(基準年度:18年度・達成年度:22年度)
科学技術の社会的信頼を獲得するために、生命倫理問題やナノテクノロジーの社会的影響等科学技術が及ぼす倫理的・法的・社会的課題への対応を強化する。
ライフサイエンスの発展に伴い生じる生命倫理に係る諸課題への対応については、ES指針に基づく樹立計画及び使用計画の審査(計62件、うち指針改正に伴う審査は36件)を実施するとともに、研究実施機関に対するES指針の周知徹底を行った。また、ライフサイエンス研究の進展や社会的動向等を踏まえ、ES細胞を必要とする研究機関の増大や海外への分配の必要性等に対応するため、ES指針を改正した(平成19年5月)。また、総合科学技術会議意見を踏まえ、人クローン胚の研究目的の作成・利用のあり方に係る検討結果を取りまとめるとともに(平成20年2月)、生殖補助医療研究目的でのヒト受精胚の作成・利用に関するガイドラインを策定するための制度的枠組みの検討等を実施した。平成19年度においては、ES指針及び特定胚指針の違反事例はなく、ES指針が改正されるとともに、特定胚指針等の見直しに向けた検討等も着実に進められたことから、生命倫理に係る諸課題への対応については、ほぼ適切に実施されたものと考えられる。
ナノテクノロジーの社会的影響に関しては、平成18年度から科学技術振興調整費により進められてきた調査研究によるナノテクノロジー影響の多領域専門家パネル会議における検討にもとづき、標準的ナノ物質とキャラクタリゼーション技術の開発に係る課題が絞り込まれたことを受けて、平成19年度から、物質・材料研究機構が「ナノマテリアルの社会受容のための基盤技術の開発」として、標準ナノ試験物質であるフラーレン等を創製し、細胞とこれらの物質との相互作用を解明する研究を開始した。
また、科学技術振興機構の社会技術研究開発センター研究開発プログラム「科学技術と社会の相互作用」の新規プロジェクトとして採択された「先進技術の社会影響評価(テクノロジーアセスメント)手法の開発と社会への定着」において、物質・材料研究機構がナノテクノロジーの社会影響評価に関する協力を開始するなど、ナノテクノロジーの社会的影響に関する諸課題への対応は順調に進んでいるものと考えられる。
評価結果:A
ライフサイエンスの発展に伴い生じる生命倫理に係る諸課題への対応のうち、人クローン胚を含む特定胚の取扱いについては、人の尊厳の保持、人の生命及び身体の安全の確保並びに社会秩序に影響を与えることのないよう、適正に取り扱われることを確保する必要がある。また、ヒトES細胞を用いる研究については、ヒトES細胞がヒト胚を滅失して樹立されるものであること、また、すべての細胞に分化すること等の問題を有することから、人の尊厳を侵すことのないよう適正に取り扱われる必要がある。更に、生殖補助医療研究目的でのヒト受精胚の作成・利用については、研究に用いるヒト受精胚の取扱いや、未受精卵の提供者である女性の保護等について適切な枠組みを整備する必要がある。以上の観点から、ライフサイエンスの発展に伴う倫理的課題に対応するための指針等の策定に係る検討及びそれらの円滑な運用が必要である。
また、ナノテクノロジーへの期待とともに、ナノ物質の安全性に対する社会の関心が高まっているが、ナノ物質のリスク評価においては試験材料の供給、生体投与、ナノ粒子の体内動態解析など、生体・環境影響評価試験法の基盤に多くの課題を抱えているのが実状である。このため、ナノ物質を安心して使うことができるようにするために、その環境及び生体影響への評価法の確立を目指し、ナノ物質の社会受容が円滑に行われるための技術基盤づくりを行う必要がある。
ライフサイエンスの発展に伴い生じる生命倫理に係る諸課題への対応については、現在までに、クローン技術規制法やES指針に基づく違反事例はなく、特定胚やヒトES細胞を用いた研究が適切に実施されてきている。
ナノテクノロジーの社会的影響については、科学技術振興調整費により進められてきたナノテクノロジー影響の多領域専門家パネル会議で抽出された課題を踏まえ、物質・材料研究機構が新たに「ナノマテリアルの社会受容のための基盤技術の開発」を開始するなど、諸課題への対応は順調に進んでいる。
本事業により、ライフサイエンスの発展に伴い生じる生命倫理に係る諸課題への対応として、1.ヒトES細胞の樹立計画及び使用計画の審査、2.改正ES指針の周知徹底、3.人クローン胚の研究目的の作成・利用等に係る指針等の改正、4.生殖補助医療目的でのヒト受精胚の作成・利用に関するガイドラインを策定するための制度的枠組みの検討、5.ヒトES細胞等からの生殖細胞の作成・利用の是非の検討、等の円滑な実施といった効果がある。
また、ナノテクノロジーの社会的影響に関しては、独立行政法人物質・材料研究機構における「ナノマテリアルの社会的受容のための基盤技術の開発」により、1.標準ナノマテリアル創製技術、2.高度ナノスケール計測技術、3.細胞とナノマテリアルの相互作用の解明、を連携して実施しており、特性・形状が制御されたナノマテリアルの合成及び様々な環境におけるナノスケールの計測が順調に進行している。
ライフサイエンスの発展に伴い生じる生命倫理に係る諸課題へ対応し、ライフサイエンス研究を巡る最新の動向を踏まえた指針の策定や運用を行うことにより、最先端のライフサイエンス研究の発展と社会との調和に貢献している。
また、ナノテクノロジーの社会的影響に関しては、物質・材料研究機構が、産業技術総合研究所、労働安全衛生総合研究所など、生体実験を行う研究機関と連携して進め、ナノマテリアル創製技術とその計測技術を用いて生体影響を評価する方法を確立することにより、日本のナノマテリアルリスクの評価に貢献している。
以上より、事業の波及効果も認められ、効率性の観点から妥当である。
評価対象政策の改善・見直し
ライフサイエンスの発展に伴い生じる生命倫理に係る諸課題への対応については、引き続き、ヒトES細胞の樹立計画及び使用計画の審査を行うとともに、改正ES指針の周知徹底を図る。また、人クローン胚の研究目的の作成・利用のあり方に係る検討結果を取りまとめた報告書の内容を踏まえて、特定胚指針等の改正を行うとともに、生殖補助医療目的でのヒト受精胚の作成・利用に関するガイドラインを策定するための制度的枠組みや、ヒトES細胞等からの生殖細胞の作成・利用の是非等を検討する。さらに、ライフサイエンスの発展に伴い生じる生命倫理に関する諸課題への対応を強化する。
ナノテクノロジーの社会的影響に関しては、「ナノテクノロジー影響の多領域専門家パネル」により抽出された課題のうち、標準的ナノ物質とキャラクタリゼーション技術に関して、独立行政法人物質・材料研究機構が平成19年度から行われている「ナノマテリアルの社会受容のための基盤技術の開発」研究を引き続き推進する。ただし、対象をカーボンナノチューブとフラーレンに限定し、原子間力顕微鏡などのナノ技術による形状・機械特性評価に内容を絞って推進する。
ライフサイエンスの発展は、社会的な側面に大きな影響を与えるようになってきており、社会・国民に支持されるためには、ライフサイエンスが及ぼす新しい倫理的・法的・社会的課題に取り組んでいく必要がある。
ナノテクノロジーが広範な技術領域の基盤を革新する夢の技術体系となる可能性を持つ反面、不可視な人工物が予想できないリスクを社会にもたらす可能性も指摘され始めている。この分野は欧米における取組が選考しているが、現在のところ必ずしも信頼性のあるデータが得られているとは言い難い。期待される便益をリスクを社会にもたらす可能性も指摘され始めている。期待される便益とリスクを科学的に解析・比較し、責任あるナノテクノロジーの研究開発を進め、その健全な発展を促す必要がある。
なし
特になし
研究の発展・動向を踏まえ、生命倫理に関する法令・指針に基づいた規制を適切に実施する。
(基準年度:18年度・達成年度:22年度)
各判断基準の結果の平均から判断する(S=4、A=3、B=2、C=1と換算する。)
判断基準 | 目標に向けた取組 |
---|---|
|
ライフサイエンスの発展に伴い生じる生命倫理に係る諸課題に対応するため、主に下記のような取組を行った。
平成13年に策定した「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針」(ES指針)に基づき、ヒトES細胞の樹立及び使用に係る審査を実施しており、平成19年度は、ES細胞の樹立及び使用について、計62件(うち、平成19年5月の指針改正に伴う審査が36件)の審査を行った。
なお、審査の実施に当たっては、科学技術・学術審議会生命倫理・安全部会の下に設置されている「特定胚及びヒトES細胞等研究専門委員会」(ES専門委員会)における審議を経て実施している。
ES指針について周知徹底を図るため、ES細胞の樹立機関や使用機関において指針の概要についての説明を行うなど、ES細胞の樹立及び使用がES指針に基づいて適切になされるための施策を実施した。
平成13年に策定したES指針について、指針策定後のライフサイエンス研究の進展、社会的動向、本指針の施行状況等を踏まえて、ヒトES細胞を必要とする研究機関の増大、海外への分配の必要性、指針運用の明確化等に対応するため、ES専門委員会において指針の見直しの方向性について検討を進め、平成19年5月に指針を改正した。
平成19年度においては、ES指針の周知徹底等により同指針の違反事例はなかったことに加え、同指針をライフサイエンス研究の進展等に対応して改正したことから、ES指針の運用等はほぼ適切に実施されたものと考えられる。(評価結果:A)
平成15年度 | 平成16年度 | 平成17年度 | 平成18年度 | 平成19年度 | |
---|---|---|---|---|---|
ES細胞樹立計画(新規)の審査件数 | 0 | 0 | 0 | 1 | 2(2) |
ES細胞使用計画(新規)の審査件数 | 7 | 8 | 14 | 7 | 38(34) |
ES細胞樹立計画(変更)の審査件数 | 1 | 0 | 1 | 1 | 2 |
ES細胞使用計画(変更)の審査件数 | 2 | 9 | 22 | 18 | 20 |
ES指針への違反件数 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
※ 平成19年度の括弧内の件数は、指針改正に伴う審査件数(内数)(文部科学省調べ)
法令や指針の運用等の状況を客観的に判断する参考指標として、ES細胞樹立・使用計画の審査件数を用いた。
平成19年度においては、クローン技術規制法及び特定胚指針に基づく届出等はなく、同指針の違反事例もなかった。
現行の特定胚指針では、クローン技術規制法で定める9種類の特定胚のうち、動物性集合胚のみの作成・利用が認められているが、平成16年7月に総合科学技術会議が決定した「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」において、人クローン胚の作成・利用を新たに認める方針が出された。
この方針を踏まえて、人クローン胚の研究目的の作成・利用のあり方について検討を行い、平成20年2月に、特定胚指針等の改正の方向性についての検討結果を報告書として取りまとめた。
平成19年度においては、特定胚指針の違反事例はなく、また、ライフサイエンス研究の進展等に対応して特定胚指針の見直しに向けた検討を着実に進めていることから、特定胚指針の運用等はほぼ適切に実施されたものと考えられる。(評価結果:A)
平成16年7月に総合科学技術会議が決定した「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」を踏まえ、生命倫理・安全部会の下の「生殖補助医療研究専門委員会」(生殖専門委員会)において、厚生労働省と連携を図りつつ、生殖補助医療研究目的でのヒト受精胚の作成・利用に関するガイドラインを策定するための制度的枠組みの検討を実施した。(厚生労働省の厚生科学審議会科学技術部会ヒト胚研究に関する専門委員会と共催により実施。)
現在、生殖補助医療研究を目的としたヒト受精胚の作成・利用は、日本産科婦人科学会の会告による自主規制がなされているが、総合科学技術会議が決定した基本的考え方を踏まえ、国としてガイドラインを策定するための検討が着実に進められているが、現段階ではその策定には至っていない。(評価結果:B)
A
ES指針及び特定胚指針については、指針の周知徹底等により指針への違反事例はなかったことに加え、ライフサイエンス研究の進展等に対応して、ES指針の改正を行うとともに、特定胚指針についても改正の方向性について検討結果を報告案として取りまとめるなどの具体的進展があった。
また、生殖補助医療研究を目的としたヒト受精胚の作成・利用については、総合科学技術会議が決定した基本的考え方を踏まえた国のガイドラインの策定のための検討を着実に進めた。
以上から、研究の発展・動向を踏まえた生命倫理に関する法令・指針に基づいた規制はほぼ適切に実施されたと判断できる。
改正ES指針の施行に伴い、現行指針に基づきES細胞を樹立・使用している全ての機関から提出される新指針に基づく申請の審査を行う。
また、ES細胞研究がES指針に基づき適切になされるよう、新規に使用計画等の申請を検討している機関において、改正ES指針の内容や考え方についてきめ細かい説明を行い、周知徹底を図る。
平成20年2月に取りまとめた報告書の内容を踏まえ、特定胚指針(クローン技術規制法に基づく法定指針)、クローン技術規制法施行規則及びES指針の改正について検討を行うとともに、これらの指針・規則の改正に向けた手続き(パブリック・コメント、クローン技術規制法に基づく関係省庁協議、総合科学技術会議への諮問等)を行う。
昨年度に引き続き、生殖専門委員会において、厚生労働省と連携を図りつつ、生殖補助医療目的でのヒト受精胚の作成・利用に関するガイドラインを策定するための検討を進め、総合科学技術会議にガイドライン案の諮問を行う。
人の尊厳や人権に関わる生命倫理の問題については、法令や指針の整備及び運用を図ることにより、適切に対応してきたが、近年のライフサイエンス研究の急速な発展は、生命倫理に関する新たな諸課題を生み出していることから、これらへの対応に必要となる規制の枠組みの検討に着手するなど、生命倫理に関する諸課題への対応を強化する。
特に、ヒトES細胞等からの生殖細胞の作成・利用については、その是非等について、引き続き具体的な検討を行う。
政策手段の名称 [19年度予算額(百万円)] |
概要 | 19年度の実績 | 21年度の予算要求への考え方 |
---|---|---|---|
ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針(−) | ヒトES細胞の樹立・使用する機関に大臣確認等の義務を課すことにより、ヒトES細胞の適切な研究利用の実施を確保している。 | 指針に基づき、計62件(うち、指針改正に伴うものが36件)の大臣確認申請があった。 指針違反等の事例はなかった。 |
− |
特定胚の取扱いに関する指針(−) | クローン技術規制法に基づき、人クローン胚を含む9種類の特定胚の取扱いを規制し、クローン技術規制法の目的である人の尊厳の保持、人の生命及び身体の安全の確保、社会秩序の維持を確保している。 | 指針に基づく届出等はなかった。 また、指針違反等の事例もなかった。 |
− |
生命倫理等に関する諸課題への取組に必要な経費(35百万円) | ライフサイエンス研究に関する生命倫理等に係る諸課題に対する調査検討及び法令に基づく審査等を実施するための経費 |
|
継続 |
ナノテクノロジーの社会的影響に関する検討や研究を総合的・戦略的に推進することにより、科学的知識基盤を構築する。
(基準年度:18年度・達成年度:22年度)
各判断基準の結果の平均から判断する(S=4、A=3、B=2、C=1と換算する。)
判断基準 | ナノテクノロジーの社会的影響に関する検討 |
---|---|
|
ナノテクノロジーが産業界や大学等の研究など、あらゆる場面で使われるようになった現在、一層研究を振興していくためには、ナノテクノロジーが社会に与える影響や、ナノ物質が人体や環境に与える影響を適切に評価し、社会に受容されなければならない。
ナノテクノロジーが社会に与える影響が最も懸念される例としては、ナノテクノロジーにより産生されるナノ粒子が生体に与える物理生理的な影響が科学的に解明されていないことである。このため、普段の生活においてナノ粒子を経口摂取する可能性が殆ど無いこと、仮に生体が摂取しても有害な影響が無いことを科学的に説明することにより、ナノ粒子の安全性を証明することが求められる。
ナノテクノロジーの社会的影響に関する具体的な検討や研究としては、ナノ物質の有害性評価実験やナノテクノロジーについての市民対話等の課題があるが、文部科学省としては、ナノ物質の特性を明らかにし、その特性・形状を制御して標準的な基盤材料及びその計測技術を開発することなどにより科学的知識基盤を構築し、リスクの評価手法・管理手法の確立を目指している。
こうした状況を踏まえ、平成18年度には科学技術振興調整費「重要課題解決型研究等の推進」のうち「ライフサイエンスやナノテクノロジー等の先端科学技術が社会に与える影響の調査研究」の中で、ナノテクノロジー影響の多領域専門家パネル会議を開催し、「標準的ナノ試験物質とキャラクタリゼーション技術」、「ナノ物質の生体等への影響の優先的試験事項」、「ナノ物質のライフサイクル管理のための動態把握事項」、「ナノテクノロジーの技術アセスメントとコミュニケーション」の4つのタスクフォースを設置して各課題を検討し、これら4領域における課題を抽出し、「ナノ物質の生体・環境影響とコミュニケーションの課題」をまとめた。
また、平成19年9月からは、科学技術振興調整費/科学技術連携施策群の効果的・効率的な推進プログラム「社会受容に向けたナノ材料開発支援知識基盤」を課題とする新規連携施策(東京大学、産業技術総合研究所、物質・材料研究機構)が開始された。社会受容にかかわる、企業、政府・行政、公的研究機関、専門家、マスコミ、市民を含めたすべてのステーテクホルダーが利用できる知的基盤の設計・提案を目指し、最終的には、適切なリスク管理下でのナノ材料の研究開発及び事業化を支援することを目的として、ナノ材料の特性、最善の管理技術動向等に関する内外の情報を融合することで、それら情報の知識化・構造化を図り、ナノ材料開発の共通知識基盤のプロトタイプを構築する。
物質・材料研究機構は、ナノ物質の創製と標準化、ナノ計測装置と技術において世界のトップレベルの水準を有しており、また、「責任あるナノテクノロジーの研究開発に関する国際対話」などの企画・運営にも携わっていることから、本課題の推進のために十分なポテンシャルを有している最適な機関であると判断されたため、平成19年度から「ナノマテリアルの社会的受容のための基盤技術の開発」の研究を開始した。本研究は、平成18年度科学技術振興調整費ナノテクノロジー影響の多領域専門家パネルの3つのタスクフォースによる提言に対応している。
ここでは、1.標準ナノマテリアル創成技術、2.高度ナノスケール計測技術、3.細胞とナノマテリアルの相互作用の解明の研究の各グループを組織し、相互の連携を図りながら研究を実施している。
具体的には、
1.標準ナノマテリアル創成技術
フラーレンナノファイバーの成長機構の解明と、合成したフラーレンナノファイバーの弾性定数、熱的性質、等の特性計測を進め、中空フラーレンナノファイバーがDNA分散生理食塩水を吸収することを発見した。また、体内マーカー候補のフラーレンフェロセン誘導体の合成にも成功した。
2.高度ナノスケール計測技術、
原子間力顕微鏡(AFM)の探針の先端3次元形状を精密に計測する技術の向上により、フラーレンナノファイバーの3次元形状計測用の探針を開発し仕様を確定した。
3.細胞とナノマテリアルの相互作用の解明
フラーレンナノファイバーと細胞との相互作用をヒーラー細胞とL929細胞を用いて、ストレス環境で発現するHSP70B’遺伝子を指標に実験し、フラーレンナノファイバーはこの遺伝子の発現を誘導しないことを発見した。また、細胞へのナノ物質の取込みを調査した結果、ヒト単球様細胞がフラーレンナノファイバーを取り込むことを判明した。
さらに、アウトリーチ活動では、英国王立環境対策委員会との合同ワークショップ開催など、ナノテクノロジーの健全な発展の促進のために、安全衛生から社会科学に至る国内外の多領域専門家との討論の場を企画・運営し、具体的課題の抽出・整理を行った。
また、平成18年度科学技術振興調整費ナノテクノロジー影響の多領域専門家パネルの4つ目のタスクフォースによる提言に対応する形で、平成19年度科学技術振興機構/社会技術研究開発センター(RISTEX)/研究開発領域:科学技術と人間/研究開発プログラム「科学技術と社会の相互作用」新規採択課題「先進技術の社会影響評価(テクノロジーアセスメント)手法の開発と社会への定着」が立ち上げられ、物質・材料研究機構も参画し、相互にプロジェクトメンバーの会合に参加して情報交換するなど、連携をとりつつ推進してきた。加えて、前述の「社会受容に向けたナノ材料開発支援知識基盤」の構築事業において、ナノ材料の研究開発機関として「ナノ材料物性とナノ計測」を分担課題に、参画を開始した。
A
文部科学省独立行政法人基礎基盤研究部会物質・材料研究機構作業部会において、上記の平成19年度の活動等を勘案し評価を行ったところ、「平成19年度から新規に開始したナノマテリアルの社会受容の研究は時宜を得た重要な研究課題であり、妥当な選択であった。」と評価されている。上記のように科学技術振興調整費の研究成果に基づき、標準的ナノ物質の作成・配付やキャラクタリゼーション技術の開発等が順調に進行しており、成果を討論するため種々の研究会が開催されるなど、概ね当初の目的が順調に進捗していることから、標準的ナノ物質とキャラクタリゼーション技術等の検討が順調に進捗していると評価した。
引き続き本研究開発を推進していくが、昨今の物質・材料研究機構の厳しい予算状況を勘案し、予算規模を縮小して実施する。
政策手段の名称 [19年度予算額(百万円)] |
概要 | 19年度の実績 | 21年度の予算要求への考え方 |
---|---|---|---|
物質・材料研究機構「ナノマテリアルの社会受容のための基盤技術の開発」 (運営費交付金15,803百万円の内数) |
標準ナノ試験物質であるフラーレン等を創製し、細胞とこれらの物質との相互作用を解明する。 |
|
予算規模を縮小して実施する。 |
物質・材料研究機構「ナノ材料物性とナノ計測」 (科学技術振興調整費360百万円) |
ナノ材料の物性データの提供、標準物質の選定、物性データ指標ならびに計測方法に関する検討 |
|
予算規模を拡大して実施する。 |
大臣官房政策課評価室
-- 登録:平成21年以前 --