研究活動上の不正行為(盗用)の認定について(2015-04)

【基本情報】

番号 

2015-04

不正行為の種別 

盗用、二重投稿、不適切なオーサーシップ

不正事案名 

研究活動上の不正行為(盗用)の認定について 

不正事案の研究分野 

身体教育学 

調査委員会を設置した機関 

大学 

不正行為に関与した者等の所属機関、部局等、職名 

教授 

不正行為と認定された研究が行われた機関 

大学 

不正行為と認定された研究が行われた研究期間 

平成21年4月1日~平成25年3月31日 

告発受理日 

平成26年5月9日 

 本調査の期間

※下段は、追加調査の期間

平成26年7月1日~平成26年11月25日

平成27年4月22日~平成27年10月16日 

不服申立てに対する再調査の期間 

平成27年1月6日~平成27年3月16日 

報告受理日

平成27年10月30日 

不正行為が行われた経費名称 

科学研究費補助金

 ※盗用と直接的に因果関係が認められる経費の支出はなかった

 

【不正事案の概要等】 

◆不正事案の概要 

  1.  告発内容及び調査結果の概要
       本件は、平成26年5月9日に独立行政法人日本学術振興会からの文書「告発等に係る事案依頼について」(以下、「本依頼文書」という。)を受けて、研究活動不正防止規程(以下、「規程」という。)に基づき、研究活動不正防止調査委員会(以下、「調査委員会」という。)を設置し、調査委員会において、事実関係を確認するとともに、関係資料の収集・精査及び関係者への聞き取り調査を行ったものである。
       調査の結果、3編の論文(論文1~論文3(下記「2.(2)1)調査対象」参照))について研究活動における不正行為である「盗用」が行われたものと認定した。
       更にその後、大学として、本依頼文書における指摘論文以外の当該教授の過去の論文等について、追加調査が必要であると判断し、調査対象者が作成した論文のうち、疑義が認められた論文2編及び著書1点を調査対象として、事実関係を確認するとともに、関係資料の収集・精査及び関係者への聞き取り調査を行った。
       追加調査の結果、2編の論文(論文4、論文5(下記「2.(2)1)調査対象」参照))について研究活動における不正行為である「盗用」が行われたものと認定した。

    【調査申立者から申立てのあった不正の態様及び不正行為であるとする理由】
    (1) 不正の態様
       1) 他者の英語論文から、無断引用(盗用)があるとの疑い。
       2) 学生の卒業論文から、無断引用(盗用)があるとの疑い。
       3) 他者の論文から適切な引用表示なく、流用したとの疑い。
    (2) 研究活動における不正行為であるとする理由
      1) 他者の英語論文から適切な引用表示なく、論文1については36箇所(のべ437行)、論文3については5箇所(のべ49行)にわたって流用していること。
      2) 学生の卒業論文から適切な引用表示なく、論文2及び論文4において自己の論文として執筆していること。
      3) 他者の論文から適切な引用表示なく、論文5において4箇所(のべ21行)にわたって流用していること。
     
  2. 本調査の体制、調査方法、調査結果等について
    (1) 調査委員会における調査体制
       9名(内部委員7名、外部委員2名)

    (2) 調査の方法等
       1) 調査対象
         ア) 調査対象者:教授
         イ) 対象論文等
       本依頼文書で指摘のあった3 論文(以下1~3)及び当該教授が過去に執筆した論文のうち、追加調査において、研究活動の不正に関する疑義が認められた2論文及び著書1点(以下4~6)
           1) 出典:紀要(2011)(以下、「論文1」という。)
           2) 出典:紀要 (2012)(以下、「論文2」という。)
           3) 出典:紀要(2013)(以下、「論文3」という。)
           4) 出典:学術誌(2013)(以下、「論文4」という。)
           5) 出典:紀要(2010)(以下、「論文5」という。)
           6) 出典:著書(道和書院、2013)(以下、「著書」という。)
       2) 調査方法
       本依頼文書に同封されていた、調査依頼書(告発状)に記載のある指摘及び調査委員会委員による指摘、当該教授への聞き取り調査を含め、研究活動上の不正行為の認否について調査した。

    (3) 本事案に対する本調査委員会の調査結果を踏まえた結論
       本依頼文書に同封されていた、調査依頼書(告発状)で、研究活動における不正行為(「盗用」の疑い)があると指摘があった、紀要において発表した3論文、追加調査により研究活動における不正行為(「盗用」の疑い)の疑義が持たれた紀要において発表した2論文及び著書1点に関し、本調査委員会が実施した調査結果を踏まえた大学の結論は以下のとおりである。

    (結論)
       調査の結果、論文5編(論文1~論文5)について、「盗用」(他の研究者のアイディア、分析・解析方法、データ、研究成果又は用語を当該研究者の了解若しくは適切な表示なく流用すること)が行われたものと認定した。

    (認定理由)
    1) 他者の英語論文から、論文1及び論文3へ無断引用(盗用)があるとの疑いについて
       論文1及び論文3の指摘箇所は、他者の英語論文の対応箇所を和訳したものとの疑念を否定できず、たとえ、当該教授が当該英語論文(原典)を入手し,その内容を吟味した上で作成していたとしても、当該英語論文の著者らの記述(引用部分)を適切な表示なく、論文1の36 箇所(のべ437 行)と論文3の5 箇所(のべ49 行)において、流用していること。
    2) 卒業生の卒業論文から、論文2及び論文4への無断引用(盗用)があるとの疑いについて
       当該教授が研究の構想や論文の執筆過程で学生の指導等に多分に関与していたとしても、卒業論文として執筆されたものは当然に執筆した学生のものであり、論文2及び論文4において、卒業論文からの引用を適切に表示せずに自己の論文として執筆したこと。
    3)  論文5への適切な引用がなされていないとの疑いについて
       論文5の4箇所において、オリジナルの議会報告書(原典)からの引用ではなく、他者の論文からの無断引用が行われたとの疑念を否定できず、たとえ、当該教授が他者の論文の元になった議会報告書(原典)を入手し、その内容を吟味した上で作成していたとしても、引用部分を適切な表示なく4箇所(のべ21行)にわたって流用していること。

       また、大学の規程において不正行為とは定義していないものの、論文1編(論文4)については「不適切なオーサーシップ」、著書1点については「二重投稿」に当たる不適切な行為と結論付けた。

    (不正行為ではないものの、不適切な行為として判断した理由)
    1) 自著書に論文5の再掲であることを明示することなく、ほとんどそのまま掲載されていることについて
       初出の論文を明記せずに自著書に論文を再掲する行為はいわゆる「二重投稿」に相当し、研究業績を積み増す意図があったと取られても致し方ない行為である。大学が定める研究活動上の不正行為に当たらないにしても、二重投稿に当たる。
    2) 論文4のファーストオーサーが当該論文の執筆活動を行っていないことについて
       論文の執筆活動を行っていない者をファーストオーサーに置いていることは、大学が定める研究活動上の不正行為に当たらないにしても、不適切なオーサーシップに当たる。なお、当該論文におけるファーストオーサーについては、当該教授が当該論文の全てを執筆していることが調査により明らかであり、また本学の教員でないため、責任は問わないことと判断した。

    (4) 不服申立て及び再調査結果
       1) 不服申立ての概要
       平成26年11月25日の調査委員会における調査結果を踏まえ、同年12月2日に不正認定した事案(論文1~論文3)について、平成26年12月12日に不服申立て文書の提出があり、平成27年1月6日に再調査の実施を決定した。
       また、平成27年10月16日の調査委員会における追加調査結果を踏まえ、同年10月19日に不正認定した事案(論文4、論文5)についても、平成27年10月29日に不服申立て文書の提出があり、平成27年10月30日に不服申立てを棄却した。
       2) 平成26年12月12日の不服申立てに係る再調査結果
       不服申立て内容について、調査委員会において2回にわたって再調査した結果、不正認定を覆すだけの事実内容は見いだされず、研究活動上の不正行為である「盗用」と判断された。
     
  3. 認定した不正行為に直接関連する経費の支出について
    「盗用」を認定した論文5編のうち4編は、科学研究費補助金2件(基盤研究(C)、平成21年度~平成23年度)(基盤研究(C)、平成22年度~平成25年度)の研究成果の一部とされているが、これらの論文4編の作成過程において、当該補助金を含め、その他の経費においても直接因果関係が認められる経費の支出はなかった。

◆研究機関が行った措置 

  1. 競争的資金等の執行停止等の措置
       当該教授が受給していた競争的資金については、調査が終了する前の平成26年度に終了していたので執行停止等の措置は講じていないが、学内で予算措置する教育研究費については研究活動不正防止規程に基づき、平成27年11月9日付けで執行停止とした。
     
  2. 当該教授に対する大学の対応(処分等)
       本調査委員会による本件不正行為に関する調査報告書を受け、平成27年11月9日に懲戒等審査会を設置し、当該教授の懲戒事由の該当性等について現在審査を行っている。
     
  3. 論文の取下げ
       盗用と認定した論文5編全てが学内で発行された紀要等であるため、大学として取下げ扱いとし、紀要等の発送先にはその旨の通知文書を発出する予定である。

◆発生要因及び再発防止策 

  本件は、当該教授の研究者倫理の欠如がもたらした事態であると考える。加えて、紀要において、論文のチェック体制が構築されていなかったことも要因のひとつと考える。
以上のことから、今回の不正事例も取り入れた新たな大学独自の研究倫理教育の教材開発を行い、全教員及び大学院生に対して研究倫理教育を徹底する。また、紀要については、ピア・レビュー形式による査読制度を構築する。最後に、「二重投稿」や「不適切なオーサーシップ」のいわゆる研究活動上の不適切な行為についても、大学では、研究活動上の不正行為として取り扱うために規程の改正を行う。 

 

◆配分機関が行った措置 

  科学研究費補助金及び学術研究助成基金助成金について、盗用と直接的に因果関係が認められる経費の支出はなかったため、返還を求めるものではないが、科学研究費補助金及び学術研究助成基金助成金の成果として執筆された論文であることから、当該資金への申請及び参加資格の制限の対象となる。このため、資金配分機関である日本学術振興会において、資格制限の措置(平成28年度~平成32年度(5年間))を講じた。

お問合せ先

科学技術・学術政策局研究環境課

研究公正推進室
電話番号:03-6734-3874
メールアドレス:jinken@mext.go.jp

(科学技術・学術政策局研究環境課研究公正推進室)