3.施策の効果分析 1 主要な施策の効果分析

(1)一貫指導体制構築

  一貫指導対象者と同世代の一貫指導対象以外の国内大会上位成績者の成績、および、一貫指導対象者と一貫指導システム導入前の同レベルとの選手の成績を比較し、一貫指導システムがどの程度、競技成績に影響を与えたのかを分析した。調査対象は日本水泳連盟(シンクロナイズド・スイミング)と日本卓球連盟である。

1.日本水泳連盟(シンクロナイズド・スイミング)

  まず、日本水泳連盟(シンクロナイズド・スイミング)では、「オーディション選考選手8名(選考9名の内、2001年時点で大会不参加だった選手1名を除く)」を一貫指導システムの対象として位置づけた。2001年におけるオーディション選考選手の2004年までの成績は、2002年度、2003年度に多少ばらつきがあったものの、2004年度には8名全員が10位以内に入っている。平均順位で見ると、2001年が10位で、2002年、2003年は、若干下がっているものの、2004年には5位と上昇し、標準偏差(ばらつき)は、2001年が11.90だったものが、年々低下し、2004年には3.10と大幅に低下している。(2002年、2003年、2004年の大会不出場者は算定対象外とした。以下同じ。)
  一方で、同世代のオーディション選考選手以外の大会上位12選手の2002年度、2003年度、2004年度の成績は、伸びはほとんど見られず、成績のばらつきが大きい。平均順位で見ると、2001年が10位であったものの、翌年36位に大幅に低下して、その後上昇するものの、2004年には14位のままであり、標準偏差(ばらつき)も、2001年が4.05だったものが、2004年には7.05と拡大している。
この両者を比較したとき、オーディションによって将来性を見込んで発掘した選手の方が順調に競技力を向上させていることは明らかであり、一貫指導システムの効果は大きいものと考えられる。

  図表2‐20 一貫指導システム対象・非対象の若年競技者の平均順位・標準偏差の推移比較(シンクロ)
  一貫指導対象 一貫指導対象外
2001年 2002年 2003年 2004年 2001年 2002年 2003年 2004年
対象者数 8 8 7 8 12 7 1 5
平均順位 10 12 10 5 10 36 14 14
標準偏差 11.90 9.56 4.72 3.10 4.05 22.94 0.00 7.50

  (注)2002年、2003年、2004年の大会不出場者は算定対象外とした。

  図表2‐21 一貫指導システム対象・非対象の若年競技者の成績の推移比較(シンクロ)

  一貫指導対象競技者
一貫指導対象競技者

  一貫指導対象外競技者
一貫指導対象外競技者

  ※予:予選の順位(決勝進出できなかったことを示している)
 (注)大会不出場者はグラフには表示されていない。

  次に、2001年一貫指導対象者と1997年の大会上位成績者(8位以内)の比較をおこなった。1997年の大会上位成績者10名は、1998年度、1999年度は成績に大きなばらつきが見られ、1998年度には6名が4位以内に入っているものの4名が予選敗退もしくは出場しておらず、1999年度には5名が8位以内に入っているものの5名が予選敗退もしくは出場していない。3年後の2000年度には、10名中8名が8位以内の成績をおさめているが、毎年の成績のばらつきが大きい。平均順位で見ると、1997年が4位であったものの、翌年以降大幅に低下して、2000年には15位となり、標準偏差(ばらつき)も、1997年が2.09だったものが、2000年には4.09と拡大している。
  一方で、2001年におけるオーディション選考選手の成績は、先述の通りである。
  以上のことから、一貫指導システムの導入後の競技者の方が導入前の競技者に比べて、平均順位が安定・上昇し、成績のばらつきも小さいことから、一貫指導システムの効果と考えることができる。

  図表2‐22 一貫指導システム導入前後の若年競技者の平均順位・標準偏差の推移比較(シンクロ)
  一貫指導導入後 一貫指導導入前
2001年 2002年 2003年 2004年 1997年 1998年 1999年 2000年
対象者数 8 8 7 8 10 9 9 9
平均順位 10 12 10 5 4 12 12 15
標準偏差 11.90 9.56 4.72 3.10 2.09 14.45 8.38 4.09

  (注)1998年、1999年、2000年、2002年、2003年、2004年の大会不出場者は算定対象外とした。

  図表2‐23 一貫指導システム導入前後の若年競技者の成績の推移比較(シンクロ)

一貫指導導入後競技者
一貫指導導入後競技者

一貫指導導入前競技者
一貫指導導入前競技者

  ※予:予選の順位(決勝進出できなかったことを示している)
  (注)大会不出場者はグラフには表示されていない。

  本相関分析によると、一貫指導システム導入後の2001年度以降は、一貫指導と競技力との間に一定の相関関係が見られ、将来的な成長を見込んで選考した一貫指導対象の競技者は、当初の成績に関らず、その後、ほぼ全員がトップレベルに競技力を向上していることから、その効果は大きいものと考えられる。
  また、一貫指導導入前と導入後においても、一貫指導と競技力との間に一定の相関関係が見られ、成績の向上や成績のばらつきの縮小の面で一貫指導導入後の方が優れており、その効果が把握された。さらに、個人的に見ると、2001年度のオーディション選考選手の中には、既に世界でもトップレベルの成績や競技力を見せ始めている競技者も出てきており、1997年よりもトップの水準は高まっていると考えられる。

2.日本卓球連盟

  もうひとつの調査対象となった日本卓球連盟については、「研修合宿参加選手」を一貫指導システムの対象として位置づけることとした。研修合宿参加者の基準は2001年度全国ホープス大会上位16名およびカブ・バンビもしくは強化本部推薦より3名となっている。日本卓球選手権大会のカテゴリー別の概要は以下の通りである。

  図表2‐24 日本卓球選手権大会の対象年齢
カテゴリー 対象年齢 備考
ジュニア 18歳以下
カデット14歳以下 14歳以下 ジュニアとの重複参加可
カデット13歳以下 13歳以下 ジュニアとの重複参加可
ホープス 小学生5、6年生 カデットとの重複参加可
カブ 小学生3、4年生 カデットとの重複参加可
バンビ 小学生2、1年生 カデットとの重複参加可

  2001年一貫指導対象者18名(一貫指導対象となったホープス16位までとその他3名のうち、同年の大会不出場者1名を除く)と同世代の大会上位成績者16名(ホープス17位から32位)の比較(調査対象期間:2001年~2003年の成績)については、2001年一貫指導対象者において、成績を維持もしくは向上している選手は、2002年度では18人中13人(72.2パーセント)で、2003年度では18人中9人(50パーセント)となっている(成績の「維持・向上」の定義については、1位から4位、4位から8位、ベスト16、ベスト32の枠内はいずれも同一成績とみなした。また、1ランク上位の大会に出場した場合、成績がひとつ下の枠になったとしても同一成績とみなした。)。平均順位で見ると、2001年が7位で、2003年には15位と若干下がっている。(ベスト16は12位、ベスト32は24位、ベスト64は48位、ベスト128は96位、初戦敗退は196位とした。以下同じ。)
  一方で、一貫指導対象者以外の同世代の大会上位成績者においては、成績を維持もしくは向上している選手は、2002年度では13人中11人(84.6パーセント)で、2003年度では13人中6人(37.5パーセント)となっている。平均順位で見ると、2001年が24位であったものの、2004年には78位となっている。
  また、比較的、一貫指導対象外選手の方が、2002年、2003年と年度を重ねるほど各選手の成績にばらつきが顕著になっている。標準偏差(ばらつき)で見ると、一貫指導対象選手は2001年が4.44だったものが、2003年には13.71と若干拡大しているのに対し、一貫指導対象外選手は2001年が0.00(全員がベスト32で同順位)だったものが、2004年には70.97と非常に大きくなっている。
  この両者を比較したとき、同世代における一貫指導対象者と一貫指導対象外の選手との間には、成績の伸び率やばらつきが異なっており、一貫指導の効果が競技力に影響を与えている可能性があることが伺える。

  図表2‐25 2001年一貫指導対象選手と一貫指導対象外の選手の成長度比較
  2001年一貫指導対象選手 2001年一貫指導対象以外の選手
2002年度 2003年度 2002年度 2003年度
維持・向上した選手 13人 9人 11人 6人
維持・向上した選手の割合 72.2パーセント 50パーセント 84.6パーセント 46.1パーセント

  ※「維持・向上」成績の「維持・向上」の定義については、1位から4位、4位から8位、ベスト16、ベスト32の枠内はいずれも同一成績とみなした。

  図表2‐26 一貫指導システム対象・非対象の若年競技者の平均順位・標準偏差の推移比較(卓球)
  一貫指導対象 一貫指導対象外
2001年 2002年 2003年 2001年 2002年 2003年
対象者数 18 18 18 16 13 16
平均順位 7 13 15 24 42 78
標準偏差 4.44 14.01 13.71 0.00※ 48.37 70.97

  (注) 2002年の大会不出場者は算定対象外とした。
  ※の標準偏差0.00は、16人全員がベスト32敗退で同順位のため。ベスト16は12位、ベスト32は24位、ベスト64は48位、ベスト128は96位、初戦敗退は196位とした。

  図表2‐27 一貫指導システム対象・非対象の若年競技者の成績の推移比較(卓球)

  一貫指導対象競技者
一貫指導対象競技者

  一貫指導対象外競技者
一貫指導対象外競技者

  (注)大会不出場者はグラフには表示されていない。

  2001年一貫指導対象者18名(一貫指導対象となったホープス16位までとその他3名のうち、同年の大会不出場者1名を除く)と1997年の大会上位成績者19名(ホープス16位およびカブ3位)の3年間の成績比較においては、2001年一貫指導対象者は前述の通りであり、1997年の大会上位成績者で成績を維持もしくは向上している選手は、1998年度では18人中7人(38.8パーセント)で、1999年度では16人中10人(62.5パーセント)となっている。平均順位で見ると、2001年一貫指導対象者は2001年が7位で、2003年には15位と若干下がっているのに対し、1997年の大会上位成績者は2001年が7位だったものの、2003年には16位で、2001年一貫指導対象者と同程度に低下している。
  3年間の成績経過を一貫指導対象選手と比較すると、1997年度大会上位成績者については、翌年1998年度は4割弱しか成績を維持・向上できず、各選手にばらつきはみられるものの、翌々年1999年度は6割以上が成績を維持・向上しており、2001年の一貫指導対象選手より高い維持・向上率を示している。1999年度は、1997年度の大会上位成績選手の方が、2001年一貫指導対象選手よりも、大会の上位成績を占めている選手の割合が高い。標準偏差(ばらつき)で見ると、2001年の一貫指導対象選手は2001年が4.44だったものが、2003年には13.71と若干拡大しているのに対し、1997年の大会上位成績者は2001年が4.46だったものが、2004年には24.10と2001年一貫指導対象選手よりも大きくなっている。
  こうした結果を踏まえると、一貫指導の導入前と導入後の選手と競技力では、成績の伸び率はあまり大きな違いはないが、ばらつきが異なっており、一貫指導の効果が競技力に影響を与えている可能性があることが伺える。

  図表2‐28 2001年一貫指導対象選手と1997一貫指導対象外の選手の成長度比較
  2001年一貫指導対象選手 1997年大会上位成績者(ホープス16位までカブ3位計19名)
2002年度 2003年度 1998年度 1999年度
維持・向上した選手 13人 9人 7人 10人
維持・向上した選手の割合 72.2パーセント 50パーセント 38.8パーセント 62.5パーセント

  (注)「維持・向上」成績の「維持・向上」の定義については、1位から4位、4位から8位、ベスト16、ベスト32の枠内はいずれも同一成績とみなした。

  図表2‐29 一貫指導システム導入前後の若年競技者の平均順位・標準偏差の推移比較(卓球)
  一貫指導導入後 一貫指導導入前
2001年 2002年 2003年 1997年 1998年 1999年
対象者数 18 18 18 19 18 16
平均順位 7 13 15 7 24 16
標準偏差 4.44 14.01 13.71 4.46 43.40 24.10

  (注)1998年、1999年、2002年の大会不出場者は算定対象外とした。ベスト16は12位、ベスト32は24位、ベスト64は48位、ベスト128は96位、初戦敗退は196位とした。

  図表2‐30 一貫指導システム導入前後の若年競技者の成績の推移比較(卓球)

  一貫指導導入後競技者
一貫指導導入後競技者

  一貫指導導入前競技者
一貫指導導入前競技者

  (注)大会不出場者はグラフには表示されていない。

  本相関分析によると、一貫指導システム導入後の2001年度以降は、一貫指導と競技力との間に一定の相関関係が見られ、同様に、一貫指導導入前と導入後についても一定の相関関係が確認された。一貫指導導入前後については、個人的に見ても、2001年以降の一貫指導対象者の中から、既に世界のトップクラスの成績を収めている競技者が複数名現れていることから、一貫指導の効果は現れているものと考えられる。

(2)重点競技強化

  JOC加盟団体の夏季オリンピック競技種目(29団体58種目)における、アテネオリンピック開催前におこなわれた平成16年度重点競技強化事業と国際競技成績の相関関係は以下の通りである。
分析にあたり、採用したポイント制は、JOCが実施している競技種目の評価システム(競技実績)を使用している。

オリンピック実績ポイント 金メダル=10点
銀メダル=7点
銅メダル=5点
4~5位=3点
6~8位=1点
オリンピック競技種目であれば、5点を追加する。
チームゲームは個人競技種目の10倍の得点とする。

  まず、重点競技強化種目の過去3回のオリンピックにおける成績をみると、23種目のうち、全体の60.9パーセントにあたる14種目はシドニーオリンピックからアテネオリンピックにかけて成績が向上している。また、全体の17.4パーセントにあたる4種目は同レベルの成績に留まり、21.7パーセントにあたる5種目は成績が低下している。
  一方で、非重点競技強化種目は、全体の14.3パーセントにあたる5種目しか成績が向上しておらず、全体の62.9パーセントである22種目が同レベルの成績に留まっている。成績が向上した種目は、全体の22.9パーセントの8種目だけである。
  以上ことから、重点競技強化種目と非重点競技強化種目の国際競技力の推移を比較すると、重点競技強化種目の方が、シドニーオリンピックからアテネオリンピックにかけて成績が向上した種目の割合が著しく高く、且つ、メダル獲得の割合も非常に高くなっていることから、重点競技強化事業と国際競技力は相関関係があるものと推察される。

  図表2‐31 重点競技強化種目の国際競技力の推移
図表2‐31 重点競技強化種目の国際競技力の推移

  図表2‐32 非重点競技強化種目の国際競技力の推移
図表2‐32 非重点競技強化種目の国際競技力の推移

  図表2‐33 重点競技強化種目と非重点競技強化種目における国際競技力の推移比較
  重点競技強化種目23種目 非重点競技強化種目35種目
該当種目数 割合 該当種目数 割合
シドニーからアテネの成績 向上した 14 60.9パーセント 5 14.3パーセント
同レベル 4 17.4パーセント 22 62.9パーセント
低下した 5 21.7パーセント 8 22.9パーセント

  次に、重点競技強化種目のみに焦点をあて、重点競技強化事業の助成額の多い9団体14種目にあたる重点競技強化種目(分類1)と、比較的助成額の低い7団体9種目にあたる重点競技強化種目(分類2)の両者の国際競技力の推移の比較をおこなった。
  重点競技強化種目(分類1)14種目の全体の57.4パーセントにあたる8種目はシドニーオリンピックからアテネオリンピックにかけて成績が向上している一方で、重点競技強化種目(分類2)においてシドニーオリンピックからアテネオリンピックにかけて成績が向上した種目は、全体の66.7パーセントにあたる6種目となっている。ちなみに、重点競技強化種目(分類1)においては、シドニーオリンピックからアテネオリンピックにかけて柔道(男子)とソフトボールの2種目の成績は低下しているものの、両者とも、メダルを獲得しており、過去3大会とも上位成績をおさめている。
  重点競技強化種目(分類1)と重点競技強化種目(分類2)の国際競技力の推移を比較すると、シドニーオリンピックからアテネオリンピックにかけて成績が向上した種目の割合は重点競技強化種目(分類1)の方が若干低くなっているが、逆に、成績が低下した種目の割合も低いことから、重点競技強化事業のなかでも、助成度合いと国際競技力の間に明確な相関関係は確認されないものの、重点競技強化種目(分類1)の方は、上述の通り、成績が低下した種目もメダルを獲得していることもあり、一定の効果はみられるものと考えられる。

  図表2‐34 重点競技強化種目(分類1)の国際競技力の推移
図表2‐34 重点競技強化種目(分類1)の国際競技力の推移

  図表2‐35 重点競技強化種目(分類2)の国際競技力の推移
図表2‐35 重点競技強化種目(分類2)の国際競技力の推移

  図表2‐36 重点競技強化種目(分類1、分類2)における国際競技力の推移比較
  重点競技強化種目(分類1)(9団体14種目) 重点競技強化種目(分類2)(7団体9種目)
該当種目数 割合 該当種目数 割合
シドニーからアテネの成績 向上した 8 57.1パーセント 6 66.7パーセント
同レベル 4 28.6パーセント
低下した 2 14.3パーセント 3 33.3パーセント

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