資料1 長寿社会における生涯学習の在り方について(報告書素案)

平成24年2月3日

はじめに

1 長寿社会の到来と生涯学習
 1 新しい時代の到来
 (1)長寿社会の人生の設計
 (2)地域社会の支え手としての高齢者
 2 長寿社会における生涯学習
 (1)生涯学習とは
 (2)生涯学習の意義・役割

2 長寿社会における生涯学習政策の今後の方向性
 1 学習内容及び方法の工夫・充実
 (1)学習者の主体的な学びの支援と学びの循環
 (2)多様な学習機会の提供
 2 世代別の特性への配慮
 (1)子ども・若者世代の特性
 (2)現役世代(20~50代の特性)
 (3)定年前後世代(50代後半~60代)の特性
 (4)高齢者世代(70代)の特性
 3 学習が困難な者への支援
 (1)積極的な普及・啓発
 (2)「届ける」生涯学習の推進
 4 関係機関相互の連携の促進
 (1)大学等への期待
 (2)放送大学への期待
 (3)教育委員会と首長部局との関係
 (4)既存の地域組織との連携
 5 学習成果の活用の促進
 6 コーディネート機能の整備
 (1)コーディネーター人材の養成
 (2)コーディネーター人材の活用
 7 世代間交流の促進
 (1)高齢者・高齢社会の理解の促進
 (2)高齢者の持つ知識・経験の伝承
 (3)日常的な世代間交流としての高齢者の居場所づくり

3 長寿社会における生涯学習支援の具体的方策
 1 総合的な生涯学習推進体制の整備
 (1)学習者の参画による協働型学習プログラムの開発及び提供
 (2)成果活用の仕組みづくり
 (3)コーディネーター等人材の養成
 (4)情報発信・情報収集
 2 各主体の役割
 (1)市町村の役割
 (2)都道府県の役割
 (3)国の役割
 (4)社会教育施設等の役割
 (5)学校の役割
 (6)大学等高等教育機関の役割
 (7)NPO等の役割
 (8)雇用主の役割

はじめに

 現在、我が国の平均寿命は世界一の水準にあり、一方で出生率の低下による少子化により、規模においても、その速さにおいても、歴史上経験したことのない速さで高齢化が進み、いまや「超高齢社会」を迎えつつある。
 このような「超高齢社会」では、高齢化によって影響を受けることとなる医療、介護、年金、雇用等の社会システムをどのように対応させていくかといった課題に焦点が当たりがちであるが、世界に冠たる長寿国となったことは、我が国経済社会の成功の証であり、多くの人が100歳まで生きることが可能となった「長寿社会」において、高齢者を含むすべての人々が健康で、生きがいをもち、安心して暮らせる社会をどのように実現するかという観点が今後ますます重要となる。
 本来、長寿社会というのは人類が夢見た社会であり、それを実現した社会はすばらしいものであるはずなのに、それが「課題」や「問題」と意識されてしまっている背景には、高齢者を「すでに役割を終え、社会の負担となる者」という従来の「高齢者」観が反映されているからと考えられる。
 しかし、健康な高齢者は増加傾向にあり、65歳以上の高齢者の多くが、現役で活躍し、地域の活性化に貢献している例も増えてきている現実を踏まえると、従来の「高齢者」観は、高齢者の実態とそぐわなくなってきており、今後、生じてくる様々な社会の課題を解決していくためにも、より一層多くの元気な高齢者の力を借りることが重要となってくる。
 私たちは、長寿社会に生きることができる時代を迎えており、すべての人々が、人生100年時代を見据え、選択的に自身の生きがいを選び取れる一方で、長寿社会にふさわしい新しい高齢者観や新しい価値観を明確にしていくことが求められている。
 この新しい価値観や高齢者観を広げるのが生涯学習の一つの大きな役割である。
 他方で、私たちはこれまでの社会の枠組みにおいて、多くの課題解決を迫られている。
 本検討会では、こうした認識に基づき、すべての人々が人生100年時代に生きる新たな可能性の追求とそのような時代にふさわしい社会の仕組みを作り出す必要性を十分に意識しつつ、現在、生涯学習が直面する諸課題を解決することを通して、新しい社会を展望できるようにしていくにはどのようにすべきかについて、検討を重ねてきた。
 この報告書が、国や地方公共団体の施策の指針となり、各地方公共団体において長寿社会を踏まえた生涯学習施策の推進が進むとともに、地域コミュニティの活性化に役立つことを期待している。

1 長寿社会の到来と生涯学習

1 新しい時代の到来

(1)長寿社会の人生の設計

(長寿社会の到来)
○ 現在、我が国は、個人の長寿化と出生率の低下による人口構造の変化によって、全人口に占める65歳以上の高齢者の割合(高齢化率)は世界でも類をみないスピードで高まっている。1970年に7%を超えたわが国の高齢化率は、1994年に14%を超え、2010年現在23.1%となっている。今後、高齢化率はさらに高まり、中でも75歳以上の人口が急速に増加することが予想されている。
○ かつて、戦後まもない1947年の我が国の平均寿命は、男性が50.06歳、女性が53.96歳であった。その後、医療体制の充実、医学の進歩、生活水準の向上等により、平均寿命は著しく伸張し、2009年には、男性が79.64歳、女性が86.39歳に達している。また、100歳以上の高齢者は、2011年現在、約4万人であるが、2050年には68万人を超えると予測されている。すなわち、人生100年時代の長寿社会が到来しつつある。
○ このような長寿社会の到来は、退職期にあたる65歳時の平均余命の伸張(男性が18.88年、女性が23.97年)をもたらした。しかし、多くの人は、我が国の平均寿命が50歳乃至60歳であった時代の画一的な人生モデルのまま高齢期を迎えている。
○ 20歳前後に就職、その後、結婚、子どもの誕生・子育てと続き、退職後の数年間を余生として人生を終えるのが典型的であった平均寿命が60歳代の画一的な人生モデルは、平均寿命が80歳代を迎える現在では、多くの人の求めにそぐわないものとなっており、リタイア後の20年にも及ぶ人生を、健康で、生きがいをもち、自らが持つ能力を最大限に活用して生きていくための準備が重要となっている。

(豊かな高齢期を迎えるための準備)
○ 自営業従事者やいわゆる専業主婦は、自ずと地域社会とつながりを有しながら生活する傾向が強いが、勤務者(会社員や公務員等)は、現役時代、仕事一筋で、地域社会との関わりをほとんど持たずに過ごすことも多く、定年退職後、自由時間に満ちた定年退職後の生活をどのように生きていけばよいのか戸惑うケースが少なくないようである。
○ 人々は、生活水準の向上に伴う物質的な豊かさに加え、生き方の多様化にみられる精神面での豊かさの追求など、生涯を通じて健康で生きがいのある人生を送ることや、自己実現を求める傾向が強くなってきている。
○ 多くの高齢者にとって将来の不安は身体機能の衰えや要介護状態になって個人の尊厳の維持や社会とのつながりが困難になることであり、高齢期を豊かに暮らすためには、何よりも健康であることが必要である。そのためには、若い頃から、栄養摂取の重要性を理解し、高齢期に向けた健康管理、健康づくりに取り組むとともに、適度な運動を継続することが不可欠である。
○ また、生きがいは、個人の生活の質を高め、人生に喜びをもたらすものであるが、人それぞれ何に生きがいを見いだすかは異なり、多種多様である。単に趣味や教養に関するものだけでなく、就労、起業、学習活動、社会貢献等あらゆる活動が生きがいになりうる。一人の人間にとっても、生きがいは、年とともに変化していくこともあるが、近年、地域参画・地域貢献に生きがいを感じる高齢者が増えてきている。生きがいは定年退職したからといってすぐに身に付くものではなく、若い時期から高齢期を見越し、学習活動、能力開発、社会貢献など様々な活動に取り組むことを通じて、自ら生きがいを創出していくことが重要になってくる。
○ さらに、地域社会で活動を行っていく上で、人間関係の形成は不可欠であるが、こうした人と人とのつながりは自然にできるものではなく、現役世代から、異なる分野の人と積極的に交わり、関係を維持する努力を継続することによってはじめて高齢期の孤立を防ぐことにもつながる。

(人生100年時代における人生設計)
○ このように長寿社会の到来は、高齢者だけに限らず、すべての世代の人々が、長寿という新たな社会を生き抜くことを意味しており、それぞれが人生100年時代を想定し、自らの人生設計をどうするのかを積極的に考えていく必要がある。人生100年あれば、1つのキャリアを終えてから、新たなキャリアに挑戦する多毛作人生も十分可能である。
○ 別の言い方をすれば、長寿社会とは、一人一人が、選択的に自身の生きがいを選び取れる余地が増えた時代であるといえる。その中で、すべての人が、自己実現を果たし、これまで気付かなかった新しい世界や新しい自分を発見し、生きがいをもって、より自分らしい豊かな人生を選び取ることができるようにすることが、これからの生涯学習に求められている。また、子どもや若者にとって、高齢者は自分たちの将来像であり、高齢者が上機嫌に満足した生き方をすることは、子どもや若者に将来の希望を持たせることにもつながる。

(2)地域社会の支え手としての高齢者

(社会システムの見直し)
○ 現在の社会インフラは、若い世代が多く高齢世代が少ない「ピラミッド型」の人口構造の時代に形成されたもので、全人口の3割が高齢者となりつつある「逆ピラミッド型」のニーズには対応できなくなっており、すでに医療・介護問題や、高齢者の閉じこもり、孤独死・孤立死、リタイア後の活躍場所の不足など、様々な問題が顕在化している。
○ また、これまで、高齢化の問題は、主に地方の問題と受止められてきたが、今後、特に都市部(都市近郊部を含む)における高齢者人口の増加が問題となってくる。高度成長時代にいわゆるベッドタウンとして発展した都市近郊部では、旧来の住民と新住民が混在する地域が多く、近所付き合い等を含むコミュニティ活動が地方と比較して希薄であり、これが特に男性のリタイア後の生活に大きな課題となってくることが懸念される。
○ 上記のような課題を解決していくためには、これらの課題を高齢者だけのものではなく、若者も含め長寿社会に生きるすべての世代にまたがる課題であると認識しつつ、新たな価値観の創造と社会システムの見直しが必要である。

(若返る元気な高齢者)
○ 高齢社会というと保健・医療・福祉、特に福祉というイメージが先行してしまうが、実際には65歳以上の高齢者のうち、要介護者の割合は2割程度に留まると予想され、残りの約8割は健常な高齢者である。また、最近の高齢者は昔の高齢者と比較して若返っているといういくつかの検証データもある。
○ 例えば、2002年の高齢者は1992年の高齢者と比較して、男女ともに、通常歩行速度が11歳若返っている他、握力についても若返っていることが検証されている(鈴木隆雄他「日本人高齢者における身体機能の縦断的・横断的変化に関する研究」(第53巻第4号「厚生の指標」2006年4月,p1-10))。
○ また、一般的に、認知能力は加齢により低下するとの誤解があるが、短期記憶能力は年齢とともに大きく低下する傾向があるものの、日常問題解決能力や言語(語彙)能力は、年齢とともにさらに向上することが検証されているなど、人間の能力の変化は多次元で多方向といえ、人生の各段階で能力を最大限に発揮して生きることがより一層求められている。

(社会的役割を担う存在としての高齢者)
○ 高齢者が、それまでの長い人生の中で培ってきた豊かな知識・経験を活かせる居場所や出番を見出して、地域社会の担い手として活躍することは、高齢者の生きがいにつながるばかりでなく、活力ある社会の形成にもつながるものであり、今後、ますます少子化が進み、高齢化率が高まる我が国において重要な視点である。
○ このため、高齢者が自ら有する能力を十分に活かすことができる環境づくりを進めるとともに、高齢者をこれまでのような社会的な弱者として保護される人との見方から、人生の第1ステージを修了し、第2ステージに立ち、地域社会を支えていく社会の一員と見方を変える必要がある。

(生涯現役志向の高まり)
○ 特に、今後、定年退職時期を迎える「団塊の世代」(1947年~1949年生まれの人)は、定年後も隠居生活よりは、社会と積極的に関わっていきたいと「生涯現役」を志向する者が多く、そのような旺盛な学習意欲・活動意欲を有している団塊の世代が、新たな学習の機会を通じて、自分を高め、社会参画・地域貢献の役割を担っていくことが期待される。

2 長寿社会における生涯学習

(1)生涯学習とは

(生涯学習の理念)
○ 生涯学習という言葉は、一般的には、公民館等の社会教育施設で行われている趣味・教養の講座だけを生涯学習というような狭い概念と誤って認識されていることも少なくなく、広く国民の共通理解を図るためにも、生涯学習の概念を改めて整理する必要がある。
○ 2006年(平成18年)12月に改正された教育基本法第3条では、「国民一人一人が、自己の人格を磨き、豊かな人生を送ることができるよう、その生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生かすことのできる社会の実現が図られなければならない。」という「生涯学習の理念」が掲げられている。
○ ここでいう「生涯学習」とは、自己の充実や生活の向上のために、人生の各段階での課題や必要に応じて、あらゆる場所、時間、方法により学習者が自発的に行う自由で広範な学習を意味している。学校や社会の中で行われる意図的・組織的な学習活動のみならず、スポーツ活動、文化活動、趣味、レクリエーション活動、ボランティア活動など幅広く多様である。

(意図的ではない生涯学習)
○ 「あらゆる場所、時間、方法により学習者が自発的に」とはいっても、人によって、あるいは発達段階によっては、いつも学習の意図を持っているとは限らない。例えば、乳幼児が家庭でのコミュニケーションを通して言葉や生活習慣、社会の規範を学ぶことも生涯学習に含まれるし、社会とのかかわりを通して、「学習」という意識がなくとも、結果的に自身の生き方や考え方、態度に変化があったとすれば、それは生涯学習をした成果ということができる。
○ 社会参画や地域貢献活動については、本人の意思さえあれば誰にでもできるものであるが、円滑に実施していくためには、人間関係の形成に関する知識や活動に関する知識など、習得の意図を持って行う学習活動が必要となる場合もある。このような学習活動は当然生涯学習であるが、社会参画や地域貢献活動を通じて意図せずに学ぶことも考えられる。すなわち、社会参画や地域貢献活動なども生涯学習に含まれることを認識する必要がある。

(2)生涯学習の意義・役割

(生きがいの創出に資する生涯学習)
○ 生涯学習が、個人の楽しみや自己の向上のために行われるのはもちろん重要な観点であるが、学習者一人一人が学びを通して、生きがいの創出につながっていくことがさらに重要である。

(個人の自立と社会での協働に資する生涯学習)
○ 少子・高齢化の進展、産業構造の変化、情報通信技術の急速な発展など、近年の社会情勢の変化の中で、人々の価値観は多様化しており、求められる「学び」の内容も変化してきている。
○ このような社会において、高齢者が日常生活で直面する課題を的確に解決し、高齢期における新たな可能性を追求しつつ、豊かで充実した良質な第二、第三の人生を送るためには、自らが選択した人生設計に即し、実際生活や職業生活に必要な新たな知識・技能を身につけたり、社会貢献・地域参画に必要な学習を行うなど、生涯にわたって学習に取り組むことが不可欠である。

(新たな縁の構築に資する生涯学習)
○ 「社縁」、「血縁」、「地縁」の途絶えつつある現代社会であるが、改めて人と人、あるいは人と地域社会がしっかりとつながり、互いに支え合いながら共生する絆ある社会の構築が不可欠である。このことは、甚大な被害をもたらした平成23年3月に発生した東日本大震災において、被災者同士の励まし合いや助け合い、全国各地から多くのボランティアによる被災地への支援が行われたことにも示されている。
○ 高齢者一人一人が、若者と同様に社会の重要な一員として共生する豊かで活力ある長寿社会を実現するためにも、新たな縁を形成しうる生涯学習の果たす役割が重要である。

(教育的な観点からの生涯学習)
○ 「高齢社会」を問題あるものと捉えてしまうと、高齢者を保護・支援すべき対象として捉えてしまい、これへの対策として福祉的な側面として生涯学習が位置づけられてしまう。したがって、高齢者一人一人が、社会において重要な役割を担う一員として活躍できるよう学ぶという教育的な観点から生涯学習を捉えることが必要である。

(健康維持や介護予防に資する生涯学習)
○ 多くの高齢者にとって将来の不安は健康と介護に関するものである。高齢者にとって、生涯学習は生きがいづくりにつながる重要なものであり、生きがいを持つことで、心身ともに健康の保持増進が可能となり、介護予防へもつながることが期待される。

2 長寿社会における生涯学習政策の今後の方向性

1 学習内容及び方法の工夫・充実

(1)学習者の主体的な学びの支援と学びの循環

(学びの選択と学びの循環)
○ 長寿社会における生涯学習は、高齢者のみならず、若者も含めて考えていく必要があるが、特に高齢期(高齢準備期含む)における課題は多岐にわたっており、学びの提供においては、価値観を押しつけず、学びの選択ができるような多様な支援が必要である。

(学習者の参画による協働型プログラムの開発)
○ 学習プログラムの開発にあたっては、学習者のニーズが反映されるよう、企画・立案段階から住民や学習者が協働することができるように支援し、学習者が参加できるような仕組みの構築が必要である。

(多様な学習方法の提供)
○ 学びの方法も学習者によって千差万別であるため、ワークショップ形式での学習方法等も採り入れるなど、体験活動を通して、自ら解決していけるような工夫も必要である。

(学びの循環)
○ 学習機会の提供にあたっては、これまでのような趣味・教養といった自己完結的な学習だけではなく、学習成果を発揮・活用することを視野に置き、学びの循環を構築することが必要である。

(2)多様な学習機会の提供

(個人の自立のための学び)
○ 高齢者が、リタイア後の第二、第三の人生を明るく安心して生活するためには、健康、お金、衣食住、人間関係、介護や年金のしくみなど、身体的にも経済的にも自立した生活を送っていくための体系的な学びが必要である。

(地域参画・社会貢献のための学び)
○ 社会参画は、ボランティア活動などの社会貢献活動に限定したものと思われがちであるが、人が人や地域社会と関わるすべての活動を包含していることを認識する必要がある。
○ 地域との関わりを望みながら接点を得られないでいるような人に対しては、地域デビュー講座など社会参画に至るまでの段階的な学習が必要である。
○ また、ボランティア活動などの社会貢献活動に参加する場合は、その力を十分に発揮するために、まちづくりや環境問題、福祉問題など、それぞれの地域性や地域ニーズを反映した課題解決型・社会貢献型の学びや地域において新たな人間関係を構築するための学び(役職や肩書きによらない対等なコミュニケーションを円滑に行う等)が必要であり、活動を通して、さらなる学習に発展していくことも考えられる。

(セーフティネットとしての学び)
○ 高齢者がICT(情報通信技術)を利活用できるようになることは、高齢者自身にとっても、買物等の生活の利便性が高まるとともに、「多様な情報に接することで新たな刺激が得られる」、「脳の活性化につながる」、さらには「活動的になり、交友関係や行動範囲が広がることで居場所ができる」、等の効果が見込まれる。地域社会にとっても、ICTリテラシーを有する高齢者が活躍できる環境整備を行うことにより、地域社会の活性化や地域での問題解決の促進につながるなどの影響が見込まれることから、高齢者こそ、ICTリテラシーを生活の基礎能力として学ぶことがセーフティネットの観点からも必要である。

(人生の締めくくり方に関する学び)
○ 現在の日本社会においては、死の実感が、生活、意識、医療、教育など社会の様々な面で抜け落ちており、また、「死」と向き合う経験が減少しているために、実際に接したときの対応に苦慮している人が少なくない。「死」と向き合うことで、生きる意味を見いだし、今、生きているこの一瞬を大切にすることができる。また、人生の締めくくり方についても、自分で選択することが可能な時代である。このため、第二、第三の人生設計を行う上で、「人生の締めくくり方のための学び」も必要である。

2 世代別の特性への配慮

(1)子ども・若者世代の特性

○ 核家族化が進行する中で、子どもたちが祖父母等の高齢者と一緒に過ごす機会が少なくなり、人の老いや介護、人の死と向き合う経験が少なくなっている。
○ このため、若い世代では、例えば、学校での高齢者とのふれあい等を通じて、人の生涯や命の尊厳、高齢者の心身の特徴などその実態について理解するとともに、長寿社会における自らの生き方、人生100年時代の多毛作人生のライフデザインを考える機会を設けることが重要である。 

(2)現役世代(20~50代)の特性

○ 現役世代は、社会人としての生活スタイルが安定していく時期であり、個人の関心、年齢、体力に応じた主体的な活動がより可能となっていく時期でもある。
○ この時期は、できるだけ早い段階から定年退職等により仕事中心の生活が大きく変化することを念頭におきつつ、自己実現や生きがいづくりで充実させることができるよう、学習活動や地域社会の取組に積極的に関わり、仕事以外の人間関係を幅広く築くとともに、若い頃の働き方とは異なる第二、第三の人生を生きるための人生設計についての学びが必要である。
○ また、近年では仕事中心の生活から「ワーク・ライフ・バランス」の実現に向けた取組が進められている。現在世代においても、仕事一辺倒ではなく、学習活動や地域活動にも携わるゆとりある生活を営むことが、視野識見を広げることにも役立ち、業務効率を高めることにつながる。仕事とプライベート生活の両立や働き方の見直しを行うことがより一層必要と考えられる。

(3)定年前後世代(50代後半~60代)の特性

○ 定年退職後も就労したり、ボランティア活動などの社会貢献活動をしている高齢者など、第二、第三の人生を健康で元気に過ごす高齢者が増えてきている一方で、定年退職後に何をすべきか、生きがいや自己実現の方策に迷っている高齢者も少なくない。
○ このような、定年前後世代では、退職後に向けた具体的な準備として、即実践につながる生活自立のための学習を行うことが必要である。具体的に何を学ぶかは各人の自由であるが、それまでの人生で培ってきた知識・経験をもとに、自らの生活を豊かにするとともに、地域社会における自己実現の可能性を認識させることが必要である。また、現役時代と異なり、役職や肩書きによらない対等なコミュニケーション方法についても、心得る必要がある。
○ また、高齢期を元気に過ごせるよう、自分にあった食生活や運動によって、体力の低下を防ぎ、社会との関わりを積極的に持っていくことも重要である。

(4)高齢者世代(70代~)の特性

○ 退職等により新たなライフスタイルが求められる時期であり、健康で生きがいのある生活と社会との関わりが求められる一方で、加齢にともなう身体機能の衰えや介護の問題、家庭や地域からの孤立など様々な問題が出てくる時期である。
○ このような高齢者世代では、人とのつながりや地域社会とのつながりを可能な範囲で継続しながら、自己実現を図っていくため、引き続き生涯学習を推進していくとともに、交流のための居場所をつくることが必要である。また、地域の伝統文化や昔からの遊びの伝承のほか、高齢者の人生経験や知識について子どもたちに伝える機会づくりに努め、地域における世代間交流を促進していくことも重要である。

3 学習が困難な者への支援

(1)積極的な普及・啓発

○ 社会の変化に対応し、自立して生きていくために必要な学習等について、当事者が必ずしも能動的に学ぼうとしない場合等も考えられる。そのような場合でも、行政が積極的に学習機会を提供したり、学習者の興味・関心を呼び起こすための啓発活動を積極的に行っていくことが重要である。

(2)「届ける」生涯学習の推進

○ また、生涯学習行政においては、個人の自主的な意思を尊重するという基本的な考え方から、一部例外はあるものの、能動的に学習する者のみを対象としがちである。しかし、過疎中山間地域など、近隣に学ぶための施設や居場所などがない場合、あるいは身体的事由や家族の介護などの諸事情により学習できない人が存在することを踏まえ、出前講座の導入や通信講座、ICTの活用など、行政側が、企業、NPO等と連携しつつ、積極的に「出向いていく」、「届ける」ことにより、きめ細かい支援を行っていくことも必要である。

4 関係機関相互の連携の促進

(1)大学等への期待

○ 学習内容や学習方法、学習場所などあらゆる面にわたり、高度化・多様化する高齢者の学習ニーズに的確に対応できるよう、大学や専門学校などの高等教育機関を始めとした多様な学習機関と相互に連携し、専門的かつ高度な人材や施設設備などの学習資源を有効に活用できる仕組みづくりが必要である。
○ 高等教育機関においては、近年、公開講座や高齢者の受入れ枠の設定、高齢者大学 等との連携など、高齢者受入れのための取組が行われているものの、高齢者のニーズを満足させるカリキュラムになっていないとの指摘もあり、25歳以上の大学入学者の割合についても2%と欧米諸国と比べて著しく低い状況が続いている。
○ 今後、現役学生との世代間交流の観点からの工夫はもちろんのこと、地域社会の一員として地域における学習の提供のみならず、その成果が活かされ「知の循環」が促進されるよう、地方公共団体、企業、NPO等様々な主体との連携を進めることが期待される。
○ そのためには、各大学の自主的な判断の下、高齢者の特性に配慮した適切なカリキュラムの開発、受講形態の多様化、積極的な情報提供、財政的な支援など、高齢者が学びやすい環境整備を行うことが期待される。
○ また、今後は、特に、高齢者の高い就労意欲への対応として、大学や専門学校などの高等教育機関において、それらの自主的判断の下、定年前後世代のキャリア形成を目的とした学習機会を充実させていくことが期待される。

(2)放送大学への期待

○ 放送大学は、テレビ・ラジオさらにはインターネットを通じて、「いつでも、どこでも、誰でも」学べる環境を有するとともに、学生の学習支援を行うための学習センターを全都道府県に設置しており、現在、8万人超の年齢・職業等多様な人々が学んでいる。このような環境を活用して、高齢者が生き生きと自立した生活を送っていくために修得しておくことが望ましい知識や、社会参画、社会貢献を行っていく上で必要な知識・技術などを、既存の授業科目の活用等を含め体系化し、科目群履修認証制度などのようにパッケージ化して提供していくこと、また、高齢者が主体的に学んだ成果を社会参画・社会貢献に繋げられるよう、学生相互のコミュニティ形成支援や活動等についての相談対応等バックアップ体制を各学習センターの機能の一つとして、積極的に検討していくことが、学生にとってさらに魅力ある番組づくりをすることとともに期待される。

(3)教育委員会と首長部局との関係

○ 地方公共団体の長と教育委員会との関係については、中央教育審議会答申「新しい時代の義務教育を創造する」(平成17年10月26日)において、「今後、地域づくりの総合的な推進をはじめ、他の行政分野との連携の必要性、さらには政治的中立性の確保の必要性等を勘案しつつ、首長と教育委員会との権限分担をできるだけ弾力化していくことが適当である。」との基本的な考え方が示されている。
 その上で、「教育委員会の所掌事務のうち、文化(文化財保護を除く。)、スポーツ、生涯学習支援に関する事務(学校教育・社会教育に関するものを除く)は、地方自治体の判断により首長が担当することを選択できるようにすることが適当である。」と提言されている。
○ 高齢者を対象とした生涯学習行政については、これまで教育委員会を中心とした人づくりの観点、首長部局を中心とした高齢者福祉や高齢者の就労支援、まちづくり・地域活性化等など様々な観点から施策が展開されている。
○ このような関連部局の取組は引続き行っていく必要があるが、今後、長寿社会に向けた生涯学習行政を一層推進していくためには、個人の生きる力が社会全体の生きる力につながっていくように、公民館等の社会教育施設と社会福祉協議会や地域包括支援センター、シルバー人材センター等との連携も含め、教育委員会と首長部局が、一体となって、相互に連携しながら取り組んでいくことが不可欠である。
○ 「生涯学習支援に関する事務(学校教育・社会教育に関するものを除く)」については、それぞれの地域の実情に合わせて地方公共団体の判断により首長部局が担当するか、あるいは教育委員会が担当し、高齢者福祉や高齢者の就労、まちづくりなど、学校教育・社会教育以外で生涯学習に資する施策等を担う首長が連携して進めるかを判断することが適当である。

(4)既存の地域組織との連携

○ 社会教育関係団体、ボランティア団体をはじめとするNPO、さらには自治会・町内会、老人クラブ等の地縁による団体をも含め、これらとの連携を行っていくことが必要である。

5 学習成果の活用の促進

○ 近年、学習活動を通じて身に付けた知識や技術を広く地域や社会あるいは職業生活の中で生かしたいと考える人が増えてきている。
○ 学習成果を生かす活動の中には、学んだ内容を、自身よりも初心者に対して伝授したり、そのスキルを地域社会に役立てる場合、さらには学びがきっかけとなって地域社会の課題解決やまちづくり、社会貢献などの市民活動等へと展開する場合等もある。いずれの場合も、個人の学習活動が地域参画・社会貢献に発展していくことが期待される。
○ このように学習成果を様々な方法や場で活かすことは、学習者にとっては、生きがいや生活の励みになり、自己実現につながるとともに、さらなる学習意欲の向上につながる。また、地域社会の諸活動に関わることで、仲間づくりなど、豊かな人間関係の形成につながるとともに、地域社会の活性化にもつながる。
○ 高齢者が有する豊かな知識・技術、社会的経験は、かけがえのない社会的資源であり、ボランティア活動など地域貢献活動の担い手やソーシャルビジネス・コミュニティビジネスのような新しい就労の場での活躍を含め、地域社会に還元されるための環境づくりを進め、高齢者が、生きがいを感じ、自らの社会的存在意義を認識することができる活力ある社会を形成していくことが重要である。
○ そのためにも、地域社会への参加に際して、現役時代の慣習(特に、役職や肩書きによる上下意識)を持ち込むことによりトラブルとならないよう、学習活動を通じて、地域での基本的なルールや地域での円滑なコミュニケーションの方法を学ぶことも必要である。

6 コーディネート機能の整備

(1)コーディネーター人材等の養成

○ 生涯学習は、生きがいの追求であり、自己実現に資するものであるが、単なる娯楽や、自己の向上を図る自己完結型の学習活動だけではなかなか満足は得られない。学習成果を社会や他者のために活かし、社会の中で自らの位置づけを自覚し、他者から感謝されることによって、より大きな満足が得られる。しかしながら、自分が何を学ぶべきか、また、学んだ成果をどのように活かせば良いのかわからないという人が少なくない。
○ このため、個人の学習相談を行うアドバイザーの育成を行うとともに、学習からその成果を活かす段階に至る多様なニーズを把握し、学習の成果を活かしたい高齢者と、ボランティアや就労等で高齢者に活躍の場を設ける施設・機関等とを円滑につなげる技能を有するコーディネーター人材の育成が必要である。
○ なお、コーディネート機能は、都道府県レベル、市区町村レベル、より住民に身近なレベル(小学校区又は中学校区)によって求められるスキルや知識が異なることから、各レベルに応じてコーディネーターに求められる内容を考える必要がある。

(2)コーディネーター人材の活用

○ 生涯学習の推進を担う人材の育成については、地方公共団体における「生涯学習コーディネーター」、「生涯学習ボランティア」、「地域づくりコーディネーター」等の育成・登録のほか、民間団体による生涯学習人材の育成と認定など、様々な取組が実施されているが、資格の取得が目的化し、活躍の場が与えられていないものも少なくない。このため、これらの資格がうまく活用され、全国的な通用性、信頼性が確保されるよう質保証を図るとともに、活躍の場を準備し、それぞれのコーディネーター等が連携・協働できる仕組みを構築する必要がある。

7 世代間交流の促進

(1)高齢者・高齢社会の理解の促進

○ 高齢者が地域社会の一員として若者世代と共生する社会を形成していくためには、世代間交流を通して、若者をはじめ周囲の人々が高齢者や高齢社会に対して先入観や固定観念を持たずに正しく理解することが必要である。

(2)知識・経験の伝承

○ 高齢者が有する知識や経験、技能を次世代へ伝承する機会を提供することは、高齢者自身が社会の中で大きな役割を担っていることを自ら確認する機会として、生きがいややりがいにもつながる。このような世代間交流は、高齢者の生きがいを高めるだけでなく、青少年にとっても高齢者との交流を通して豊かな人間性や職業観等を学ぶことができ、敬老の精神を涵養することにもつながる。
○ また、若者が有する知識を高齢者に伝えることも考えられる。科学技術の発達や国際化の進展など、変化の激しい時代においては、これまで獲得した知識が陳腐化することから、例えばICTなど最新の知識を有する若者から高齢者へ伝えることも考えられる。

(3)日常的な世代間交流としての高齢者の居場所づくり

○ 家庭における世代間の交わりが減少する現代では、例えば、高齢者福祉施設への訪問や各種行事の開催など、意識的に若者と高齢者との世代間交流の場を設けることが重要である。ただし、このような取組が一過性のものとならないよう、高齢者が気楽に集える居場所をつくり、子育て中の親や子どもたちも気軽に遊びに訪れることができる居心地のよい場所にすることにより、世代間交流を日常化するための仕組みづくりを行っていくことも必要である。

3 長寿社会における生涯学習支援の具体的方策

1 総合的な生涯学習推進体制の整備

(1)学習者の参画による協働型学習プログラムの開発及び提供        

○ 地域の有する資源を活かし、高度化・多様化する学習ニーズに応えるため、行政、大学、民間事業者、NPO、企業、学習者によるコンソーシアムの設置など関係機関の連携による学習者主体の生涯学習推進体制の構築を図り、生涯学習関連事業の企画、立案、実施にかかわる多彩な人材が交流し、協働して新たな学習機会や支援プログラムの開発・提供を行う。
○ プログラムの内容としては、
1 地域社会を知るための学習プログラム、
2 地域の特性を踏まえた社会貢献を支援する学習プログラム、
3 学校の空き教室のデイサービスセンターへの転用や、施設の複合化の促進も含め世代間交流を視野においた学習プログラム、
4 老後の人生を健康で、自立して生きていくために修得しておくことが望ましい知識など、いわゆる第二の義務教育的なプログラム 
などが考えられる。

(2)成果活用の仕組みづくり

(学校教育支援・子育て支援)
○ 地方公共団体、各種施設、NPO等が、相互の連携・協力を深めながら、それぞれの地域のニーズに即し、高齢者が活躍できる場をより一層充実させていく必要がある。
○ 現在、学校の教育活動を支援する「学校支援地域本部」や、放課後や週末等に小学校の余裕教室等を活用して、体験・交流活動等を提供する「放課後子ども教室」の推進により、高齢者を含む幅広い世代の地域住民の参画による地域の活性化が行われている。
○ また、子育て支援、いじめ・登校拒否など、子どもをめぐる課題に対処するため、乳幼児の世話や育児支援などで、経験豊かな高齢者が地域における子育ての担い手として活躍している。
○ 今後は学校と地域が連携を強め、高齢者をはじめとする地域の様々な人材が有する優れた教育力を学校内においても発揮しながら地域で子ども達を育む環境づくりと同時に、学習の成果の活用の場として学校をこれまで以上に地域に開放していくなど、地域とのパートナーシップを強化することが重要である。

(学習成果の評価)
○ 学習者が地域社会における様々な活動に参加する場合、学習した成果についての客観的な評価や証明があることは、人材の受入れ側にとっては登用する際の指標となるものである。また、学習歴、取得資格、これまでの活動実績など人材の受入れ側が求める情報をできるだけきめ細かに提供する必要がある。
○ 各種資格等について、地域のどのような活動に活用できるかの実態把握や情報提供を行うとともに、人材バンクや学習ボランティア登録制度などの充実を図り、社会通用性のある資格認定制度の創設など、社会参画を促進するための取組を実施する必要がある。

(3)コーディネーター等人材の養成

○ 住民の主体的な学びや活動を支援しうるコーディネーターの確保、及び学習相談員やコーディネーター人材の研修を充実させることが必要である。また、こうした業務に携わる人材を柔軟に登用できるしくみづくりについても検討していくことが必要である。
○ コーディネーターには、学習に関する知識のみならず、地域における様々な活動を把握し、調整するなど実に多様な能力が期待される。そのため、教育委員会のみで対応することは不可能であり、関係する首長部局のほか、NPOや民間事業者、企業との密接なネットワークを構築するとともに、コーディネーターの養成・研修を充実させていくことが必要となる。また、新たな資格と結びつけた養成方法を検討する必要もある。

(4)情報発信・情報収集

○ 高齢者の生涯学習への参加や地域活動への参加を促進していくためには、必要な情報の利活用を進めていくことが重要である。
○ 学習成果を地域活動に活かすことを促進するためには、人材の受け入れ側にとって必要な情報提供だけでなく、地域活動の場に関するきめ細かな情報を住民に積極的に提供していくことが必要である。この場合、学習成果を活かしたいと考えている学習者に対し、学習関連の行政施設のみならず、民間事業者等の活動も含めた地域での様々な活動の内容について、具体的な情報をインターネットも含めて、できるだけ利用しやすい形で提供していくことが必要である。
○ また、リソースセンターを設置し、各地域における先導的な取組事例や失敗事例も含め、行政のみならず、大学、民間事業者、企業、NPO等の施設、人材、学習機会、学習資源など生涯学習や地域参画に関するあらゆる情報をインターネットを使って広域かつ双方向に受発信できるようにし、困った際にそこに行けば対応できるような総合事務局体制の整備を図る必要がある。

2 各主体の役割

(1)市区町村の役割

○ 生涯学習の舞台は「地域」であり、その支援施策の展開にあたっては、住民に身近な基礎自治体である市区町村が第一次的な役割を担っている。地域が抱える課題は、様々な要因が複雑に絡んでおり、とりわけ、高齢者を考えた場合、学習の視点、福祉の視点、まちづくりの視点と、複合的なテーマに取り組むことが多い。このため、行政も部局横断的に支援できる体制づくりが求められる。
○ 市区町村の中には、地域の課題解決に向けた独自施策を積極的に展開しているところもある。直接的に住民とのかかわりを持つ基礎自治体として、地域住民、NPO、学校、高等教育機関、学校、社会教育施設、高齢者大学、社会福祉協議会、民間業者、企業等との連携を促進し、高齢者のみならず、成人や若者をも対象とした多様な学習プログラムの開発・提供、NPOなどの地域活動団体等への指導・助言、地域住民の学習活動を促進するための情報提供等を積極的に行うことが必要である。

(2)都道府県の役割

○ 都道府県は、市区町村の役割と実情を踏まえ、広域的自治体としての立場から、市区町村における先導的な施策の支援を行うとともに、住民の学習活動や社会参画などを支援するための条件整備にかかわる広域的諸施策を推進することが必要である。
○ このような観点から、都道府県は、市区町村事業の支援、都道府県立施設等における事業の実施、広域にわたる情報提供のしくみづくり、広域的な活動団体への支援のほか、市区町村間の連絡・調整や生涯学習に関する調査・研究などを行うことが重要である。
○ また、例えば、専門性の高い研修事業や団塊の世代等地域住民等を対象としたフォーラム等の開催など、都道府県内の共通課題や都道府県内外の事例収集など、広域的な対応が必要な事業については、積極的に関わっていく必要がある。
○ その際、市区町村の自主性・自立性に配慮しつつ支援するという基本的立場の下に、相互に十分な協議・調整を行い、共に連携しながら、中高年が参画する地域の活動を支援していく必要がある。
○ また、事業を推進する上で必要とされる関係部局間相互の連携を進めるとともに調整を行うことも必要である。

(3)国の役割

○ 国は、諸外国の状況等や各地方公共団体における多様な実情を踏まえつつ、全国的な観点から今後の方策について基本的な方針等を策定し、地方公共団体における施策の参考となるよう努めるとともに、各地方公共団体における先導的な取組に係る情報収集及びその提供、様々な生涯学習の機会の整備充実やこれらを推進するための制度の改善等を図ることが考えられる。
○ また、関係者や関係機関の連携を図り、そのためのネットワークを形成・維持することも必要である。

(4)社会教育施設等の役割

○ 公民館、図書館、博物館、スポーツ・文化施設、さらには高齢者大学など地域の様々な関連施設は、行政が地域住民のニーズを把握し、多様な学習プログラムを企画・提供することができる地域の学習拠点である。今後、地域が抱える様々な諸課題へ対応するとともに、多様化する学習ニーズへ対応するため学習機会の充実を図り、地域における学習拠点・活動拠点としての取組を推進することが期待される。
○ 特に、地域住民の集いの場としての公民館は、生涯学習のほか、防災、高齢者と子どもの触れ合いの場等として多角的な利用が可能であり、学校・家庭・地域の連携の拠点として一層の有効活用を図るべきである。
○ また、豊かな知識・経験を有する高齢者に活躍してもらえる機会を設定するなど、高齢者の生きがい創出を図る取組を推進していく必要がある。例えば、公民館や高齢者大学における学級講座等における市民講師、図書館における読み聞かせ教室の講師、博物館等におけるガイドボランティアなど,多様な活動側面に学習成果を生かす場を確保することが考えられる。
○ さらに、地域が抱える課題への対応として、大学や専門学校との連携講座の実施、学校の教育支援に関する事業の実施などが考えられる。もちろん、社会福祉協議会、地域包括ケアセンター、シルバー人材センター等との連携取組も重要である。

(5)学校の役割

○ 学校は地域住民が集まりやすい場所にあり、各種の施設も整っていることから、コミュニティの拠点としての機能も併せ持つ。身近な地域の学習拠点として、空き教室等の施設を地域に開放し、学校の人材も活用しながら地域住民の学習活動を支援することが必要である。
○ 現在、放課後子ども教室や学校地域支援本部等の支援や部活動指導ボランティア、就職支援アドバイザーなどで学校で地域住民の中でもとりわけ高齢者が活躍している事例も多いが、さらに高齢者に活躍してもらえる場所と機会を検討していくことが、「地域とともにある学校」「地域づくりの核としての学校」としても重要である。

(6)大学等高等教育機関の役割

○ 高等教育機関の有する資源を活用した専門性や学術性の高い学習機会を高齢者を始めとする社会人・地域住民に提供していくことが必要である。
○ また、社会貢献・地域貢献の一環として、大学の特色を活かして行う公開講座等の地域振興に貢献する取組を行っていくことも必要である。その際、地方公共団体と連携して、地域において活躍するリーダー人材の育成等を行っていくことも重要である。
○ また、高齢者の高い就労意欲への対応として、定年前後世代のキャリア形成を目的とした高齢者の特性を踏まえた学習機会を充実させていくことも必要である。

(7)NPOの役割

○ 地域に密着し、様々な価値観に基づいて多様で迅速に行動できるNPOは、行政では提供が難しい新たな公共サービスの供給主体として、その役割が期待される。
○ 一人一人の経験や能力を生かし、新たな生きがいを求めてボランティア活動を行いたいとする高齢者が増えつつあり、NPOには、このようなニーズに応え、自己実現を図る機会を提供する主体として、また、社会貢献を行いたいとする意欲を社会的成果に結びつける場の提供主体としての役割が期待される。
○ また、現在、新たな行政需要が増大し、その処理のために膨大な行政コストが必要になっている。このような状況から、市民の自助を基調とした市民主体の社会の実現が望まれるようになってきており、NPOには、このような社会の構築に向けた新たな流れを生み出す原動力としての役割が期待される。

(8)雇用主の役割

○ 健康で自立した高齢期を送るためには、若い時期から高齢期まで自分の人生全体を見渡した「ワーク・ライフ・バランス」を考えることが重要である。
○ 現役時代から高齢期を見据えたプランを立て、自己啓発や健康づくりに取組めるようなワーク・ライフ・バランスの実現が必要であり、一定の年齢や退職年齢の一定期間前になったときに、従業員が老後の人生設計、社会参画・地域貢献活動など高齢期の人生プランを考えるための一定期間の休暇制度の導入や啓発・相談体制の充実など、実際に利用しやすい職場風土づくりに取り組むなど雇用主(企業・官庁・団体等)としても支援していくことが求められる。
○ 特に、企業は、定年退職者を対象にした親睦会等の組織化を行っているケースが多いが、趣味のサークルにとどまらず、社会貢献や地域・コミュニティ参画につながる活動に発展させていくことが望ましい。

お問合せ先

生涯学習政策局男女共同参画学習課

(生涯学習政策局男女共同参画学習課)

-- 登録:平成24年02月 --