3.各事業の評価

(f)産学連携による実践的人材育成事業

1.事業の概要

(1)事業目的

 本事業は,多様な社会の要請に対応できる人材や,新たな産業を創出する創造性豊かな人材など,実践的な人材を育成するため,大学・短期大学・高等専門学校における産学連携による実践的な環境下での教育プログラムの開発・実施を通じて,大学等の実践型人材育成機能の強化を図ることを目的とする。

(2)事業に至る経緯

 近年,大学及び産業界の双方で科学技術人材育成の大きな課題として「高度専門人材」の育成が急務であるとの認識が高まっている。
 このような人材育成上の課題認識を背景として,総合科学技術会議や科学技術・学術審議会において,単位認定を前提とした,長期のインターンシップの拡充が提言され,平成17年度から文部科学省において「派遣型高度人材育成協同プラン」を実施し,大学院における質の高い長期インターンシップ・プログラムの開発・実施を支援している。また,その後策定された「第3期科学技術基本計画」,「長期戦略指針『イノベーション25』」等累次の閣議決定,答申においても,産学が協働した質の高い長期のインターンシップの構築支援・普及が求められている。
 さらに,「第3期科学技術基本計画」等において,定年技術者の大量退職(2007年問題),若年層のものづくり離れの問題,及びサービスに関して高い専門性を有しイノベーション創出に寄与しうる人材育成の必要性が指摘されるなか,このような課題に対応するため,平成19年度から「ものづくり技術者育成支援事業」及び「サービス・イノベーション人材育成推進プログラム」を実施し,ものづくり人材の育成,サービス全般においてイノベーションを創出する人材育成を行っている。
 平成20年度からは,産学連携教育の充実を一体的に推進していくため,「派遣型高度人材育成協同プラン」,「ものづくり技術者育成支援事業」及び「サービス・イノベーション人材育成推進プログラム」の3事業を発展的に統合し,大学等の実践型人材育成機能の強化を図る「産学連携による実践型人材育成事業」(平成20年度予算額733百万円)として事業を展開している。

(3)事業概要

 本事業では,国公私立大学等が,大学等としてのビジョンを踏まえ,学長等を中心とするマネジメント体制の下,それぞれのテーマの趣旨・目的にそって産学連携による実践型人材の育成に資する新たな教育プログラムの開発・実施を行う委託事業である。
 委託にあたっては,それぞれのテーマ毎に専門の有識者・専門家等で構成される選定委員会において審査を行い,優れた取組を選定している。

1.長期インターンシップ・プログラム開発

○対象
大学院博士課程前期・後期
○予算額
  • 平成17年度 130百万円
  • 平成18年度 247百万円
  • 平成19年度 234百万円
○委託期間
5年間
○要件
  •  正規の教育課程に位置づけされた3ヶ月以上の質の高い長期インターンシップ
  •  産学が協力して守秘義務など十分な事前教育,事後教育の実施 など
○実績
  • 平成17年度 申請55件 選定20件
  • 平成18年度 申請30件 選定10件
  • 平成19年度 中間評価20件(平成17年度選定事業対象)

2.ものづくり技術者育成

○対象
大学,短期大学,高等専門学校
○予算額
平成19年度 150百万円
○委託期間
3年間
○要件
  •  地域,産業界と連携した実験・実習と講義を有機的に組み合わせた実践的な教育プログラム
  •  企業等の技術者が有するものづくりの知識,ノウハウ等の現場の技術の維持,確保に資する人材育成 など
○実績
平成19年度 申請79件 選定12件

3.サービス・イノベーション人材育成

○対象
大学,大学院博士前期・後期課程
○予算額
平成19年度 150百万円
○委託期間
3年間
○要件
  •  社会科学,自然科学等の複数の学問分野の融合等による新たな知識の体系化
  •  ビジネス・IT・人間系知識等サービス分野の土台となる知識・スキルを分野横断的に扱うことにより,幅広分野に応用力を発揮できる人材育成
  •  広くサービス全般においてイノベーションを創出する人材育成 など
○実績
平成19年度 申請35件 選定6件
産学連携による実践型人材育成事業

2.必要性,有効性,効率性

(1)必要性

 近年,科学技術人材育成の大きな課題として,自らの専門分野の位置づけを社会的活動全体の中で理解し,現実的課題の中から主体的に問題設定を行い,それに取り組む能力のある「高度専門人材」の育成が急務であるとの認識が,大学及び産業界の双方で高まっている。(図6−1−1,−2「民間企業の研究活動に関する調査」(文部科学省,調査対象:資本金10億円以上の民間企業,調査時期:平成19年2〜3月,回答数941社)
 このような人材育成上の課題認識を背景として,総合科学技術会議や科学技術・学術審議会人材委員会等において提言が取りまとめられた。その中で,創造性豊かで国際的にリーダーシップを発揮できる,広い視野と柔軟な発想を持つ人材を育成するため,実践の場を体験する機会を拡充する方向性が打ち出され,その具体的方策として,単位認定を前提とした,比較的長期のインターンシップの拡充を国として支援することとされた。こうした提言等を受け,平成17年度から「派遣型高度人材育成協同プラン」を実施し,大学院における質の高い長期インターンシップ・プログラムの開発・実施を支援している。また,その後策定された「第3期科学技術基本計画」,「長期戦略指針『イノベーション25』」等累次の閣議決定等においても,産学が協働した質の高い長期のインターンシップ体系の構築支援・普及が求められている。
 加えて,定年技術者の大量退職(いわゆる2007年問題),若年層のものづくり離れ,工学部志願者の減少等が社会的な問題となっている。こうしたことを背景に「第3期科学技術基本計画」において,団塊世代が有する知識やノウハウによって培われてきた製造中核技術を維持・確保していくための技術者の養成が課題とされ,大学等の役割として,将来のものづくり人材を含めた技術者養成のための実践的教育を進めることが必要とされた。
 さらに,経済に占めるサービス産業の割合が増加する一方,その生産性が諸外国に比べて低位であるといった課題が指摘され,サービス分野のイノベーションを促進するための研究の推進と人材の育成の強化が必要とされている。
 以上の社会的要請に応えるため平成19年度から「ものづくり技術者育成支援事業」,「サービス・イノベーション人材育成推進プログラム」を実施し,ものづくり技術者の育成及びサービスに関して高い知識と専門性を有し,生産性の向上やイノベーション創出に寄与しうる人材育成のための教育研究の充実を図っている。

【参考:関連する閣議決定・答申等】

  • 科学技術と社会という視点に立った人材養成を目指して(平成16年7月16日:科学技術・学術審議会人材委員会)
  • 学技術関係人材の育成と活用について(平成16年7月23日:総合科学技術会議)
  • 新時代の大学院教育(平成17年9月5日:中央教育審議会)
  • 第3期科学技術基本計画(平成18年3月28日:閣議決定)
  • グローバル戦略(平成18年5月18日:経済財政諮問会議
  • 経済成長戦略大綱(平成18年7月6日:財政・経済一体改革会議)
  • 長期戦略指針「イノベーション25」(平成19年6月1日:閣議決定)
  • 経済財政改革の基本方針2007(平成19年6月19日:閣議決定)

図6−1−1(新卒採用の修士課程修了者で期待を下回る者の理由)

図6−1−2(新卒採用の博士課程修了者で期待を下回る者の理由)

(2)有効性

 本事業は,多様な社会の要請に対応できる人材や,新たな産業を創出する創造性豊かな人材など,実践的な人材を育成するため,大学等における産学連携による実践的な環境下での教育プログラムの開発・実施を通じて,大学等の実践型人材育成機能の強化を目的とするものでる。
 また各テーマにそれぞれ,1大学院における質の高い長期インターンシップ・プログラム,2ものづくり技術者育成を図る優れた教育プログラム,3サービスに関して高い専門性を持った人材育成を図る教育プログラムの開発・実施を目的としている。
 本事業を開始して以来,1については平成17年度55件申請中20件(採択率:36パーセント),平成18年度30件申請中10件(採択率:33パーセント),2については平成19年度79件申請中12件(採択率:15パーセント),3については平成19年度35件申請中6件(採択率:17パーセント)の優れた取組を選定した。
 さらに,フォーラム等の開催により広く社会への情報提供を行うことにより,各大学等において質の高い長期インターンシップ等の実践的な人材育成に資する組織的な取組が進んでいる。
 本事業は1に関しては5年間,2及び3に関しては3年間の継続事業であり,選定した取組について,事業の途中段階ではあるが,平成19年度に実施した1の中間評価の状況から判断しても当初目標にしていた成果は着実に出ていると考えられる。また,各取組が達成年度を迎える平成21年度以降,個々の選定取組について,その実施状況等の最終評価を行い,質の高い長期インターンシップ・プログラム,ものづくり技術者育成教育,サービス人材育成教育のさらなる普及を図ることとしている。

(3)効率性

 本事業は,テーマ毎に大学等がそれまでの教育研究資源を活用しながら産学連携による実践的な環境下での教育プログラムの開発を公募方式により委託するとともに,ホームページ等で選定された取組を公開し普及を図っており,大学等の実践型人材育成機能の強化という目的を達成するために適切なものである。
 また,本事業では,例えば,日本で未だ定着していない大学院における長期間のインターンシップ・プログラムのモデルを開発・実施を委託するものであり,地方自治体・民間委託等にはなじまないものである。

3.施策の効果及び貢献度(ロジック・モデルとの関係)

 本事業の各テーマについて,平成17年度からの公募を通じての各国公私立大学等からの申請・選定状況は表6−1−1〜3の通りとなっており,本事業の実施による効果は以下のことが挙げられる。

  • 1) 選定に当たっては,国公私立の別を問わず大学・短期大学・高等専門学校を通じて,選定件数に対し約3倍から7倍の申請があり,競争的な環境の整備や資源配分の効率化が図られ,質の高い長期インターンシップ,ものづくり人材育成,サービス人材育成のための取組が選定された。
  • 2) 平成17年度以降,長期インターンシップ・プログラム開発30件,ものづくり技術者育成12件,サービス・イノベーション人材育成6件の取組を選定しており,当初想定通り,高度専門職業人など実践的な人材育成に関する優れたプログラムの開発が始まっている。
     例えば,長期インターンシップ・プログラム開発では,岡山大学において,瀬戸内圏企業と連携して設置した演習・実習等を行うセンターでの合同インターンシップの実施及び,その後の個別企業へのインターンシップ実施による段階的な長期インターンシップモデルが構築されつつある。

表6−1:「産学連携による実践型人材育成事業」申請・選定状況

表6−1−1長期インターンシップ・プログラム開発

  単独申請 共同申請 合計
国立 公立 私立 小計
申請件数 選定件数 申請件数 選定件数 申請件数 選定件数 申請件数 選定件数 選定率 申請件数 選定件数 選定率 申請件数 選定件数 選定率
平成17年度 40 14 4 1 9 3 53 18 34パーセント% 2 2 100パーセント% 55 20 36パーセント%
平成18年度 23 8 1 0 6 2 30 10 33パーセント% - - - 30 10 33パーセント%

表6−1−2ものづくり技術者育成

  単独申請 共同申請 合計
国立 公立 私立 小計
申請件数 選定件数 申請件数 選定件数 申請件数 選定件数 申請件数 選定件数 選定率 申請件数 選定件数 選定率 申請件数 選定件数 選定率
平成19年度 大学 23 4 2 0 15 2 40 6 15パーセント% 11 1 9パーセント% 79 12 15パーセント%
短大 - - - - 2 0 2 0 0パーセント%
高専 24 4 1 0 1 1 26 5 19パーセント%

表6−1−3サービス・イノベーション人材育成

  単独申請 共同申請 合計
国立 公立 私立 小計
申請件数 選定件数 申請件数 選定件数 申請件数 選定件数 申請件数 選定件数 選定率 申請件数 選定件数 選定率 申請件数 選定件数 選定率
平成19年度 16 4 1 0 16 2 33 6 18パーセント% 2 0 0パーセント% 35 6 17パーセント%

4.成果事例

平成18年度選定取組概要

5.まとめ

(1)評価のまとめ

 「産学連携による実践的人材育成事業」は,国公私立大学等が,長期インターンシップ・プログラム開発(平成17年度〜),ものづくり技術者育成(平成19年度〜),サービス・イノベーション人材育成(平成19年度〜)といった社会的要請のあるテーマについて,産学連携による実践型人材の育成に資する新たな教育プログラムの開発・実施を行う委託事業である。
 平成17年度の事業開始以降,長期インターンシップ・プログラム開発30件,ものづくり技術者育成12件,サービス・イノベーション人材育成6件の優れた取組を選定しており,当初想定通りの事業展開が図られている。また,各テーマそれぞれに,選定件数に対し約3倍から7倍の申請があり,競争的な環境の整備や資源配分の効率化が図られている。
 さらに,比較的長期のインターンシップを実施する大学院研究科数,参加学生数ともに大きな伸びを示しており,実践的な人材育成に関して,本事業による効果が現れていると考えられる。

(2)今後の課題等について(評価結果の今後への反映等)

 本事業については,上述のとおり,平成19年度までは3つの異なる事業として実施してきたが,平成20年度からは,産学連携教育の充実を一体的に推進していくため,3事業を発展的に統合し,大学等の実践型人材育成機能の強化を図る「産学連携による実践型人材育成事業」として引き続き,優れた取組への支援を行っていく。
 長期インターンシップ・プログラム開発に関しては,これまで我が国においてほとんどなかった数ヶ月にわたる企業派遣を通じて高度専門人材を育成する新しい人材育成モデルが創出されつつある,今後,この委託事業の成果・課題を分析し,産学連携によるより効果的な長期インターンシップをいかに大学院全体に展開を図っていくかが課題である。
 ものづくり技術者育成及びサービス・イノベーション人材育成に関しては,3年間の委託事業が開始されたばかりであることから,各年度の各取組の実施状況を踏まえながら課題等を検証するとともにモデル事業の普及について検討を行っていく。
 また,各取組の委託期間終了後,最終評価を行うとともに最終的にどのような実績及び成果が得られたのか,その実施状況を把握し併せて成果等の情報を取りまとめることとしている。

-- 登録:平成21年以前 --