23.再生医療の実現化プロジェクト(拡充) 【達成目標10‐1‐2】

平成22年度要求額:2,800百万円
(平成21年度予算額:2,650百万円)
事業開始年度:平成15年度
事業達成年度:平成24年度

主管課(課長名)

 研究振興局ライフサイエンス課(石井 康彦)

関係局課(課長名)

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事業の概要等

1.事業目的

 世界でも比類無き高齢化社会を迎えている我が国において、脊髄損傷・心筋梗塞・糖尿病等の難病・生活習慣病に対し、これまでの医療を根本的に変革する可能性のある再生医療について、iPS細胞等を用いた革新的な幹細胞操作技術や治療技術等を世界に先駆け確立し、その実現化を目指す。さらに、iPS細胞等を用いた疾患の原因解明・創薬への応用基盤の構築により、国民の生活の質と福祉の向上に寄与する。
 平成20年度からは第2.期事業を開始しており、社会のニーズを踏まえたライフサイエンス分野の研究開発プロジェクトとして、第1.期の成果及び再生医療に関する研究の現状を踏まえ、国民への効率的な成果還元のため「ヒト幹細胞を用いた研究」を中心とした研究開発を通じた再生医療の実現を目指している。
 特に、平成19年11月に京都大学山中教授によるiPS細胞の樹立は、再生医療・疾患研究等に幅広く活用されることが期待される我が国発の画期的成果であり、この研究成果を総力を挙げ育てていくため、本事業により、iPS細胞等の研究をオールジャパン体制のもとに戦略的に推進する。 

2.事業に至る経緯・今までの実績

 本プロジェクトは、平成15年から10カ年計画で実施されており、平成15年度から平成19年度の5年間は、「経済活性化のための研究開発プロジェクト(リーディングプロジェクト)」の一環として、第1.期事業が実施された。
 平成20年度からは第2.期として開始し、キーテクノロジー研究開発の推進(社会のニーズを踏まえたライフサイエンス分野の研究開発)として、第1.期の成果及び再生医療に関する研究の現状を踏まえ、国民への効率的な成果還元のため「ヒト幹細胞を用いた研究」を中心とし、研究開発を通じた再生医療の実現を目指している。

 第1期事業の成果として、移植適応外臍帯血について研究用に提供を開始、ヒトES細胞からの有用細胞の産生、脊髄損傷等のモデル動物の細胞移植治療成功等、我が国の再生医療研究の躍進に貢献した。
 また、特筆すべき成果として、第1.期事業において「臨床応用を実現する多能性幹細胞の樹立」の課題を実施した京都大学の山中伸弥教授により、平成19年11月にヒトiPS細胞の樹立に成功という発表がなされた。国際的にも非常に高く評価されている本成果は、発生学、再生科学の進歩に大きく貢献するだけでなく、細胞治療に加え、様々な疾患の原因解明や創薬に応用できる可能性を開くものである。
 第2期事業の成果としては、ウイルスを用いない方法でマウスiPS 細胞の樹立に成功したほか、ヒトiPS 細胞から血小板等の各種血液細胞への分化誘導に成功した。さらに、脊髄を損傷したマウスにヒトiPS細胞から作製した神経前駆細胞を移植することにより、症状を改善するなどの成果を挙げている。
 また、約30機関が参加する「文部科学省iPS細胞等研究ネットワーク」を構築し、我が国全体でのiPS細胞研究の推進体制を確立するとともに、国際競争を見据えた知的財産戦略や管理・活用体制の強化を行っており、ヒトiPS細胞等幹細胞研究の基盤整備及び再生医療関連技術の開発が順調に進捗している。
 加えて、我が国のiPS細胞研究の裾野の拡大や研究基盤整備のために、iPS細胞の標準化や、細胞誘導の技術講習会・培養トレーニングプログラムの実施、さらには疾患特異的なiPS細胞の樹立・提供を行う「iPS細胞技術プラットフォーム」を平成20年度に構築した。

3.事業概要

 これまでの医療を根本的に変革する可能性のある細胞移植・組織移植による再生医療の実現化を目指し、「研究用幹細胞バンク整備領域」「幹細胞操作技術開発領域」「幹細胞治療開発領域」の3領域を設け事業を推進するとともに、ヒトiPS細胞等を用いた研究を強力に実施するための拠点整備事業を実施している。

 平成22年度においては、第1.期、第2.期プロジェクトにおける現在までの成果、及び再生医療に関する研究の進捗・現状を踏まえ、

 (1)iPS細胞から目的とする細胞・組織を作製するための研究開発を引き続き推進する。

 (2)実現すれば世界初となる、iPS細胞を用いた再生医療の実現に向け、iPS細胞から作製した細胞・組織を中型以上の動物やサル等の霊長類動物に移植する研究(前臨床研究)を実施する。

 (3)難病研究等のためにiPS細胞を提供する基盤(iPS細胞バンク)を整備する。

再生医療の実現化プロジェクト

4.指標と目標

【指標】

 各種施策を踏まえた、わが国の幹細胞・再生医学研究の体制を強化するための研究開発拠点等の整備状況及びこれらにより推進される再生医療の実現化のための研究の進捗状況を指標とする。個別には以下のとおりである。
○わが国の幹細胞・再生医学研究の体制を強化するための研究開発拠点の整備状況(iPS細胞技術プラットフォーム、文部科学省iPS細胞等研究ネットワークの進捗状況)
○初期化メカニズムの解明の進捗状況
○標準iPS細胞の作成と供給(標準化)の進捗状況
○疾患研究・創薬のための患者由来のiPS細胞の樹立・提供の進捗状況
○再生医療(iPS細胞から分化誘導された細胞・組織を用いた細胞・組織移植等の治療技術の前臨床研究)の進捗状況

【目標】

 先端的医療の実現に資する知見の蓄積、技術の開発、またそれに必要な環境の整備を図る。

事業の事前評価結果

A.20年度実績評価結果との関係

 20年度の実績評価においては、「iPS細胞等研究を総合的に実施できる『ヒトiPS細胞等研究拠点』及びiPS細胞等研究の基盤となる『iPS細胞技術プラットフォーム』を整備するとともに、『研究用幹細胞バンク整備領域』、『幹細胞操作技術開発領域』、『幹細胞治療開発領域』の個別研究事業を開始した。成果としては、ウイルスを用いない方法でマウスiPS 細胞の樹立に成功したほか、ヒトiPS 細胞から血小板等の各種血液細胞への分化誘導に成功した。さらに、脊髄を損傷したマウスにヒトiPS細胞から作製した神経前駆細胞を移植することにより、症状を改善するなどの成果を挙げている。また、約30機関が参加する『文部科学省iPS細胞等研究ネットワーク』を活用し、国際競争を見据えた知的財産戦略や管理・活用体制の強化を行った。ヒトiPS細胞等幹細胞研究の基盤整備、再生医療関連技術の開発について、順調に進捗している。今後は、『iPS細胞研究等の加速に向けた総合戦略 改訂版』を踏まえ、iPS細胞研究の一層の加速化を図るとともに、日本全体で研究を総合的かつ効率的に進められるよう、より具体的な目標を設定し、これに沿った取組を遂行していく。」と記載されている。
 このため、文部科学省では、「iPS細胞研究ロードマップ」(平成21年6月24日 文部科学省)を策定し、今後のiPS細胞研究に関して、1.初期化メカニズムの解明(基礎・基盤的研究)、2.標準iPS細胞の作製と供給(標準化)、3.疾患研究・創薬のための患者由来のiPS細胞の作製・評価、バンクの構築、4.再生医療(iPS細胞から分化誘導された細胞・組織を用いた細胞・組織移植等の治療技術の前臨床研究及び臨床研究)の具体的な目標を設定したところ。
 これらを受け、iPS細胞研究等を着実に進めるべく、22年度においては、
 (1)iPS細胞から目的とする細胞・組織を作製するための研究開発を引き続き推進する。(「iPS細胞研究ロードマップ」の目標2.3.4.に該当)
 (2)実現すれば世界初となる、iPS細胞を用いた再生医療の実現に向け、iPS細胞から作製した細胞・組織を中型以上の動物やサル等の霊長類動物に移植する研究(前臨床研究)を実施する。(「iPS細胞研究ロードマップ」の目標4.に該当)
 (3)難病研究等のためにiPS細胞を提供する基盤(iPS細胞バンク)を整備する。(「iPS細胞研究ロードマップ」の目標2.3.に該当)

B.必要性の観点  

1.事業の必要性  

 再生医療は、難病・生活習慣病等に対して、新たな治療法を実現し、患者のQOLと国民福祉の向上をもたらすものであり、細胞移植や組織移植によって、これまでの医療を根本的に変革する可能性を有する先端医療である。
 平成19年11月、京都大学山中教授らの研究チームが、世界で初めて、生命の萌芽である胚を滅失することなく、成人の皮膚細胞から様々な細胞に分化する能力を持つヒトiPS 細胞(人工多能性幹細胞)を作り出すことに成功したという論文が発表された。
 iPS 細胞については、平成18年8月に同じく山中教授らの研究チームがマウスの細胞からの樹立に成功して以降、ヒトの細胞での樹立に向けて国際的な競争が行われていた。山中教授らによるiPS細胞の樹立成功は、世界に誇れる日本発の成果であり、また再生医療の実現に向けた大きな第1歩であるため、今回の成果を受け、国際競争が進む中で、我が国の研究を加速させ、また再生医療技術の開発などを日本全体で戦略的に進めていくことが求められている。
 係る状況の中で、文部科学省においては、科学技術・学術審議会ライフサイエンス委員会幹細胞・再生医学戦略作業部会等における議論を踏まえ、ヒトiPS細胞を中心に、ヒトES細胞、ヒト体性幹細胞を用いた再生医療研究を総合的に推進するヒトiPS細胞等研究拠点を整備するとともに、幹細胞の操作技術に関する開発等を推進し、再生医療を実現化していく必要がある。
 本事業では、こうした再生医療の実現化を目指し、世界に誇る画期的な成果であるiPS細胞に関する研究をさらに発展させるとともに、ヒト幹細胞を用いた前臨床研究を強力に推進し、研究成果の社会還元をいち早く図ることとしており、国民生活の向上を目指して、日本全体としての研究体制を構築して、戦略的に研究を推進する必要がある。
 特に平成22年度においては、難病の患者の細胞を用いた疾患研究の推進や、創薬研究等に資する、iPS細胞リソースの収集・保存・提供を行う(iPS細胞バンク)の構築が必要である。また、再生医療の実現化には、安全性や有効性の確認のために、中型以上の動物やサル等の霊長類動物を用いた研究(前臨床研究)の実施が必要であるため、平成21年度補正予算で設備整備を行ったiPS細胞研究4拠点と個別研究事業実施機関が共同して、iPS細胞を用いた前臨床研究を実施できるように支援を行う。
 なお、本研究分野は、世界的にも競争の激しい分野であり、難病患者等の医療費削減や、製薬・医療機器開発等による経済の活性化も見込まれることから、積極的に推進する必要がある。

2.行政・国の関与の必要性  

 世界でも比類なき高齢化社会を迎えている我が国において、国民が健康で快適な生活を送るためには、難病・生活習慣病等に対して、細胞移植や組織移植等のこれまでの医療を根本的に変革する可能性を有する再生医療を実現し、患者のQOLと国民福祉の向上に資するよう、国が研究開発を積極的に推進していく必要がある。加えて、再生医療を推進し、研究成果の社会還元を加速することは、研究開発力の向上を通して、健康科学技術産業の国際競争力を高めることや、今後高齢化が進行する世界に対して、国際的に貢献することにも資するものである。
 このため、文部科学省では、我が国全体でのiPS 細胞研究等を加速していく総合的な研究開発体制を確立するため、文部科学省及び独立行政法人科学技術振興機構(JST)が支援するiPS 細胞研究等に係る事業の研究機関・研究者を包含した「文部科学省iPS 細胞等研究ネットワーク」を構築している。加えて、我が国のiPS細胞研究の裾野の拡大や研究体制強化のため「iPS細胞技術プラットフォーム」を構築している。これらは、我が国全体における幹細胞・再生医学研究の一体的かつ総合的な研究開発体制を確立するものであり、非常に重要な情報・技術基盤となっており、その運営は、文部科学省が責任もって行っていくべきものである。
 さらに、再生医療の実現化や創薬等の産業応用を考慮した場合には、産業化や薬事承認の取得が必須である。これらを円滑かつ効率的に遂行していくためには、研究開発段階から厚生労働省や経済産業省等の関係府省庁及びその事業実施者との役割分担や連携が不可欠であるため、国の関与のもと、主体的に連絡・調整を図っていく必要がある。

3.関連施策との関係

1.主な関連施策 

○発生・再生科学総合研究センター(独立行政法人 理化学研究所)
 生物における発生・再生の制御システムを解明し、発生生物学の新たな展開を目指した基礎研究を推進するとともに、細胞治療・組織再生などの医学的応用につながるテーマのモデル的研究等を推進し、得られる成果を広く応用分野に向けて発信する。
 (事業開始年度:平成12年度)

○戦略的創造研究推進事業 CREST「人工多能性幹細胞(iPS細胞)作製・制御等の医療基盤技術」(独立行政法人 科学技術振興機構)
 近年著しい進歩の見られる、iPS細胞を基軸とした細胞リプログラミング技術の開発に基づき、当該技術の高度化・簡便化を始めとして、モデル細胞の構築による疾患発症機構の解明、新規治療戦略、疾患の早期発見などの革新的医療に資する基盤技術の構築を目指す研究を対象とするもの。
 具体的には、ゲノミクス・染色体構造・エピジェネティクス解析を通じたリプログラムおよび細胞分化機構の研究、遺伝子導入の制御などの研究、リプログラムを誘導する化合物のハイスループットスクリーニングを行う研究、先天性疾患の患者細胞から作製された多能性幹細胞を用いた疾患発症機構の解明を目指す研究などが含まれる。
 (事業開始年度:平成20年度)

○戦略的創造研究推進事業 さきがけ「iPS細胞と生命機能」(独立行政法人 科学技術振興機構)
 iPS細胞を樹立する技術によって大きなブレークスルーがもたらされると考えられる分野、すなわち、細胞のリプログラミング、分化転換、幹細胞生物学などを対象とする。これまでにはない自由で創意に満ちた発想による基礎研究とともに、医療などに将来貢献できる基礎研究も対象とする。
 具体的には、1)リプログラム機構の分子レベルでの解析に基づくリプログラミング技術の高度化・簡便化、2)幹細胞分化転換過程の解析と人的調節、3)iPS細胞を用いたエピジェネティック過程の分子機構解析、4)iPS細胞を駆使する疾患発症機構の解析、5)ヒト疾患モデルの構築などの研究が含まれる。
 (事業開始年度:平成20年度)

○戦略的イノベーション創出推進事業 (独立行政法人 科学技術振興機構)
 戦略的創造研究推進事業等の成果から産業創出の礎となる研究開発テーマを設定し、当該テーマの下で公募選定された産学連携による複数研究開発チームの下で長期一貫(最大10年間)した研究開発を進める。基礎研究から実用化まで長期一貫してシームレスに研究開発を推進することで、産業創出の礎となりうる技術を確立し、イノベーションの創出を図る。後述の「iPS 細胞(人工多能性幹細胞)研究等の加速に向けた総合戦略」において、JST は、iPS 細胞関連技術を本事業の一つの課題として設定し、iPS細胞を用いた診断・治療に向けた基盤技術開発等の効果的推進に向けた支援を行うよう努めることとしている。
 (事業開始年度:平成21年度)

2.関連施策との関係(役割分担・連携状況)

 再生医療に深く関連する施策・事業としては、本事業のほか、独立行政法人理化学研究所発生・再生科学総合研究センター、独立行政法人科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業 CREST・さきがけ、戦略的イノベーション創出推進事業が存在する。
 独立行政法人理化学研究所発生・再生科学総合研究センターでは、発生・再生のメカニズムに関する基礎研究の推進を目的として、動物等を用い、発生・再生のメカニズムの原理の解明を目指している。またJSTのCREST・さきがけでは、上述の通りiPS細胞を基軸とした細胞リプログラミング技術の開発のような革新的医療に資する基礎研究・基盤技術の構築を目指す研究を対象としている。また、戦略的イノベーション創出推進事業では、産学連携により産業創出の礎となりうる技術を確立すること(産業応用)を当該事業の主眼としている。
 一方、再生医療の実現化プロジェクトでは、国直轄のプロジェクトとして幹細胞を用いた再生医療の実現を目的とし、ヒトへの応用の技術開発のため、幹細胞バンクの整備や幹細胞操作技術の開発、幹細胞治療法の開発を目指しており、より臨床応用を見据えた施策である。
 加えて理化学研究所発生・再生科学総合研究センターは、本事業における「ヒトiPS細胞等研究拠点」となっており、基礎研究から前臨床研究まで一貫して強力に推進することにより、研究成果の社会還元を図ることが可能となり、事業の効率化・有効性が確保される。
 また、文部科学省では、本年6月に「iPS細胞研究ロードマップ」を作成し、その中で達成目標を1.基礎・基盤的研究、2.標準iPS細胞の作製と供給、3.疾患研究・創薬のための患者由来のiPS細胞の作製・評価、バンクの構築、4.再生医療、の4つに大別し、各々についておおよそ10 年後までの到達目標を設定した。ロードマップとの関連性・位置付けとして、本事業では2.3.4.を重点的に推進し、戦略的創造研究推進事業(CREST・さきがけ)は1.を、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターは1.に加えてロードマップの達成を全体的に支える基礎研究基盤を、戦略的イノベーション創出推進事業はこれら達成目標と並行して進められる産業化の部分を担う。これらの事業等が各々の役割分担を明確にしつつ連携していくことによって、幹細胞・再生医学研究を総合的かつ相補的に推進することができる。
 さらに、再生医療の実現化プロジェクト(理化学研究所発生・再生科学総合研究センター含む。)及びJSTのCREST・さきがけ等で構成される「文部科学省iPS細胞等研究ネットワーク」において、知的財産権、研究成果の公開、機密保持等の観点に関する共通的なルールを定め、以ってiPS 細胞等研究を基礎研究から前臨床研究まで連続的かつ総合的に推進することを可能にしている。

4.関係する施政方針演説、審議会の答申等

  • 「iPS細胞研究ロードマップ」(平成21年6月24日 文部科学省)(「2.目標」)
  • 「経済財政改革の基本方針2009」(平成21年6月23日閣議決定)(「成長戦略の推進」「がん等の戦略的分野における医薬品・医療機器・再生医療の開発」)
  • 「iPS細胞研究の推進について(第一次とりまとめ)」(平成20年7月 総合科学技術会議iPS細胞研究WG)
  • 「iPS 細胞(人工多能性幹細胞)研究等の加速に向けた総合戦略 改訂版」(平成21年1月20日 文部科学大臣決定)
  • 「革新的技術戦略」(平成20年5月 総合科学技術会議決定)
  • 「先端医療開発特区」(スーパー特区)の創設について(平成20年5月 内閣府、文部科学省、厚生労働省、経済産業省)
  • 「iPS 細胞(人工多能性幹細胞)研究等の加速に向けた総合戦略の具体化について」(平成20年3月18日 文部科学大臣決定) 
  • 「iPS 細胞(人工多能性幹細胞)研究等の加速に向けた総合戦略」(平成19年12月20日 文部科学省)
  • 長期戦略指針「イノベーション25」(平成19年6月 閣議決定)(「基礎研究から科学技術の社会適用までの全体を俯瞰して、実証を通じて技術の効果等を示す『社会還元加速プロジェクト』」「『生涯健康な社会』を目指して 失われた人体機能を補助・再生する医療の実現」)
  • 「新健康フロンティア戦略」(平成19年4月 新健康フロンティア戦略賢人会議決定)
  • 「革新的医薬品・医療機器創出のための5か年戦略」(平成19年4月文部科学省、厚生労働省、経済産業省)(「1.研究資金の集中投入」)
  • 第3期科学技術基本計画 「分野別推進戦略」(平成18年3月 総合科学技術会議決定)(「疾患診断法、創薬や再生医療、個人の特性に応じた新規医療技術の研究開発などについて、国民へ成果を還元する臨床研究・臨床への橋渡し研究を強化する。」)
  • 文部科学大臣指示書(平成21年9月18日)1.4.5.
    (参考)民主党マニフェスト2009 P19.20
    • 大学や研究機関の教育力・研究力を世界トップレベルまで引き上げる。
    • 患者の負担が重い疾病等について、支援策を拡充する。 
       

    (参考)INDEX2009 ※関連部分の要旨

    • 再生医療等の巨額な予算を要する基礎科学研究分野において今後もトップランナーの地位を維持
    • 難病に関する調査研究の推進

C.有効性の観点

1.目標の達成見込み

 本事業は、各種施策を踏まえた、わが国の幹細胞・再生医学研究の体制を強化するための研究開発拠点等の整備及びこれらにより推進される再生医療の実現化のための研究により、先端的医療の実現に資する知見の蓄積、技術の開発、またそれに必要な環境の整備を図ることを目標としている。
 これまでに、ウイルスを用いない方法でマウスiPS 細胞の樹立に成功したほか、ヒトiPS 細胞から血小板等の各種血液細胞への分化誘導に成功し、また、脊髄を損傷したマウスにヒトiPS細胞から作製した神経前駆細胞を移植することにより症状を改善する等の成果を挙げており、10カ年計画で実施されている本事業の終盤となる今後は、iPS細胞等を研究者がニーズに応じて入手可能とするバンクの構築や、中型以上の動物や霊長類動物を用いた前臨床研究の実施を行い、開発を加速することで、iPS細胞等を用いた革新的な幹細胞操作技術や治療技術等のさらなる実現化が見込まれる。
 また、本事業の実施体制は、PD・PO・各研究代表者により構成される拡大運営委員会、外部委員より構成される評価委員会を設置し、運営委員会・成果報告会等を定期的に開催し、厳正な事業実施を行っている。また、約30機関が参加する「文部科学省iPS細胞等研究ネットワーク」を活用し、iPS細胞等研究を日本全体で円滑に進めるよう、研究成果や知的財産に関する情報等の一元化をはかるための体制を構築している。
 加えて、「iPS細胞研究ロードマップ」(平成21年6月24日 文部科学省)においても、今後のiPS細胞研究に関して、iPS細胞等を一元管理・配布提供するシステム(バンク)の構築、及び安全性や有効性の確認のための中型以上の動物やサル等の霊長類動物を用いた前臨床研究について具体的な目標として設定され、それに基づいて、関係府省と連携し、必要な施策の遂行に努めていくこととしている。
 以上、科学的観点及び実施体制の観点より、設定した目標を達成できる見込みである。

2.上位目標のために必要な効果が得られるか

 本事業においては、ライフサイエンス委員会及び幹細胞・再生医学戦略作業部会における議論を踏まえ、再生医療の実現化に向けた拠点整備等を実施し、パーキンソン病、脊髄損傷、心筋梗塞等の現在の医療では治療の難しい難病・生活習慣病に対する革新的医療技術を開発することにより、上位目標10‐1である『「研究成果の実用化のための橋渡し」を特に重視し、国民への成果還元を抜本的に強化する』ことが促進される。

D.効率性の観点

1.インプット

 平成22年度要求額:2,800百万円(平成21年度予算額:2,650百万円、ヒトiPS細胞等研究拠点整備事業 約4~7億円程度/1拠点、個別研究事業 約0.2~0.7億円程度/1課題)

2.アウトプット

 細胞移植・組織移植によってこれまでの医療を根本的に変革する可能性のある再生医療を実現化すべく、ヒトiPS細胞を中心に、ヒトES細胞、ヒト体性幹細胞を用いた再生医療研究を総合的に推進できる研究体制を有する拠点を整備するともに、幹細胞の操作・治療技術等に関する開発等を推進する。

3.事業スキームの効率性

 本事業については、ライフサイエンス委員会及び幹細胞・再生医学戦略作業部会における議論等を踏まえ、他の関連施策との役割分担を明確にしつつ、拠点による取組と個別課題による取組を連携させることとしている。加えて平成20年4月には、大学及び理化学研究所並びに各省庁の研究機関を含む「文部科学省iPS細胞等研究ネットワーク」を立ち上げ、iPS細胞研究に関する効果的かつ有機的な連携体制を構築した。平成21年度には「iPS細胞技術プラットフォーム」の構築のため、iPS細胞等研究拠点(京都大学、慶應大学、東京大学、理化学研究所)に対する支援を強化したことによって、より集中的かつ効率的な研究の推進体制を確保できた。
 平成22年度には、
 (1)iPS細胞から目的とする細胞・組織を作製するための研究開発を引き続き推進する。
 (2)実現すれば世界初となる、iPS細胞を用いた再生医療の実現に向け、iPS細胞から作製した細胞・組織を中型以上の動物やサル等の霊長類動物に移植する研究(前臨床研究)を実施する。平成21年度補正予算により中型動物以上を用いた前臨床研究を実施できる設備整備等を行ったヒトiPS細胞等研究拠点(京都大学、慶應義塾大学、東京大学、理化学研究所)と個別研究事業実施機関が協働することにより、拠点の有するハード(施設等)と個別機関が有するソフト(研究成果)の融合による相乗効果を発揮させ、iPS細胞等を用いた前臨床研究を加速することにより、事業スキームの効率性が担保される。
 (3)難病研究等のためにiPS細胞を提供する基盤(iPS細胞バンク)を整備し、再生医療に加え疾患の病態解明や創薬等の研究もより効率的に支援する

4.代替手段との比較

 再生医療の実現化プロジェクトでは、国直轄のプロジェクトとして幹細胞を用いた再生医療の実現を目的とし、ヒト応用の技術開発のため、幹細胞バンクの整備や幹細胞操作技術の開発、幹細胞治療法の開発を目指しており、臨床応用を見据えた施策である。一方、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターでは、発生・再生のメカニズムに関する基礎研究の推進を目的として、動物等を用い、発生・再生のメカニズムの原理の解明を目指している。またJSTのCREST・さきがけでは、iPS細胞を基軸とした細胞リプログラミング技術の開発のような革新的医療に資する基礎研究・基盤技術の構築を目指す研究を対象としている。
 さらに、再生医療の実現化プロジェクト(理化学研究所発生・再生科学総合研究センター含む)及びJSTのCREST・さきがけ等で構成される「iPS細胞等研究ネットワーク」において、知的財産権、研究成果の公開、機密保持等の観点に関する共通的なルールを定めることによる、iPS 細胞等研究を基礎研究から前臨床研究までを包括した一貫性のある施策である。

E.公平性の観点

 本事業は競争的資金制度に基づき実施し、全国の大学、研究機関等を対象として、公募により研究拠点等を選定しており、公平性は担保できると判断する。

F.優先性の観点

 世界でも比類なき高齢化社会を迎えている我が国において、国民が健康で快適な生活を送ることを可能とする再生医療等の技術の実現により、国民生活の質の向上を目指すことは、政府全体の喫緊の課題である。
 世界に誇る画期的な成果であるiPS細胞に関する研究をさらに発展させ、国民生活の向上に結びつけるためには、研究費や研究体制等の研究環境整備が不可欠であると総合科学技術会議においても指摘されており(「iPS細胞研究の推進について(第一次とりまとめ)」(平成20年7月総合科学技術会議iPS細胞研究WG)、同細胞を活用した再生医療の実現化を目指した研究を、日本全体で戦略的に進めていく本事業の優先度は極めて高い。

G.総括評価と反映方針

 「iPS細胞研究ロードマップ」等を踏まえ、幹細胞・再生医学研究における予算の拡充要求。

H.審議会や外部有識者の会合等を利用した中間評価の実施予定

 特になし

【指摘事項】

1.事業に対する総合所見(官房にて記載)

 拠点に求められる機能が備わっているかについて、事後評価の際に客観的に判断できる指標の設定を検討していくこと。

2.外部評価、第三者評価等を行った場合のその概要

 特になし

3.政策評価に関する有識者委員からの指摘・意見等

 特になし

【指摘に対する対応方針】

 指標については、本事業の性質も十分考慮した上で、客観的な指標を検討していく予定。

お問合せ先

大臣官房政策課評価室

-- 登録:平成22年02月 --