国家的・社会的課題に対応する研究開発の重点化した推進と新興・融合領域への先見性、機動性をもった対応を実現する。このため、8の施策によってその目的の達成を目指す。
研究振興局振興企画課(山脇 良雄)、研究開発局開発企画課(土橋 久)
総合評価 A
「生命現象の統合的全体像の理解」に関しては、社会的・科学的意義の高い脳科学研究を戦略的に推進するため、「長期的展望に立つ脳科学研究の基本的構想及び推進方策について(第1次答申案(中間取りまとめ))」(平成20年1月23日科学技術・学術審議会)を策定した。これと並行して、平成20年度から、脳科学研究戦略推進プログラムを開始し、ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)の開発(情報脳)、及び独創性の高いモデル動物の開発(基盤技術開発)について研究開発拠点の整備等を実施した。
「研究成果の実用化のための橋渡し」については、我が国のiPS細胞研究等を日本全体で戦略的に進めていくため、これまでの取組や支援の実施状況を確認するとともに、総合科学技術会議により策定された「iPS細胞研究の推進について(第一次取りまとめ)」(平成20年7月3日)等も踏まえ、今後の効果的・効率的な研究推進体制の推進方策として「iPS細胞研究等の加速に向けた総合戦略 改訂版」(平成21年1月20日文部科学大臣決定)を策定した。また、関係府省においてそれぞれ推進が図られている橋渡し研究・臨床研究について、我が国として一つの戦略に基づき、統一的かつ重点的な取り組みを進めるため、内閣府・文科省・厚労省・経産省の4大臣等から構成される「健康研究推進会議」を設置(平成20年7月)し、先端医療開発特区(スーパー特区)の運用や「健康研究推進戦略」の策定(平成21年7月31日)を行った。このような推進方策の策定をはじめとして、ライフサイエンス分野の研究開発を戦略的に推進したところである。
また、個々の研究開発については、「ゲノム機能解析等の推進(ゲノムネットワークプロジェクト)」及び「革新的ながん治療法等の開発にむけた研究の推進」が最終年度を迎えた。「ゲノム機能解析等の推進(ゲノムネットワークプロジェクト)」については、転写制御ネットワークの要素測定技術を確立し、獲得した転写因子の発現情報等の基盤データについて、計画値を超えて提供した。また、ヒトcDNAクローン等研究用リソースの収集については、概ね収集予定のクローンを整備したほか、プラットフォームよりデータの一般公開を行い、一般に成果の還元を行うなど、当初目標を概ね達成した。「革新的ながん治療法等の開発に向けた研究の推進」については、6課題すべてについて当初目標である臨床試験実施計画書の作成が終了しており、さらに5課題は臨床試験のフェーズに入るなど、想定以上に進捗している。
計算科学技術の飛躍的発展により研究開発の革新を図るため、平成20年度より開始した「イノベーション創出の基盤となるシミュレーションソフトウェアの研究開発」について、平成20年度はシミュレーションソフトウェアの仕様検討、概念設計、基本設計、要素試作を実施するなど順調に進捗している。
情報科学技術を用いた科学技術・学術研究の基盤構築のため実施している研究開発プロジェクト、「e‐サイエンス実現のためのシステム統合・連携ソフトウェアの研究開発」及び「革新的実行原理に基づく超高性能 データベース基盤ソフトウェアの開発」に関しては、目標達成に向けて計画が順調に進捗しており、引き続き事業を実施していく。学術情報流通に関しては、SINETの国際回線を増速し、国際接続の更なる安定的な運用を可能とするとともに、新たなサービスを提供する等、学術情報ネットワークの高度化を通じて、研究開発に関する情報化を推進している。
世界トップレベルの基礎研究シーズの実用化への橋渡しを図るために実施している「高機能・超低消費電力コンピューティングのためのデバイス・システム基盤技術の研究開発」及び「ソフトウェア構築状況の可視化技術の開発普及プロジェクト」については事業目標達成に向けて着実に進捗しており、引き続き事業を実施していく。また、「知的資産の電子的な保存・活用を支援するソフトウェア技術の構築」に関して、「文化財のデジタル・アーカイブ化」については、リアルタイム3次元形状復元システム等、研究開発が計画通りに進捗し、十分な成果を得ることができたことから、20年度で事業を終了することとした。
地球環境問題等の地球規模での問題や巨大海溝型地震への対応、エネルギー資源の安定確保の問題等の解決に貢献するため、地球環境変動研究、地球内部ダイナミクス研究、海洋・極限環境生物圏研究、海洋に関する基盤的技術開発のほか、海洋資源探査技術開発、南極観測事業の推進等、環境・海洋に関する科学的知見の充実を図った。
特に海底熱水鉱床等の海洋鉱物資源の探査のための技術開発については、「海洋資源の利用促進に向けた基盤ツール開発プログラム」を創設し、本プログラムのもと、音響技術を活用した海底位置・地形の高精度計測技術、海水の化学成分を自動計測する化学モニタリングツール等の各種技術の開発に着手した。
また、これらの技術開発の進捗状況等を踏まえ、さらに海洋鉱物資源の探査技術の開発を推進するため、当初の計画になかったが、科学技術・学術審議会海洋開発分科会海洋資源の有効活用に向けた検討委員会において、必要となる探査手法や探査機技術について、当該委員会の中間とりまとめに向けた総合的な検討を実施した。その他、経済産業省資源エネルギー庁と連携し、文部科学省が実施するセンサーや探査機技術の開発についても盛り込んだ「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」の策定に貢献するなど、当初の計画以上の成果を得ることができた。
一方で、地球深部探査船「ちきゅう」の運用技術や深海底ライザー掘削技術等の蓄積、科学掘削及び科学掘削による科学研究については、平成20年3月~4月にかけての定期検査の際に発見されたアジマスラスター損傷等の修理を行ったため、平成18年度の「南海トラフ地震発生帯掘削計画」策定時に予定していた平成20年度の掘削計画を実施することができなかった。一方で、平成19年度に巨大分岐断層やプレート境界断層の浅部など計33箇所の掘削を実施した結果を踏まえ、掘削計画について見直しを行った結果、当該計画の終了年‐平成25年‐を変更することなく計画全体を遂行することが可能となった。
ナノエレクトロニクス領域、ナノバイオテクノロジー領域、材料領域における実用化・産業化を展望した研究開発及び融合研究領域における研究開発を推進し、イノベーションの創出を図るため、ナノテクノロジー・材料を中心とした融合新興分野研究開発(キーテクノロジー研究開発の推進)において、元素戦略等の産学官連携型プロジェクトやナノバイオインテグレーション研究拠点の形成等の研究拠点型の形成型のプロジェクトを実施している。また、経済活性化のための研究開発プロジェクト(リーディング・プロジェクト)において、次世代の電子顕微鏡要素技術の開発を実施しており、全体的に順調に進捗している。
これらのプロジェクトについては、科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会ナノテクノロジー・材料委員会においても、研究開発の進捗を評価するため、中間評価、事後評価を実施している。
高速増殖炉サイクル技術については、実用化に向けて、採用する革新技術の研究開発を着実に進めており、日本原子力研究開発機構において、設計研究成果及びその技術的根拠となるデータを概ね計画通りに取得するなど、全体としては順調に進捗している。高速増殖原型炉「もんじゅ」については、運転再開時期を延期し、早期運転再開に向けた準備を進めており、一部進捗にやや遅れが見られる状況である。原子力システム研究開発事業については、競争的資金制度の活用により、革新的な原子力システムの実現に係わる研究開発を実施。有望な革新的原子力システム候補に係わる枢要技術の研究開発等が着実に進捗している。核融合技術については、平成19年6月に幅広いアプローチ協定が、平成19年10月にITER協定が発効し、実施体制が整備され、国際的に合意されたスケジュールに基づき、機器の調達活動等が進められており、順調に進捗している。
大強度陽子加速器施設(J‐PARC)については、平成20年度末までに予定していた実験施設の建設が完了し、平成20年12月には物質・生命科学実験施設、平成21年2月には原子核・素粒子実験施設の利用が開始され、また、リニアックビーム増強にも着手するなど、順調に進捗している。重粒子線がん治療研究については、治療患者数が大幅に目標値を上回る等、想定した以上に進捗している。
原子力分野の人材育成については、経済産業省との連携の下「原子力人材育成プログラム」を実施し、各大学・高専における優れた原子力分野の人材育成取組に対する支援等を行った。原子力分野の国際協力については、第4.世代原子力システムに関する国際フォーラム(GIF)等の先進国との協力に参画するとともに、アジア原子力協力フォーラム(FNCA)を中心とした協力事業や、国際機関への資金的・人的貢献等を実施した。電源立地対策については、各立地自治体等からの申請に基づく補助金・交付金の交付等を行った。また、「原子力・エネルギーに関する教育支援事業交付金」等を活用し、初等中等教育段階からの理解促進を図った。
温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」が、平成21年1月にH‐ⅡA15号機によって打ち上げられ、初期機能確認を行った。また、H‐ⅡAロケットについては、9機連続成功、成功率約93%を達成する等、研究開発が概ね計画どおり実施された。
宇宙科学の分野においては、既に打ち上げた人工衛星等の運用及び将来打上げ予定の人工衛星等の開発が概ね計画どおり行われた。特に、月周回衛星「かぐや」は研究開発目標をほぼ達成した。
国際宇宙ステーション(ISS)計画において我が国が開発している日本実験棟「きぼう」の船内保管室、船内実験室の打上げ及びISSへの取付けが完了し、船内での実験等が開始された。平成21年3月から若田光一宇宙飛行士が国際宇宙ステーションに長期滞在を開始し、「きぼう」を利用した様々な活動を行った。
航空科学技術分野において、国産旅客機の開発に関しては、先端技術の実証試験等を開始した。
幅広い応用可能性を有する新たな先端的融合領域を積極的に発掘し推進する取組は、各重点科学技術分野や社会経済における解決困難な課題に対応し、イノベーションの促進に資することから、昨今、その重要性が高まってきている。そのため、我が国の科学技術・学術の高度化・多様化、ひいては社会のニーズへの対応と経済社会の発展を図るために、特に世界市場への拡大が予測される光・量子ビーム技術については、産業利用への観点から、汎用性の高い先進的・革新的な計測技術等として、要素技術開発を行う必要性がある。
そのため、ネットワーク型の研究拠点の構築等を通じて、光・量子科学技術分野のシーズと各重点分野や産業界のニーズとを融合した、最先端の光源、ビーム源、ビーム制御法、計測法等の研究開発を実施するとともに、若手人材の育成を図るため、光科学技術に係るプログラムとして、「最先端の光の創成を目指したネットワーク研究拠点プログラム」、量子ビーム科学技術に係るプログラムとして、「量子ビーム基盤技術開発プログラム」からなるプログラム「光・量子科学技術研究拠点形成に向けた基盤技術開発」を開始した。
事業の推進にあたっては、各分野の幅広い見識を有するプログラムディレクター(PD)及びプログラムオフィサー(PO)をそれぞれのプログラムにおいて選任し、各拠点の事業計画について事前に評価を行い当該年度の研究の方向性について助言を行うとともに、事業開始後においては、各拠点へのサイトビジットの実施や拠点が開催する合同シンポジウムを統括指揮するなど、効果的なネットワーク形成のための調整や必要な助言を行うなどの活動を行った。また、事業開始にあたっては、事前に各拠点の当該年度の事業計画において目標を定めさせ、適宜ヒアリングの実施や、拠点内で情報共有する場の定期的な開催等により、研究拠点毎にその進捗状況を把握し、達成状況を確認した。その結果、平成20年度については、「最先端の光の創成を目指したネットワーク研究拠点プログラム」においては、光源の要素技術の開発に必要な基盤の整備及び研究開発、拠点内の大学間におけるセミナーの実施や拠点合同のシンポジウムの開催、「量子ビーム基盤技術開発プログラム」においては、ビーム基盤技術開発に必要な装置の整備及び研究開発、課題ごとの研究報告会やプログラム全体の会合が実施される等、各プログラムとも、当初に計画していた研究開発及び人材育成等を着実に実施しており、順調に進捗していると判断された。
防災科学技術については、今後10年程度の地震調査研究の基本となる「新たな地震調査研究の推進について」(平成21年4月地震調査研究推進本部)を策定し、これと並行して、将来連動して発生し、我が国に甚大な被害を生じさせる可能性が高いとされている東海・東南海・南海地震の高精度な地震発生予測等を目的とした「東海・東南海・南海地震の連動性評価研究プロジェクト」や、近年、新潟県中越地震等の顕著な地震被害が発生している「ひずみ集中帯」と呼ばれる地域で発生する地震のメカニズムの解明を目的とした「ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究」等のプロジェクトを平成20年度から開始しており、全体としては概ね順調に進捗した。また、「安全・安心科学技術プロジェクト」において、危険物検知装置の実証試験を実施したり関係省庁等と連携して導入の検討を行うなど、成果の社会実装に向けて、ニーズに立脚した研究開発等が順調に進捗した。
今後も第3期科学技術基本計画や総合科学技術会議が策定した「分野別推進戦略」のもと、ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料、原子力、宇宙・航空、地震・防災、南極・海洋、新興融合等の各分野の研究開発については、安全・安心の確保など社会・国民のニーズの高いものや、国際競争力の強化や国際社会への貢献に資するものなど、選択と集中を図りながら戦略的に推進する。
また、宇宙輸送システム、高速増殖サイクル炉技術、X線自由電子レーザー等の国家基幹技術の研究開発についても、着実に推進する。
大臣官房政策課評価室
-- 登録:平成21年以前 --