76.革新的タンパク質・細胞解析研究イニシアティブ(新規)【達成目標10-1-1】

平成21年度要求額:6,900百万円
  (平成20年度予算額:‐百万円)
  事業開始年度:平成21年度
  事業達成年度:平成25年度
  中間評価実施年度:平成23年度

主管課(課長名)

  • 研究振興局ライフサイエンス課(菱山 豊)

関係課(課長名)

事業の概要等

1.事業目的

  ライフサイエンスは、複雑な生命現象を解明するための科学であり、医薬品の開発、食料生産、新たな産業創出など我が国の産業競争力強化の鍵となる重要な研究分野であることから、第3期科学技術基本計画におけるライフサイエンスの戦略理念として、生命の統合的理解を深める研究強化がうたわれている。
  このような研究を推進するため、科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会ライフサイエンス委員会先導的生命科学研究戦略作業部会報告を踏まえ、生命機能の解明や医薬品開発に必要な細胞機能の解明に資するとともに、その課題解決に必要な大量で多種多様なデータを産出し、解析するための研究開発拠点(次世代シーケンス解析拠点、データ解析拠点、細胞情報計測開発拠点)を整備する。併せて、生命科学のみならず、情報科学の研究・教育を行い、両分野の融合を目指した人材養成に取組む。本事業により、細胞・生命プログラムの解明により生命の統合的理解や、細胞プログラムの破綻として起こる病態の本質を理解による疾患の予防、診断、治療への貢献を目指すとともに、本事業で構築する基盤をアカデミアや産業等にライフサイエンス基盤として公開することにより、脳科学、幹細胞・再生医学、医薬等の幅広い研究分野への波及効果を与えることを目指す。
  今回、新たな事業の立ち上げに当たって、発生過程を含む生命のプログラムを再現し、生命を統合的に理解する研究を進めるという観点から、生命を構成する基本分子であるタンパク質の構造・機能の解析を進めている「ターゲットタンパク研究プログラム」との統合を図ることによって、より効果的な研究の推進を図る。

2.事業に至る経緯・今までの実績

  ポストゲノムプロジェクトの一つとして、平成16年度から「ゲノム機能解析等の推進‐ゲノムネットワークプロジェクト」が実施されており、同プロジェクトは平成20年度に終了する。

ゲノム機能解析等の推進(ゲノムネットワークプロジェクト)(平成16年度~平成20年度)

  転写調節領域を中心としたゲノム機能、遺伝子やタンパク質の相互作用等の集中的解析を行なうとともに、これらのデータの活用により、各種疾患、生命現象のシステムを解明し、革新的な治療法、創薬等の実現を目指す。

  また、生命を構成する基本分子であるタンパク質の構造・機能の解析を進めている「ターゲットタンパク研究プログラム」が平成19年度から進められている。

ターゲットタンパク研究プログラム(平成19年度~平成23年度)

  過去の施策等で得られた成果や基盤(機器・設備、人材、構造データ等)を活用しつつ、学術研究や産業振興に重要なタンパク質をターゲットとし、それらの構造・機能解析に必要な技術開発と研究を行う。

  このようなプロジェクトの状況等を踏まえ、生命の統合的理解を深める研究のあり方を検討するため、昨年8月に科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会ライフサイエンス委員会運営規則第2条第1項に基づき、先導的生命科学研究戦略作業部会を設置し、専門的な観点から、審議が行われてきたところである。
  本部会による最終報告が決定(平成20年7月30日)され、同報告においては、今後の研究戦略として

  1. 次世代シーケンサーを中心とした複数の解析拠点を結び、シーケンス解析拠点整備とネットワーク体制の構築
  2. 高い研究能力を持った研究者集団を組織し、「細胞・生命プログラム」解明に挑戦
  3. 膨大なデータを処理・共有・公開する、データベース・情報処理拠点を構築
  4. 細胞・組織イメージング技術等のリアルタイム細胞情報計測及び摂動技術を集約的に開発し、ネットワークを形成
  5. ゲノム、RNA等の動作原理から疾患を解明し、治療、治療薬創出へ基礎的知見・技術を提供

  を求めている。

3.事業概要

  • (1)大量かつ多面的なゲノム情報の統合解析により細胞・生命プログラムを解明するために、革新的な解析能力を持つ次世代シーケンス解析拠点並びに大規模大量データ解析拠点を重点的に整備。
  • (2)細胞・組織イメージング技術等のリアルタイム細胞情報計測及び摂動技術の開発拠点をネットワーク化。
  • (3)(1)、(2)の拠点において、遺伝子発現制御、シグナル伝達、代謝制御などについて従来なしえなかった大規模・多面的解析の手法を駆使し、細胞・生命プログラム解読に挑む。これにより我が国のライフサイエンス全体に資する基盤を構築し、広く共用。

スキーム図

4.指標と目標

指標

  解明された細胞機能数とタンパク質機能数(検討中)

目標

  文部科学省が実施する他の関連施策と連携し、個々の遺伝子、RNA等といった基本要素の複雑な集合体である細胞のプログラムの理解を推進することにより、蓄積された知見、技術を活用し、医学・薬学への貢献、産業応用に向けて生命現象のさらなる解明を図る。

事業の事前評価結果

A.19年度実績評価結果との関係

  平成20年度に「ゲノム機能解析等の推進」が達成年度を迎えるにあたり、本事業の研究成果を受け、先導的生命科学研究戦略作業部会で今後の研究のあり方を検討した。今後の研究として大量かつ多面的なゲノム情報の統合解析により細胞・生命プログラムを解明するために、革新的な解析能力を持つ次世代シーケンス解析拠点並びに大規模大量データ解析拠点を重点的に整備する予定。

B.必要性の観点

1.事業の必要性

  ライフサイエンスは、複雑な生命現象を解明するための科学であり、我が国の産業競争力強化の鍵となる分野である。欧米及びアジア各国は生命科学研究の基礎となるゲノム配列、ゲノム機能の研究に対して、国家プロジェクトとして積極的な支援を行っており、引き続き、我が国のライフサイエンス研究を推進するため、遺伝子発現制御、シグナル伝達、代謝制御など細胞機能のシステムを理解する研究の重点的な実施が必要である。
  また、これらゲノム情報解析に用いるシーケンサーの技術的進展は目覚ましく、従来型と比べて桁違いの処理速度を持つ超高速の次世代シーケンサーの実用化が始まっている。米国、英国、中国、シンガポール等では、すでにシーケンサーを集中的に配備した拠点整備が行われており、我が国のライフサイエンス分野の国際競争力を維持するためには、次世代シーケンス解析拠点整備は急務である。また、シーケンサーからは大量かつ多種多様なデータが産出されることから、これら膨大なデータを既存のデータと比較するとともに、データの一元的な集約、解析計算を行い、適切な形で提供・知識の発掘を行うためのデータ解析拠点の整備が必要である。
  さらに、ある時点のスナップショットであるゲノム情報解析に加え、発生・分化、幹細胞、がん、免疫、神経細胞など計時変化が重要な意味を持つ、生命現象における細胞レベルの機能解明を行うためには、細胞・組織イメージング技術等の細胞情報計測などの開発や細胞機能の物理学的理解に向けた数理科学との融合を考慮した形での研究推進が必要である。

2.行政・国の関与の必要性(官民、国と地方の役割分担等)

  細胞機能の解明、大量、多種多様なデータの産出やその解析は先端的な研究分野であり、民間では行われていない。各国も政府主導で行われており、我が国としてもこの分野の研究開発を加速する必要がある。
  これらのことから、本事業については、国が集中的に資金を投入し責任を持って主導的に関与する必要がある。

3.関連施策との関係

1.主な関連施策

  ○ゲノム機能解析等の推進(ゲノムネットワークプロジェクト)(文部科学省)
  転写調節領域を中心としたゲノム機能、遺伝子やタンパク質の相互作用等の集中的解析を行なうとともに、これらのデータの活用により、各種疾患、生命現象のシステムを解明し、革新的な治療法、創薬等の実現を目指す。
  (事業開始:平成16年度)

  ○オミックス基盤研究領域(理化学研究所)
  生命現象を遺伝子レベルから理解するため、タンパク質とタンパク質に翻訳されず新たな機能を有するRNAで構成される生体内分子間の相互作用の全体像を高速で解明することを目指す。そのため、遺伝子資源やシーケンス技術、情報処理・解析技術の整備、これらの知見やノウハウを持った人材を集結させた研究基盤(ライフサイエンスアクセラレーター:LSA)の構築を行う。また、遺伝子機能の検出技術の高度化や発現制御メカニズム解明のための情報処理技術開発を行い、それら一連の技術の体系化を図る。
  (事業開始:平成20年度)

  ○ターゲットタンパク研究プログラム
  過去の施策等で得られた成果や基盤(機器・設備、人材、構造データ等)を活用しつつ、学術研究や産業振興に重要なタンパク質をターゲットとし、それらの構造・機能解析に必要な技術開発と研究を行う。
  (事業開始:平成19年度)

2.関連施策との関係(役割分担・連携状況)

  「ゲノム機能解析等の推進(ゲノムネットワークプロジェクト)」により遺伝子情報の流れが明らかになりつつあるなか、生命の理解を目指すライフサイエンスが次に焦点をあてるべき階層は「細胞」であり、今後は、従来の細胞生物学を超え、オミックスやネットワークなどの統合的理解の対象として「細胞」を取り上げ、様々な研究を集約する必要がある。このため、分子レベルに注目した既存の「ターゲットタンパク研究プログラム」を今年度限りで廃止し、遺伝子、RNA、タンパク質などの基本要素が互いに相互作用しながら機能する「場(空間)」である「細胞」を対象としたオミックスやネットワークなどの統合的解析と、タンパク質の機能・構造解析とを統合した新たなプロジェクトを立ち上げることとする。これにより、より効率的・効果的な生物の階層性の全体理解へとつながるものと考えられる。

4.関係する施政方針演説、審議会の答申等

・先導的生命科学研究戦略作業部会報告書(平成20年7月 科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会ライフサイエンス委員会決定)

  記載事項(抜粋)

  5 今後の研究戦略

  1. 生命科学研究の推進戦略
  • 解析拠点整備とネットワーク体制の構築
  • 「細胞・生命プログラム」解明に挑戦
  • データベース・情報処理拠点の構築
  • 細胞・組織イメージング技術等のリアルタイム細胞情報計測及び摂動技術の集約的開発とプラットホーム化
  • 治療・治療薬創出への基礎的知見・技術を提供
・長期戦略指針「イノベーション25」(平成19年6月 閣議決定)

  記載事項(抜粋)

  第5章 「イノベーション立国」に向けた政策ロードマップ

  2.技術革新戦略ロードマップ

  (2)分野別の戦略的な研究開発の推進

  4.世界的課題解決に貢献する社会

  ライフサイエンス分野

  世界最高水準のライフサイエンス基盤整備

  2010年までの研究目標

  • 多様・多量な情報の網羅的かつ正確な統合に向け、広く国内のライフサイエンス研究者の利用に供するために必要な標準化技術、検索技術等の情報技術を開発
・第3期科学技術基本計画 分野別推進戦略(平成18年3月 総合科学技術会議決定)

  記載事項(抜粋)

  1 ライフサイエンス分野

  4.推進方策

  (1)生命プログラム再現への取組
  生命の基本原理を明らかにするため、これまで進められてきたゲノムやタンパク質など生命構成体の分析的解析の大きな成果をもとに、今後はこれら生命構成体の3次元的、4次元的な相互関係等を解明したり、それらを1つのプログラムとして再現したりすることを通して、生命の統合的全体像の理解を深めることが重要である。またこのような統合的理解にあたって、生命情報の統合化データベースや生物遺伝資源が大きな支えとなるものである。そしてこのような理解の過程で得られる成果は、一つ一つが大きな知的財産権として結実するものと期待できる。さらに統合的理解のための学問的連携として、医学、工学、薬学、農学等の応用科学同士の連携のみならず、これら応用科学と理学のような純粋科学との連携、さらには両科学が統合した学問領域の創成等が有効な方策の1つとなると考えられる。
  このため、大学等においては、教育研究の拠点や組織を柔軟に整備し、このような連携や新領域の開拓、及び人材育成に注力する必要がある。

C.有効性の観点

1.目標の達成見込み

  細胞プログラムの解明により、将来の新たな治療法、治療薬創出への基礎的知見・技術の提供が可能となる。また、本プロジェクトで構築した基盤設備をアカデミアや産業等にライフサイエンス研究の設備基盤として広く共用することにより、iPS細胞研究、がん研究、SNPs研究、免疫研究等の幅広い研究分野への波及効果が期待される。

2.上位目標のために必要な効果が得られるか

  シーケンサー拠点や大量データ解析拠点整備を通じ、個々の遺伝子、RNA等といった基本要素の複雑な集合体である細胞のプログラムの理解を推進することにより、上位目標である「蓄積された知見、技術を活用し、医学・薬学への貢献、産業応用に向けて生命現象のさらなる解明を図る」ことが促進される。

D.効率性の観点

1.インプット

  平成21年度要求額:6,900百万円

2.アウトプット

  研究開発拠点の整備

3.事業スキームの効率性

  先行事業である「ターゲットタンパク研究プログラム」及び「ゲノム機能解析等の推進(ゲノムネットワークプロジェクト)」で構築された成果、人材等の基盤を活用することによって、効率的な研究基盤の構築が可能となる。
  次世代シーケンサーへ投資を集中化することにより、国の設備投資の効率的かつ最大限の活用が期待されるとともに、シーケンス解析拠点に継続的に最先端の機器や技術を集約することにより、国内の研究者に対して常に最先端の研究基盤を提供できる。また、データ解析拠点に全ての解析データを一元集中することにより、統一的記述に基づくデータベース化によるデータの信頼性の担保が可能となり、データの共有も促進される。
  本事業では、「ターゲットタンパク研究プログラム」の既存事業に加え、細胞機能の解明に必須な遺伝子発現制御、シグナル伝達、代謝制御分野における最適な研究課題を公募により選考するとともに、シーケンス解析拠点、データ解析拠点、細胞情報計測開発拠点についても公募により選考することにより、効率的かつ高水準の研究実施体制と支援体制が構築される。

4.代替手段との比較

  米国、英国、中国、シンガポール等では、すでに次世代シーケンサーを集中的に配備した拠点整備が政府主導で行われており、我が国のライフサイエンス分野の国際競争力を維持するためには、国が集中的に資金を投入し、責任を持って主導的に次世代シーケンス解析拠点等を整備することが急務である。

E.公平性の観点

  本事業は競争的資金制度に基づき実施し、全国の大学、研究機関等を対象として、公募により研究開発拠点を選定する予定であるため、公平性は担保できると判断する。
  また、本事業で得られた研究成果や基盤設備等に関しては、アカデミアや産業界に対し、積極的に公開を図る。

F.優先性の観点

  遺伝子の発現調節機能やタンパク質等の生体分子間相互作用の系統的な解析に基づき、生命活動を成立させているネットワークを明らかにすることにより、生活習慣病や難病等の新しい治療法の開発や創薬につながる成果を挙げることが期待される。また、生命現象を理解するために必要不可欠なタンパク質の作用機序の解明、疾患の原因や発症機構の理解、診断・治療法の開発や食品・環境などの産業応用に資することが期待される。「第3期科学技術基本計画」(平成18年3月28日 閣議決定)においても、遺伝子などの分析計測のための先端的技術開発やゲノム・RNA等の構造・機能とそれらの相互作用の解明は重要な研究課題として位置付けられている。また、平成20年度に「ゲノム機能解析等の推進(ゲノムネットワークプロジェクト)」が達成年度を迎えるに当たり、本プロジェクトの成果を受けた、先導的生命科学研究戦略作業部会報告(平成20年7月 科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会ライフサイエンス委員会決定)を踏まえ、本事業を優先的に行う必要がある。

G.総括評価と反映方針

  平成21年度概算要求に反映。

指摘事項と対応方針

指摘事項

1.事業に対する総合所見(官房にて記載)

  評価結果は妥当。ただし、定量的な指標を設定して進める必要がある。また、関連施策と連携し、効果的・効率的に研究開発を推進する必要がある。

2.外部評価、第三者評価等を行った場合のその概要等

  科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 ライフサイエンス委員会において事前評価を実施。

3.政策評価に関する有識者委員からの指摘・意見等

  いままで行ってきたゲノム関係事業が存在するが、それらとの関係性を説明する必要がある。

指摘に対する対応方針

  1.については「指標と目標」及び「関連施策との関係」において対応済み。また、指標については、本事業の性質も十分考慮した上で、定量的な指標を検討していく予定。
  3.については「関連施策との関係」で対応済み。

お問合せ先

大臣官房政策課評価室

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