長寿社会における生涯学習政策フォーラム2012in東京(基調講演・行政説明)議事録

【司会】 大変長らくお待たせいたしました。定刻となりましたので、「長寿社会における生涯学習政策フォーラム2012 in 東京」を開催いたします。
私、本日の司会進行を務めさせていただきます、文部科学省生涯学習政策局社会教育課の合田遼と申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします。
本日は、「学びが生み出すアクティブシニア~高齢者いきいき・地域いきいき~」をテーマに、基調講演、行政説明、講演、事例発表、熟議と、盛りだくさんの内容を行う予定でございます。ほぼ丸一日と長時間にわたりますけれども、このフォーラムを通じて、参加者の皆様が新たな気づきや示唆を得まして、それぞれの地域や団体などにおける活発な取組につなげていっていただければと思っております。
それでは、このフォーラムを開催するに当たり、主催者を代表して、文部科学省生涯学習政策局長の合田隆史より御挨拶申し上げます。

【合田局長】 皆さん、おはようございます。文部科学省生涯学習政策局長の合田でございます。「生涯学習政策フォーラム2012 in 東京」の開催に当たりまして、一言御挨拶を申し上げます。
本日は、大変御多用の中、御参集いただきまして、誠にありがとうございます。お集まりいただきました皆様方それぞれ、日ごろから全国各地で高齢者の学習活動、あるいは社会参画の活動の推進に御尽力を頂いております。心から敬意を表しますとともに、文部科学省の生涯学習をはじめ、各班の施策の推進につきまして、御尽力いただき、厚く御礼申し上げます。
先般、総務省の統計局のレポートですが、日本の高齢者の動向、いわゆる団塊の世代の大量退職の時代ということで、65歳以上の人口が、2012年9月15日の時点で3,074万人と、初めて3,000万人を突破し、高齢化率、65歳以上の高齢者人口が総人口に占める割合も、24.1%で過去最高となりました。
これまで、ともすると高齢者は社会に支えられる人という見方がされてきたわけですが、実際には高齢者の8割の方が、健康で、地域活動で活躍されている方もたくさんいらっしゃいます。今後、生じてくる様々なそれぞれの地域の課題を解決していく上で、多くの高齢者が、より健康で、より元気で、様々な場面で活躍していただく、そういう環境づくり、場づくりを進めていくことが大変重要なことだと思っております。
他方で、高齢者の一人所帯も大変増えており、1980年には88万世帯でしたが、480万人と5倍以上に増えたということです。
そのような状況の中で、文部科学省では、昨年の10月から「超高齢社会における生涯学習の在り方に関する検討会」を開催し、先般、3月に報告書を取りまとめられたところです。もう既にお目通しいただいた方もたくさんいらっしゃると思いますが、「長寿社会における生涯学習の在り方について~人生100年いくつになっても学ぶ幸せ「幸齢社会」~」です。
また、政府全体としては、本年9月に高齢社会対策基本法に基づく「高齢社会対策大綱」が見直されたところです。これは閣議決定レベルのものですが、その中でも、高齢者が年齢や性別にとらわれることなく、社会の重要な一員として、生きがいを持って活躍する、学習成果をいかすことができる環境を整備する、そして、高齢者の社会参加活動を促進することの重要性が指摘されています。
本日のフォーラムでは、基調講演で「高齢社会における高齢者の学習・社会参加活動の重要性」というテーマで、NPO法人ニッポン・アクティブライフ・クラブ会長の髙畑敬一様よりお話を頂きます。その後、行政説明、講演、事例発表、更に熟議も企画しており、盛りだくさんの内容となっております。長時間にわたりますが、高齢者の社会参画活動の推進方策、又は実践事例、推進上の課題などにつきまして、情報交換、意見交換をしていただければと思っております。今後、高齢者が生涯現役社会、全員参加・生涯現役で、アクティブシニアとして、地域づくりへの主体的な参画をしていただける活動の一助になればと願っています。
最後に、一言つけ加えさせていただきますが、このフォーラムを契機として、高齢者を対象とする生涯学習の気運が全国的に高まることとともに、我々にとって、全国各地で御活躍いただいている一人一人の方々とのつながり、ネットワークを大切にしていきたいと思っております。このフォーラムを契機として、そのようなつながり、きずなが生まれ、そして、より深まることを期待し、開会の御挨拶とさせていただきます。
本日はよろしくお願い申し上げます。

【司会】 それでは、プログラムの開始の準備をいたしますので、少々お待ちいただければと思います。
また、この時点で、プログラムに入るに先立ちまして、1点、留意事項をお伝えしておきます。今回、講演、事例発表など、非常に盛りだくさんの内容となっておりますけれども、その関係で、大変恐れ入りますけれども、個々の講演につきましては、個々の質疑応答の時間が設けられないということがございます。講演をお聞きになりまして、当然、様々な感想ですとか、御意見ですとか、出てまいるかと思いますので、こちらにつきましては、後半の熟議の場とか、あるいは懇親会の場などにおきまして、参加者の皆様方と交流、意見交換といったものを通じまして、是非生かせていただければと思っております。
では、少々お待ちください。
それでは、最初のプログラム、NPO法人ニッポン・アクティブライフ・クラブ(NALC)会長の髙畑敬一様による基調講演を行います。
まず、簡単ではございますが、髙畑会長の経歴を御紹介させていただきます。
髙畑会長は、昭和25年に松下電器産業株式会社に入社後、昭和58年に同社取締役、平成2年に常務取締役と歴任されてまいりました。また、平成6年にはWACアクティブ・クラブを設立、平成11年にはNPO法人ニッポン・アクティブライフ・クラブ(NALC)に改称し、現在まで会長を務めておられます。ナルクでは、「自立・奉仕・助け合い」をモットーに、生きがい志向の中高齢者が結集し、助け合いや地域貢献で社会のために役立てるような全国ネットのNPO活動ボランティア体制の確立に努めておられます。また、そのほかにも、社会福祉法人大阪府肢体不自由者協会理事長、財団法人さわやか福祉財団理事、市民福祉団体全国協議会代表理事、社団法人長寿社会文化協会顧問など、様々な公益団体の役職を務めておられます。
本日は、「高齢社会における高齢者の学習・社会参加活動の重要性」をテーマに基調講演をしていただきます。
それでは、髙畑会長、どうぞよろしくお願いいたします。

【髙畑氏】 皆さん、朝早くから熱心に足を運んでいただき、ありがとうございます。
生涯学習という言葉は、非常に新しいです。私は少なくとも学生時代は耳にしませんでした。松下へ就職して、労働組合の仕事に携わっているときに、ときどきこの生涯学習という言葉を耳にしたのですが、これは多分日本で生まれた言葉ではないだろうと思い、いろいろと当時本を買って調べてみると、やはり1965年にユネスコの中で、生涯学習を奨励する言葉として初めて誕生したようです。この間、大阪のジュンク堂という大きい本屋があるのですが、サービスが良く、いつでも本を立ち読みできるように、立ち読みでは疲れるだろうということで、窓際に椅子と机を置いて、「どうぞ、じっくり勉強してお帰りください」と書いてあります。それでは、サービスにあずかろうということで、5、6冊引っ張ってきて、片っ端から読みました。これは私の調べたことですから、間違っていたら、本日は大学のいい先生が来ていますので、修正していただいて結構ですが、ユネスコで奨励されて、生涯学習は世界中に広がっていきました。欧米でも、アメリカでも、随分と広がったのですが、欧米では、ドイツなどはもともと職業教育が中心の教育でしたから、職業教育として盛んになっていったようです。日本では、人間形成とか余暇活動の中における、例えば、趣味の問題など、そういう余暇対策や人間形成に重点が置かれた学習になっていったということが書いてあります。
それから、見方を変えると、欧米では、成人が対象です。成人といっても、二十歳を過ぎて間もないくらいで、欧米では成人対象の生涯学習に非常に力を入れていったようです。日本は、当時文部省でしたが、1985年に高齢者教育をスタートさせ、これは生きがいづくりであるとか、あるいは、地域におけるボランティアの参加だとか、いろんなことで、老人大学の開設にまで発展し、そこへ都道府県から補助金が出ましたから、私の記憶では、1990年代は生涯学習花盛りでした。どこへ行っても、市町村で老人大学やシルバー大学というのはあり、参加者は多かったです。女性の参加も多かったですが、男性も熱心に勉強されていました。
ところが、間もなく、「濡れ落ち葉」とか「粗大ごみ」とか、今日はお見えになっていませんが、樋口恵子さんという人は、男性に特別厳しいです。当時、定年後、何もせず、ぶらぶらしている男性が多かったようです。奥さんの後を家でついて回っている、邪魔で仕方がないから、「濡れ落ち葉」とか「粗大ごみ」とかいう名前がつけられるほど、定年後の高齢者の生き方というのは大問題になりました。
おかげで、年金は随分と充実しました。私が、今のパナソニック、松下電器に入社し、その後、労働組合の委員長をやっていたときには、毎年秋には必ず退職金の引上げを要求していました。定年後10年間は生活できる老後の保障をして欲しいと。国家には厚生年金はあるが、全然小さくて、もうものにならないわけです。当時は既にスウェーデン、デンマーク、イギリスなど随分と立派な公的な年金ができていました。日本は、制度はありましたが、金額が非常に小さくて、これではとても生活が維持できない。当時、まだ日本の労働組合は、企業別に組合をつくっていましたから、日本の組合は企業別組合の集まりでした。だから、何でも会社へ要求するという癖があり、なかなか目を社会に向けて、政府や国会に対して、ヨーロッパの優れた北欧諸国のような年金制度をつくってほしいというような発想は出てきませんでした。
ところが、そのうちに、いわゆる国際化――今のグローバル化よりも少し視野が狭いですが、国際化が始まり、資本の自由化や、あるいは貿易の自由化が、国境を越えて行われるようになりました。随分とトヨタ、松下、サンヨーなど、いろんな日本の大きな会社が、世界各国に工場をつくり、そして、そこで生産したものを、その市場や世界の市場に供給するという生産を日本以外のところで始めたのがこの時代です。
そのときに、我々も組合員が奥さんや子供を連れていって困っていることはないだろうかということで、巡回し、調査してもらいました。それで、当時一番優れていたのは、今は合併してありませんが、東京銀行が一番立派でした。いろんな海外へ出かけている人たちのための会社の手当としては、万全と言ってもいいぐらいすごかったです。東京銀行を見習い、私たちはどんどん要求しました。
その時代に、そういうことをしながら、いろんな国へ行って、その国の労働組合や経営者のみなさんと話をすると、どうもおかしいと感じるようになりました。賃金や、労働時間を短縮せよとか、休暇を増やせというのならば、経営者に要求してもいいですが、政府に対しても、社会保障をしっかりやれということを言わないといけないのではないかと。春闘で自分の会社にだけ要求することをやめて、賃上げのため毎年春闘をしていましたが、これを、2年に1回は、年金を増やすという要求をしました。当時、自民党の政権でしたが、なかなか理解があり、「それはそうだ。これからはやはり国際的な日本になっていくのだから、欧米諸国と比べて見劣りしない社会保障をつくらないといかん」という議員も多くなり、野党と与党も含めて、年金が非常によくなりました。私は、これも1つの国際化時代の産物として高く評価をしています。
ところが、皆さん御存じのとおり、間もなくバブルの崩壊が始まりました。日本の経済がどんどん下落していくという状況の中で、経済が厳しくなると税収も厳しくなり、国家財政も苦しくなることで、文部科学省も随分予算が圧縮されたのでしょう、老人大学に渡していた補助金が出なくなりました。補助金が都道府県まで来ないから、当然、市町村にも来ません。銭の切れ目が縁の切れ目か知りませんが、それでもしっかり頑張っているところもありました。名前は挙げませんが、自分の町や市の予算を何とかひねり出して維持をしていた市町村もありましたが、非常に花盛りだった生涯学習がしぼんでいきました。しぼんでいくという言い方よりも、熱心に続けてきたところと、もうやめようとしたところ、生涯学習に対する熱意の格差がはっきりあらわれました。温度差というか、そういうのを覚えています。
私は、「濡れ落ち葉」「粗大ごみ」と言うときに、せめて生涯学習だけでもきちんとやれば、そこへ、毎日暇でぶらぶらしている定年後の男性・女性のシニアの皆さんが必ず来ると思いました。だから、是非そうすべきだということを言って回り、その結果、生涯学習が非常に盛んになり、私は、当時、よく生涯学習の講師で呼ばれていました。本日のように「ボランティアはどうやって参加したらいいか」、「ボランティア組織をどのようにつくったらいいか」、「お金の調達をどうしたらいいか」などのテーマでよく話をしてほしいと言われて、シルバー大学、老人大学など様々な場所で講師をしました。
皆さん非常に熱心です。これまでは行くところがなかったが、老人大学へ行き、老人大学へ行けば、友人もできる。これまでは、企業の中でできた友人は、定年になるとばらばらになりました。だから、地域では活動していないため、みんな友人はいなくて、家に奥さんがいるだけです。その奥さんから、邪魔になると言われるので、行き場がなくなるのですが、皆さん、老人大学へ来くると、とても熱心です。市町村の中では、1年コースとか、2年コースとか、1年間で大体毎月やるのですが、1年間毎月続いた人には卒業証書を渡すとか、又は、卒業証書だけでなく、卒業旅行までしていました。それで、「高畑さん、いい世の中になりました。私はこういうところがあるから、老後暇でかなわないということを言わなくてもええようになりましたよ」って、これは随分「濡れ落ち葉」「粗大ごみ」対策になりました。
しかし、先ほど申しましたように、バブルの崩壊後、全体としてはしぼみ、かつ、市町村間で格差が出るということになり、そのうち、民間ベースでカルチャーセンターや、市町村もタクトを振って、いろんな趣味の会のサークルがどんどん地域にでき、そこに入れるよう行政も随分と面倒を見るようになり、今や「粗大ごみ」や、あるいは「濡れ落ち葉」と言われるような男性は、定年後、ほとんどいなくなりました。
ただ、自分のためだけに時間を使って老後を楽しんでいる人はいるのですが、これを、今日のテーマである地域社会の担い手として、もう一回中心になっていただけるにはどうしたらいいかということが、これからの日本の大きなテーマになり、また、やり方によっては、うまくいかなければ分かれ目になると思っているところです。
ところで、皆さん、今日の時代、世の中、とても変わったと思いませんか。例を1つ挙げると、携帯電話というものはありませんでした。現在、小学校生はみんな持っています。持ってくるなと禁止した学校もありますが、なかなか徹底できなかったようです。単に電話だけでなく写真を写したり、その写真を交換することもできます。最近はスマホというものが出てきて、それを通じて、携帯電話で本を見ることができるなど、小さいときに、そういうものができるということは、考えられませんでした。
結果、いろんな大きな変化が子供の教育や家庭の中でも起こっています。私は会社の役員になったときも、今でもよく電車に乗るようにしているのですが、通勤電車に乗っていると、みんなさっと出して何するか、本を読むかと思ったら、そうではなく、携帯電話をいじり出す。「ああ、えらい変わってきたな」、携帯電話ばかりやっていたら、本当に孤独になるなと感じました。子供も友達ができなくなるのでは、と心配をするくらい、価値観の転換が行われていくわけです。
あるいは、現在のグローバル化というのは、最近まで資本や貿易の自由化ということでしたが、今は1つの商品をつくると、それを全世界で初めから売る計画で商品企画なされるとか、あるいは、その国で売れる商品のために、その国で設計、製造、販売していくなど、完全なグローバル化になってまいりました。このグローバル化のために、例えば、日本では雇用がどんどん減ってしまう。今、日本で就職するよりも、世界のどこかへ行って、そこでしっかり就職して働いたほうが、大事にしてくれる国がたくさんあります。考えてみれば、日本が戦後の高度成長の時代に差しかかったときに、東北、北陸、九州などから若い人たちが都会に就職のために集まってきて、そして、完全に都市化が始まりました。しかも、企業自体も、今のグローバル化の中では完全に、例えば、会議でも、パナソニックも古くから行っていますが、英語で会議を行います。そうしないと、海外から来ている人たちの役員と共通の話になりません。だから、子供の教育に英語を初めから入れないといけないとか、もっと日本語を覚えてからとか、いろんな議論がありますが、こういう課題は、10年前から15年前はほとんどなかったです。
また、今日の主題ですが、少子高齢化というのはちょっと考えなかったですね。日本の人口がどんどん減少し、高齢者の割合が現在23%を超え、間もなく4割に達していきます。1人の若い者が1人の年寄りを世話しないといけない、だから、堀田力さんが言っておりますが、昔は騎馬戦型で、3人か4人で1人の年寄りを世話したけど、今は完全におんぶして、1人で面倒見ないといけないため、そうなると、若い人たちは大変です。
だから、若い人たちと、いわゆるシニアの皆さんとの意識の乖離という問題。その中で、例えば、年金などは、若い人たちの保険料で定年になった人たちの年金が賄われています。これは世代送りですから、「我々もそうしてきたから、おまえたちもそうせい」と言いたいところですが、残念なことには、我々の若いところは、まだ我々の数が多く、面倒を見る定年退職者は少なかったです。今はもう完全に逆転しています。だから、いつまでも若い人が保険料をみるのは当然だという考え方はもう通用しなくて、おまけに、朝から晩までそば打ちをやっているとか、自分の趣味だけに没頭して、自分だけ楽しんで、一切世間のこと、日本社会のことについては無頓着で、参加もしないということになると、そういう人が多くなりますと、一体日本はどうなってしまうのだろう、若者が自分は何のために生きているのだろうという問題が出てきています。
この少子高齢化の問題、もう一つありますが、皆さん御承知のとおり、昔は、子供は親の面倒を見るということで、親は子供の世話になる、一緒に住んで生活の面倒を見てもらっていました。自分の言いたいこと、したいことは我慢しないといけないが、あとは子供が死ぬまで面倒を見てくれるから、そう不安なことはありませんでした。今は、もう老夫婦だけで、子供たちと別れて暮らすというのが非常に多くなりましたし、そのうちどちらか一人先に逝く人もいます。夫婦が一緒に死ぬというのは珍しいです。大体男が先に逝くのですが、どちらも配偶者と死に別れた後、一人で生きていかないといけないという課題はあります。しかも、子供の世話にならないで、自立して生きたいという気持ちが非常に強いです。それは、子供にはもうあんまり厄介をかけたくない、大変な時代になったから、ということですが、そうなると、年金というものをどう考えるかというのを、もう一度根本的に考えてみなければならない時代に入ってきていると私は思います。要するに、今までの価値観が全部変わってきているわけです。そういう意味で、もう一度新しい価値観をつくり直していくという時代にきたのではないか。
この間、皆さんも日経新聞などで御覧になったかとは思いますが、明治維新以降、日本が一番輝ける時代だった「坂の上の雲」の時代の人材が日本をいわば一流国にしたということですが、その人たちが受けた教育というのは江戸時代の教育です。江戸時代の教育を受けた人が、明治維新をつくり、「坂の上の雲」の時代をつくりました。私も福沢諭吉先生は好きですから、『学問のすすめ』とか、そういう本を随分読みました。福沢先生は、『学問のすすめ』の中で、儒教をすごく嫌って、批判しました。儒教を勉強しても古臭い、それよりもっと近代的な西洋の技術・知識を学んで、日本をもっと独立国にしないといけないということで、いわゆる儒教中心の論語、あるいは老子、荘子とか、陽明学とかいうようなものを学んでも何の役にも立たないと、こういうことを書いていましたが、人間としてしっかり腹が据わり、ものの見方、考え方、危機に臨んで本来の人間の力を発揮できるような人材をつくったのは、明治時代の以前の、いわば儒教や仏教を背景にした、日本人の心、伝統のようなものが大きかったと言われております。私もそう感じておりますが、私も昭和4年生まれで、戦前の教育も受け、戦中のあの悲惨な状況も経験し、戦後の新しい平和主義、平和憲法、民主主義教育も受けましたから、それぞれ比較すると、どこがよくて、どれがよかったかなということを最近考えます。
価値観の確立というのは、現在、大変革の時代にあって、私は、生涯学習の中で、一番やらなければならないのではないか。小、中、高、大学でも教えていませんからね。せめて、年いって、そして、いよいよ人生の締めくくりの段階に差しかかって、それでもなお社会のために捧げていく、役割を果たそうと思う気概は、しっかり価値観として持っていただく必要があるのではないかというのは、私の考えです。
それで、この大変革の時代は、先ほど申しました、今までの価値観が全部崩壊してしまっているわけですから、新たな価値観を持たない人たちが、ただ無定見な考え方、あるいは無定見な日々を送っている人が多いわけで、どういう価値観を持つかということが、人それぞれあっていいですが、少なくとも今一番大事なことは、様々な変化の中で、何を残し、何を廃止し、よくいう有名な言葉があります。そういう、何をやめて、何を残してしっかりやっていくかということについての学習を徹底的にやっていくべきではないだろうかと思っています。人間としてのものの見方、考え方というものを、経営者でも、あるいは若者でも、シニアも、みんな持っていくべきではなかろうかと思っております。私は、そういう意味で、この新しい価値観の確立のために、先ほど少し申しましたが、やはり日本人の心とか日本人の伝統精神みたいなものを、もう一度基本に戻って勉強する必要はないだろうかという点を皆さんに話したいと考えております。
私は、関西で、関西の経営者、私が尊敬しておりました故松下幸之助さんや、あるいは住友信託の新井さんという社長がいらっしゃいましたけど、そういう方々が、戦後――日本の経営者もどんどん、古い人は占領軍の追放に遭ったりして、だから、若くして社長になって、経営を担っていかなければならないという人たちが随分増えました。そういう方々がまず学んだのは、やはりリーダーとして、いわゆる長としてどうあるべきかと。長として部下にどう接し、長としてどうやって得意先に接していくかということを真剣に考えたときに、やはり日本に伝統的に残っている東洋精神とか東洋思想と書いていますが、安岡正篤という先生が、教育勅語を直した方ですが、非常にすばらしい、そういう東洋精神、とにかく陽明学の点では優れた知識を持っていらっしゃったので、毎月勉強会を開いて、経営者の皆さんは、知識とか技術とかいうもの以外に、自分の社長としての人格、決断力であるとか、そういうものをどう身につけるかということに一番重きを置いて勉強されたそうです。
安岡先生は亡くなられて、今、なかなか代わる人はいないですが、それを受けた若い弟子、当時は会社で主任とか課長とか、まだ20代ぐらいの若い人たちが、今、定年になってしまい、それで、改めて、我がふるさとではないですが、我が出身のパナソニック、シャープ、ソニーも、みんなおかしくなっている。これは、もう一度、経営者の価値観をしっかりつくってもらって、そして、やはりあの戦後の優れた日本の経営者にまさるとも劣らない経営者をつくらないといけないという話を、毎晩寄るとそんな話になります。だけど、残念ながら、安岡さんのように、そういう日本の伝統精神、東洋精神みたいなものを系統的にちゃんとわかりやすく説明して、そして、きちんとした価値観に持っていけるような話ができる人はまだいなくて、今、そういう勉強会をお互いにやっていますが、何とか生きているうちに間に合っていこうじゃないかという話をしております。
こういうことを言うと、皆さんもおわかりになるでしょう。私は、去年参加させていただきましたが、この文部科学省の生涯学習の、特にカリキュラムがどうあるべきかという検討会が開かれたときに、私は盛んに言ったのは、もう今や価値観が大きく変わっている時代で、物事がとても変わっている時代に、それに見合う教育をしないといけないのではないかと。知識や技術というのは、これは今のITをしっかりやっていれば、使用することで知識などはすぐ入ります。価値観を確立して人間をつくるというのは、なかなか難しいことであると思うだけに、これからの生涯学習の方向が問われるのではなかろうかと私は思っております。
ところで、私自身の話になりますが、ちょうど今から18年ほど前に、パナソニック、当時、松下電器といいましたが、役員の定年を控えており、みんなそうでしたが、定年の前の日まで一生懸命働いていました。定年の先のことは考えずに、みんなそうでした。それで、定年式があり、社長から記念品をもらって、それで、落ちつくと、さて、これから毎日暇な時間をどう過ごすかということを、みんな考えました。今は大分変わって、この間、あるデータを見ると、団塊の世代は、60から定年になっても、最近は65まで勤めるようになりましたが、50代へ入ってから、もう既に考えていると。40代の人は、40になってからと、非常に早くから定年後の用意をしているとのことです。そういう時代に変わってきたようです。
私は、大変革の時代の価値観の問題として、先ほど申しましたように、子供は親から自立していく。それは、もう元に戻ってこないかもしれません。一緒に所帯を持って暮らすということはできなくても、お互いに独立した人間として、しかし、親子の愛情は切れないけれども、離れていても、お互いに気を使いながら暮らしていくという。親と子が別々に所帯を持って暮らしていくという時代になっているわけです。そうした中で、私が最初考えたのは、日本も、アメリカやヨーロッパのようになっていくだろうと。今から17、18年前にナルクをつくるときには、まだ田舎へ行ったら、ほぼ100%と言っていいくらい、親子は一緒に暮らしていました。しかし、都会では、もう既に核分裂をしていきました。今は田舎でも当たり前になりました。
1週間前に、私、故郷の富山へ帰って昔の小学校の同窓生と一杯飲みながら、いろんな話をしましたが、みんな、別れて暮らしている。だから、富山はどの家でも車3台あります。常に車で移動するから、別のところで暮らしているけれども、新しく家をつくった土地が分譲住宅で駐車場が狭いが、親の家の庭は広いので、そこへ車を置かせてもらっています。田舎へ行くと、どの家でも大体3台ぐらいは持っています。
この人たちの何が一番問題かというと、生活の心配はなく、子供が別れても近くにいて、面倒見てくれる。だけど、やはりいつも一緒にいないので、いざというときは来てくれるけれども、ちょっとした困ったことについてはなかなか来てもらえない。よくある「おい、ちょっと眼鏡どこいったかな。探してくれんか」とか、そんなときは来てもらえない。それは当たり前で、自分で管理することだと言っています。そんなことを含めて、やはり自立するということは大変なことだなとしみじみ思っています。やはり、子供から離れて自立していくということは、新しい価値観の転換ですけれども、これには相当な覚悟をしなければなりません。孫といつも一緒に遊べることもできませんし。だから、孤独まではいかないけれど、少し寂しいことについては我慢できる忍耐性をつくっていかないといけないということは、話しています。
田舎の場合は、まだ子供が近くに住んでいてくれたり、あるいは、まだ田んぼや畑があり、兼業農家は多いですから、何となく近所付き合いがあります。しかし、都会はもう完全に近所付き合いがなくなっていると言ってもいいくらいです。もちろん、これを復活しようとして頑張っていらっしゃる地域もあるし、復活しつつあるところもありますけれども、残念ながら、なかなか上手くいきません。
例えば、私は今、見守り隊というのをつくっています。ナルク全体で、一人暮らしで身よりのないお年寄り、こうした人たちが自分の家で亡くなってから1週間後、2週間後に発見されるという、耐え切れないことです。団地などは一番そうで、大阪の泉北ニュータウンは、毎月やはり30人くらいそういう人が出てくる。「何とか近所つき合いして、町内のいろんな行事へ出なさい」と言っても、女性は誘われるなど人間関係があるので、まだ割合出る方がいますが、男性は人間関係がないため、足が重く、なかなか出られません。結果、挨拶程度しか交わしていませんから、困ったときには、「苦しいから病院へ連れていってくれ」、「ちょっと来て助けてくれ」ということは言えない関係ができつつあります。
これについてどうするかとなると、やはり近所よりも、趣味の会やボランティアの会など、目的を同じくして組織をつくり、人間関係を固めている人たち同士のほうが、割合上手くいっています。だから、そういう会に入ること、又は、そういう会をつくることだと思いますし、私は、ナルクを設立したとき、最初のうちは男性中心につくりました。会社では友達はいるけど、会社を定年になったら、友達は地域に全然いませんから、一からボランティア団体をつくり、人数を集めようとしてもなかなか人が来ない。それで、奥さんの力を借りようと思いました。奥さんは、旦那さんが現役時代に、PTAや自治会の役員をやるように言われ、全部地域のことを引き受けてきたので、知り合いが結構いらっしゃいます。奥さんに入っていただいて、そのつてで地域の人に会うようにと言っていますが、やはり上手くいきません。結局、今申しましたNPO、ボランティア団体や趣味の会など、要するに、価値観を同じくする、目的を同じくする人たちが地域で集まって、あたかも近所で住んでおった人と同じような関係を持つ。多少離れていますが、車ならば、すぐ駆けつけることができます。自転車でもいいので、そのように、地域の中で、少し離れていても、コミュニティをつくり上げていくことが、そういう形でできるのではないか。私は、これを「新しいコミュニティづくり」と言っておりますが、これをやはり奨励すべきではないだろうかと思っております。
残念ながら、私の住んでいる枚方市、人口40万の大阪の衛星都市ですが、民生委員のなり手がもういません。民生委員というのは、昔は名誉職でした。その後、いろんな調査はやっておられる。私のまちに、例えば母子家庭とか、お年寄りでも少し自立できにくい人とか、障害者とか、そういうハンディを持った人を、どこにどなたがいらっしゃるかを把握するだけでよかった。最近、行政は何でも民生委員に行け言います。だから、もう疲れ果てて、「もうかなんわんわ。全部わしがやらないかん。あそこのお年寄り、あそこの障害者、あそこの母子家庭、とても一人でしょいきれん」と、ボランティアが欲しいと言います。「高畑さん、ボランティアを何とかつけてくれんか」と、そんな話が仲よくなって話をすると、出てきます。それはやはり完全なコミュニティがつくられていないからだと思います。
私は、近所というのは、今の若い人は特にそうでしょうが、たまたまそこに住んでいるだけ。以前、近所は共同部落で、例えば、農家だと、水を中心にお互いに持ちつ持たれつの関係がありましたが、今、それもなくなってまいりました。そうしたことで、なかなかコミュニティがつくりにくい。ならば、やはりボランティアをして人のために尽くそう、自分もそれで生きがいを持とうという価値観を同じくする人たちが集まって、お互いに激励し合いながら生きていく、困ったときは助け合う、そういう関係を確立すべきではないかということで、つくりました。
それには、当時はまだ介護保険もありませんでしたから、今から18年前は、親の介護が一番大変でした。それで、介護している家族を助けようとか、一人暮らしの人の介護を助けようとかいうことで始めましたが、みんな、定年後に会員になってくれた人が、「いやあ、介護はちょっと苦手や」と言うので、なかなか家庭へ入ってくれませんでした。そうして、よく考えた結果、女性の方に入っていただければと思い、女性と言えば、やはり一番身近にいる奥さんを忘れていました。現役時代は、自分勝手に行動していますが、奥さんと一緒に行動するとか、一緒に物事を相談するということはあまりなかったです。それをやり始めて、非常に上手くいっています。ナルクが設立してから18年が経ち、全国135の市町村に支部、全体で3万人の会員がいるのですが、多いのは枚方市、奈良県で各800人、水戸市で770~780人とか、宇都宮市で900人近く会員がおりますが、こういうところは、街のいろいろな行事や、あるいは社協のいろいろなイベントなどに、必ずと言っていいほど下働きに行っております。地域の支え役になっているわけです。自分自身は、会員の友達と一緒にそういうところで社会の担い手になって働くことによって、健康と生きがいを得ることができ、非常にいいことだということで、皆さんに続けていただいています。
ただ、最近、やはり体を壊したり、足が痛くなった、膝が痛くなってきた、腰が痛くなったという人たちが出てきているので、心配しておりますが、私は、あまり自分で早くから年寄りと思わないほうがいいと思います。今のデータには、年寄りとは思っていないというデータが出ていますけど、やはり駄目のようです。70歳になったら、「ああ、もうあかんわ。もう年寄りだ」、75歳では、「後期高齢者や。もうあかんぜ。もうボランティアなんかやめた」、という既成概念にとらわれるようです。やはり人間は努力をすることによって、健康寿命が延びます。体力は落ちても、健康度は落ちない、逆に強くなるということですから、やはり自分の心掛け、目標如何によって、その人なりの元気な生涯を受けることができるので、ただ長生きするだけではなく、元気で長生きする。元気で長生きして、その長生きした時間を、自分のためだけに使わないで、地域の人たち、あるいは、困っている、弱っている人たちのために使っていくということをやっていただきたいと、今日来ていただいている皆さんにはお伝えしたいと思っています。
時間になりました。今日はたくさんの方々に来ていただきましたが、学習することが目的ではなく、学習することによって新しい価値観をつくり、そして、地域のために実行する、これが生涯学習の目的ではないかなと思いますので、学習の成果を出していただけるよう重ねてお願い申し上げまして、私の基調講演を終わらせていただきます。ありがとうございました。

【司会】 髙畑会長、ありがとうございました。会場の皆様、いま一度、高畑会長に大きな拍手をお願いいただければと思います。ありがとうございました。
次のプログラムに入りますまで、少々お待ちください。
それでは、続きまして、文部科学省の取組を紹介する行政説明を始めさせていただきます。
まず、文部科学省生涯学習政策局社会教育課企画官の新木聡より、昨年度文部科学省に設置され、高齢者の学習活動や社会参加活動の意義・役割や今後の政策の方向性などについて検討を行った「超高齢社会における生涯学習の在り方に関する検討会」の報告書について御説明させていただきます。 

【新木氏】 皆さん、おはようございます。ただいま御紹介いただきました、文部科学省社会教育課企画官の新木でございます。私からは行政説明ということで、本年3月にまとめさせていただきました検討会の報告書の概要について、御説明を申し上げたいと思います。
まず、皆さん御承知かと思いますが、我が国における高齢化の現状から簡単に触れたいと思います。御承知のとおり、現在、先ほど局長から話がございましたが、65歳以上の高齢者人口が3,000万人を超え、高齢化率も24.1%と、4人に1人が高齢者、65歳以上の人口となっております。これは世界との比較でグラフ化したものですが、日本の高齢化は非常にものすごく速いスピードで高齢化をしており、7%から14%にかかった年数というものが右側のほうにございますが、日本は24年で7%から14%まで上がっております。ほかの国、例えばフランスだと115年、イギリスだと47年と、これらと比べても、非常に速いスピードで高齢化が進んでいるというのがわかるかと思います。また、日本だけではなくて、特にアジア圏、中国や韓国、こちらも非常に急速に高齢化が進んでおり、特に中国については、まだ高齢化は低いのですが、今後、2055年に向けて、非常に速いスピードで上がっていくということが予測されています。
日本における状況ですが、我が国においては、総人口の減少が始まっており、それに対する形で高齢者人口が増え、一方で15歳から64歳の、いわゆる生産年齢人口が減少している傾向ですので、高齢化率も上昇しています。ここに、先ほど高畑様のお話にもありましたが、65歳以上の方1人を何人の生産年齢人口で支えているかというのが下に書いていますが、1950年の時代には、10人に1人を支えていました。これが、現在、2010年には、2.6人に1人、2050年に至っては、1.2人に1人と。昔はピラミッド型で支えていたのが、現在は騎馬戦型になっており、更にそれが肩車式になる。こうした、なかなか支えきれなくなっている社会の中で、どうしていくかということですが、改善の方策としては、子供を増やしていくということ。ただ、子供を増やすというのは非常に難しい社会において、もう一つの方策としては、分子に当たる高齢者の中で、元気な高齢者というのは非常にたくさんおられますので、こうした方、あるいは女性の方が下に回って、支える側に回っていただくというようなことが必要であろうと考えております。
高齢化というと、一般的には、地方や田舎のほうの問題だと、あるいは、過疎化、過疎地域の問題だと思われがちですが、今後予想されるのは、都市部における高齢化が非常に問題視されております。高齢化率自体はそれほど高くないのですが、東京、大阪、神奈川、埼玉、こうした都市圏における高齢者人口というのが非常に速いスピードで増加する。右側の増加率というのが書かれていますが、こちらを見ていただくと、都市ほど、65歳以上の人口増加率が上がっているのが見えるかと思います。
それから、グラフが去年のものですので、若干率が変わっているのですが、今、世界2位になってしまいましたが、昨年までは世界1位の長寿国であったということです。
一方、高齢者の実態ということですが、多くの高齢者の方は、3,000万人近くいますが、実際、介護保険サービスを受給されている方は、400万人程度しかいません。約8割、9割の方は元気な高齢者であるということが言えるかと思います。
実際に、アンケートで聞いてみると、約7割弱の方が自分のことを健康だと思っている。あまり健康とは言えないけれども、病気ではないという人を含めると、9割近くになるという現状です。諸外国と比べても、スウェーデンには及びませんが、比較的高い数字であることが言えると思います。
それから、身体的なもの、頭の能力ですが、左のほうが、歩行スピードを1992年と2002年の10年間での比較になっています。こちらを見ていただくと、約10年前と比べると、10歳程度若返っている、歩行スピードが速くなっていることが、このグラフからわかるかと思います。それから、右側の認知能力ですが、一般的に、老化するに従って、すべての能力が衰えると思われがちですけれども、実際は、短期記憶能力というのは確かに落ちてくるのですが、日常問題解決能力とか言語能力は、年齢に応じてどんどん上昇する傾向です。したがって、必ずしも老化によってすべての能力が衰えるわけではないということが、グラフからわかるかと思います。
これら現状と課題の整理をしますと、まず、人生100年時代になってきた。先ほどもグラフで見たとおり、平均寿命というのも非常に上がってきています。女性だと、あと数十年経つと、平均寿命が90歳を超えます。今、現時点で100歳以上の方というのは4万~5万人ぐらいおられますが、これが2050年には68万人になります。つまり、多くの人が100歳まで生きられるような社会になってきたということが言えるかと思います。他方で、ほとんどの人が人生50年、60年ぐらいの中で生きていることで、老後をどうしていいかわからないという人もたくさんいますので、そういった高齢社会のマイナスのイメージから脱却することと、老後の、特に退職後の人生をどうやって生きがいを持って、健康で生きていくかということを考えていかなければなりません。
それから、高齢者の実態とイメージの乖離ですが、先ほども見たとおり、今の高齢者、確かに支えられる高齢者の方もおられますが、ほとんどの方は支える高齢者になり得ることが言えるかと思います。
高齢者に対する誤ったイメージで、高齢者というと、65歳以上という非常に幅の広い年代ですので、年齢で区切れないとか、健康でないとか、非生産的だと、こうしたいわゆる老人神話というのがありますが、必ずしもそればかりではないということがこちらに書いています。
こうした長寿社会において生涯学習がどういう役割を持つかということですが、教育基本法、平成18年に改正されましたが、その第3条で、生涯学習の理念という規定を置いています。この規定は下に書いていますが、その生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生かすことのできる社会の実現が図られなければならないと規定しています。すなわち、生涯学習社会の理念は、上に書いていますが、1つが、生涯にわたる学習機会を保障すること、それから、多様な領域での学習機会を総合的に整備すること、最後に、そうした学習成果を社会的に適切に評価、活用する、こうしたことが生涯学習社会の理念であると言えます。
その中で、学習活動と社会参画というものの関係ですが、生涯学習社会の理念の3ポツ目に書いていましたように、学習成果をどのように社会に還元していくかといった観点から言えば、学習活動と社会参画は非常に密接な関わりがございます。社会参画そのものが生涯学習であるということも言えますが、例えば、学習活動を、学びの実践として社会参画活動に生かすような場合、あるいは、社会参画活動をやって、更に何か学ばなければいけないということで、学びに戻ってくる場合、こういった学びと実践の循環を通じて、生きがいに満ちた人生を送ることができるのではないかと我々は考えております。
それでは、高齢者の学習活動と社会参画の現状ということですが、こちらは、必ずしも多くの人がやっているということではなくて、内閣府で行っている調査に寄ると、学習活動への参加状況は、複数回答ですが、約2割程度の人が「生涯学習を行っている」、「参加したいけれども、参加していない」という人が4割程度、「全く参加したくない」という人が4割程度という状況です。我々文部科学省としては、特に、この「参加したいけれども、参加していない」という人、こうした人たちにどのように生涯学習をしていただくかということを、どのように推進していくかということを考えております。
それから、自己啓発・学習をしていない人、自己啓発をしていますかという調査については、約3分の2が「全くしていない」という状況です。
実際にしてみたい学習の内容ですが、やはり多いのは健康あるいはスポーツに関すること、それから、趣味に関することというのが、それぞれ5割以上の人がこうしたことをしたいという状況です。その中に、例えば、真ん中から少し下にあるように、ボランティア活動とか社会問題、こういったことに対して、やってみたいという人が2割程度います。
それから、してみたい理由ですが、これもやはり趣味、教養というところが多いこともあって、「興味あり・趣味を広げ豊かにするため」というのが一番多くて、次に、「健康・体力づくり」が続きますが、中には、「地域や社会をよりよくするため」という理由も、生涯学習をしてみたい理由の中には挙がっております。
こうした学習活動と地域参画との関係性から考えて、高齢者の地域活動への参加意向ということについても、その後、内閣府で調査をしていますが、5年ごとの調査で、昭和63年から平成20年の調査で、経年で見ると、参加したい人の割合というのが年々徐々に増加しています。昭和63年には43.5%だったのが、平成20年度には54.1%と、半数以上の人がやりたいという意向を持っています。また、黄色の部分、「参加したいけれども事情があって参加できない」、家庭の事情や健康の事情などあろうかと思いますが、これらを含めると、約7割の人は参加したいという意向を持っているという状況です。
実際、参加状況としては、やはり健康・スポーツが多いですが、下に地域行事というのがあります。特にこれは男性に顕著に見られますが、地域行事に参加したい男性の高齢者が非常に多い状況です。
それから、最近、NPO活動がどんどん増えてきており、この中にも、「既に参加している」という人が4%、「今後参加したい」という人が9.1%いますが、「関心がある」という人が5割強います。実際、NPOのこの調査で見ると、NPO立ち上げは男性が多いのですが、実際の運用は女性がやっているということが非常に多い状況です。
それから、ボランティア活動へ参加している人の割合ですが、これも年齢別に見た状況で、非常に面白いのが、男性については、年齢を重ねるごとにボランティア活動に参加している人の割合が増える状況です。ただし、75歳以上になると、やはり健康とか、そうしたところが課題となって、若干減るという状況です。
実際、高齢者の地域参加による効果ということですが、先ほど高畑様のお話にもあったように、「新しい友人ができる」、あるいは「生活に充実感ができた」、「健康に自信がついた」というものとともに、「地域社会に貢献できた」といった効果が出ているところです。
それから、高齢者の地域参加の活動の条件ですが、やはり一緒に活動する仲間がいないと、なかなか参加できないという人が多く、あるいは、下から2つ目ですが、健康でないと、やはりこうした地域参加はできないという人が非常に多いです。
以上をまとめると、高齢者にとっての学習活動・社会参画の意義というのは、右下の絵にありますように、健康であること、経済的にしっかりしていること、それから時間があるということ、こうしたことを前提として、いろんな生きがいを創出するということが1つあります。社会的に見れば、社会的人材の活用ができるといったこと、特に、地域が抱える課題というのは、その地域ごとに様々ですが、そうした課題解決の担い手として、高齢者の方に活躍していただくということができること。さらに、孤立化による孤独死の防止がありますが、学習活動あるいは社会活動に参加することによって仲間ができる、そのことによって、つながりができ、孤立化が防止できるのではないかということ。それから、個人的に見れば、こうしたことをやることによって、生きがいの創出ができるのではないか。さらに、健康維持、介護予防にもつながるのではないかと考えております。
今回のフォーラムでは、特にマル4の健康維持あるいは介護、こうしたところについて、どういった効果があるのかということについて、特に中心議題を置いております。というのも、生涯学習は、皆さんには大事だと考えていただいてはいますが、では、実際どういった効果があるのかといったところは、なかなか数値化できないところがあり、我々教育サイドでも、先ほど高畑様のお話もありましたように、予算が減ってきているという中で、財政当局にどういった効果があるのかということをしっかり説明していかなければいけない。そうした観点でも、ここに書いてあることは一般的には理解されますが、実際どういった効果があるのかといったところもなかなか数値が出ていないところもあり、こういったフォーラムをさせていただいているところです。
それから、報告書の提言ということで、政策としてどうやっていくかということですが、基本的な方向性として7つ書いています。
当然、社会教育、あるいは生涯学習は、個人の自主性・主体性等を尊重しなければいけないので、学習者の参画が必要であること。
それから、方向性2の世代別特性ということですが、先ほど申し上げたように、高齢者は年代的にも幅広いわけですし、男女によって求めるものも違うものがあり、そうした各世代、あるいは性別に応じたきめ細かい生涯学習を展開していく必要があります。とりわけ、長寿社会における生涯学習を考えた場合に、必ずしもその対象は高齢者だけではなく、やはり若いころから自分が高齢者になったときのことを考えて、事前準備していかなければいけない。例えば、学生時代、あるいは30代、40代、50代、60代といった形で、その年代ごとに、世代ごとに応じたものも用意しなくてはいけないだろうということです。
それから、方向性3としては、学習が困難な者への配慮ということで、さきに見たように、学びたいけれど学べないという人は非常にたくさんおられます。それは、健康、時間、あるいは地域でそういったものがないということがありますので、例えば、アウトリーチ型による届ける生涯学習ができないかといったことがあります。
それから、方向性4ですが、関係機関相互の連携の促進ということですが、文部科学省ですから、いわゆる教育委員会のほうが主になるのですが、それだけではなく、首長部局のほうでも、例えば、福祉部局でやっているシルバー大学あるいは高齢者大学といったところとの連携とか、最近で言うと、まちづくりということが首長部局で行われておりますので、実際、学んだ成果を、その地域が抱える課題解決に生かすという観点からは、そういったところとの連携も必要ですし、さらに、地縁組織、あるいはNPO、行政だけではなかなかできない部分も増えてきておりますので、そういったところとの連携が必要であろうということ。
それから、方向性5は、学習成果の活用の促進ということで、同じことです。
さらに、コーディネート機能の整備ということですが、高齢者の方、いろんな社会参加をしたい、あるいは学習活動をしたいという意向はお持ちですが、中には、何をしていいかわからないといった人も多くいるので、そうしたところをうまくつなげていける人を育てていくことが必要です。
それから、方向性7ですが、世代間交流の促進ということで、高齢者だけをターゲットにするのではなく、高齢者と若い人、あるいは学生と高齢者という形で、知識・経験の伝承とか、居場所づくりといった観点も必要だろうということです。
具体的な方策については、今申し上げた観点で、4つほど掲げておりますが、こちらは後ほど御覧いただければと思います。
それから、関係機関の役割ということで、それぞれ社会教育施設、あるいは学校、大学、民間組織、雇用主という形で、それぞれの役割分担があるということとともに、例えば、行政としては、一番密接にこうした生涯学習、社会教育の事業を行っているのが市町村ですので、市町村が関係機関の連携促進とか多様な機会の提供をやっていくといったことが求められるということとともに、都道府県については、そうした市町村の先導的な施策の支援、あるいはその条件整備、広域的な観点からその助言をするといったことが必要です。さらに、国としては、基本的な方針の策定とか、場合によっては、地域間格差の是正とか、あるいは、こういった形でフォーラムをさせていただいて、全国各地で先導的なプログラムがあれば、提供して周知を図っていくといったことが役割として求められるのかなと考えております。
以降、事例ということで載せておりますが、こちらは、報告書の最後、30ページ以降に載せているものの抜粋ですので、後ほど御覧いただければと思います。
以上、行政説明ということで、報告書の説明をさせていただきました。
御清聴ありがとうございます。

【司会】 それでは、続きまして、文部科学省社会教育課の事業であります、社会教育による地域の教育力強化プロジェクトの採択事業についての説明です。
本事業は、地域社会それぞれの実情に合わせ、高齢者支援などの様々な地域の課題について、住民が主体的に考え、認識を共有し、協働して解決していくことを促す仕組みをつくるための実証的共同研究を行っているものです。今回は、平成23年度に高齢者支援のテーマで採択された事業を実施しました東京都健康長寿医療センター研究所の藤原佳典研究部長に御報告をお願いしたいと思います。
簡単ではございますが、藤原部長の経歴を御紹介させていただきます。
藤原部長は、京都大学医学部附属病院老年科等に勤務後、平成12年より東京都老人総合研究所・地域保健研究グループ研究員、平成15年より米国ジョンズ・ホプキンス大学加齢健康研究所訪問研究員を務められ、平成16年より地域にてシニアボランティアによる子供への絵本の読み聞かせを通した世代間交流型研究「りぷりんと」を展開され、また、平成23年度より現職に就いておられます。
それでは、藤原部長、どうぞよろしくお願いいたします。

【藤原氏】 どうも、改めまして、今御紹介いただきました東京都健康長寿医療センターから参りました藤原と申します。もともとは東京都老人総合研究所という名称で活動していたのですが、3年前に地方独立行政法人になり、少し長々しいですけれども、このような名前で研究機関として活動しております。
今回は、文部科学省の「社会教育における地域の教育力強化プロジェクト」の実証的共同研究の受託を頂き、絵本の読み聞かせプログラムによる地域の教育支援とネットワーク構築モデルに関する研究を御紹介させていただきたいと思います。
最初ですが、先ほどから講演でも出ていましたが、高齢者の方といっても、非常に元気な方が多いので、一般に先進国はどこも、分布で見ると、いわゆる要支援であるとか要介護になっている高齢者の方は、2割弱ぐらいしかいません。逆に、残りの8割の方は元気で、まだまだ地域で、アクティブに暮らされる方が多いということで、それぞれの健康道に応じた社会参加の姿というのが望まれます。最も元気な方は、就労を続けていただければ、非常によろしいでしょうし、少しお金を頂くのがどうかな、ということになってきた場合に、ボランティアとか、あるいは地域活動に専念されている方もいます。また、人様の役に立つのは少ししんどいなという方は、趣味とかお稽古事のような生涯学習の活動で完結されている方も多いということ。
一方、病弱になられたり、あるいは障害を持たれても、昨今、デイサービスというのも、1つの社会参加の姿であるということで、私も病院で診療の一環で見ておりますと、やはり患者さんの中で、家に籠もっている方よりも、デイサービスに行って、いろいろお稽古をしたり、歌を歌ったりという方のほうが非常に元気であるということ、そういった、先ほど新木様がおっしゃっていたアウトリーチ型の社会参加、あるいは生涯学習というのも、こうしたデイサービスも、今後1つの居場所になるのではないかなと考えています。
今日の本題ですが、地域における教育支援ということで、主にボランティア活動、学習、趣味、稽古事といったところを中心に、課題を整理していきたいと思います。
私どもが、今回、地域の教育支援に高齢者のボランティアを活用することの現状と課題について研究した背景としては、まずは、高齢者を地域の教育力の一翼とするということが、どうしても地域と学校、あるいは教育との連携ということになると、子供が主役であったり、あるいは保護者、PTAが主役になったりということで、何となく高齢者にどう地域で貢献していただくかといった意識というのが二番手、三番手になってくるということです。
また、実際、いざ何かご活躍いただくというような場になっても、では、その高齢者の方に何をしていただけるのか、何ができるのかといったことが、現場の先生であったり、あるいはPTAであったり、何でもかんでも、老人クラブの方なら昔遊びは誰でもできるだろうとか、お若い高齢者の方でも戦争体験の話はできるだろうといった、どういう活用の仕方、どういう貢献をしていただけるかということの知識や理解がまだまだ不足しているという現状がございます。
また、教育だけの枠組みにとらわれた学校と地域の連携ということで、どうしても、先ほどから、例えば、教育委員会とのかかわりとか、学校とのかかわりということになってくると、高齢者の方で、もう一つ非常に関心事である、健康とか福祉といったような側面から生涯学習をとらえるというような発想が少し欠如しているのではないかなという課題があります。
また、特に都市部とか、あるいは都市近郊のニュータウンなどにおきますと、核家族化が非常に進んでおり、世代間の格差、あるいは、対立とまでは言いませんが、齟齬といったものも出てくることで、世代間交流の重要性というのが再認識されます。
以上のことを踏まえて、案外、高齢者の方が活躍したいと思っても、人材としての高齢者の数の上での不足と、もう一つは、どういった活動をしていただいたらいいかといったような質の面でもまだまだ不十分といった、そういう課題があるかと思います。
そこで、今回は、我々は大きな研究目的といたしまして、従来の生涯学習プログラム、あるいはボランティアプログラムに、もう少し高齢者の方、シニアの方自身の利になるといいますか、もう一つの関心事である健康とか福祉といったものを両方融合したようなプログラムを提示して、それが地域での教育支援に、どう参加とか継続を促進するモデルとして提示できるかなということを検討いたしました。
具体的なテーマとしては、後ほど御紹介しますが、絵本の読み聞かせのボランティアを養成するというモデルで行っております。この大きな目的に向かって、具体的には、高齢者のボランティアが地域で主体的かつ継続的に――短期間ではなく、5年、10年、90年社会に向けて、継続的に活動するような要件はどうかということを探ってまいりました。
まず、第1の前提は、そういう活動する場所がある、機会があるというような前提があり、そういうものをきちんと確保できるのかどうか。
もう一つは、活動されている中でのボランティアさんの健康の不安とか、そういったものがどの程度あって、そういうものが解消できるのかといった課題。こういったものに関しましては、今回の実践プロジェクトの中で、実際、講座を立ち上げて、その中で、アンケートとか健康調査などで明らかにしてまいりました。
もう一つが、長年言われている高齢者のボランティアと地域を、あるいは、その活動機関をつなぐようなコーディネーターの存在というのがやはり必要なのかどうか、そのメリットというのがあるのかどうかという点。
また、その活動の受入れ側の職員の方々が、高齢者に対してどのような理解とか意識を持っているのかということも、これは既に我々が2004年から先行してモデル的にやっております、地域の読み聞かせのボランティアを対象にしたり、その方々の活動している施設、あるいはコーディネーターを対象とした意識調査ということで、この2つの柱で研究を進めてまいりました。
そもそも、なぜ我々が絵本の読み聞かせというものに着目したかという背景ですが、絵本というのは、実は、高齢者の方の生涯学習の教材としては最適なのではないかなと考えています。というのは、非常に多種多様な、もう無尽蔵と言ってもいいほどの絵本が毎年出版されて、また、地域の図書館で見ることができます。その中でも、かなりものが主人公として、おじいさん、おばあさんを扱っておるものが多いということもあり、そのおじいさん、おばあさんから、何か子供へ、あるいは地域へメッセージを伝えるものというのが非常に多いですね。なので、中には、戦争、愛、環境とか、そういった昔の地域の郷土というものを伝え、メッセージ性のあるものが多いということです。なので、高齢者の方が、何か自分の語りたいこと、伝えたいことがあることを、自分で作文したり、あるいは自分でスピーチしてくださいというと、少し敷居が高いですが、絵本を探してみると、必ずと言っていいほど、自分の伝えたいこと、メッセージを伝えたいというようなコンテンツを絵本が代弁してくれるといったような、他者とのコミュニケーションのツールとして使いやすいということがあります。
絵本というと、かわいいかわいいというようなイメージがありますが、例えば、男性受けするものだと、落語シリーズとか科学絵本というものもあります。なので、それぞれの興味に合った素材がたくさんあるということで、いいのではないかなと考えています。
もう一つは、アクセスがいい。つまり、近くの公立の図書館へ行くと、無料で借りられて、読み、子供たちの前で読み聞かせをして、そして、また返すということで、あまりお財布も痛まないということで、安くて、近くにあって、学べば学ぶほど深いといった、そういう利点があるのではないかなと考えております。
もう一つ、絵本の読み聞かせをプログラムのコンテンツとして位置づけた理由として、絵本独自の教材としての意義に加え、その読み聞かせの活動をするという行動自体が、実は非常に生涯学習的に、あるいは高齢者の方の健康づくりにもいいのではないかなと考えております。一例ですが、読み聞かせボランティアは、大体小学校、保育園とか、あるいは学童クラブといったところに、1週間とか2週間に1回出かけていって、10分、20分の持ち時間を頂きます。その間、1冊、2冊絵本を読んで帰られるわけですが、そのときが一番のクライマックスですが、そのクライマックスに向けて、実は徹底的に練習されています。やはり大勢の子供たちの前で読むとなると、ある程度練習していかないと、あがってしまったり、時間どおりに読めなかったりということで、練習されます。そこが、言葉をかまないように練習するとか、後ろのほうへ声が届くように発声練習をする。あるいは、聞き手の顔を見ながら絵本を読みますので、ある程度大事なフレーズは覚えるといった記憶力のトレーニングとか、そういうものも自然に身につきます。
また、その絵本は、単にこれを読んでくださいということを先生から指導されて読むのではなく、自分たちで図書館に行って、この時期のこの聞き手に対してはこういうものがいい、クリスマスが近づいてきたらこういうのがいい、節分が近づいてきたらこんなのがいいのではないかといった、絵本を選ぶということが非常に高度な知的活動ではないかということで、活動を始めた方に聞きますと、20年ぶりに地元の図書館に足を向けたという方も散見されます。
実演が済んだ後、グループで反省会をして、こういう活動が1週間とか、2週間単位でサイクルを踏んで順繰りに回っていくというところが、1つのみそで、高齢者の生涯学習とか、あるいは健康づくりというのは、1年に1回だけで何かイベントへ参加していてもほとんど意味がないことで、短時間ではあっても、生活のモデルの中に組み込まれた活動がいいのではないかなと考えております。
そこで、具体的に、昨年度実践しましたモデルというのは、シニアの絵本の読み聞かせ講座の実施とその効果です。先ほど少し触れましたが、我々は平成16年から、これに先立ち、地域で絵本の読み聞かせのシニアボランティアを育成したり、あるいは支援するという活動を行っており、これは、どちらかと言うと、入口を本当に生涯学習という、絵本の読み聞かせのボランティアをしたい方を募集しますという形でやってまいりました。実はそうなると、今まで絵本の読み聞かせの経験のある方、幼稚園の先生をやっていた方とか、少し児童文学に関心のあるといった、ある意味、少し偏った方々が、より御自分のスキルアップのために来るという、そういう傾向があります。そうではなく、我々はやはり生涯学習のすそ野を広げるという意味では、今まで絵本とか子供と関わったことがないような方にも門戸を広げたいという気持ちで、この講座の中身や、あるいは講座の方法、ねらいというものを徹底的に整理して、改変いたしました。
モデル事業としての対象は65歳以上の男女、場所は横浜市の青葉区で今回の実験をさせていただきました。全10回の読み聞かせの講座を実施しますということで、こちらに看板が出ておりますが、「絵本の読み聞かせ講座」と、あえてボランティア募集とは書いていません。まずは自分の生涯学習のため、あるいは、ここには書いておりますが、脳を活性化とか健康づくりという、そういう副題も入れており、御自分の趣味とか健康づくりのために、こういう絵本を使って学びませんかという、そういう講座として始めました。一種の実験的な研究ですので、前半グループ、後半グループということで、公募で集まった24名の方を、2つのグループに無作為に分かれていただき、前期・後期で、半年間にわたってプログラムを運営してまいりました。このプログラムの毎週1回レッスンを受ける中で、そのプログラムの開始前と開始後に、記憶力の検査とか、体力の検査とか、あるいは心理的なもののアンケートとかいったことで、御自分自身も振り返っていただくという、そういうセルフチェックの時間も入れております。専属の読み聞かせを今まで我々と一緒につくってきましたインストラクターの方と、今回新たに、それぞれ地元で講座が終わった後、スムーズに活動に移れるように、地元のコーディネーターの方を1人導入して、運営したというところが特徴です。その講座が終わり、この後、もう脳トレ教室で終わりですと、一旦終わりますが、このままボランティアに行きたい方は、そのまま勉強しましょうということで、自主グループ化を推奨いたしました。もうこのままで結構ですという方は、では、またの機会にということで、二手に分かれていただくという、そういう道順をとりました。
講座の内容ですが、10回のシリーズで、はじめは、やはり高齢者の目線、大人の目線から子供に戻ってもらうということで、現在小学校とか、子供が読んでいるような教科書とか、そういったところでどういう絵本で紹介されているのかといった、今読まれている絵本について学んでいただいたり、あるいは、御自身の幼いころの絵本、中には終戦直後で絵本らしいものにめぐり会ったことがないということで、感動されて参加されている方もいらっしゃることで、一種の回想法的に、絵本を中心に仲間づくりをしていただくといったところ。中盤に入ってくると、実際に絵本の選び方とか、読み方、声の出し方、相手にきちんと伝わるような、メッセージを伝えるような表現の仕方といったものをインストラクターが教えます。それと同時に、最終回は、5人なら5人の1グループになり、30分の持ち時間で話のプログラムをつくるといった企画ものをして終了という流れでやっております。
具体的に、やはりシニアの方ですので、どうしても声が出なかったりとか、あるいは、立っていても、絵本を持っていても震えたりということがありますので、体力づくりというのも非常に力を入れております。また、すらすら読めるよう読解の練習を心がける。あるいは、脳にもいいですよということを売りにしておりますので、我々の研究員が、10分ぐらい、脳トレ・タイムという時間をもらって、絵本に関連する短文を伝言ゲームで伝えていったりする遊びとか、ものを覚えるコツを、起承転結、どこで誰が何をといったものを覚えるコツをマスターしてもらったり、脳トレ・タイムを入れたりということでやっております。
基本的な技術を身につけていただいた後は、個人発表といって、どのくらい御自身が読み聞かせができるようになったかということをやりまして、これはインストラクターが今まで注意しているところを批評も講評もしながら、皆さん、お仲間の前で、ほかのグループの方の前で一人ずつ立って1冊読むという、そういう中間地点もあります。
最終回に向けて、これはグループ発表で、先ほども申しましたが、30分ぐらいの時間をもらって、5人が1グループになり、そのテーマ――例えば、クリスマスが近づいたら、クリスマス物を、3本クリスマスの絵本を読んで、歌を途中に入れて、何かサンタさんに関係するものを手づくりでつくって子供に配るという、そういうシミュレーションでリハーサルをする。そのリハーサル自体が発表会といった企画で最後は終わるという、そういう構成です。
実際、終了された後、ボランティアとして活動されたい方は、ここで地域のコーディネーターが、それまでに地元でアレンジしていました地域の保育園や児童館といったところと交渉を進めており、そういったところを紹介して、実際に子供たちの前でクリスマスの出し物をお披露目するといった、そういう継続した支援を行っているという活動です。
はじめにも申しましたが、こういう活動によって、御自身の心身の健康度が維持できるのか、あるいは、少し健康づくりの安心感を与えることができるのかということで、講座を受講いただく前と終わってからと、それと、もう一度、しばらく時間がたってからと、3回健康調査に御協力いただいております。この健康調査自体は、血液を抜いたりとか、レントゲンを撮ったりといういわゆるクリニックでやるような健康診断ではなくて、体力、記憶力、敏捷性といったいわゆる老化のチェックということをメーンとした検査です。体力の面や、指先、記憶力、あるいは言葉がすらすら出るかといったことをセルフチェックしてもらうための検査であり、どういう効果が出てきたかということですが、一番わかりやすいものですと、こういう記憶のトレーニングに少し役立ったかという、脳トレ効果というのも我々は見ているのですけれども、結論から言うと、参加しただけで、待っている人も、先に講座を受けた人も、後に講座を受けた方も、実は両方とも少し成績がよくなってしまいました。
そういう意味で、少し語弊があるのですが、どういうことかと言うと、この検査は、まず、ある短文、ニュースで出てくるようなお話、誰々さんがどこどこで交通事故に遭ってという話を覚えていただきます。それを30分後にもう一度思い出していただき、どれだけどこで誰が何をいったというキーワードを思い出せるかという検査です。
これは、この青葉区の研究に先立って、都内で先駆け的に実施した事例ですが、そのとき、先に講座を受けた方が成績がよくなり、後で後期に受けた方は、後で追いついてくるということで、理想的な形が出たのですが、実は、これと同じことを私どもは青葉区でも期待していたのですが、ここで見ていただくと、待っているほうも頑張りすぎていました。どんなことをしているのかをお友達から先に情報をもらわれたり、あるいは、我々は、待っていただいている間も、ときどき健康講座とか健康づくりのレクチャーなどもしていますので、その健康への意識というのは、待っている間からもよくなったということもあり、ほとんど同じような傾向が出てしまいました。
これを「良し」とするのか、「悪し」とするのかですが、1つは、パイロット的に行ったときと、青葉区で行ったときと、もともとスタートのときの点数が、非常に優秀な方が多く、優秀な方の場合は、待っている間も自分で何か勉強されるというところが非常に出ているのではないかなということですけれども、脳トレの直接の効果という意味では、まだまだ検証の余地がありますが、1つ重要なのは、皆さん、やはり健康不安も半分は持っていて、「このごろ記憶力が落ちたのよ」とか、あるいは、「物忘れがひどくて」ということをおっしゃる受講者の方が非常に多いです。けれども、実際にこういうテストをすると、3箇月たってよくなっていれば、「ああ、これは何かやっていてよかったのね」ということで、安心して、その後の活動も継続できるといった、セルフチェックとしての効果は見られたのではないかなと思っております。
それをもう一つ物語っているのは、今回、非常に継続率が高く、24名の方が受講されましたが、9割以上の方が10回のシリーズを貫徹されて、また、その中のほとんどの方が自主グループの活動まで行かれたというところが、今回の大きな成果であったのではないかなと考えております。
一方、我々の方は、先んじて既に平成16年から行っている生涯学習型の読み聞かせのグループに関して、やはり長年、長い方ですと8年間継続されています。地域性も、東京の都心でやっている方もいれば、滋賀県のほうでやっている方もいるということで、合計200名ぐらいの先行的にやっている、「りぷりんと」というボランティアのグループを携えておりまして、その方々に、長年やっている中で、長期継続していく中で、今抱えている不安はどうかとか、課題はどうかといったことのアンケートをとっております。
もう一方では、受入れ側の施設で、図書館、小学校とか、職員の方から自分たちがどう思われているのか、あるいは、職員の方々はどういう具合にこの活動を見ているのかといったことを、職員向けのアンケートを同時に調査しております。
その結果、長年、先んじて生涯学習型で読み聞かせのボランティアをなさっている方は、やはり自分が活動を開始してデビューした当時は、自分自身がうまくやれるのかどうかとか、自分がやることの意味というのが、本当にお仕着せではないのかといった、活動自体への不安感というものをお持ちになっていました。それが、少し時間が経ち、ある程度経験を積んでくると、子どもの反応もよくなり、絵本の選び方も大体コツがわかってきて、活動に少し自信がわいてきたとのことです。ただ、一方、長年になってくると、今度は、長く続けられるのか、健康障害の問題ですね。65歳で始めた方も、8年たつと73歳になっている。自分だけではなくて、配偶者の方の介護とか、あるいは身内の看護の問題も出てくるといった、そういう不安が新たに出てきます。もう一つは、これは当初からですが、自分たちがやっていることが、担任の先生方がきちんと見てくれているのかどうか。実は評価されていないのではないかということで、施設側の反応というのは非常にナーバスに、機敏に、これは、独善的にならないという意味では非常にいいんですが、かなりそれは意識しているということがわかってまいりました。
もう一方、施設側の職員や教員に対してのアンケートですが、基本的には、教育現場の方々は、高齢者だからとか、高齢者ということはほとんど意識されていないことがわかりました。なので、高齢者の特性、高齢者は、例えば、どういう身体能力で、子供が飛びついたら危ない場合もあるとか、あるいは、説明するときも、やはりゆっくり、紙にでも書いて申し送ったほうが、言葉で言っても理解がなかなか続かないこともあり、基本的なそういうスキルの部分も理解がないということがわかってまいりました。
それは、1つは、教育施設ではやはり子供が中心で、お年寄りという発想自体があまりなく、地域との連携といっても、ごく一部の元気な町内会長の方とか、民生委員の方、老人クラブの会長さんといった、元気な代表の方としかつながっていないことがあります。そうした背景があり、まだまだ両者にはかなりの齟齬があるのではないかということで、こういったことをまとめてみると、今までの生涯学習型で我々が読み聞かせの活動なり地域でのボランティアを支援していたときというのは、基本的には、ボランティアはこういう不安があり、こういうことをしたいということ、一方、受入れ側の施設はこういうことをやってほしい、こういうことはどうかということのマッチングがうまく結びついていなかった。それが、今回の講座の中で、地元のコーディネーターを入れることによって、1つは、ボランティアがどういうところで活動したいのかとか、どのくらいの頻度で活動したいのか、あるいは、地元の保育園、児童館などのニーズを探ってきて、両方を調整するということができました。おかげで、スムーズに活動場所を探したり、自主グループ化というのが紛糾することなく、スムーズに自主活動に移行できたという成果が見えております。
一方で、課題は残っておりまして、高齢者のボランティアは、引き続き健康に対する不安とか、施設に対して、どう思われているかといった不安があります。あるいは、コーディネーターも、まだまだシニアに対する知識・理解が不足している部分があったり、ニーズを掘り起こしていないところがありました。一方、現場の職員は、地域との連携、ボランティアに対する理解がまだまだ不足しているといった課題はありますが、やはり一つ一つ解決していかないといけないので、我々は、昨年度、1つ、高齢者を受け入れる職員とか、地元のコーディネーター向けに、高齢者の活動を促進する、あるいは、高齢者の活動を理解するためのガイドラインという小冊子を発行しました。そういうものを使って、今後、コーディネーターを、あるいは職員の方に啓発していく機会をつくっていくことができればと考えております。
一方、コーディネーターが孤軍奮闘していても、なかなか難しいところがあります。実際、昨今も学校支援地域本部など、コーディネーターが常設されている地域というのは非常に増えてきておりますが、どうしても教育寄りのアプローチで設置されているコーディネーターですので、逆に、健康づくり、福祉、地元の文化とか、そういったところにまだまだ知識がない部分もあるので、そのコーディネーターを支援する意味でも、今後、行政の中で、教育と健康と福祉は最低限やはり連携して、合同で研修とか、あるいは教材づくりといったことを推進していく必要があるのではないかなと考えております。
こういったシニアを活用することも、市町村の行政もこれからようやく本腰を入れて、制度・政策面でも生かしていただく時期がやってきているのではないかなと思います。
こういうことが成就すると、それぞれシニアボランティアの理解と支援が高まり、少々体力、あるいは心身の機能が落ちてきたボランティアであっても、少しスローダウンしてでもできる活動のプログラムを開発していくということも可能になるでしょう。
また、生涯学習のみならず、長く高齢者がボランティアとして継続するために、どういう健康づくりというのが重要かということも、福祉、保健の部分と連携することによって、一部可能になるのではないかなと期待しております。
最後のスライドですが、まとめとして、生涯学習と保健福祉を融合した絵本の読み聞かせ養成プログラムを通しまして、地域高齢者における学校や教育支援への参加・継続を促進する地域モデルの構築を試みました。
その結果、高齢者ボランティアが地域で主体的・継続的に活動する要件として、やはり自身の健康不安の解消ということで、1つは、プログラム自身に脳トレとか体力づくり、発声練習といった健康増進的な要素を入れること、あるいは、ときどき自分でセルフチェックできる健康調査なども入れる。また、少し体力・能力が落ちてきた場合でも、柔軟なプログラムによって、少し落ちてきてもできるプログラムを開発していくことの重要性というものが示唆されました。
また、地元のコーディネーターを介在させることによって、自主グループ化や活動施設の紹介・導入というのが今回スムーズでありました。
また、活動施設職員の高齢者に対する理解促進と受け入れ方法の確立に向けて、「シニアボランティア活用のガイドライン」を作成いたしました。
ということで、以上です。御清聴ありがとうございました。

【司会】 藤原部長、ありがとうございました。
それでは、これで午前の部は終了となります。ただいまから休憩に入ります。次のプログラムは、午後1時から開始となりますので、よろしくお願いいたします。
なお、昼食につきましては、この建物の1階の食堂が営業しておりますので、御利用ください。
また、建物の外に出る場合には、今朝入館の際に御案内しました専用の出入口を御利用願います。お戻りの際は、出入口に係員がおりますので、本日のフォーラムのチラシか身分証などを入館の際に御提示願います。防犯のために必要なものですので、恐れ入りますが、どうぞよろしくお願いいたします。

( 休憩 )

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生涯学習政策局社会教育課環境・高齢者担当

(生涯学習政策局社会教育課環境・高齢者担当)

-- 登録:平成25年01月 --