3.各事業の評価

(g)現代的教育ニーズ取組支援プログラム

1.事業の概要

(1)事業目的

 「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」は,各種審議会からの提言等,社会的要請の強い政策課題に対応したテーマ設定を行い,各大学・短期大学・高等専門学校(以下「大学等」という。)から申請された取組の中から,特に優れた教育プロジェクト(取組)を選定し,広く社会に情報提供するとともに,財政支援を行うことで,これからの時代を担う優れた人材の養成を推進することを目的としている。

(2)事業に至る経緯・背景

 大学の個性化・多様化や国際競争力の強化が求められる中,大学における教育の質の充実や,世界で活躍し得る人材の養成が重要な課題であることから,各大学が,教育面での改革を推進するとともに,個性・特色を一層明確にしていくことができるよう,国公私立大学を通じ,競争的な環境の下で大学改革への取組を支援していく必要がある。
 そのため,文部科学省では,国立大学に対する運営費交付金や私立大学に対する私学助成などの基盤的な経費だけでなく,国公私立の別を問わず競争的な資源配分により各大学等の教育改革を促し,社会の様々なニーズに対応できるよう様々な支援策を充実させている。具体的には,世界最高水準の教育研究拠点を形成するためのプログラムや,大学の教育内容・方法の高度化・豊富化を図るためのプログラムなどを実施しており,その一環として,「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」を実施している。

(3)事業概要

 本事業では,国公私立大学,短期大学,高等専門学校が,大学等としてのビジョンを踏まえ,学長(高等専門学校は校長)を中心とするマネジメント体制の下,それぞれのテーマの趣旨・目的にそって確実な計画のもとに新たな大学教育改革を図ろうとしているもので,我が国の大学教育改革に資する取組(教育プロジェクト)を対象として募集を行っている。平成19年度においては,「社会的要請の強い政策課題に対応したテーマ」として,

  • (テーマ1)「地域活性化への貢献(地元型)」
  • (テーマ2)「地域活性化への貢献(広域型)」
  • (テーマ3)「知的財産・コンテンツ関連教育の推進」
  • (テーマ4)「持続可能な社会につながる環境教育の推進」
  • (テーマ5)「実践的総合キャリア教育の推進」
  • (テーマ6)「教育効果向上のためのICT活用教育の推進」

の6テーマを設定し,これらのテーマに対し各大学等から申請のあった取組について,有識者・専門家等で構成される「現代的教育ニーズ取組選定委員会」において審査を行い,優れた取組を選定している。選定された取組に対しては,3年程度の期間で財政支援(1件あたり24百万円〜16百万円を上限)を行っている。

(4)これまでの実績

 本事業は,平成16年度から実施しており,19年度までの4年間で2,233件の申請があり,401件の優れた取組を選定しているところである。

「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)」

2.必要性,有効性,効率性

(1)必要性

 経済構造の変化や雇用形態の多様化等を背景に,非正規雇用の増大等若者の進学・就職をめぐる環境が大きく変化してきている。また,早期離職する若者や進学も就職も決まらないまま卒業する若者の存在等,若年者雇用が大きな社会問題となっている。こうした中,大学・短期大学・高等専門学校においても,学生に高い職業意識・能力を身に付けさせるためのキャリア教育の取組が重要であり,その体系的・組織的な取組を広げていく必要がある。
 「若者の自立・挑戦のためのアクションプラン」,「我が国の高等教育の将来像」等の提言においても,文部科学省の役割として,厚生労働省等の関係府省庁との緊密な連携・協力のもと,キャリア教育の推進に関する支援等が求められている。特に高等教育段階においては,初等中等教育や職業能力開発等に係る諸施策と効果的に連携しつつ,インターンシップの推進や職業意識・能力の形成支援等を通じて,若年者の職業的自立に寄与していくことが求められており,具体的な施策として,大学等における職業意識・能力の育成に関する種々の取組の中から,特色ある優れた取組に対する支援等を行うこととされている。
 以上のことから,平成18年度より「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」のテーマの一つとして「実践的総合キャリア教育の推進」を設定し,大学等における質の高いキャリア教育の促進を図っている。

【参考:関連する閣議決定・答申等】

  • 若者の自立・挑戦のためのアクションプラン(平成16年12月24日:若者自立・挑戦戦略会議)
  • 我が国の高等教育の将来像(平成17年1月28日:中央教育審議会)
  • 経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006(平成18年7月7日:閣議決定)
  • グローバル戦略(平成18年5月18日:経済財政諮問会議)
  • 再チャレンジ可能な仕組みの構築(中間まとめ)(平成18年5月30日:再チャレンジ推進会議)
  • 経済成長戦略大綱(平成18年7月6日:財政・経済一体改革会議)
  • 再チャレンジ総合プラン(平成18年12月25日:「多様な機会ある社会」推進会議)
  • キャリア教育等推進プラン−自分でつかもう自分の人生−(平成19年5月29日)

(2)有効性

 「実践的総合キャリア教育の推進」については,選定された大学等において,地域の潜在的教育能力の活用等により,実践的かつ体系的なキャリア教育を実現し学生の高い職業意識・能力の育成を図り,さらに,全国の国公私立大学等において組織的なキャリア教育が実施されるようその普及を図ることを目標としている。
 平成18年度は173件の申請中33件,平成19年度は153件の申請中30件の優れたキャリア教育に関する取組を選定(採択率それぞれ18.8パーセント,19.6パーセント)した。さらに,フォーラム等の開催により広く社会への情報提供を行うことにより,各大学等において組織的なキャリア教育の取組が進んでおり,多くの取組が3年間の継続事業の途中段階ではあるが,着実に成果が出つつあると考えられる。また,各取組が達成年度を迎える平成20年度以降,個々の選定取組について最終的にどのような実績及び成果が得られたのか,その実施状況を把握し併せて成果等の情報を取りまとめて公表することで,キャリア教育のさらなる普及を図ることとしている。

(3)効率性

 本テーマにおいては,国公私立大学等を通じて多くの申請(平成18年度173件,平成19年度153件)が出された中で,優れたキャリア教育の取組を選定(平成18年度33件,平成19年度30件)し財政支援を行うことによって,競争的な環境の整備や資源配分の効率化が図られている。
 また,本テーマでは,大学等がこれまでのキャリア教育に関する知見を活かしながら,実践的かつ体系的なキャリア教育を実現しするものであり,地方自治体・民間委託等にはなじまないものである。
 さらに,本テーマにおいては,他の大学等のキャリア教育の促進に資するよう,選定された取組をホームページ等で公開し広く社会に情報提供することで,高等教育全体の活性化促進という波及的効果も有している。

3.施策の効果及び貢献度(ロジック・モデルとの関係)

(1)施策の直接的効果及び分析

 本テーマについて,平成18年度と平成19年度の2回の公募における各国公私立大学等からの申請・選定状況は表7−1の通りとなっており,本テーマの実施による直接的な効果は以下のことが挙げられる。

  • 1)両年度とも,学校の設置者や学校種に偏ることなく,選定件数に対し5倍を超える申請があり,精選されたキャリア教育の取組を選定した。このように多くの大学から申請があったことは,選定されなかった大学も含めて,組織的に体系化されたキャリア教育を実施していくという意識改革が図られたものと考えられる。
  • 2)初年度33件,2年目30件,計63件の取組を選定し,優れたキャリア教育に関するプログラムが進められつつある。

 例えば,阪南大学においては,仕事の聞き取り調査とそのレポート作りなどを行う入学前プログラムからはじまり,社会で活躍するための意思をかん養する「キャリアデザイン」「キャリアアップ」「起業塾」「インターンシップ」などの全学共通科目と,学部ごとに社会で活躍するためのスキルを身につけさせる科目を設定し,段階的にステップアップさせるほか,ゼミのテーマを大阪府中小企業同友会などをはじめとする地域の企業や自治体等から公募し,実社会の課題解決を通して実践性を身につけるプログラムがスタートしている(4.成果事例(2)参照)。
 また,日本福祉大学においては,福祉を広くとらえたキャリア教育プログラムと学部教育を,基礎教育,専門基礎教育,キャリア形成教育の三本柱からなる「新ふくしキャリア教育カリキュラム」として体系化し,福祉分野の新しい社会ニーズに基づいた基礎学力と実務能力を備えた人材を育成することを目指している。とりわけ,キャリアクレジット制度と学内地域通貨,学生カルテ等によるキャリアポートフォリオシステムなど学生の主体的学習や学習意欲の向上を助ける手法が取り入れている点で創意工夫のあるプログラムとなっている(4.成果事例(1)参照)。
 こうした特色ある取組が選定された各大学で進められているところである。

表7−1:「実践的総合キャリア教育の推進」申請・選定状況
  単独申請 共同申請 合計
国立 公立 私立 小計
申請件数 選定件数 申請件数 選定件数 申請件数 選定件数 申請件数 選定件数 選定 申請件数 選定件数 選定 申請件数 選定件数 確定
平成18年度 大学 41 9 13 3 88 15 142 27 19.0パーセント% 4 1 25.0パーセント% 176 33 18.8パーセント%
短大 0 0 0 0 18 3 18 3 16.7パーセント%
高専 11 2 0 0 1 0 12 2 16.7パーセント%
平成19年度 大学 29 6 16 4 75 13 120 23 19.2パーセント% 4 0 0.0パーセント% 153 30 19.6パーセント%
短大 0 0 1 0 17 3 18 3 16.7パーセント%
高専 10 4 0 0 1 0 11 4 36.4パーセント%
  • (注)選定率イコール選定件数わる申請件数

(2)施策の間接的効果及び分析

 現代的教育ニーズ取組支援プログラムにおいては,文部科学省においてフォーラム等を開催するほか,選定された各大学においても自ら選定取組の内容,成果等を各大学のwebサイト等を活用し積極的かつ継続的に社会へ情報提供を行うこととしており,また,財政支援機関終了後には必要に応じ状況調査等を行い,広く社会に情報提供することとしている。
 現在,本テーマに選定された計63件の優れたキャリア教育に関する取組が実施されているが,職業意識の形成等を目的とする授業科目の開設大学数(図7-1:「学生の就職・採用活動に関する調査」《就職問題懇談会,調査対象:国公私立大学・短期大学・高等専門学校,調査時期:毎年度》から集計),及びインターンシップの実施大学等数(図7-2:「インターンシップ実施状況調査」《文部科学省,調査対象:国公私立大学・短期大学・高等専門学校,調査時期:毎年度,回答数:100パーセント》から集計)はともに着実に伸びており,以下の点から本テーマの取組実施による間接的な効果があると考えられる。

  • 1)本テーマの取組選定にあたっては,インターンシップ等の実践的教育及び正課・正課外教育に渡る職業意識・能力の育成を目的とした総合的な取組を対象としていることから,選定された取組を実施することで,職業意識の形成等を目的とする授業科目の開設やインターンシップを実施する大学等の拡大に寄与していると考えられる。
  • 2)文部科学省主催のフォーラムや選定された大学等における情報提供等により,各大学等における取組の推進や改善に貢献しているものと考えられる。

図7−1:職業意識の形成等を目的とする授業科目の開設状況

図7−2:インターンシップ実施状況調査

4.成果事例(選定大学等の取組内容)

(1)平成18年度選定

大学等名
日本福祉大学
取組名称
新ふくしキャリア時代を生きる人材の養成−新ふくしキャリア教育カリキュラムとキャリアポートフォリオシステムによるキャリア形成を目指して−
取組概要
日本福祉大学は福祉関係の総合的大学として,その教育資源を活用し,広範な仕事の広がりに対応したキャリア教育体系を構築した「新ふくしキャリア教育」により,福祉ビジネス企業をはじめ,様々な職場で福祉をテーマとした事業の展開と創造を進める人材の育成を行っている。
実施状況
  • オンデマンド講義科目「福祉の仕事」等23科目を開講(のべ1,237人が単位取得)
  • キャリアポートフォリオシステムの運用(1キャリア教育関係科目の成績評価2ボランティア活動等キャリア形成に関わる諸活動のポイント化した学生カルテ(総合評価表)の作成し,Webでの就職情報等提供,学内地域通貨としての利用,進路開拓力判定による進路(就職)支援)
  • キャリア支援スタッフ2名の配置
  • 「平成19年度大学教育改革プログラム合同フォーラム」(文部科学省・財団法人文教協会主催)等での取組紹介

(日本福祉大学のホームページより抄)

  新ふくしキャリア教育は新ふくしキャリア教育カリキュラムとキャリアポートフォリオシステムによって構成される。
  この教育カリキュラムは,新ふくし基礎教育(基礎科目群),新ふくし専門基礎教育(専門基礎科目群),新ふくしキャリア形成教育(キャリア形成科目群)の3つの教育体系で構成する。それぞれの教育体系は,すべて講義科目,実践科目,進路レポートで構成され,学ぶ,動く(作業や実体験),まとめる・書くという要素を組み込む。
  キャリアポートフォリオシステムは,この取組のオペレーティングシステムとして,教育の実効性を支える。総合評価表(学生カルテ),キャリアクレジット制度,進路開拓力判定の三要素で構成される。
  なお,既存の学部におけるキャリア教育,進路(就職)支援などとは,相互に補完,刺激しあい,関連性を明確にしつつ,協働して学生の教育にかかわるものとする。

新ふくしキャリア教育 全体図

キャリアポートフォリオシステムの概要

(2)平成19年度選定

大学等名
阪南大学
取組名称
実学指向型総合型キャリアシステムの構築−キャリアポートを活用した地域社会や企業等との連携協力型人材育成プログラムの展開−
取組概要
 本取組は,正課・正課外による阪南大学キャリアステップアッププログラムと,キャリアポート(実学実践の体制)を活用した地域社会課題解決型プログラムを組み合わせることにより,地域社会に開かれた大学として,実学指向型総合的キャリアシステムの構築を目指す。
 「キャリアゼミ」,「起業塾」,「ジュニア起業塾」などをキャリアサポートに統合化し,地域社会課題解決型人材を育成する体制として展開させるものである。
 本取組は,以下の点を特徴としている。
  • (1)現行のゼミや正課科目をキャリアサポートとして展開させる。
  • (2)既存の「中小企業ベンチャー支援センター」等の組織を活用し,企業や地域社会の持つ課題を教育現場にフィードバックする。
  • (3)この取組により,キャリアサポートの構築を通じて,インキュベーション(起業支援)を手掛けるプログラムを展開する。
 本取組は,「実学重視の教育」を掲げている本学の教育目標と合致した取組である。

(阪南大学のホームページより抄)

  本学は実学教育を教育目標として「社会で活躍するステージを自ら設定し,その実現のために行動していく意志やスキルの獲得」を「キャリア」と定義し,「しないさせないフリーター」のスローガンのもと2000年より本格的にキャリア教育をすすめてきました。
  各年次ごとに正課教育と正課外教育を組み合わせたキャリアステップアッププログラムによって,就職意欲と社会人基礎力を持った自律的人材を育てる段階までたどり着き,ニート・フリーター対策にも効果をあげています。

  下図の青い大きな丸で囲まれたキャリア連絡会議に,上の方に記載している中小企業ベンチャー支援センターなどがすでにインターフェースとして関わっています。これらからインプットされる解決すべき課題・ニーズがキャリア連絡会議に示され,このニーズに対して例えば専門ゼミの中から課題解決参加への応募を募り,審査の上,キャリアゼミに採用します。採用されたものは課題を単なる教材としてではなく,実践的な課題として取り組み,キャリア連絡会議を経て課題を提示した企業や地域社会に解決策を返すという取組を行います。
  そこでは実社会の社会的キャリアを学びつつ,大学の知,つまり専門科目の知識を課題解決のために活用することを通して専門科目とキャリア教育の合体を果たします。結果として本学の教育目標であり,現代社会のニーズである課題解決型自律的人材が養成されることとなります。

  具体的に,キャリアポート化の進んでいるゼミの事例を一つ紹介します。
  大阪の労働者の街である愛隣地区の労働者の減少と治安の改善を求める地元の要請(課題)を受けて,労働者用ビジネスホテルを低廉な宿を求める外国人観光客のために利用をすすめる取組をしているゼミがあります。
  そのための企画,マーケティング調査,外国語パンフレットへの翻訳等を通し,これまで学んできた専門知識を生かして課題解決を実現し,1泊2,000円で多くの外国人観光客を迎えるホテルとして成功させております。社会的キャリアと専門教育が合体した一例です。

5.まとめ

(1)評価のまとめ

 若年者雇用が社会問題となる中で,大学等における学生の高い職業意識・能力の育成のため実践的かつ体系的なキャリア教育を組織的に行なう取組を選定し,財政支援を行なうとともに,広く社会に情報提供を行なうことによる,質の高いキャリア教育の促進を目的として,「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」のテーマとして平成18年度から「実践的総合キャリア教育の推進」を設定している。
 平成18年度は173件,平成19年度は153件の申請があり,それぞれ33件,30件の優れたキャリア教育に関する取組を選定しており,当初想定通りの事業展開が図られている。また,選定に当たっては,選定件数に対し5倍を超える申請があり,競争的な環境の整備や資源配分の効率化が図られている。
 さらに,職業意識の形成等を目的とする授業科目の開設大学数やインターンシップの実施大学等数の拡大にも貢献していることが言える。

(2)今後の課題等について(評価結果の今後への反映等)

 「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」については,他のプログラムと発展的に統合し,平成20年度からは「質の高い大学教育推進プログラム」として引き続き大学教育改革の取組の支援を行っている。この事業は,大学設置基準改正等へ積極的に対応しつつ,それぞれの人材養成目的に沿った確実な計画のもとに教育の質向上を図ろうとする優れた取組を支援するものである。具体的には,教養教育,高大連携,FD(教員の職能開発),キャリア教育など教育の質向上への取組や政策課題対応型の優れた取組を支援することとしており,21年度以降も事業の充実が図れるよう取り組んでいくこととしている。
 また,各取組の支援期間終了後,最終的にどのような実績及び成果が得られたのか,その実施状況を把握し併せて成果等の情報を取りまとめることとしている。

-- 登録:平成21年以前 --