(j)公民館等におけるニート支援モデル事業
「公民館等におけるニート支援モデル事業」は,地域の教育委員会・公民館及びNPO等が雇用関係機関,企業等と連携し,ニートを持つ保護者等を介した段階的なニート対策事業や児童・生徒を持つ保護者等を対象としたニート予防に関する事業をモデル的に実施することにより,全国への事業展開を図るものである。
近年,ニート問題が深刻化している中,社会教育施設は,地域の身近な学習拠点として,地域住民に対する様々な学習機会の提供や,自主的な学習活動及び交流の場として重要な役割を果たしているところである。これらの施設を活用し,若年者の雇用に資するため,平成18年度より当該事業を実施している。
平成18年度,19年度とも4件委託し,それぞれ19回,39回のセミナー等を実施した。
文部科学省にて事業選定委員会を設置し,委託先を選定するとともに事業評価等を行う。
地域において,教育委員会・公民館及びNPO等を中心として,雇用関係機関,企業,カウンセラー等からなる実行委員会を設置し,ニート対策事業・ニート予防事業を実施する。ニート対策事業では,ニートの家族を対象とした講座(ステップ1),ニート及びニートの保護者を対象とした講座(ステップ2)が実施され,講座終了後に追跡調査が行われる。ニート予防事業では,ニートを解消した人やニートを持つ保護者等による体験講演会等を開催し,ニート予防を行う。
労働経済白書(2007年度版)によれば,2006年現在全国のニート人口は62万人と推計されており,働く意欲に乏しい若者が依然として多く残る現状が浮き彫りになっている。このように,若年時に就業することなく,職業能力を高める機会を逸する者が多い状況が継続すれば,社会全体として人材が枯渇すると危ぶまれている。また,ニート自身の意識に注目すると,「自分のやりたい仕事が分からない不安や,他人との関わりへの不安」が大きく,8割が現状に焦りを感じていると分析されている。
さらに,経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006において,「ニートと呼ばれる若者の職業的自立を推進するため,地域の相談体制の充実,学び直しの機会の提供等により,各人の状況に応じた包括的な支援の強化を図る」とされているところである。
一方で,平成16年3月の中央教育審議会生涯学習分科会の審議経過の報告「今後の生涯学習の振興方策について」では,生涯学習の振興について重点的に取り組むべき分野として「職業能力の向上」を挙げ,就きたい職業が見つからない若者,自分がどう生きたらよいのか分からないといったことのために自分探しをしている若者などが多数存在し,こうした人への対応を社会教育施設等においても検討していく必要があるとしている。
これらのことを踏まえ,このため,公民館等の社会教育施設等において,ニートとなっている若者への支援を推進するとともに,ニートを持つ保護者などからの体験談を児童・生徒を持つ保護者が聞くニート予防の事業を実施することとする。
公民館等におけるニート支援モデル事業を実施することにより,以下の効果が現れており,有効性は高い。
委託先 | 委託金額 | 主な事業(開催回数・合計参加人数など) | 主な成果 |
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A | 948,000円 |
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ニート当事者:就労した者2人,継続で外出できはじめた者3人 |
B | 495,174円 |
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参加者:進路(就業)に関して意識が改善した者23.5パーセント(44人) |
C | 781,221円 |
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ニート当事者:就労を斡旋された者1人,アルバイトを始めた者 |
D | 866,389円 |
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ニート当事者:宿泊型の自立支援を行うNPOへつなげた者2人 |
合計 | 3,090,784円 |
本事業の平成19年度委託金額は上記の通りである(予算額は5,000千円)。主な成果として上記のほか,合計で1,000名以上がセミナーに参加し,ニートに対する理解を深めるなど,約3,000千円の事業費で上記のような成果をあげられた本事業の効率性は高い。特に,社会教育施設という既存施設を有効活用できたことは,効率性という観点から望ましい。
表10−1 事業におけるセミナー等開催数及び総参加者数 | |||||||||
(出典:19年度委託事業実績報告書) | |||||||||
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表10−2 事業を通じた参加者の進路(就業)に対する意識変化 | |||||||||
(出典:19年度委託事業実績報告書) | |||||||||
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上記表は,平成19年度に委託した1団体が実施した,ニート自身への追跡調査結果をまとめたものである。進路(就業)に対する意識が改善した者の割合が,3ヶ月後では17.5パーセント,6ヶ月後では23.5パーセントと改善している。また,悪化した者の割合も,3ヶ月後の8.2パーセントから4.3パーセントに改善しており,参加者の就業に対する意識を向上させるとともに,段階的に就業意識が低下していくことを防止できた。これらの数値には,単発の交流から,長期的な関わりを促し続けた結果が反映していると思われる。
表10−3 ニートやひきこもり傾向の若者に対する参加者の意識変化 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(出典:19年度委託事業成果報告書) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
<質問:ニートやひきこもり傾向の若者について>
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上記表は,平成19年度に委託した1団体が,講座実施後に参加者に対して行ったアンケート結果である。この結果から,セミナー参加者のほとんどが,この問題に対する理解を深めていることが明らかになるとともに,ニートやひきこもり傾向の若者に対して,セミナー参加前よりも肯定的なイメージを持つようになっている。また,この問題を,他人事ではなく身近な問題として捉えるとともに,解決は難しいが大切な課題であると捉えるようになっている。ニートやひきこもり傾向の若者の自立を支援するため,保護者や地域の住民をはじめとした参加者がニート問題を自らの課題として捉え,若者の理解促進と意識改革を行うことができ,若年者の雇用に資するものと思われる。
ニートになる背景には発達障害,学習障害,不登校など様々な要因が考えられる。事業委託先からは,それぞれの要因に応じて,障害者職業センターに紹介するなど,本事業の波及効果と認められる成果があげられている。
事業委託先として選定された地域は,全国平均と比べて若年無業者(ニート)率が高い地域が多く,ニート問題に取り組む比較的意識の高い地域が実施しているものと思われる。今後は,本事業でモデル的に実施された事業が,全国でも展開されることが望まれる。
セミナー等開催数・総参加者数は年を追って増加しているものの,事業委託先からは,広報誌・新聞等で情報を流しても面識のないニート当事者の参加を得ることが容易ではない,という声が聞かれる。今後は各事業において,ニート当事者をどう掘り出して,参加を呼びかけるか,また,より多くの方(特にニート当事者)が参加しやすい環境をどうつくるかが課題として挙げられる。
また,このたび事業評価では,ニート当事者やセミナー参加者等に関するデータが全般的に不足していた。全ての事業委託先から,可能な限り追跡調査を実施する等,事業の成果を評価するためのデータを多く集めることが望まれる。
なお,ニートに対する理解を深め,公民館等で行うニート対策事業のモデル事例として一定の効果をあげることができたことから,本事業を平成20年度限りで廃止する。今後は,当該事業についての情報を積極的に発信するなどして,モデル地域以外でも同様の事業が実施されるよう努める。
-- 登録:平成21年以前 --