15.デジタル・ミュージアムの実現に向けた研究開発の推進(拡充) 【達成目標7-4-3】

平成22年度要求額: 304百万円
(平成21年度予算額: 101百万円)
事業開始年度:平成21年度
事業達成年度:平成26年度

主管課(課長名)

 科学技術・学術政策局計画官(柿田 恭良)

関係局課(課長名)

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事業の概要等

1.事業目的

 五感等の各種感覚を統合する複合情報処理技術を確立し、多様な個性に対してインタラクティブに応じる鑑賞・体験システムを構築することを目指す。

2.事業に至る経緯・今までの実績

 近年デジタル技術の発展は目覚ましく、社会的イノベーションを引き起こし、ライフスタイルを大きく変貌させることが期待されている。一方、有形無形の文化資源をより身近なものに感じられるようにし、世界に向けて発信することは、国民生活を豊かにするとともに、日本文化に対する国際的な理解を促進する効果がある。
 そこで、文部科学省では、平成18年度に文部科学大臣のイニシアティブのもと、デジタル情報技術や博物館等の専門家を中心に、総務省の協力を得て、「デジタルミュージアムに関する研究会」を発足させた(文部科学事務次官決定)。次世代のデジタル技術を用いて時空間の制約を受けずに文化の鑑賞・体験を可能とする、デジタルミュージアムに関する研究開発構想を検討し、平成19年6月に「新しいデジタル文化の創造と発信(報告書)」をとりまとめた。
 これを受け平成21年度には、五感インターフェイス技術等の先進的技術に基づき、既に失われた又は失われつつある文化を五感でインタラクティブに鑑賞・体験するシステムの研究開発に向けた調査研究を、産学官の研究機関及びミュージアム関係者等による研究開発チームを形成して実施している。平成21年度は本格的な研究開発実施前の取り組みとして、システムの構成要素、各構成要素のスペック(機能等)、開発すべき要素技術、コンテンツ内容、今後5年間程度を想定した研究開発計画等を明らかにすることを目標としている。
 この他の文化創造に貢献する研究開発への取組としては、これまでに、科学技術振興調整費の重要課題解決型研究「デジタルコンテンツ創造等のための研究開発」において、コンテンツの国際競争力確保を目指し、良質なデジタルコンテンツの制作・流通に関する先端的な技術の研究開発を行ってきた。また、科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業において、平成16年度戦略目標として「メディア芸術の創造の高度化を支える先進的科学技術の創出」を設定し、研究領域「デジタルメディア作品の制作を支援する基盤技術」に対する研究提案を公募・選定し、実施している。

3.事業概要

 平成21年度の調査検討結果に基づき、五感に訴える3次元コンテンツと、鑑賞者の反応にその場で応答するユーザインタフェースにより、鑑賞者に文化の体験を提供する複合現実型デジタル・ミュージアムのシステム構築に向けた研究開発を実施する。
 より具体的には、遺跡や遺物に当時の出来事を重畳して提示する博物館システム、美術品を超高精細映像で立体的に再現し映像に触れると質感も感じられる美術館システム、祭事や和菓子作り等を体感する伝統文化の疑似体験システム、および、展示を支援する統合展示支援技術の開発を目指す。このシステムは、高精細立体映像、色彩再現、立体音響、触覚提示等の個別技術と、それらを統合して創出される相互作用により、鑑賞者の感覚に訴える作用を持つ。さらに、画像認識、力覚センシング等のセンシング技術によりコンテンツを体験した鑑賞者の反応を推定し、コンテンツの表現にリアルタイムにフィードバックすることにより、インタラクティブな体験を提示する作用を持つ。
 実施にあたっては、産学官の研究機関および博物館・美術館等ミュージアム関係者による研究開発チームを公募し、個別技術を統合した高度な複合情報処理技術の創出と、大規模システム構築による総合エンジニアリング力の強化を目指す。

3.事業概要

4.指標と目標

【指標】

 デモシステムにおける要素技術の機能レベルまたは性能レベル

【達成年度までの目標】

 高精細3次元映像、立体音響、触感提示、力覚センシング等の五感に作用する提示技術・センシング技術を開発し、文化的事象を既存のデータに基づき高精度にデジタル化し実物との重畳再現を行い、さらに、鑑賞者の状況をセンシングして鑑賞者が文化的事物をインタラクティブに擬似体験可能なデモシステムを構築し、実証実験で評価する。

【22年度目標】

 産学官およびミュージアム関係者から成る研究開発チームを組織し、システムの全体像を設計し、研究開発を開始する。

【効果の把握手法】

 デジタル・ミュージアムの構築に必要となる要素技術が研究計画に即した形で実現されていること、および、これらの要素技術を統合した高度なデモシステムが構築されていることを評価・検証する。

事業の事前評価結果

A.20年度実績評価結果との関係  

 関連施策である「知的資産の電子的な保存・活用を支援するソフトウェア技術の構築」に関しては、達成目標10-2-3「達成状況と評価」において、「「文化財のデジタル・アーカイブ化」においてリアルタイム3次元形状復元システム、広範囲移動対象の3次元ビデオ撮影技術、及び浮遊する気球に搭載する空中移動型レンジセンサによる距離画像取得システム等、…(中略)…の研究開発等、研究計画通りの成果を得ることができた。また、科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 情報科学技術委員会における事後評価においても高い評価を得た。」とされている。
 本事業では、上記関連施策の研究開発成果である3次元デジタル化技術を含む要素技術に基づき失われつつある文化財等をデジタル・アーカイブ化し、更に、アーカイブ化されたコンテンツを博物館・美術館等の一般の鑑賞者に対しインタラクティブに提供し、鑑賞者が文化を自由に鑑賞・体験することを可能とする統合システムの研究開発を目指しており、これまでの事業成果等も基にしつつ、より発展的・統合的な研究開発を行うものである。

B.必要性の観点  

1.事業の必要性  

 本事業は、既に失われ、又は現在失われつつある文化をより現実に近い形で保存するとともに人々に体感してもらうことを可能とするシステムの実現のための研究開発であり、ここで得られる研究成果は、技術的観点はもとより、文化的観点、教育的観点等からも波及効果が大きい。
 EUでは既に「フレームワーク計画」(Framework Programme)の第6次及び第7次における研究領域であるDigiCult(Digital Heritage and Cultural Content)において、文化的・科学的資源の保存(デジタル化)とVR(バーチャルリアリティ)・画像認識・位置検出等の先進技術を活用した映像展示が推進されているほか、米国においても、スミソニアン博物館において3次元計測と3次元CG表示を行う等、関連技術を展示に応用する取組が行われているところであり、より先進的な文化発信システムの構築に向けた研究開発を他国に先駆けて我が国において実施することにより、関連技術の競争力を維持・向上することが期待される。
 一方、文化の保存・活用側においては、貴重な文化財を災害等による喪失から守ろうという機運が近年ますます高まっており、文化財に負担をかけずに鑑賞者の多様なニーズに合わせた魅力的な情報提供を行うことが求められている。
 本事業の実施にあたっては、産学官の研究者および博物館・美術館等のミュージアム関係者との連携を想定しており、現状のニーズに沿った効果的・効率的な研究成果の創出や活用を行うことが期待できる。
 ※上位目標:施策目標7-4 科学技術システム改革の先導
 科学技術システムの改革や研究開発の効果的・効率的推進に向けた取組を率先して進め、優れた研究成果の創出や活用を促進する。

2.行政・国の関与の必要性  

 現状では、関連の要素技術開発が個々の機関で並行して行われており、一つのシステムとして統合し、実用化することが困難な体制になっている。関連の要素技術を統合し、五感に訴え、かつ、インタラクティブに機能するような大規模なシステム構築のための研究開発は、単独の機関だけでは実施が難しく、かつ、収益性の面においても民間等が主導をとることは難しい。「革新的技術」である3次元映像技術をはじめとする高度な技術開発を、個々の要素技術を統合しながら戦略的に推進するためには、国がリーダシップをとることが不可欠である。
 また、文化芸術をより現実に近い形で保存し、人々に体感してもらうのに必要な精度を実現するための研究開発は、民間に依るのではなく、文化の保存・継承・振興という観点からも国が進めていくべきものである。
 よって、本事業は、国がイニシアティブをとって進めていく必要がある。

3.関連施策との関係  

1.主な関連施策

○デジタルメディア作品の制作を支援する基盤技術事業(独立行政法人科学技術振興機構(JST))
 情報科学技術の発展により急速な進歩を遂げたメディア芸術という新しい文化に係る作品の制作を支える先進的・革新的な表現手法、これを実現するための新しい基盤技術を創出する研究。(事業開始年度:平成16年度)

○知的資産の電子的な保存・活用を支援するソフトウェア技術基盤の構築事業(研究振興局情報課)(文部科学省)
 教育、文化・芸術分野における知的資産の電子的な保存・活用等に必要なソフトウェア技術基盤の構築のための研究開発。
 (事業期間:平成16年度~平成20年度)

2.関連施策との関係(役割分担・連携状況)

 既存の施策であるメディア芸術に関する研究開発(JST)、平成20年度まで実施された文化財のデジタル・アーカイブ化に限定した研究開発(文科省)等、本事業でも必要となると考えられる要素技術の一部に該当する研究開発が、これまで個々に実施されている。
 本事業は、上記関連施策や民間・大学で個別に進められている要素技術の研究開発をデジタル・ミュージアムという明確なターゲットへの活用という観点から加速し、かつ、異なる要素技術間の統合により新たな技術を創出しシステム化することを目指すものである。革新的技術の1つでもある3次元映像技術の研究開発(総務省)も含め、現在関連省庁との連携の検討を進めている。

4.関係する施政方針演説、審議会の答申等  

○文部科学大臣指示書(平成21年9月18日)3.
 (参考)民主党政策集INDEX2009     P24「伝統文化の保存・継承・振興」
 P25「イノベーションを促す基礎研究成果の実用化環境の整備」

○科学技術基本計画(第3期) 分野別推進戦略
戦略重点科学技術
 世界と感動を共有するコンテンツ創造及び情報活用技術

○革新的技術戦略
 高度画像技術 ・3次元映像技術

○文化芸術基本方針(第2次)
 第2 文化芸術の振興に関する基本的施策
 2.文化財等の保存及び活用 P15 9行~13行

○知的財産推進計画2009(平成21年6月 知的財産戦略本部決定)
施策一覧
3.ソフトパワー産業の成長戦略を推進する
(1)ソフトパワー産業の振興を図る
9.コンテンツ関連技術の研究開発を促進する
 2)デジタル・ミュージアムの公開・展示技術の研究開発を促進するため、デジタル・ミュージアムに必要な技術等の詳細な調査検討を行う。

C.有効性の観点

1.目標の達成見込み  

 大型ディスプレイ開発技術やロボット開発技術等のものづくり技術、コンピュータビジョンに代表されるセンシング技術、インタラクティブ3D技術を含むユーザ・インタフェース技術等、本研究事業に関連した要素技術は、日本が強い分野である。
 特に、VR(バーチャルリアリティ)技術に関しては、研究者を束ねる学会を持っているのは日本だけであり、SIGGRAPH等国際学会における実空間表示系では、わが国の存在感が際だっている。触覚インタフェース分野でも、東京大学のほか、東京工業大学、大阪大学、国際電気通信基礎技術研究所等が国際会議で活発な発表を行っている。また、立体映像表示、表示映像とのインタラクション、触角ディスプレイ等については東京大学等が世界各国に特許を出願している。
 このように、他国と比較しても高度な技術が我が国にあることから、これらを統合したシステムを構築しようとする本事業の目的達成可能性は高い。

2.上位目標のために必要な効果が得られるか 

 上位目標:達成目標7-4-3 「・・・、効果的・効率的な研究開発を実施するためのプロトタイプ研究を行う・・・・。」

 本事業は、科学技術と文化の融合・連携により、インタラクティブな文化の鑑賞・体験システムの基盤的技術を構築し、失われた文化財の再現、失われつつある文化財の記録、現存の文化財に負担をかけない展示を現在よりもさらに精緻な形で可能とするための研究開発を、産学官およびミュージアム関係者による研究開発チームの形成により実施するものである。このような推進方策のもと優れた研究成果の創出・活用を推進するので、必要な効果が得られると判断する。

D.効率性の観点

1.インプット  

 本事業の本格的な研究開発にかかる予算規模は約2,200百万円/5年、来年度約304百万円である。
 また、来年度の公募による採択件数は1件とする予定。

(内訳)

  • 科学技術試験研究委託費 300,000千円(公募による委託の予定)
  • 諸謝金 960千円
  • 職員旅費 467千円
  • 委員等旅費 1,997千円
  • 庁費 440千円

2.アウトプット  

 本事業では、達成年度までに、複数の要素技術から成る実証実験向けデモシステムを構築することを目指す。
 22年度は、産学官の研究機関及び博物館・美術館等による研究開発チームを形成し、デモシステム全体の構成の検討を行い、各要素技術の開発を進める。各要素技術について、逐次評価システムの構築および実験を行いながら推進し、達成年度には各要素技術が統合され高機能化された1つのデモシステムの構築が実現する予定である。

3.事業スキームの効率性 

 本事業は、単独の機関では実施が難しい要素技術のシステム化のための研究開発を、個々の要素技術の高度化を図りつつ戦略的に行うものであり、現在個々に行われている要素技術開発を研究者に任せて順次統合する方法や、現在公開されている要素技術のレベルに合わせてシステム化する方法よりも、高度なシステム構築を効率的に行うことができる。

4.代替手段との比較  

 本事業で取り組む個々の技術開発の一部は、現在大学/民間等様々な機関でも実施されている。これに対し、本事業は、個々の機関で取り組むことが困難な、個別の研究理論を組み合わせた複合情報処理技術の研究開発や、統合システム構築に関する研究開発を目指している。異なる機関が一体となって取り組まなければ推進が難しいという点において、単なる投資増では解決が困難であり、現状代替手段は存在しないと言える。

E.公平性の観点  

 本事業は、公募により提案を募り、専門家の審査を経て実施機関を決定する予定であり、公平性は担保できると判断する。

F.優先性の観点  

 本事業は、映像のみならず五感や感覚情報等をも統合したより先進的な文化発信システムの構築を目指すものである。他国に先駆けて本研究を実施することにより、わが国の次の競争力の源泉となりうる重要な技術の創出につながるものであり、また、既に失われつつある有形/無形の日本の文化の保存と発信にも貢献することが期待できることから、高い優先度で実施すべきものである。

G.総括評価と反映方針

 当該評価結果を踏まえ、22年度概算要求を行う。

H.審議会や外部有識者の会合等を利用した中間評価の実施予定

 特になし   

【指摘事項】

1.事業に対する総合所見(官房にて記載)

 政策目標(科学技術・学術政策の総合的な推進)・施策目標(科学技術システム改革の先導)と本事業の目的との関連づけを明確にするとともに、平成21年度から開始されるフィージビリティー・スタディの中で、デジタル・ミュージアムの実現に向けたプロジェクトの全体像と計画を明らかにすることが必要である。

2.外部評価、第三者評価等を行った場合のその概要

 特になし

3.政策評価に関する有識者委員からの指摘・意見等

 特になし

【指摘に対する対応方針】

 平成21年度の事業の中で、デジタル・ミュージアムシステムの概要設計、技術動向調査、来年度以降の研究開発計画策定等を実施することで、研究開発内容の具体化を行い、政策目標等との関連を明確にしていく。

お問合せ先

大臣官房政策課評価室

-- 登録:平成22年02月 --