82.「元素戦略」(拡充)【達成目標10-4-1】

平成21年度要求額:1,200百万円
  (平成20年度予算額:570百万円)
  事業開始年度:平成19年度
  事業達成年度:平成25年度
  中間評価実施年度:平成23年度
  中間評価実施年度:平成23年度

主管課(課長名)

  • 研究振興局基礎基盤研究課ナノテクノロジー・材料開発推進室(高橋 雅之)

関係課(課長名)

事業の概要等

1.事業目的

  ナノテクノロジー・材料分野の研究開発においては、需給の逼迫が懸念される希少金属や環境に負荷を与える元素を安価で豊富な元素で置き換える研究開発等を行う「元素戦略」を推進している。
  総合科学技術会議が取りまとめた「革新的技術戦略」において、「レアメタル代替・回収技術」が重要施策に指定されたことを受け、「元素戦略」の研究開発を拡充して、レアメタル代替・回収技術を強力に推進する。

2.事業に至る経緯・今までの実績

  「元素戦略」とは、10年から15年先の実用化が期待される研究開発を促進する競争的資金である「ナノテクノロジー・材料を中心とした融合新興分野研究開発」(キーテクノロジーの研究開発の推進)の一環として、平成19年度から開始した研究開発事業である。
  具体的には、

  1. 需給の逼迫が懸念される希少元素を豊富で安価な元素で代替する技術
  2. 環境に負荷を与える元素を豊富で安価な元素で代替する技術
  3. 使用元素を削減するための材料設計技術

  の3つの切り口で研究開発を推進している。

図1 元素戦略の背景

  図1 元素戦略の背景

図2 基礎研究を結集して、様々な具体的材料創製成果を目指す「元素戦略」

  図2 基礎研究を結集して、様々な具体的材料創製成果を目指す「元素戦略」

  近年の技術革新により、高機能材料に対するニーズが著しく高まっている。こういった高機能材料には少なからぬ量の希少元素が含まれているが、希少金属の地球規模の偏在と供給不安、価格の変動といったリスクが産業活動上の障害となってきた。また希少金属を採掘する際の環境破壊も無視できない状況となった。
  こういった事情から、希少金属を安価な物質で代替する研究開発の重要性は一層増してきたが、従来の試行錯誤的手法では効率性が悪く、様々な学問分野を統合して新規材料開発にあたることが求められるに至った。
  元素戦略は、我が国の持続可能な発展を脅かす希少資源の供給問題の対策として、豊富に存在する元素で置き換えた代替材料の開発を行う研究課題で、社会的・経済的なインパクトの大きさを勘案し、産学連携を要件として公募を実施した結果、平成19年度から5年計画で7件の研究課題を採択して研究開発を実施している。
  本研究開発の推進に当たっては、経済産業省の「希少金属代替開発プロジェクト」と連携して、研究領域の重複の排除などの効率的な研究の推進、研究課題の採択時における審査案件の交換等、効果的、効率的な運用を目指しており、省庁連携の成功例と評価されている。

3.事業概要

  総合科学技術会議が本年5月19日に取りまとめた「革新的技術戦略」において、「レアメタル代替・回収技術」を重点的に推進すべき方針が打ち出されたことを踏まえ、平成20年度までに実施してきた希少金属代替等の研究開発に加え、平成21年度は、

  • 1)リサイクルしやすい元素による材料設計
    • (合金元素フリー、安価で豊富な元素利用による組織・成分設計で希少元素を使わない技術開発)
  • 2)スクラップから希少元素を回収再利用する技術開発
    • (効率的高選択性リサイクル技術開発により希少元素を回収・再利用する技術開発)
  • 3)スクラップ・低品位原料使用を前提にした新たな機能開発
    • (不純物に鈍感でリサイクルを前提とした材料設計で希少元素を回収・再利用する技術開発)

  の研究開発を追加して研究開発を強力に推進する。

図3 平成21年度の新たに加える研究開発の要素

  図3 平成21年度の新たに加える研究開発の要素

4.指標と目標

指標

  各研究拠点における特許出願実績や論文引用率の他、企業化された技術の量や質、技術の価値や、社会システムに与えた影響等を複合的に勘案して、例えば、現在白金を使っている触媒において、全く白金を使わない代替触媒を開発するとか、使用量を半減する等の、研究応募者が研究課題の審査時に掲げた研究課題の達成目標に対してどれぐらい実現できているかを評価する。

目標

  各課題について、応募時にロードマップの提出を求め、採択時に最終・中間・年度計画と目標を定める。中間目標の達成度を文部科学省科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会の下のナノテクノロジー・材料委員会の中間評価で判定し、またプロジェクト進捗会議を開催して年度毎の目標達成状況をPD、POおよびナノテクノロジー・材料開発推進室において評価する。
  例えば、従来材料における希少元素の役割の解明、希少元素に代わる元素あるいは組織構造の探索、新規材料製造プロセスの最適化といった研究開発ステップを各年度ごとに設定し、これに対する達成状況を評価する。

効果の把握手法

  文部科学省科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会の下のナノテクノロジー・材料委員会による評価の他、交付対象施設及び施設設置者に対する現地調査を実施する。
  また、評価の結果、進捗が思わしくない場合は、研究実施者の交代や契約からの除外等を行うなど、厳格な審査を実施する予定。

事業の事前評価結果

A.19年度実績評価結果との関係

  各施策は概ね順調に進捗しているが、総合科学技術会議が取りまとめた「革新的技術戦略」の重点的に推進すべき課題の一つである「レアメタル代替材料・回収技術」に対応するためは、技術の研究開発を促進する必要があり、文部科学省「元素戦略」、経済産業省「希少金属代替材料開発プロジェクト」、環境省「回収技術」が対応している。
  このうち、「元素戦略」については、希少資源の代替・使用量大幅削減の観点とともに、材料をあらかじめリサイクルしやすい成分で作る等の資源のリサイクルを推進する観点を新たに加え、関係省庁と連携して推進することが課題として挙げられている。

B.必要性の観点

1.事業の必要性

  一部の希少元素や有害元素は近年の先端技術に不可欠の存在である一方で、埋蔵量や地域偏在といった希少元素の需給バランスに大きく影響を受けやすく、環境負荷が大きいなどの問題があり、本事業はこれら地球規模の問題を解決するものとして期待されている。更に、科学技術創造立国である我が国にとって、先端技術に不可欠な希少元素・有害元素の代替材料の開発は、我が国の持続的な経済成長を支える上で極めて重要である。
  「元素戦略」は我が国の発展を支える上で極めて重要な研究課題であるとともに、総合科学技術会議が取りまとめた「革新的技術戦略」として、国を挙げて取り組むべき革新的技術の一つに指定されたため、これを確実に実行するため、「元素戦略」を拡充して対応する必要がある。

2.行政・国の関与の必要性(官民、国と地方の役割分担等)

  希少元素を他の元素で置き換える取組は民間企業でも行われているが、これは試行錯誤的であって戦略的とはいえず、低効率で成果の期待も小さい。元素戦略のコンセプトを周知させることにより科学的アプローチを民間に広めていくために、国がイニシアティブを取る必要がある。

3.関連施策との関係

1.主な関連施策

  ○希少金属代替開発プロジェクト(経済産業省)
  特に緊急な対応が求められる、インジウム、タングステン、ディスプロシウムの3種の元素種に限定し、かつ実用化の非常に近い研究課題に絞って支援している。
  (事業開始年度:平成19年度)

2.関連施策との関係

  平成18年、文部科学省と経済産業省による「合同戦略会議」が組織され、その下で両省は独自に検討を重ね、文部科学省では「元素戦略検討会」が組織され、報告書が作成された。こういった検討をもとに両省は連携して平成19年に「元素戦略/希少金属代替開発プロジェクト」の公募を行い、文部科学省54件、経済産業省10件の応募の中から各々7件の課題を採択した。実際の審査に当たっては、経済産業省は実用化が非常に近く、3種の元素種に限定した研究課題を扱っており、文部科学省は元素種を限定せずに、実用化までは遠いが、材料特性にブレークスルーをもたらす研究課題を扱っているが、実際に応募があった研究案件を勘案し、両省が1件ずつ研究課題を交換し合うなど、研究開発の実効性を向上させる工夫が行われている。
  また、文科省は平成20年度に本事業の拡充を行うこととし、現在公募を締切り審査中である。
  平成19年度の課題採択については、図4に示すように、課題の緊急性をベースに経済産業省のプロジェクトとの間で領域分けを行い、文部科学省は元素種を特定せずに、経済産業省の課題に比べ基盤領域を担保する課題を採択することとした。なお経済産業省は7課題を採択した。
  文科省は平成20年度に本事業の拡充を行うこととし、現在公募案件を審査中である。経済産業省は公募を行っていない。

図4 経済産業省「希少金属」プロジェクトとの連携関係

  図4 経済産業省「希少金属」プロジェクトとの連携関係

4.関係する施政方針演説、審議会の答申等

・革新的技術戦略(平成20年5月19日 総合科学技術会議取りまとめ)

  記載事項(抜粋)

  革新的技術概要
  我が国経済を支える自動車、ロボット、エレクトロニクス等の先端産業においてレアメタルは不可欠。薄型ディスプレイに必須のインジウム等の代替技術や回収・再利用技術を開発することにより、これら先端産業の持続可能性を確保する。

・分野別推進戦略(平成18年3月28日 総合科学技術会議決定)ナノテクノロジー・材料分野

  記載事項(抜粋)
  戦略重点科学技術「資源問題解決の決定打となる希少資源・不足資源代替材料革新技術」「希少資源や不足資源に対する抜本的解決策として、それらの資源の代替材料技術の革新は必須であり、省資源問題の中でも、最も材料技術に期待されているところである。

・平成20年度の科学技術に関する予算等の資源配分の方針(平成19年6月14日 総合科学技術会議決定)

  記載事項(抜粋)

  環境・エネルギー等日本の科学技術力による成長と国際貢献
  環境・エネルギー技術等、我が国の科学技術力を最大限に活用し、持続可能な社会の実現に向けた世界の諸課題に積極的かつ継続的に取り組む。

・長期戦略指針「イノベーション25」(平成19年6月1日閣議決定)

  記載事項(抜粋)

  第5章 「イノベーション立国」に向けた政策ロードマップ

  2.技術革新戦略ロードマップ

   (2)分野別の戦略的な研究開発の推進において、ナノテクノロジー・材料分野の戦略重点科学技術として、「資源問題解決の決定打となる希少資源・不足資源代替材料改革新技術」が、「2010年頃までの研究目標(第3期科学技術基本計画期間))」及び「2011年以降の研究目標(第4期以降)」に「希少金属の機能代替技術」が挙げられている。

C.有効性の観点

1.目標の達成見込み

  審査時点においてシーズの確かさ、実用化への見通しを厳しく評価して採択していることから、5年経過時点で応用研究のスタートラインに立てる程度の成果を得られる見通しは高いと考える。

2.上位目標のために必要な効果が得られるか

  「元素戦略」は、我が国の産学官の英知を結集した戦略的な取組であり、我が国の持続的な発展に貢献するとともに、ナノテクノロジー・材料分野の研究レベルを向上させ、世界に先駆けた技術革新につながる成果を創出できる、と考えられるので、上位目標である施策目標10‐4「ナノテクノロジーに関して、我が国における産学官の英知を結集した戦略的な取組みを行うと共に、物質・材料に関して、重点的に投資を行うことにより、総合的かつ戦略的な研究開発を進め、世界に先駆け技術革新につながる成果を創出する。」の実現に資する。

D.効率性の観点

1.インプット

  元素戦略の予算規模は570百万円で、平成20年度公募にかかる額は140百万円である。1課題平均予算額は平成19年採択分が約60百万円、平成20年度採択分は20~40百万円になる見込みである。
  平成21年度の本事業の予算規模は1,200百万円であり、新たに、10件程度を採択する見込みである。

2.アウトプット

  20年度の元素戦略においては、産学連携による申請を必要とせず、挑戦的・萌芽的問題の解決に資する技術開発に重点をおき、新たに課題を公募する。具体的には、燃料電池、貴金属触媒、熱電変換材料などを目標とし、材料を構成する元素の役割とその機能発現のメカニズムを科学的に解明する等により実用化を阻む障害を正確に認識し、解決することを目指す。

3.事業スキームの効率性

  本事業における研究はスモールサイエンスであり、大きな設備は必要としない場合が多い。このことから比較的少額の研究予算(インプット)であるものの十分な活動量(アウトプット)が得られるものと期待できる。また、研究課題の審査会において、成果の上がらない研究については途中で打ち切ると主査が言及するなど、中間評価を厳格に行い、研究課題を厳選する方針を明確に打ち出している。

4.代替手段との比較

  代替手段として、補助金事業とすることが考えられるが、「元素戦略」は10~15年後の商品化を目指す基盤研究であり、企業の収益事業としてすぐに立ち上がる性格のものではなく、補助金事業にはなじまない。
  また、拠点型研究として一カ所のサイトで集中型研究を行うことも考えられるが、「元素戦略」はテーマが多岐にわたりテーマごとの連携を行うメリットは大きくなく、設備の共用効果も大きくない。

E.公平性の観点

  本事業は公募によって行い、専門家による審査を経て、採択先を決定する予定であり、公平性は担保できると判断する。

F.優先性の観点

  一部の希少元素や有害元素は近年の先端技術に不可欠の存在である一方で、埋蔵量や地域偏在といった希少元素の需給バランスによる価格高騰等に大きく影響を受ける、環境負荷が大きいなどの問題があり、我が国の産業等の持続的な発展にとって大きな障害となることは必至である。そこでこれらを使用しない代替材料の開発を行う元素戦略は、極めて優先度が高い国益にかなう事業であるといえる。

G.総括評価と反映方針

  希少金属への需給逼迫に備えることは我が国に産業活力を維持するためにも不可欠な課題であり、「元素戦略」を着実に推進することが必要であるとともに、「革新的技術戦略」の着実な実行のためにも、レアメタル回収という新たな研究要素を加えて、一層研究開発を加速する必要があるため、これを21年度概算要求に反映する。

指摘事項と対応方針

指摘事項

1.事業に対する総合所見(官房にて記載)

  評価結果は妥当。ただし、定量的な指標を設定して進める必要がある。

指摘に対する対応方針

  各研究拠点における特許出願実績や論文引用率等を指標として評価することとしており、今後、科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会ナノテクノロジー・材料委員会において、中間評価、事後評価を実施する際には、定量的な指標についても検討したい。

お問合せ先

大臣官房政策課評価室

-- 登録:平成21年以前 --