87.活断層調査の総合的推進(拡充)【達成目標10-8-1】

平成21年度要求額:813百万円
  (平成20年度予算額:478百万円)
  事業開始年度:平成17年度
  事業達成年度:平成30年度
  中間評価実施年度:平成25年度

主管課(課長名)

  • 研究開発局地震・防災研究課(増子 宏)

関係課(課長名)

事業の概要等

1.事業目的

  平成21年度からの10年程度の地震調査研究の基本となる「新たな地震調査研究の推進について」の中間報告(平成20年8月地震調査研究推進本部(以下、地震本部)決定予定)(以下、新総合基本施策)で掲げた「活断層基本図(仮称)」の作成や「全国を概観した地震動予測地図」の高度化を目的として、「今後の重点的調査観測について」(平成17年8月地震本部決定)において重点的調査観測の対象とした活断層や、これまで調査観測されてこなかった沿岸海域の活断層等の調査観測を総合的に推進し、地震の規模・発生時期の予測精度向上、強震動予測の精度向上、活断層の詳細情報の取得等を図ることで、効果的・効率的な地震防災対策の推進を目指す。

2.事業に至る経緯・今までの実績

  地震本部はこれまで、平成9年8月に「地震に関する基盤的調査観測計画」を、平成11年4月に10年程度の地震調査研究の基本となる「地震調査研究の推進について」を策定し、主要98活断層帯の調査研究を進め、主要な活断層帯についての長期評価や強震動評価を公表するとともに、これらの研究成果を総合して、平成17年3月に「全国を概観した地震動予測地図」を作成した。
  また、地震本部は、平成16年7月に、重点的調査観測の進め方や、基盤的調査観測としての活断層調査の対象選定の基準を満たすことが明らかになった断層を対象とする追加調査の必要性、及び長期評価は行われたものの必ずしも信頼度の高い結果が得られていない断層を対象とする補完調査の必要性等を示した「今後の重点的な調査観測について(中間報告)」を策定し、これに基づき、平成17年度より、糸魚川‐静岡構造線断層帯に関する重点的調査観測を5ヵ年の事業として開始するとともに、追加調査・補完調査を開始した。
  上記の通り、活断層の調査研究については、地震本部が策定した各種方針に基づき推進してきたところであるが、「地震調査研究の推進について」が策定されてから10年程度が経過し、地震調査研究を取り巻く状況が変化しつつある中で、この10年で明らかになった新たな課題等を踏まえた次の10年の計画を現在策定しているところである。
  平成21年度より、新総合基本施策の基本目標に「発生確率が高いあるいは発生した際に社会的影響が大きい活断層等が分布する地域を対象とした長期評価及び強震動評価の高度化」、「沿岸海域の活断層及びひずみ集中帯を中心とした未調査活断層の評価の高度化」、「短い活断層や地表面に現れていない断層で発生する地震の評価の高度化」等が掲げられていることを踏まえ、「活断層調査の総合的推進」として事業名称を変更し、重点的調査観測の対象とした活断層の調査観測を強化するとともに、沿岸海域に存在する活断層の調査観測を新たに開始する。

3.事業概要

  陸域活断層調査及び沿岸海域活断層調査を総合的に実施し、「活断層基本図(仮称)」の作成や、「全国を概観した地震動予測地図」の高度化等、新総合基本施策に掲げられた基本目標を達成する。
  陸域活断層調査については、平成17年8月に地震本部が策定した「今後の重点的調査観測について」で調査観測対象とした活断層や、これまで調査対象に位置づけられていない短い活断層等を対象とした調査観測・研究を実施し、活断層の位置形状の把握、震源断層の三次元的な位置・形状の把握、断層活動時期認定の精度向上等を図る。また、補完調査については継続して実施する。平成21年度は、平成17年度より実施している糸魚川‐静岡構造線断層帯の調査研究成果をとりまとめるとともに、新たに複数の活断層を対象とした調査研究を実施する。なお、新たに開始する活断層調査については、3ヵ年で長期評価及び強震動評価に必要となる情報を得る。また、補完調査については、活断層数を見直した上で、一年単位の調査として、毎年度継続実施する。
  沿岸海域活断層調査については、平成21年度より新たに開始する調査研究であり、既存調査結果を整理した上で、沿岸海域の長大な活断層を中心に海底地形・地質調査等を単年度で実施し、地震本部が長期評価を行うために必要となる活断層の位置形状や活動度、活動履歴等を把握する。
  なお、本事業は地震本部が策定する新総合基本施策を推進するための根幹となる事業であることから、地震本部が今後策定する観測計画等を踏まえて、適宜見直しを図ることとする。

スキーム図

4.指標と目標

  効果把握のための指標には、事業の進捗状況を用いることとする。また、調査観測を実施した活断層数についても、活動実績として参考指標に用いる。
  達成年度までに、新総合基本施策で基本目標として掲げた、「発生確率が高いあるいは発生した際に社会的影響が大きい活断層等が分布する地域を対象とした長期評価及び強震動評価の高度化」「沿岸海域の活断層及びひずみ集中帯を中心とした未調査活断層の評価の高度化」、「短い活断層や地表面に現れていない断層で発生する地震の評価の高度化」、さらには「活断層基本図(仮称)の作成」、「全国を概観した地震動予測地図の高度化」等実現することを目標とする。なお、新総合基本施策は平成30年度までの10年計画であるが、陸域の重点的調査観測については概ね3年、陸域の補完調査、及び沿岸海域の活断層調査については概ね1年で地震本部が長期評価及び強震動評価を行うために必要となる成果を得る。
  効果の把握手法としては、委託成果報告書等の内容を用いて、地震本部で策定した各種報告書の内容や、地震本部における議論等を踏まえた上で、事業の進捗を把握する。

事業の事前評価結果

A.19年度実績評価結果との関係

  達成目標10‐8‐1「主な政策手段」において、重点的調査観測、追加調査、補完調査のいずれについても「想定通り順調に進捗」と判断しており、平成21年度も重点的調査観測、補完調査は継続する。なお、達成目標10‐8‐1「今後の課題及び政策への反映方針」において、地震調査研究に山積する課題が列挙されるとともに、平成21年度以降は新総合基本施策に基づいた調査観測・研究等を推進することが必要となることが示されていることから、新総合基本施策の根幹を担う本事業の推進は必要となる。

B.必要性の観点

1.事業の必要性

  新総合基本施策においては、これまでの10年の地震調査研究を省みた上で、「近年、調査観測・研究が殆ど行われていない沿岸海域を震源とする被害地震が多発している」、「現行の評価で用いられている活断層図の精度は必ずしも十分ではない」等、多くの課題が抽出されている。これを受けて、当面10年間に取り組むべき地震調査研究に関する基本目標として、「活断層等に関連する情報の体系的収集及び評価の高度化」等が掲げられており、これら基本目標を達成するため、活断層についての調査観測・研究を総合的に実施する本事業については、上述の事業開始に至る経緯も勘案した上で、必要性が極めて高いと判断できる。
  なお、地震本部政策委員会や、科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会防災分野の研究開発に関する委員会においても、本事業の評価を行い、必要性を確認する。

2.行政・国の関与の必要性(官民、国と地方の役割分担等)

  自然災害から国民の生命、財産等を守り、「犠牲者ゼロ」を目指した安全で安心な社会を実現することは、国の最も重要かつ基本的な責務である。我が国は世界有数の地震多発国であり、有史以来、数多くの地震災害を経験している。地震災害を最小限に抑えられるよう科学技術を最大限に活用していくことは、国として当然負うべき責務である。
  なお、平成7年1月に発生し、6,434人もの尊い命が失われた阪神・淡路大震災は、地震に関する調査研究の成果が国民や防災を担当する機関に十分伝達され活用される体制が整っていないという反省を生み、これを教訓に、同年7月に地震防災対策特別措置法が制定され、政府の特別の機関として、地震に関する調査研究を一元的に実施する地震本部が設立されている。本事業は、地震本部が策定する新総合基本施策等に基づき推進するものであり、そのデータ・成果は地震本部が行う評価等に活用されるとともに、中央防災会議等における防災計画の策定等に資するものとなることが想定されるため、行政・国が本事業に関与し、確実に関係機関に成果等を提供する必要があるといえる。

3.関連施策との関係

1.主な関連施策

  ○ ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究
  東北日本海の日本海側の地域及び日本海東縁部に存在する「ひずみ集中帯」において、自然地震観測や海陸統合地殻構造調査等を行うことにより、ひずみ集中帯の活断層や活褶曲等の活構造を明らかにし、地震発生メカニズムを解明するとともに、震源断層モデルを構築する。
  (事業開始年度:平成20年度)

2.関連施策との関係

  関連施策である「ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究」における調査結果等については、有効的に活用するとともに、調査地域の重複がないよう取り組む。

4.関係する施政方針演説、審議会の答申等

・「海洋基本計画」(平成20年3月閣議決定)

  記載事項(抜粋)

  第2部 海洋に関する施策に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策

  5 海洋の安全の確保

  (2)海洋由来の自然災害への対策
  東海・東南海・南海地震を始めとする海溝型地震、海底活断層で発生する地震等の災害のメカニズムを科学的に解明することも重要である。このため、海底・地殻内等における高精度の調査観測・研究及び関連技術の開発、(中略)等を推進するとともに、これらの成果に基づく地震・津波の予測能力等の向上に取り組む。

・「社会基盤分野推進戦略」(平成18年3月総合科学技術会議)

  記載事項(抜粋)

  2.重要な研究開発課題

  • 地震観測・監視・予測等の調査研究 等

  3.戦略重点科学技術

  1. 減災を目指した国土の監視・管理技術
    • 高機能高精度地震観測技術 等
・「自然災害の『犠牲者ゼロ』を目指すための総合プラン」(平成20年4月内閣府)

  記載事項(抜粋)

  2.「犠牲者ゼロ」を目指す施策の推進

  1 災害に「備える」ために為すべきこと(災害の特性に応じて)

  (1)地震

  1. 最先端の技術で立ち向かう
    • 地震調査研究推進
・「新たな地震調査研究の推進について」中間報告(平成20年8月地震本部決定予定)

  記載事項(抜粋)

  第3章 今後推進すべき調査研究

  1.当面10年間に取り組むべき地震調査研究に関する基本目標

  (2)活断層等に関連する情報の体系的収集及び評価の高度化

  基本目標として、

  • 発生確率が高いあるいは発生した際に社会的影響が大きい活断層等が分布する地域を対象とした長期評価及び強震動評価の高度化
  • 沿岸海域の活断層及びひずみ集中帯を中心とした未調査活断層の評価の高度化
  • 短い活断層や地表面に現れていない断層で発生する地震の評価の高度化
  • 上記の3つの基本目標の実現による「全国を概観した地震動予測地図」の高度化

  を設定する。
  基本目標の達成に向けて、

  • 活断層の詳細位置図に各種調査及び評価結果を記した「活断層基本図(仮称)」の作成
  • 地下の断層面の詳細かつ三次元的な位置形状の調査
  • 断層活動履歴に関する調査
  • 地震発生の危険度評価の高度化
  • 地域特性を反映した強震動予測評価に関する研究

  等を総合的に推進する。

C.有効性の観点

1.目標の達成見込み

  地震本部の設立以降、全国稠密な基盤観測網の整備、基礎研究の推進による知見の獲得、全国を概観した地震動予測地図の作成、緊急地震速報の開始等、多くの成果が上がっている。また、これまで「地震調査研究推進」として実施してきた重点的調査観測や、追加・補完調査の成果については、地震調査委員会の長期評価等に確実に活用されてきている。このような我が国のこれまでの地震調査研究に関する研究開発の実績と経験、さらには他の事業の進捗状況等を考慮すると、得ようとする効果は確実に達成されるものと見込まれる。
  なお、地震本部政策委員会や、科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会防災分野の研究開発に関する委員会においても、本事業の評価を行い、有効性を確認する。

2.上位目標のために必要な効果が得られるか

  本事業の推進により、長期的な地震発生時期及び地震規模の予測精度の向上、強震動の予測精度の向上等が図られ、効果的・効率的な地震防災対策に寄与することから、上位目標達成のために必要な効果が得られるものと判断する。

D.効率性の観点

1.インプット

  本事業の実施に係る費用としては、平成21年度約8.1億円程度(陸域活断層調査5.7億円程度、沿岸海域活断層2.4億円程度)、以降毎年度、同程度の予算規模を見込んでいるところである。

2.アウトプット

  重点的観測の調査対象とした活断層や、主要な沿岸海域活断層等を対象とした総合的調査を行うことで、活断層の位置形状や活動度、活動履歴等の詳細情報が取得でき、調査対象地域の強震動予測の精度向上、地震発生時期・規模の予測精度向上等が可能になる。これにより、「全国を概観した地震動予測地図」を高度化するとともに、活断層の詳細位置図に各種調査及び評価結果を記した「活断層基本図(仮称)」を作成する。

3.事業スキームの効率性

  本事業のアウトプットは、地方公共団体や民間企業、さらには国民一般の地震防災対策の強化に大きく寄与し、地震による国民の生命・財産への甚大な被害を軽減する上で、その効果は計り知れない。このため、事業スキームの効率性は妥当であるといえる。

4.代替手段との比較

  本事業は、陸域及び沿岸海域における地殻構造調査や地形調査等を総合的に実施するものであり、各調査手法について最先端の技術や知見を持つ大学、独立行政法人、民間企業等の中から、最もポテンシャルの高い機関が実施するべきであることから、独立行政法人の運営費交付金等による自主事業ではなく、国の委託費として公募選定した上で実施する必要がある。

E.公平性の観点

  我が国の地震調査研究を一元的に推進する地震本部が策定した新総合基本施策や、「今後の重点的調査観測について」に基づき、全国に存在する活断層を対象として実施される事業であるため、政策効果は公平に分配されると判断する。

F.優先性の観点

  上述の通り、本事業は、新総合基本施策で掲げられた「今後10年間に取り組むべき基本目標」を達成するための調査研究であるとともに、近年においても、平成19年3月の能登半島地震、同年7月の新潟県中越沖地震、平成20年6月の岩手・宮城内陸地震と、活断層で発生する地震による被害が頻発しており、今後も活断層での地震発生が危惧されることから、活断層の調査研究を強化し、効果的・効率的な防災対策を推し進めることは喫緊の課題であると言える。このため、陸域及び沿岸海域における活断層の調査観測を総合的に推進する本事業の優先性は極めて高い。
  なお、地震本部政策委員会や、科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会防災分野の研究開発に関する委員会においても、本事業の評価を行い、優先性を確認する。

G.総括評価と反映方針

  平成21年度概算要求に反映する。

指摘事項と対応方針

指摘事項

1.事業に対する総合所見(官房にて記載)

  評価結果は妥当。

お問合せ先

大臣官房政策課評価室

-- 登録:平成21年以前 --