平成22年度要求額:1,000百万円
(平成21年度予算額: ‐ 百万円)
事業開始年度:平成21年度
事業達成年度:平成26年度
研究開発局宇宙開発利用課宇宙利用推進室(室長:松浦 重和)
研究開発局宇宙開発利用課宇宙開発利用課(課長:佐野 太)、研究開発局海洋地球課地球・環境科学技術推進室(室長:谷 広太)
地球観測システムの構築への取組を強化するため、大学、大学共同利用機関及び高等専門学校(以下「大学等」。)における自由な発想や創造力、宇宙開発に係わる研究機関においてこれまで蓄積されてきた基盤技術、中小企業・ベンチャー企業等の優れた技術を結集して、地球観測に資する世界最先端の超小型衛星システムの研究開発を推進し、新たな宇宙開発利用の手法の確立を通じた利用の裾野を飛躍的に拡大するとともに超小型衛星による高頻度かつ多様な観測ニーズへの対応を通じ、画期的な地球観測システムの構築を目指す。
平成20年5月に成立した宇宙基本法(平成20年法律第43号)及びそれに基づき策定された宇宙基本計画(平成21年6月宇宙開発戦略本部決定)においては、国民生活の向上等に資する人工衛星の利用といった理念が掲げられ、社会的ニーズに継続的かつ効率的に対応した利用が可能となるような人工衛星の研究開発を進めることとされ、また宇宙利用産業の裾野を拡大し、国際競争力を強化していくため、宇宙利用ニーズの創出を進めることが求められている。
これらの検討の過程において、これまでの衛星利用に係る取組に加え、宇宙利用が促進され、国民生活の一部に取り込まれることを目指し、人工衛星に係る潜在的なユーザーや利用形態の開拓等、宇宙利用の裾野の拡大を目的とする、産学官の英知を幅広く活用する新たな仕組みの構築が宇宙開発戦略本部から求められた。このため、文部科学省研究開発局において、衛星利用者の求める更なるニーズの把握等を行ったところ、データ利用方法の可能性や利用者の裾野の拡大のためには、可能な限り空間分解能の高い地球観測衛星データが必要なときに安価に利用できることが必要であることが明らかになった。
空間分解能の高さを追求することについては、地球観測センサの大型化、ひいては衛星全体が大型化するため、衛星の開発及びその打上げに係る費用が増加し、それが衛星データのコストに賦課され、利用者の負担も増大することになる。また、大型衛星では開発期間が長くなり、多様な観測ニーズに柔軟に対応するための最新の観測技術や民生部品の取込みが困難となるため、潜在的ユーザーや利用形態の開拓等、宇宙利用の裾野を拡大するという方針に相反することとなる。特に、人工衛星の大型化は、空間分解能の向上に資することとなったが、1つの衛星に観測機器(ミッション)が搭載されることは、衛星の故障によってミッションが全損するといったリスクがあり、また、衛星開発に携わる人材の育成・確保の障害となって、衛星の信頼性確保に対して影響を与え、必ずしもニーズに的確に応えられない事態を生じていた。
衛星利用者の意見には、高い空間分解能の衛星データほど望ましいものの、まずはユーザーによって指定された日時に安定的かつ安価に必要な衛星データを入手できることが必要であり、そのためには空間分解能をある程度犠牲にしてもむしろ時間分解能を向上し、多様な観測ニーズを反映していくことで、例えば、農耕地や災害状況といった変化を捉えることができ、衛星利用が飛躍的に拡大する可能性があることが明らかになった。これに対応するためには、複数基の地球観測衛星の同時観測によって時間分解能つまり観測頻度を向上し、かつ、観測幅を確保していく必要があるが、それを現実のものとするためには、1基当りの開発費が低コストの地球観測衛星システムとする必要がある。
衛星利用が飛躍的に拡大するような地球観測衛星システムを実現するためには、これまでのような大型衛星の単基同時運用では事実上困難であり、小型衛星の複数基同時運用がコスト面、運用面といった観点で優れて実現性がある。実際、諸外国においても地球観測衛星の小型化が進んでおり、米国では必要な観測要求に対して迅速に打上げ・運用し、応対するための衛星システムとして小型衛星の開発を進めている。また、英国、ドイツや韓国等では、宇宙分野に進出しようとする途上国に対し、超小型衛星技術を輸出している事例があり、フランスでも、複数基の小型衛星による高頻度観測計画がある。一方、我が国においては、既に大学等における超小型衛星に関する研究や、優れた電子機器、材料、小型化技術を有する中小企業・ベンチャー企業等が存在しており、また、宇宙産業の国際競争力強化が必要にもかかわらず、これまで超小型衛星に係る取組は十分ではなく、大学等における基礎的研究に留まってきたのが実情である。
しかしながら、平成21年1月にH‐2.Aロケット15号機によって打ち上げられた「航空高専衛星」、「まいど1号」等の小型衛星は、国民に希望と活力を与えるとともに、我が国のものづくり人材の育成、技術力向上に貢献したとされる。このように、これまで主に大学等において自主的に研究されてきた超小型衛星に係る取組は、技術的基盤が充実しつつあり、世界に誇る中小企業・ベンチャー企業等の優れた技術、宇宙機関でこれまで培われてきた基盤技術を政策的に結集・誘導することで、新たな宇宙利用の裾野を飛躍的に拡大できる可能性が明確になっている。
そこで、国としても超小型衛星の研究開発を推進し、国際的比較優位を確保できるうちに早急に低コスト・短期間で開発可能な超小型衛星の技術を確立するとともに、これを画期的な地球観測システムの構築に貢献していくことが必要である。
これまでになく短期間、低コストで、将来的に発展可能な最先端の超小型衛星の実機(フライトモデル)の開発を目指して、大学等から超小型衛星に係る研究開発を行う計画(研究開発計画)の提案を公募し、文部科学省研究開発局が開催する超小型衛星審査評価会(以下「審査評価会」。)において研究開発計画の提案を選定し、選定された大学等に対して、超小型衛星システムに係る研究開発に必要な経費を補助する。
平成21年度補正予算によって措置された超小型衛星の研究開発に係る成果も反映しつつ、それらと合わせて、低コスト・短期間の超小型衛星システムの開発手法を確立し、これまでの人工衛星による地球観測システムを補完するような局地性、即時性のある複数基の超小型衛星群の実現を目指す。
優れた衛星バスシステムの開発手法、主たる地球観測ミッション技術、サブミッションの新たなアイデアやサブシステム、コンポーネントに係る最先端技術を創出し、それらの成果や新たな観測ニーズを次代の超小型衛星システムに係る技術を反映してくことで高度化し、共通化を進め、超小型衛星システムの設計、開発、試験方法を短期間で確立するためには、複数の研究開発計画を実施することが必要なため、平成21年度補正分とともに平成22年度に2件程度の研究開発計画の選定を予定している。
これまでに蓄積されてきた基盤技術や民生部品などの活用、試験評価を進めながら、新たな宇宙開発利用の手法として、従来の衛星の設計概念を転換する低コストで開発期間の短い超小型衛星システム開発手法を確立する。
また、これまでにない画期的な地球観測システムとして、超小型衛星の複数基同時運用、高頻度観測の実現によりこれまで捉えられなかった地球の変化を観測することを目指す。
これらによって、技術力向上、地域活性化、ものづくり人材の育成、新市場創出といった効果が期待され、宇宙利用の裾野を飛躍的に拡大する。
(短期目標)【大学等における超小型衛星に係る研究開発、技術実証により目指す内容】
(陸域観測技術衛星「だいち」の場合、開発費約500億円、開発期間約10年)
(将来目標)【複数基による超小型衛星システムの定常運用により目指す内容】
このため、事業の取組の進捗状況を指標として、研究開発が適切に進捗しているかを把握する。その際、事業終了年度までの各年度での事業の進捗状況を把握し、事業終了時には、成果が得られているか審査評価会において検証する。
地球観測・災害監視分野については、「全球地球観測システム(GEOSS)」10年実施計画への我が国の貢献として重要な地球観測衛星の研究開発及び運用を着実に行った。温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」は、平成21年1月に打ち上げられ、二酸化炭素等の全球濃度分布の観測に向け、初期機能確認を行った。また、陸域観測技術衛星「だいち」は、国内外へのデータ提供を行い、災害状況把握や植生の把握等に貢献した。そのほかにも、利用ニーズを踏まえつつ、地球環境や災害状況の把握に資する衛星の研究開発を推進した。同時に、従来の衛星利用者の求める更なるニーズの把握等を通じて、データ利用方法の可能性や利用者の裾野の拡大のために、地球観測衛星の観測頻度の飛躍的向上が必要であることが明らかになった。
地球観測・災害監視分野については、引き続き、地球観測衛星の運用及びデータ提供を継続する。特に、「いぶき」については、地球温暖化対策の一層の推進に貢献することを目指し、一般へのデータ提供を開始する。そのほか、多様な利用ニーズに対応した地球観測衛星の研究開発を行うとともに、準リアルタイムでの地球観測を可能とする最先端の衛星の研究開発により宇宙利用の裾野の拡大を推進する。
本事業は、「全球地球観測システム(GEOSS)」10年実施計画への我が国の貢献として行う地球観測衛星に係る研究開発の一環として、我が国の最先端の科学技術を結集した高頻度の地球観測衛星システムとして必要である。
宇宙基本計画においては、従前の宇宙開発利用が国民生活に十分に定着していなかったため、新たな宇宙利用を開拓すること、また、新産業と宇宙関連産業の拡大と雇用の創出を小型実証衛星プログラムとして求めていることから、本事業によって、これらの実現を図る必要がある。
衛星の開発・実証は多額のコストがかかる、実用化までの期間が長い等の特有のリスクがあり、そのことが宇宙利用の裾野を広げるために障害になってきた。一方で、我が国では、本年1月のH‐2.Aロケット15号機による小型衛星の打上げに見られるように、大学等、中小企業・ベンチャー企業等において技術が蓄積されており、我が国が得意とするものづくり技術、小型化技術等により国際的な比較優位が確保できる見込みがあったにもかかわらず、これまでミッションの信頼性を重視するあまり、超小型衛星に係る取組は限定的なものに過ぎなかった。そこで本事業は、そのような低コスト、短期開発の超小型衛星システムに係る研究開発リスクを国が負い、超小型衛星システムの開発手法、技術を確立することで、日本全体の技術力向上、宇宙産業の競争力強化、ものづくり人材の育成を通じて宇宙利用の裾野を全国的に拡大するものであり、これらは宇宙基本法の理念からも国の取組が不可欠である。
また、地球環境問題等に対応するため、衛星による地球観測を推進し、地球観測データを継続的に提供する地球観測システムの構築は、国が取り組むべき重要な責務であることから、地球観測衛星の開発・打上げ及びそのための技術基盤の蓄積として国が関与する必要がある。
○宇宙利用促進調整委託費
宇宙利用促進調整委託費~衛星利用の裾野拡大プログラム~は、「平成21年度における宇宙開発利用に関する施策について」(平成20年12月宇宙開発戦略本部決定)に沿って、衛星利用の裾野の拡大を図るために、産学官の英知を幅広く活用して人工衛星に係る潜在的なユーザーや利用形態の開拓等を推進する新たな仕組みとして創設されたもの。
上記関連施策は、文部科学省が宇宙開発戦略本部の方針を踏まえて政策ニーズの高い戦略的なテーマを設定し、産学官の競争的環境のもとで宇宙利用を促進するためのシステム開発等として、国の委託事業により、衛星データに関しての利活用方法についての展開・開発を図り、衛星データ利用の一層の推進を図っているものであるのに対し、本事業は、低コスト・短期間で開発できる超小型衛星システム開発、運用手法の確立等を目指して、これまでの大学等、中小企業・ベンチャー企業による自主的な取組を促すものとして補助事業により行うものである。
なお、超小型衛星の利用促進のため、衛星群の地球観測システムとしての利用実証においては、上記関連施策の活用を検討する。
○「経済財政改革の基本方針2009」(平成21年6月23日閣議決定)
第2章 1.(3) p.7 10行目
○宇宙基本計画(平成21年6月2日宇宙開発戦略本部決定)
第3章 1 (2) 1.
p.24 29~32行目 p.25 6~8行目 2(5)p.37 1~5行目
○平成22年度の我が国における地球観測の実施方針(平成21年8月7日科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会
地球観測推進部会)第2章
第1節 p.12 15~17行目
我が国には既に大学等に自由な発想や想像力による学術研究、宇宙機関で培われてきた基盤的研究開発、中小企業・ベンチャー企業等の優れた技術開発といった超小型衛星に係る実績、技術的知見が蓄積されている。また、諸外国においても50kg級で5m程度の分解能を実現する超小型衛星の事例があることから、地球観測システムとしての利用可能性の実証を通じ、本事業の目的達成の可能性は高い。
本事業を通じて、低コスト・短期間での開発が可能な超小型衛星システム技術が確立され、宇宙利用の裾野拡大につながり、画期的な地球観測システムが構築されることから、環境・海洋分野の研究開発の重点的推進が達成され、また、宇宙・航空分野の研究・開発・利用の推進も達成される。
平成22年度概算要求額 1,000百万円
本事業は、平成22年度に2件程度の採択を予定している。大学等における自由な発想や創造力、宇宙開発に係わる研究機関においてこれまで蓄積されてきた基盤技術、中小企業・ベンチャー企業等の優れた技術を結集し、産学官の連携が促進される。また、文部科学省の調整により、各実施機関における超小型衛星の民生部品、試験・検証方法の規格策定やデータの共通化を図る等、効率的に衛星開発手法の確立を推進する。
本事業は、文部科学省が大学等から超小型衛星システムに係る研究開発計画を公募し、競争的環境で優れた計画を採択し、その大学等に補助金を交付することとなる。大学等は、必要に応じて、中小企業・ベンチャー企業等、独立行政法人等、公益法人、NPO等と共同して計画を提案、実施することができるため、これまで各地に分散していた衛星システムに係る技術的蓄積のある機関間の連携が促進され、効率的な研究開発が期待される。また、研究開発計画の選定に当たっては、文部科学省が開催する審査評価会での意見を踏まえ、本事業の目的・規模に沿ったものを選定し、必要に応じて計画の内容を調整し、また、必要に応じて事業の経費に係る調査、助言を行うなど事業を効率的に進めることができる。
本事業は、画期的な地球観測システムの構築、新たな宇宙開発利用の手法の確立を目指しており、地球観測という観点から国の主導性が求められるとともに、従前と異なる衛星開発手法の確立、つまり宇宙分野におけるプロセスイノベーションの創出という国の先導的役割が求められる。このため、大学等や中小企業・ベンチャー企業の自主的取組に期待するのではなく、宇宙開発の特性を踏まえて国が適切なリスクを負いつつ、競争的環境で自由な発想や創造力に基づく優れた超小型衛星システム技術の提案を求めることで既存の技術的蓄積を活用できるとともに、民生部品、試験・検証方法等の共通化を進められるため、超小型衛星の研究開発を効率的に実施できると考えられる。既存の宇宙開発利用のマネージメント手法に基づき、高度の信頼性が要求されるような衛星設計概念に基づいて特定の主体に集中して研究開発を行わせては短期間で効率的に目標を達成することは困難である。
D.3でも記述したとおり、公募されてきた研究開発計画の選定の際には、外部有識者による審査評価会にて審査を経ることとしており、公平性は担保される。
本事業は、宇宙基本計画等に基づいて実施する事業である。高頻度の地球観測システムは、災害や農業分野、交通分野等でのニーズがあり、また、既存の地球観測システムを補完するものとして重要性が高い。諸外国においては超小型衛星に係る取組が先行しつつあり、我が国でも衛星の小型化、高性能化等については、大学等や中小企業・ベンチャー企業等の潜在的技術力があるものの、これまでの国としての取組は不十分であったため、国際的比較優位が損なわれないうちに早急に実施する必要があり、ものづくり人材の育成に利用できることから、他の事業よりも優先的に実施する必要がある。
当該評価結果を踏まえ、22年度概算要求を行う。
必要に応じ、重要な局面においては、審査評価会において研究開発計画の中間評価を行う予定としている。
今後本事業の事後評価を行う際には、実際にユーザー側の視点から見て使いやすい衛星が開発されているかについて把握できるよう、十分留意すること。
特になし
特になし
事業の実施や今後の事業展開においては、超小型衛星に対して期待されるニーズを把握するとともに、例えば、衛星の運用方法、新たな衛星・センサの機能や利用方法に関する提案等、様々な意見を今後の事業に反映する。
大臣官房政策課評価室
-- 登録:平成22年02月 --