定について(2016-04)
【基本情報】
番号
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2016-04
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不正行為の種別
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改ざん
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不正事案名
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研究活動上の不正行為(改ざん)の認定について
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不正事案の研究分野
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薬理学
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調査委員会を設置した機関
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大学
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不正行為に関与した者等の所属機関、部局等、職名
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教授
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不正行為と認定された研究が行われた機関
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大学
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不正行為と認定された研究が行われた研究期間
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-
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告発受理日
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1.平成21年12月14日
2.平成24年5月18日
3.平成25年12月16日
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本調査の期間
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1.平成22年11月24日~平成23年12月17日
2.平成26年2月26日~平成26年3月31日
3.平成26年6月23日~平成27年5月13日
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不服申立てに対する再調査の期間
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なし
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報告受理日
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平成29年1月18日
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不正行為が行われた経費名称
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該当なし
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【不正事案の概要等】
◆不正事案の概要
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- 告発内容及び調査結果の概要
本件は、学外の研究者(以下「申立人」という。)から、平成21年12月14日≪事案1≫、平成24年5月18日≪事案2≫、及び平成25年12月16日≪事案3≫の3回にわたり、教授(以下「被申立人」という。)が筆頭著者若しくは責任著者となっている計27報の投稿論文について、「改ざん」、「捏造」等の研究不正行為を含む研究倫理違反が疑われるとの申立てを受け、調査委員会を設置し調査を行ったものである。
調査の結果、事案1で申立てのあった論文(3報)のうち1報の論文において、研究活動における不正行為である「改ざん」が行われたものと認定した。また、事案3で申立てのあった論文(27報)のうち12報の論文において、研究活動における不正行為には該当しないが、研究者として不適切な行為があったと認定した。
【申立人から申立てのあった研究不正の様態及び不正行為であるとする理由】
≪事案1≫
(1)不正の様態
1)被申立人が共著者に無断で論文を投稿した疑い。
2)被申立人がデータを捏造した疑い。
(2)研究活動における不正行為であるとする理由
1)被申立人が責任著者となっている論文3報を共著者に無断で投稿したこと。
2)上記、3報の論文のうち1報の追加実験においてデータの捏造が行われたこと。
≪事案2≫
(1)不正の様態
被申立人がデータを捏造、改ざんした疑い。
(2)研究活動における不正行為であるとする理由
事案1で指摘した論文の追加実験において、新たなデータの捏造、改ざんが行われたこと。
≪事案3≫
(1)不正の様態
被申立人が画像やデータを捏造、改ざん等した疑い。
(2)研究活動における不正行為であるとする理由
被申立人が筆頭著者若しくは責任著者となっている論文27報において、画像やデータの捏造、改ざん等が行われたこと。
- 本調査の体制、調査方法、調査結果、不正行為と認定した理由
≪事案1≫ 調査期間:平成22年11月24日~平成23年12月17日
(1)調査委員会における調査体制
5名(内部委員3名、外部委員2名)
(2)調査の方法等
1)調査対象
ア)対象研究者:教授
イ)対象論文等:申立人から不正行為の疑いがあると指摘のあった学会誌掲載の論文3報
2)調査方法
書面調査(申立書、対象論文、動物実験計画書、実験動物飼育記録、実験動物購入記録等)、被申立人を含む関係者への聞き取り調査
3)調査対象論文
Biosci Biotechnol Biochem誌1報、Clin Exp Pharmacol Physiol誌1報、Eur J Pharmacol誌1報
(3)本事案に対する調査委員会の調査結果を踏まえた結論
申立人から無断投稿とデータの捏造の疑いがあると申立てがあった論文に関し、調査委員会が実施した調査結果を踏まえた結論は以下のとおりである。
(結論)
対象論文のうち1報の論文において、研究倫理規程に定める不正行為の「改ざん」(研究資料・機器・過程を変更する操作を行い、データ、研究活動によって得られた結果等を真正でないものに加工する行為)が行われたものと認定した。
(認定理由)
不正と認定された論文における実験において、脳卒中易発性高血圧自然発症ラット(SHRSP)及びその対照ラットとしてWKYラットを使用したとあるところ、実際にはWKYラットではなくWistar系ラットを対照ラットとして使用して実験が行われたことが関係書類の書面調査と被申立人への聞き取り調査から認められた。安価なWistar系ラットを使用したにもかかわらず、当該論文の価値を不当に高めようとして、意図的に高価なWKYラットを使用したと論文に記載したことをもって、データの改ざんと認定した。
※申立てのうち無断投稿に関して
共同研究の発表に際しては、全著者が論文の内容を了承していることが前提となる。また、多くの学術誌では論文の内容を全著者が確認していることを求めており、この点を被申立人が怠ったことは研究者として不適切な行為である。
≪事案2≫ 調査期間:平成26年2月26日~平成26年3月31日
(1)調査委員会における調査体制
7名(内部委員5名、外部委員2名)
(2)調査の方法等
1)調査対象
ア)対象研究者:教授
イ)対象論文等:申立人から不正行為の疑いがあると指摘のあった学会誌掲載の論文1報
2)調査方法
書面調査(申立書、対象論文、科学研究費補助金研究計画調書・研究成果報告書等、被申立人への事情聴取(文書))
3)調査対象論文
Eur J Pharmacol誌1報
(3)本事案に対する調査委員会の調査結果を踏まえた結論
申立人からデータの捏造、改ざんの疑いがあると申立てがあった論文に関し、調査委員会が実施した調査結果を踏まえ、研究活動における不正行為は認められないと結論付けた。
≪事案3≫ 調査期間:平成26年6月23日~平成27年5月13日
(1)調査委員会における調査体制
7名(内部委員5名、外部委員2名)
(2)調査の方法等
1)調査対象
ア)対象研究者:教授
イ)対象論文等:申立人から不正行為の疑いがあると指摘のあった論文27報のうち、事案1にて調査済みの3報を除いた24報
2)調査方法
書面調査(申立書、対象論文、実験データ、関係者への事情聴取(文書))、被申立人を含む関係者への聞き取り調査
3)調査対象論文
Eur J Pharmacol誌9報、J Pharmacol Exp Ther誌4報、J Cardiovasc Pharmacol誌3報、Biol Pharm Bull誌4報、Circulation誌1報、Br J Pharmacol誌1報、Jpn J Pharmacol誌1報、Hypertension誌1報
(3)本事案に対する調査委員会の調査結果を踏まえた結論
申立人からデータの捏造、改ざんの疑いがあると申立てがあった論文に関し、調査委員会が実施した調査結果を踏まえ、調査対象論文(24報)のうち12報の論文において、研究活動における不正行為には該当しないが、以下のとおり研究者として不適切な行為があったと結論付けた。
1)不注意により異なる実験のデータ・画像を使用した。
2)同時期の実験群を複数の論文として分けて投稿する際には、その対照実験においても、異なる対照動物を使用するか、対照動物を重複使用する場合はその事実を後発論文において正確に記載・引用すべきであるところ、引用記載等の必要な行為を怠った。
3)時期を隔てた異なる実験における対照実験について、過去に実施したものと同様の実験であっても新たに実施すべきであるところ、行われていない実験部分に過去の投稿論文における対照実験のデータを当てはめる等のデータの流用を行った。
- 認定した不正行為に直接関連する経費の支出について
「改ざん」を認定した論文の作成過程において、競争的資金等からの経費の支出はなかったが、大学が各研究室に配分している経常的な研究費からの支出が認められた。
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◆研究機関が行った措置
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- 競争的資金等の執行停止等の措置
競争的資金等の経費の支出はなかったことから、執行停止等の措置は講じていない。
- 被通報者に対する大学の対応(処分等)
事案1について、調査委員会による調査報告書を受け、懲戒委員会での審議を経て、被申立人に停職20日の懲戒処分を行った。また、事案3について、調査委員会による調査報告書を受け、懲戒委員会での審議を経て、被申立人に停職10日の懲戒処分を行った。
- その他
研究活動における不正行為が行われたと認定された論文については、被申立人から訂正申請を行っていた。また、研究者として不適切な行為があったと認定された論文のうち7報の論文は当該論文掲載誌から取り下げられており、それ以外の論文は被申立人から訂正申請を行った。
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◆発生要因及び再発防止策
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- 発生要因
研究活動における不正行為が行われたと認定された論文が執筆された平成13年当時、学内外を問わず研究不正・研究倫理に関する明確なルール・規程等が存在せず、学内において研究者への研究倫理教育等研究倫理意識の醸成を図る取組、不正行為が起こりにくい環境を整備する取組、研究不正事案が発生した場合に対応できる体制等が整備されていなかったこと、及び、被申立人に研究者としての研究倫理意識が欠如していたことが要因と考えられる。また、研究者として不適切な行為があったと認定された論文が執筆された時期も、その大半が研究活動における不正行為が行われたと認定された論文が執筆された時期と前後する期間であり、同様の研究環境であった。
- 再発防止策
大学では、平成21年に研究倫理規程を制定し、研究活動における倫理基準を定め、研究者の研究倫理意識の醸成に努めてきた。また、平成22年に研究倫理委員会規程」を制定し、研究倫理の諸事案に対応してきた。
本件の不正行為の認定後、平成27年には学長を統括責任者に据え、そのリーダーシップのもと、研究活動における不正行為の防止のための全学的体制を再構築した。具体的には、研究者行動規範」を制定し、研究者の責務等を定めるとともに大学における研究活動上の不正行為の防止及び対応に関する規程」を制定して、研究者に対する研究倫理教育の義務化や研究資料の保存の原則等を定めた。また、研究倫理教育責任者を設置し、研究倫理に関する図書を全研究者及び大学院学生に配布するとともに、e-ラーニングによる研究倫理教育や研究倫理研修会等を実施した。教員を始め関係者の研究倫理意識の向上を促進するため、今後もこれらの取り組みを継続・強化し、着実に実施していく。
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◆配分機関が行った措置
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本件は競争的資金による経費の支出がなく、かつ平成13年に不正が行われた事案であることから、研究機関及び研究者に対する競争的資金の返還並びに研究者に対する競争的資金への申請及び参加資格の制限を行わない。
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科学技術・学術政策局研究環境課
研究公正推進室
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